如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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33話(2)水族館デートでドキドキが止まらない?!ごめんはもう聞き飽きたよ。

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 ーー水族館



 なんだこれ!!! 胸のドキドキがうるさい!!! 今までデートしてきたけど、こんなこと一度もなかった!!! どうしよう、全然デートに集中出来ない!!!


 あんまり挙動不審になったら、如月に変に思われる!!! 繋ごうとしてくれた手、叩いちゃってから、一度も手に触れてこない!!! 手繋ぎたいのに!!!


 そしてなんとなく距離を感じる!!!


 チラッと如月を見る。


「ん? どうしたの?」


 クスッと笑う如月と目が合う。如月ってこんな柔らかい雰囲気だっけ? 穏やかな声と優しい笑みが色っぽく思え、目を合わせていられず、顔を逸らす。


「な、なにも……」
「……そう」


 ぁああぁあぁあ!!! 無理ぃいぃいぃ!!! 意味不明!!! 今までだって色っぽい人だったじゃん!!! 何? え? 何? 心臓がバクバクする!!!


 平常心平常心平常心!!!! あと手繋ぐ!!! 俺から!!!! 俺から?!?! ぇえ!!! 如月の手を触る?!?! うわぁあぁああ!!!!


「睦月さん、イワシトルネード」
「ふぇっ?! イワシ?! イワシは生姜煮にしたら美味しいよね!!」
「何言ってるんですか」
「へ?!」


 如月が指差す方向を見つめる。餌に向かい数万尾のイワシが泳いでいる。上へ下へ左へ右へ、うねるように泳ぐイワシの大群は美しく綺麗で、目が釘付けになった。


 美しく泳ぐイワシの群れに目が惹かれ、少しだけ、気持ちが落ち着きを取り戻す。早くなるばかりの鼓動の原因も、自分のこの感情も分からないが、如月には触れたい。


 今なら手が繋げる気がする。


 そっと手を伸ばし、如月の指先を掴む。


「無理しなくても……」
「無理とかじゃないし……手……繋ぎたい……」
「ん~~……」


 俺に気を遣っているのか、手を握るわけでも、指を絡めるわけでもなく、指先と指先だけが繋がれた。


「ペンギンでも見ますか?」
「ペンギン?」
「うん、ペンギン」


 如月に手を引かれるまま歩き出す。繋がれた指先から伝わる如月の体温に、鎮まりかけていた心臓はまた忙しく鳴り始める。


 俺、どうしちゃったんだろう?


 結局、ペンギンを見ても、イルカを見ても、集中して見ることが出来ず、何も記憶に残らない。ただ、ただ、隣に居る如月が気になる。


「……なんか食べます?」
「えっ?! あ……うん」
「…………(帰った方がいいのかな)」


 如月が深海魚を指差して何か言ったり、俺を楽しませようとリードしていたが、まるで頭に入って来ず、気づいた時にはフードコートの椅子に座っていた。


「私、何か適当に買って来るので睦月さんは座って待っていてください」
「あ……うん……(一緒に行きたかったな)」


 如月が俺に全然触れて来ない気がする。まだ手を振り払ったのが尾を引いているのかな。うぅ。折角のデートなのに、お互い楽しめていない気がする。


 どうしよう……。


 *


 睦月の居る席を離れ、メニューの置いてある場所まで向かう。はぁ。すっごい気遣う。未だかつてないくらい、気遣う。


 私が原因で睦月さんがおかしいのは間違いない。どうしたものか。メニュー表の前で腕を組み考える。避けられてはいるが、嫌われているって感じはあまりない。


 本当はいっぱい手繋ぎたいし、肩抱き寄せたいし、頭なでなでしたいし、後ろからぎゅーってしたいし、ほっぺにキスしたい。


 でも出来ない!!!


「雰囲気がもう、なんか触るな!! って感じだもん……」


 手を繋いでくれたのも、私の手を振り払ったから、気を遣ってやっただけなんじゃないかと思える。う~~ん。何を見ても上の空みたいな感じだし、今日は帰った方がいいのかも。


 睦月さんが元気になったら、また来たらいい。


「うん、そうしよう」


 券売機でうどんを2つ買い、カウンターへ持って行く。券と引き換えに呼び出しベルを受け取り、睦月の元へ戻る。


 ふと、足が止まる。


「戻った方がいいのか? 出来上がるまでここにいた方が睦月さんにとってはいいのかも」


 う~~ん。頭をぐしゃぐしゃっと掻く。どうしていいか分からない。遠目で睦月の様子を窺う。目を伏せ、ぼーっとしている。


「はぁ。出来上がるまで待つかぁ」


 睦月さんの行きたいところへ行って楽しませようと思ったが、上手くいきそうにない。何に悩んでいるのか理解出来ない自分と、思っていることを打ち明けてもらえない自分が情けない。


 まだまだ、お互いを深く知る必要がありそうだ。


 *


「如月全然戻って来ないし……」


 この後どうしよう。水族館を一周回ったかどうかもよく分からない。覚えていない。如月との時間を無駄にしている気がする。


「何やってんだ、俺……はぁ」


 スマホをポケットから取り出し、画面を見つめる。ひまわり畑で撮ったツーショット。ひまわり綺麗だったなぁ。あの時の俺と今の俺は何が違うのだろう?


「気持ちに変わりはないはずなのに」


 変わったのは気持ちじゃない? なら一体何が……?


「睦月さん、買ってきましたよ」


 うどんが乗ったお盆が机の上に2つ置かれた。


「ありがとーーってなんでうどん!!! 朝もうどんだったじゃん!!! 被ってるし!!! どういうセンス!!! 何買ってんの!!!」
「焼いてないし」
「そういう問題違うってばぁ~~もぉ~~あはっ」


 如月はしゃがみ、テーブルに腕と顎を乗せ、睦月を見上げた。


「やっと笑った」
「え……いや…あ……ごめん」
「睦月さん、今日は帰ろっか。また来よう?」


 たくさん気を遣わせてしまった。嫌なこともきっとした。俺の行きたいところへ連れて来てくれたのに、自分の分からない感情に振り回されて、うまく楽しめなかった。


 如月の優しさに胸が締め付けられ、目から涙が溢れた。


「なんで泣くんですか」
「……分かんない……うぅ…ふぇ…うっ…」
「……ほら、おいで」


 椅子から降り、立って両手を広げる如月の胸へ飛び込んだ。鼻先を首筋に埋めると、如月の匂いがした。


 どくん。


 抱きしめられて感じる胸の厚みに、心臓がまた煩く鳴り始める。それでも今は、涙と一緒に、このぐちゃぐちゃな感情を全て受け止めて欲しくて、如月にすがった。


「ずっと考えているのですが、分からなくて。何に悩んでいるのですか?」


 言うべきか、言わないべきか。本人に言う? 貴方にドキドキして悩んでますなんて……。馬鹿馬鹿しすぎて、言えない。


「……いや…えっと……」
「まぁいいけどさぁ。いつも悩んでること言ってくれないから、いい加減寂しいよ?」
「……ごめん」
「もう『ごめん』は聞き飽きましたよ」


 はぁ。言いたい、けど、言えない。辛い。謝罪の言葉しか浮かばない。苦しくて、背中に回した腕に力が入る。


「言えないなら無理に言わなくていいですから。うどん伸びちゃうから食べましょ」
「うん……」


 席に座り、少し伸びたうどんをすする。これを食べたらデートが終わる。自分勝手だけど、デートが終わると思うとさびしいし、まだ帰りたくない。


 嫌だな。


「食欲ない?」心配そうに如月がみてくる。
「……うん、そうかも」


 つい『ごめん』と言いそうになる。箸が思うように進まず、どんぶりの上へ箸を置いた。思うように言葉も出ない。


「私、片付けてきますね」
「あ……俺も一緒にいく……」
「いいですよ、べつに~~」


 困ったように笑う如月に胸がキューっとなる。2人分のお盆を持ち、返却口へ向かう如月の背中を見つめた。


 早く、自分自身の問題を解決して、いつもの自分を取り戻さないと。如月と変な空気になったままにはしたくない。


「片付けてきました。睦月さん、帰りましょう」
「うん……」


 席を立ち、歩き出すのに繋がれない手。俺の手を繋いでよ。もう繋ぎたくない? 何も言わない俺に呆れた? 手を伸ばし、如月の手を掴んだ。


「手……繋ごう?」


 如月の顔を見ると、恥ずかしくなり、頬が染まる。目線が合わせられない。緊張で、如月の手を掴んだ手が小さく震えた。


「無理しなくてもいいですって」
「無理はしてない……」
「いいから。手震えてるよ? 繋がなくても嫌いになったりしませんよ」


 掴んだ手が優しく包まれ、手から剥がされた。違う、違うよ、如月。俺は如月と手が繋ぎたいだけなのに。言わなきゃ。ちゃんと言わなきゃ!!!


「俺……如月と手繋ぎたい!!」


 まだ止まらない手の震え。むしろさっきより酷くなっている。震える手で力強く、もう一度、如月の手を掴んだ。


「ん~~……っ」


 複雑そうな表情を浮かべながらも如月の手が俺の手と合わさり、指が差し込まれた。恋人のように繋がれた手にホッとし、震えが少しずつ収まっていく。


 如月の指と自分の指が絡み合い、手のひらが重なる密着感、そして手を繋ぐことにより近づく如月との身体の距離に、そういえば俺たちは恋人だったとぼんやり想う。


「睦月さん」
「あ……なに?」
「嫌だったら突き飛ばして」


 大きな水槽の前で立ち止まり、如月の顔が近づく。水槽の中にいるベルーガがこちらをみて『早くキスしちゃえ』と急かしてるような気がして、ふっ、と笑みが溢れた。


 顔を上げ、目を瞑る。唇が重なった。


「嫌じゃないよ、大好きだよ。如月」
「ふふ、私も大好きですよ」


 真っ赤に染まった顔で、ほんの少しだけ背伸びをして、もう一度、如月の唇と触れ合わせた。






 
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