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31話(5)頼まれたことをそのままやるのが料理じゃない?!
しおりを挟むーー佐野家 夕食
本日のお品書き。鮭のおろしポン酢ホイル焼き、ごはん、豆腐とわかめの味噌汁。これを今から作る!!! 如月は肉より魚が好き!!! 洋食より和食派!!!
まな板の上で玉ねぎとピーマンを細切りにしていく。とんとんとん。えのきはいしづきを取る!!!
「えのきを半分に切るか、切らまいか……まぁいっか」
アルミホイルをカット!!! ビリ。切ったアルミホイルをキッチンカウンターの上に広げた。冷蔵庫から、事前に塩麹につけてあった鮭を取り出す。
「鮭いい感じ~~」
玉ねぎ置いて~~鮭置いて~~ピーマン乗せて~~えのき被せて~~また玉ねぎ乗せて~~オリーブオイル回しかける!!!(×2個!!)
「あはぁ~~もりもり」
くるくるくる。
アルミホイルで包んでいると、後ろから如月に、ぎゅっと軽く抱きしめられた。
「ホイル焼き?」
「ホイル焼き~~如月も一緒に包む?」後ろを振り向き、訊く。
「包んでみようかな?」
如月は睦月の隣に立ち、鮭の乗ったアルミホイルに手を伸ばした。アルミホイルで包むのは、簡単そうに見えて、意外と破れやすく、中々難易度の高い作業である。
「あ!!! 睦月さん!!! 穴が開きました!!! こっちも!!! 大丈夫ですか?! まぁ大丈夫ですよね?! 火が通れば食べれますもんね!!!」
如月のホイル焼きを見る。しわしわ、ぐちゃぐちゃ、穴開き……。なんでこうなるの!!! 穴開いたら火が通らないし!!!
「大丈夫な訳ないでしょ!!! もぉ~~何やってんのー、貸して」
新しくアルミホイルをカットして、具材を移し替える。二度手間。まぁいいけどね。2人でご飯作るの楽しいし。端を揃え、綺麗に包んでいく。
「ぉお……」
「これ2つともトースターに入れて」如月にアルミホイルに包まれた鮭を2つ渡す。
「入れましたぁ~~」
トースターの中で横並びになった鮭を確認する。オッケー。15分の目盛まで、つまみを回し、まな板の前へ戻った。
「あとは味噌汁を作って終わりだよ」小鍋に水を入れ、火のついたコンロの上へ置く。
「あ、俺、お風呂洗ってくるから。如月、豆腐とわかめ入れといて~~」
「えっ? えっ? これ、入れれば良いんですか? えっ?」
如月に豆腐とわかめを託し、浴室へ向かった。
*
「まぁ、入れればいいんでしょう。単純に」
受け取った一丁の豆腐と乾燥わかめの袋を見つめる。
深く考えるな。睦月さんは鍋に豆腐とわかめを入れてくれと言ったんだ。その通りに汲めばいい。豆腐を開けよう。なにこれ。豆腐って開けづらい。なんかこのビニール取れないんだけど。
「わっ!! なんか水出たし!!!」
でも、ビニールのフタとれた。これを入れれば良いんでしょ。コンロの前へ行き、沸騰している鍋を眺めた。
「……まぁ、入れればいいんでしょ」
どぼん。
如月はそのまま豆腐を鍋の中へ入れた。
「……アレ?」
入れてから思う。このまま入れるのは間違っていた説。 いやでも、もう入れちゃったし!!! これじゃあ食べづらいなぁ。鍋の中で一丁の豆腐が風呂に入っている。とりあえず割っとく?!?!
引き出しからお玉を取り出し、お玉の先で半分に切れ目を入れる。豆腐はぐちゃっと、砕けた。
「まぁ、とりあえず食べやすくはなった」
このまま4等分くらいまでにカットしよう!!! 崩れゆく豆腐。豆腐の汁で濁る味噌汁。あ、わかめ!!! わかめもお願いされてた。睦月に渡された乾燥わかめの袋を見つめる。
「これってどのくらい入れるの?」
袋の中から乾燥わかめを取り出し手のひらに乗せる。入ってる乾燥わかめは爪の大きさ程しかない。こんなに小さいと、少量入れたくらいじゃ、大した量にならないのかもしれない。
「う~~ん。まぁ渡されたし、全部入れとこ」
ぱらぱらぱら。
増えるわかめ。拡大するわかめ。気づけば、わかめが味噌汁全体を覆い尽くしていた。何これ。わかめ、こわ!!!!
「えっ!!! どうしよ!!! そんなに入れたつもりないけど!!! いや、入れたか?! なんかさっきよりどんどん増えてる気がする!!!」
豆腐が型崩れしたどころの問題ではない!!! 鍋全体が、もはやわかめ!!! 味噌スープというよりはわかめスープ!!!
「ぁああぁあぁああ!!!! なんて黒く禍々しい!!! さようならぁああぁあ!!!」
鍋にフタをして隠した。現実逃避。
「なんで味噌汁、フタしてるの?」後ろから声がして振り向く。睦月さんが戻ってきた。
「いや、べつに……」さっと、フタの上に手を置く。
「何その手……」訝しげに見てくる。
「いや、べつに……」ぎゅっと、フタを押さえる。
わ、わかめが!!! あんなに小さいわかめがあんなに大きくなるなんて!!! さっきより莫大な量になってたらどうしよ!!!
「味噌まだ入れてないし!!!」上から手が掴まれた。
「このフタは開けてはなりません!!!」ぐぐぐぐ。開けたくない!!!
「はぁ?!?! 何入れたの?!?!」
「豆腐とわかめですけど!!!」
睦月から目線を逸らす。嘘は言っていないが気まずい。このまま攻防していても、仕方ないので、そっと、鍋のフタを外した。
「なんじゃこりゃあぁああぁ!!!! めっちゃわかめ!!! どんだけ入れたの!!! わかめスープでもこんなに入ってないって!!!」
睦月がお玉でかき混ぜ始めるのを見て、焦る。そんなに混ぜたら豆腐が!!! 既に崩れてるのに!!! もっとボロボロになる!!!
「む、睦月さん!!! ダメです、混ぜちゃ」睦月の手首を掴む。
「え?」わかめで豆腐がどうなっているかはよく分からない。
「味噌、入れましょう、味噌」冷蔵庫から味噌を取り出し、睦月へ渡す。
「何? なんかあるの?」すごく疑われている。
「いや、べつに……」目を逸らす。
「はい!! それ3回目!!!」睦月はお玉でわかめを掻き出した。
掻き出されたわかめから現れたのは、お玉で乱雑にカットされた豆腐。型崩れし、粉々に散っている豆腐は、原型留めておらず、ぐちゃぐちゃ。
「なんで包丁でカットしなかったの?!?!」
「いや、べつに……」
睦月は如月に任せたことを後悔した。
出来上がったホイル焼きをお皿の上に乗せ、リビングへ運ぶ。結局、姑のようにねちねち怒られた。ちょっと間違えただけじゃん。
机の上に出来上がった料理を並べ、一緒に腰を下ろした。
「「いただきまぁす」」
アルミホイルを裂き、蒸し焼きされた鮭の上に大根おろしを乗せる。最後にゆずポンを回しかける。食べなくても分かる!!! もう絶対美味しいやつ!!!
「睦月さんのご飯が1番美味しいぃ~~幸せ」箸が進む。
「如月が喜んでくれると俺も嬉しい」大きな瞳を細めて笑う睦月さんは幸せそうに見える。
「あ、結婚式の招待状きてたよ」何かを思い出したように、机の下から2枚の招待状を取り出し、私に見せてきた。
「結婚式……」
神谷 湊、皐。あぁ、結婚するんだなぁ。なんて、ぼんやりと思う。以前ほど感じた皐への執着は気づかないうちに薄れていた。代わりに現在の恋人である、睦月への執着は大きくなっている。
「俺は神谷から来てるけど、如月は皐さんから来てるよ」
「なるほど」
結婚はあまり興味がない。今から結婚を考えたとしても、どちみち、適切な婚期は過ぎているし、結婚したいと思える人とは結婚できないしね。貴方が居れば私はそれでいい。睦月を見つめ、にっこり微笑んだ。
「?」
「なーんも」
箸を止め、睦月の持つ招待状へ手を伸ばし、内容を確認する。身内だけ集めた小さな挙式のようだ。披露宴もお色直しも、しないのが、皐らしい。
「披露宴もお色直しもないと、いくら包めば良いのかな?」
金額に悩む姿は少し鬱々としている。修学旅行費に卯月さんのお小遣い、入院費、指輪代。そこに結婚式のお祝儀を考えると、睦月さんの財布は火の車。悩むのも無理もない。
「相場は1万円でしょうけど、私は3万円包むかなぁ……」止めていた箸をまた進める。
「え、なんで?」
「身内だけの結婚式でも、費用はそれなりにかかるでしょうから……まぁ、気持ちの問題ですよ。はい、ごちそうさまでした」
食べ終わった食器を重ね、流し台へ運ぶ。結婚式は11月かぁ。卯月さんも行くだろうし、色々準備は必要だ。
睦月さんのフォーマル姿かぁ~~。ネクタイ……何しようかな。ふふ、終わった後が楽しみ。(※結婚式よりそっちな人)
「如月なんか悪い顔してる」ガチャガチャと睦月が隣で食器を洗い始めた。
「ぇえ? そんなことありませんけど」食器を洗う睦月をそっと背後から抱きしめる。
「今日は何しますか?」ぎゅ。
「……何って?」分かってるくせに。
「シないならシなくても良いですけど」
「……する」睦月さんの体が熱くなるのを感じる。
「睦月さんのえっちー」
「如月だけには言われたくない!!! もぉ!!! 洗うの手伝って!!!」
流し台に横並びに立ち、一緒に食器を洗っていく。
ただ、家事をする睦月さんをリビングから眺めているより、共に行う家事は、気持ちの結びつきを強めてくれる気がした。
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