如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

文字の大きさ
上 下
139 / 306

30話(5)愛情の証を隠す方法?!新しいものじゃなくてこれがいい?!

しおりを挟む


 ーー経理課 オフィス


 結局、隠す術思いつかず、このまま会社に来てしまった!!! 卯月も如月も他人事に『蚊に刺されたって言えばよくね?』なんてひどい!!! 如月なんて付けた本人のくせに!!!


 経理課に着くまでの間、すごく視線を感じた!!! そりゃそうだ!!! 男の恋人が居るって噂が流れてるのに、こんな状態で来たら『その恋人とヤりました』って言ってるようなもの!!!!


「ぁああぁああぁあぁあ!!!!」目元を押さえながら、自分の席へつく。
「朝からうるさいな~~って……いやぁ、お前それどうなの?」肩をトントンと、人差し指で叩かれる。


 やっぱり気になりますよねーー!!!


「うぅ……隠しようがなくて……」恥ずかしくて頬が赤くなる。
「ちゃんと如月氏にダメなことはダメって言わないと」正論だ。
「そうだね……」


 気持ち良さに委ねすぎて、許容し過ぎているのかもしれない。支障が出ることはダメって次からは言おう。


 休んでいたせいで、積み重ねられた書類の山。溜まりに溜まった伝票へ手を伸ばし、今日の業務に取り掛かった。



 *



 卯月さんも学校が始まり、佐野家に1人。なんだかこの感じ、久しぶり。ノートパソコンを開き、続きを打っていく。しばらくこの作業もご無沙汰だった。


 千早、大丈夫だったかな。


 結局呼び出されたのに、メールで謝罪して何もしてあげられなかったな。まぁ、睦月さんには代えられないし。


 そうだ、睦月さん。いっぱい痕付けちゃったけど、会社は大丈夫かなぁ? 変な虫は付かないと思うけど。目立たなければ意味はないが、流石に付けすぎた。


 反省。


「んーー……きっと迷惑かけてるだろうなぁ。今日迎えに行こうかな……?」


 いや、迎えにいく行為自体が既に迷惑行為なのでは?!? あいつが付けた主だ!!!! 的な!!! あぁああああぁあ!!! もう隣にいること自体が迷惑行為!!!


 せめて痕が消えるまでの間、見えなくなるような術を考えなくては!!! じゃないと睦月さんの隣に居られない!!!


 リビングへ向かい、引き出しから救急箱を取り出し、机に広げた。


「まぁ無難に絆創膏」


 なんか逆に『ここにキスマークあります』って露骨にアピールしているように見えてしまう?!? それは目立つな!!! ダメだ!!! 却下!!! 絆創膏を握りつぶす。


「そうだ!! むしろ大袈裟に怪我したように貼ればいい」


 不織布とテープを取り出す。これをカットして、首筋に貼れば、怪我をしたように思われ、変に捉えられることはない!!! でももっとナチュラルに隠してあげたい!!!


「ナチュラルとは……」


 ぐぅ。


 気づけばお昼。睦月によって用意されたお昼ご飯を食べながら、もう一度、自分の付けた痕を隠す方法を練り直した。



 *



 ーーお昼 社食



 雨上がりで外のベンチが濡れており、致し方なく今日は社食で神谷とお昼ご飯。久しぶりの弁当。ジロジロ見られる視線も、もう慣れて来た。


 もはや、ここまで来るとどうでもいい。


 窓際に神谷と座り、弁当を広げる。神谷もいつのまにかコンビニ飯から手作り弁当になっている。嫁の力は凄いな。


「……まずい……」渋い顔をして、神谷が声を漏らした。
「……自分で作れば?」我ながら自分の弁当は美味しい。

「毎日朝早く起きて作ってくれるのに、そんなこと言える訳ないだろ?」
「まぁ……」


 神谷の箸の進んでいない弁当箱を見つめる。まぁ、美味しそうには見えない。色々焦げてるし。謎の物体も入ってる。食べてる神谷は偉い。


「俺は作る側だから、作ってくれる人が家に居るっていいなって思うよ」
「……それは美味しいが絶対条件だから」遠い目をしている。
「どんまい」


 とんとん。


 急に肩を叩かれ、振り向く。同僚。でもあんまり話したことはないし、名前も思い出せない。酒の場には居たような気がする。


「な、なに?」訝しげに相手を見つめる。
「佐野さ~~男と付き合ってるんでしょ? ぶっちゃけ、どうなの?」うざ。
「どうって……」食べ終わった弁当箱をランチクロスで包んでいく。

「ヤッてるんでしょ? どんな感じ?? 気持ちいいの??? ずっと気になってたんだよね~~」好奇心を感じる。
「いや……それは……どんなと言われても……」言いたくない。

「佐野は挿れられたことあるの?? たまには女の子の肌が恋しくなったりしないの???」
「…………」しつこく訊く相手を睨む。


 不快。仲が良いなら、ともかく、あまり話したこともないようなやつに、そんなこと言わないといけないの? 仲が良くても言うのは正直、躊躇う内容。


 向こうは多分、悪気もなく、ただ、好奇心で聞いているだけだとは思う。でもプライベートに土足で、ずかずか入ってくるこの感じがすごく嫌だ。


「女性が恋しくはならない」否定するところはしなければ。
「へ~~!! そんなに今の恋人がイイってこと??」だる。言わなれければループする。

「あのさ……そんなプライベートなこと答える義務ないし、如月の了承も得てないのに話すわけないだろ」ランチクロスをキュッと縛った。

「なんだよ、怖いな~~少し聞いただけじゃん……」舌打ちして去っていく後ろ姿を睨み続ける。気分悪。

「よく我慢できました~~」神谷が俺を見て笑った。
「なにそれー。むしろ助けろよ」
「ブチギレたら仲裁に入ろうかと思った。少し大人になった?」弁当箱を持ち、一緒に席を立つ。

「んーーどうかな。どちらかというと甘えん坊になった気する」あはは、と笑ってみせる。
「如月氏、年上だもんね~~包容力ありそう」歩きながら経理課へ向かう。

「ないよ、全っ然!! 本当に年上? ってくらいやること子どもだし!! 家事なにもしないし!! 甘えたら塩対応するし!!」
「……なんか通じるものがあって、同情する」



 如月のことを話しているうちに、イライラした気持ちは薄れていった。親指からはめ替えられ、未だ付け直してない薬指の指輪。


 
 如月も俺が入院して以来、ずっと薬指に指輪を付けている。指輪のない薬指はもう想像できない。



 この指輪を買った時、嫌がっていたことが懐かしい。



 瞼の裏に如月の笑った顔が浮かぶ。



 早く帰って如月に会いたい。



 薬指の指輪に軽く口付けし、残りの業務を片付けた。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー



 ーー終業時間



「やっと終わったぁ~~」帰れる!!


 机の上を片付けて、早々と帰り支度をする。さっさと帰って『おかえりなさぁい(ぎゅ)』ってされたい!!! ぁあ!! いいっ!! 今までそんなことされたことないけど!!!


「帰る準備早」神谷が驚いている。
「嫁が待ってるんで!! じゃ、お先!!」
「お、お疲れ~~」少し引いてる神谷を無視して、エレベーターへ向かった。


 エレベーターの中でスマホを見る。俺からメールを送っても、当たり前のように、如月からの連絡は、なし。既読無視。如月この人のこういうところ、腹立つ。スタンプくらい送ったらどうなの!!


 自分ばかり送信しているメールに目を通しながら、エレベーターを降り、オフィスの外へ出た。花壇の淵に立ち、本を読む人物が目に留まる。


 俺の大好きな人。


 バレないように忍足で近づき、如月へ腕を回し、ぎゅっと引き寄せる。如月は驚いたように目を見開いて、俺を見た。


「迎えに来てくれたんだぁ~~」嬉しくて甘えた声が出てしまう。
「おかえりなさい、睦月さん」如月は目を細め、笑った。

「おかえりなさいの後、ぎゅーしてもらうつもりだったのに……失敗」自分から抱き寄せてしまっては叶わない。
「なんですか、それ」如月に回した腕が外される。

「これで良いですか?」


 ぎゅう。


 背中に腕が回り、抱きしめられた。如月の体温が伝わる。会社の前で少し恥ずかしいけど、嬉しい。ふと、如月の持っている紙袋が気になった。


「何持ってるの?」何か紙袋から出し始めた。タオル?
「これをこうする!!!」急に首の後ろにフェイスタオルがかけられた。

「え? 何? お風呂上がりみたいじゃない?」訳がわからず、如月を見つめる。
「ナチュラルにキスマークを隠す方法です」


 もう遅いです、弥生さん。


 もう既に会社中の人に見られている。おまけにこのせいで(?)変なやつにも絡まれた。一歩ずれてたことだとしても、俺のために考えてくれたこと。その気持ちは大切にする。


「ありがとう」少しだけ微笑む。
「気に入らなかった? じゃあこっちは?」首にかけられたタオルが外される。


(まだあるの?)


 がさごそと紙袋にタオルをしまい、入れ替わりに、灰色の布を取りし、広げている。


 ふぁさっ。


 
 首周りが灰色のマフラーに包まれた。如月の匂いが少しだけ香る。表面はなめらかで、柔らかく、チクチクしない。落ち着いた灰色は、少し大人っぽい。



「何これ?」
「私のマフラー。あげる。これで痕見えない」



 如月は睦月の首にかけたマフラーを軽く結んだ。



「暑くて今は使えないよ」



 俺のことを考え、持って来てくれたものだと思うと、少し暑くても、取りたくない。その気持ちが愛しくて、巻かれたマフラーに顔を半分だけ、埋めた。


「確かに……」
「ねぇ、俺、似合ってる? これ」しょぼんとする如月の頬に手を触れ、見つめる。



「ふふ。少し大人っぽいけど、似合ってますよ」頬に触れた手に寄り添い、如月の顔が近づいてくる。



「これ、もらってもいい?」



 あと少しで唇が触れ合う。



「気に入ったなら、新しいの買いますよ?」



 如月の吐息が顔にかかり、鼓動が早くなる。



 新しいのは要らないよ、如月。



「如月。俺、これがいい」



「変なの。ん」



 優しく唇が重なる。



 如月の手を指先で掴むと、指の間に如月の指先が差し込まれ、絡まり合った。



 如月の想いがこもったマフラー。
 またひとつ、大切なものが増える。



「帰ろっか」



 お互い顔を綻ばせながら、帰路に着いた。


 

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...