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30話(2)退院パ主役なのに毒味係です?!シーツが引き起こすムラムラ地獄?!
しおりを挟む「もう、炊飯器で作ろう」
この2人には付いていけない。簡単な自炊しかできないけど、ここまで俺はひどくない!!! 恐ろしい物体を作って、むっちゃんに変なものを食べせたくない!!! 退院祝いなのに!!!
ボウルに牛乳を入れ、よくかき混ぜていく。
「スポンジケーキはどうするんですか? 焼きますか?」
「ちぎってこの中に入れればいいんじゃね?」
「そのまま食べればいい!!!」ドンっと、拳でキッチンを叩く。この家に常識人は俺しかいない!!
混ぜ合わせたホットケーキミックスを炊飯器の中へ流し込む。お。ケーキモードがある。ケーキモードで焼こう。
よし、これで退院祝いの準備は整った。むっちゃん喜んでくれるかな? 俺が作ったって言おう。
炊飯器は楽しそうな音を口ずさんだ。
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ーーーーーーーー
ーーーー
*
ーー退院祝いに戻る。
「まぁほぼ、旭さんが作ったというか、混ぜて焼いただけというか……不味くはないですよ」前科があるだけ、如月の言葉に安堵する。
「睦月さん、洗濯物全部干せました」ベランダから振り返り、目を細めて笑う如月に気持ちがきゅんとする。抱きつきたい!!!
「ぁ…あ……あ…あぁあぁあぁあぁあ!!!」
「え? ちょっ…睦月さん!!!」正面から強く抱きつく。
ぎゅう。
はぁ、好き。こんなに好きなのにぃ。不安にさせてるとかぁ。自分の行動を悔い改め、愛を伝える!!!! ぎゅうぎゅうぎゅぅ~~。
「なんですかぁ!!! もう~~ほらぁ~~中入りますって」如月照れてる。頬が赤い。
「やだぁーー!! もう少しだけ!!」離すものか!!
「あの2人っていつも、あぁなの?」旭は卯月に訊いた。
「え? そうだけど? もう見慣れ過ぎて何も思わん」
「妬けるー」
「ふっ。旭さんは、まだまだだな。あの中に絡みにいくのみ!!! こうやって!!!」卯月はベランダに出て、睦月の後ろから抱きついた。
「お兄ちゃぁああん!!! 退院おめでとぉおお!!!」ぎゅうぅ~~。
「ちょっとぉ!! 邪魔しないで!!! もぉ~~ありがとう!!!」
如月の腕が俺と卯月を包む。
腕の中から2人を見る。如月も、卯月も目尻が笑い、幸せそうな顔をしている。その柔らかさに、自然と口角が上がった。
3人で抱きしめ合うのは少し暑苦しい。
でも、その暑苦しさの中に、言葉では伝えきれない、心の温かさを感じた。少しずつ築き上げてきた、この絆を大切にしたい。
「……あの中へは絡みにいけねぇよ」
旭は3人の様子をしばらく眺め、パーティの準備を始めた。
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「ぉお……ちゃんとチョコケーキ……」一応丸くなっているが、ヒビ割れている。
「味見してないけど、不味くはないと思う」包丁で8等分に切れ目を入れる旭を見つめる。
「味見してないんだ……」つまり主役の俺が毒味をするわけだ。
「はいどーぞ、むっちゃん」ケーキの乗った皿を渡される。
「ありがと……」みんなの視線が俺に集まる。食べなければ。
ヒビ割れたチョコケーキを訝しみながら手に取り、口の中へ運ぶ。口当たりはパサパサ。黒い見た目と違い、ほんのりしか感じない、ココアの味。まぁ、不味くはないけど、美味しくもない。
でもみんなが作ってくれたから……。
「……美味しいです」目線を逸らし、答える。
「…………」如月が黙って立ち上がり、冷蔵庫から何かを持ってきた。
「睦月さんこれで作って!!!」目の前にスポンジケーキが置かれる。
「ぇえ……やだぁ……俺、主役だよ? それにキッチン……とても使える状況では……」キッチンに目を向ける。ここからでもわかる。地獄絵図。
「まぁまぁ、これ、食べよー」旭は切り分けたケーキを手で食べ始めた。
美味しくはないが、お腹は減っている。味の薄いココアケーキは4人で食べたらすぐになくなった。ケーキを食べ終わると旭は「この辺で」と、俺の頭をくしゃくしゃっと撫で、帰って行った。
「……片付けるかぁ……」重い腰を上げ、キッチンへ向かう。
「手伝いますよ」如月と横並びになり、汚れた食器を洗っていく。
「そういえば、卯月さん9月中旬くらいに修学旅行があるそうですよ」
「修学旅行~~?!」金がかかる……。
「えっと……その……うぅん……私たちも…その……」
如月が恥ずかしそうに、ごにょごにょ何か言っている。洗い物の水音で、よく聞き取れない。
「なに? 如月?」流れ出ている水を止め、如月を見る。
「……あの…だから…その……一緒に旅行……とか……2人で……」
頬を染めながら誘う如月が愛しい。そして何より如月からの誘いが嬉しい。
「行く!! 行く!!! 絶対行く!!! どこ行く?! 嬉しい!!! 楽しみ!!!」嬉しさのあまり濡れた手で如月のシャツを引っ張る。
「ちょっと!! 手拭いて!!! 服濡れた!! もう~~」
「あ」
あることを思い出す。
「え?」
如月は睦月の方を見た。
「シーツ干すの忘れた」
如月は何も言わず、遠い目で微笑んだ。
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ーーーー
*
寝る準備を済ませ、和室へ入る。替えのシーツは3枚なかったらしく、使える敷布団は2つのみ。必然的に1つは卯月さん。もう1つは私と睦月さんで寝ることになる。
それは構わない。
ただ、理性の問題である。1枚のシングルの布団で睦月さんと一緒に寝るとか、狭くて身体が触れて、絶対にむらむらする。どうしよう。
卯月さんも居るし、一度病室で見られているせいもあり、和室でいちゃいちゃするようなことは起こしたくない。もう、逆に卯月さんと寝る?
布団の前に座り、腕を組んで悩む。う~~ん。
「何悩んでるの? 寝ようよ」
腕を引っ張られ、同じ布団へ入るように促される。まぁ、でしょうね。年頃の女の子と同じ布団で、寝るわけにもいかないか。致し方なく、睦月と同じ布団へはいる。
狭い……。
お互い身長は高い方。隣に仰向けに寝転がるだけで身体の側面が触れる。良くない!!! どきどきする!! ごろんと寝返りを打ち、触れないように睦月へ背中を向ける。
「なんで背向けるの?」つんつん。背中を人差し指でつつかれる。
「ん~~? 睦月さんが可愛すぎて食べちゃいたくなるから」ごろん。睦月の方を向く。
「な、何言ってんの!!」頬が赤くなってるし。かわい。
「ちゅーまでならしてもいいよ」隣の布団で卯月がボソッと呟いた。
「いいよと言われても気を遣いますって……」
目の前で甘えるようにTシャツの上から胸元を触ってくる睦月さんは誘っているようにしか思えない。もう、どういうつもり?
「なぁに? 睦月さん。そんなに触って」抱きしめるべきか?
「にゃあ~~構ってにゃ??」軽く握った手で胸元を擦ってきた。
かっ、かわっ……。不意打ち突然のにゃんこ!!! かわゆ!!! ずるい!!! あざとい!!! わざと狙ってきてる!!! ひどい!!! かわゆ!!! かわい過ぎる!!!
「んはぁ……はぁ……」衝動で睦月を抱きしめる。はぁ、すき。
「ちょっと!! 変なことしないでよ?!」卯月が身体を起こし、こちらを睨んだ。
「しないですって~~」睦月さんは私の言葉に頬を膨らませている。どうやらいちゃいちゃしたいらしい。
やっぱ、抱きしめてると、色んな欲求が出てくる。離れよう。ここでいちゃいちゃは出来ないし。背中に回している腕を離し、そっと距離を取る。
「………………」睦月さん、ご機嫌ななめ。
まぁ? 確かに? 今日はハグはしたけど、キスは1回軽くしただけというか。睦月さんがいちゃつきたくなる気持ちも理解出来なくはない。
すーすーすー
卯月さんの寝息が聞こえる。じぃっと見つめてくる睦月さん。求めるように見つめる熱い眼差しに、本能と理性が戦う。理性を保ちながら、睦月を抱き寄せる。
「何したいの?」不満そうな睦月に意地悪に問う。
「……キスしたい」視線を下へ逸らし、恥ずかしそうにする姿に感情が昂る。
理性を保ちながら、布団の中で、睦月の脚に自分の脚を絡める。誘ってきたのは睦月さんなのだから、逃さないよ?
「キスだけでいいの?」意地悪く追い討ちをかけ、そっと服の下に手を這わせる。
「っ……やだ……」私の手にドキドキしているのか、頬が赤くなっている。
「何したいの? わかんなぁい」指先を動かすとびくりとすると腹筋。その度に睦月の瞼が軽く閉じる。
「………………」恥ずかしそうに、俯くだけ。
「言わないと分かんないよ? 睦月さん?」胸の先端を軽く潰し、煽る。
「……っ……俺のこと……うぅ…言わされるのは恥ずかしい」両手で赤くなった顔を隠している。
「隠しちゃダメ。可愛い顔見せて」手首を掴み、顔から手をずらす。
「~~~~っ……」顔が火照って可愛いこと。
「俺のことなに?」
睦月の目を真っ直ぐ見つめ、訊くと睦月は目線を逸らし甘えた声で答えた。
「……たくさん愛でて……?」
「いつも愛でてると思うけどね」
睦月の頭の後ろに手を回す。頭を強く押し、私へ近づけ唇を重ねる。押し付けてする口付けは甘く、熱い吐息が溢れでて、溶けていく。
「っ…ん……んはぁ…ん…はぁっ……」
「ん……睦月さん、たまには初心を思い出して、初めていちゃいちゃしたところでする? 話したいこともあるし? あ、覚えてる?」身体を起こし、睦月の腕を引っ張った。
「……場所は覚えてるけど……何されたかあんまり覚えてない……」指先を触りながらもじもじしている。
「ぇえ~~ひど~~私の愛欲に溺れたくせにぃ」
睦月と一緒に立ち上がり、脱衣所へ向かう。
初めて睦月さんの素肌に触れた場所。
でも9話みたいに、睦月さんだけをスッキリさせて満足なんて、到底、出来そうにないかもね。
「私の愛欲で溺れさせて、私以外見えなくさせてあげますよ。睦月さん」
「へ?」
覚えていないのか、きょとんする睦月が可愛くて、
あの時と同じように、後ろから抱きしめて座り、首筋に口付けを繰り返した。
ちゅっ。
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