如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

文字の大きさ
上 下
130 / 306

29話(3)そんな悲しい顔するなよ。泣かないで。笑ってよ?お互いの声はもう届かないーー。

しおりを挟む


 ーー就寝



 密かな野望。永津旭ながつあさひ、今日、少しでもむっちゃんを振り向かせる!!!


「むっちゃん何見てるの~~?」布団の上でうつ伏せになり、スマホをいじる睦月の上から覆い被さる。

「重……ネットで注文したものが配達済みなのに来てなくて」拒否はしない。結構寛容。


 友達としか見られていないせい、なのかもしれない。


 ジムトレーナーを仕事にしている俺から見ると、むっちゃんは少し小柄。身長差15センチ未満。ちょうど良い!! じゃなくて、少しでも俺のこと意識してもらうように頑張らないと。


「何買ったの??」いじっているスマホを覗き込むと、サッと画面を隠された。何?
「べ、べつに……大したものじゃ……」恥ずかしそうに枕に顔を埋めている。怪しい。


 なんだ? 何を買ったんだ? 気になる。 むっちゃんのことはなんでも知りたい。好きな人に対する恋心。


「大したものじゃないなら見せてよー」睦月の枕に顔を乗せ、眺める。可愛いなぁ。

「やだ」ぷい。顔を逸らされた。
「みせてみせてー」スマホに手を伸ばすと、反抗しているのか、自分の下にいる睦月が脚をばたばたさせた。


 弥生さんが憎い!!! こんな可愛いむっちゃんを独り占めして!!!


「お兄ちゃん、そういえば荷物届いてた」卯月は小さな段ボールを寝室へ持ち出し、ガムテープを剥がし始めた。

「待って!!! 開けちゃだめぇええぇえ!!!」慌てたように、睦月が起きあがろうとするので、仕方なく、離れる。

「え? こここここれはなななな何?!?! ナニをする道具なの?!?!」卯月ちゃんが躊躇いなく手に持っているのが恐ろしい。


 顔を真っ赤にして、手に持っているピンクのおもちゃを取り上げる。


「まぁーあれだよ、ちょっと気持ちよくなる的なー」布団の下に隠す。
「あああああれで?! 一体どんな風に……!!!」興味津々のよう。

「ズッてやって、ぐちゅぐちゅ」真剣に答える。
「ちょっと!!! 妹に変なこと吹き込まないで!!!」頬を染めた睦月に口元を手で塞がれた。

「いやぁあぁあぁあ!!! お兄ちゃんの浮気もの!!!!」卯月は布団に包まり、寝転んだ。
「浮気違う!!! これは浮気をしないための神聖なものです」真顔で何言ってるんだか。


 口元にある睦月の手を離す。こんな風に、警戒せず、自然に絡んでくれるようになったのは、大きな進歩ってことなのかな。


「もう~~むっちゃん、そろそろ寝よ~~」後ろから抱きしめ、一緒に寝転がる。
「なんで同じ布団!!! やだってば!! 俺は如月としか寝ない!!」中々、腕の中に収まらない。じたばた。


 バカみたいに弥生さんのことしか考えていない俺の好きな人。きっと自分へ好意が向くことはない。


 だけど、今日だけは少しでいいから俺を見て。


「つーかまえーたーー。おやすみ、むっちゃん」



 腕の中の睦月を見つめると、大きな瞳と目が合った。頬が少し赤い。可愛い。俺のこと、見てる。



 睦月は目を逸らし小さく呟いた。



「おやすみ、旭」



 そっと腕を離す。
 ありがと、むっちゃん。



 少しだけ距離を取り、瞼を閉じた。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
 *


 ーー翌日



 寝苦しさで目が覚める。ぎゅう。十分な距離を取って、寝たはずなのに旭に抱きしめられている。もうなにこれ。自分より大きい旭の身体。すっぽり腕の中に収まっている。


 抱きしめられるのは少し心地よい。


「起きなきゃ……」もぞもぞと移動しようとすると、グッと引き寄せられた。旭の脚が絡まる。
「どこいくの?」頭に顎が乗る。
「家事やらなきゃ」旭の鼓動が背中から伝わる。


 自分だけじゃなくて、旭もドキドキしている。絡まる脚は少し、いやらしい気持ちにさせる。後ろから何か当たった。


「ちょ……旭……」少し前進し、距離を取る。
「朝だから仕方ないー」ぎゅ。引き寄せられる。当たる、というか当てられている。

「やめて……」当たりどころが悪いと感じてしまいそう。
「こんなにおっきくてさぁー困るー。あ、これ友達同士の戯れね」友達とは?!

「う、うん……? 旭?! 何して!!」ハーフパンツの中に手が入ってきた。
「むっちゃんはどれくらいおおきいのかなって」見せあったりはあるけど触るのはどうなの?!

「…はぁっ…んっ……」確かめるように触られる手に身体がビクッとする。
「むっちゃん……かわいいんだけど……」抱きしめられている腕がきつく締まる。


 これ以上は……!!! 如月を悲しませたくない!!! 無理やり身体を起こし、立ち上がる。逃げるようにキッチンへ向かった。


 もう。何してるんだろ。
 如月は今何してるかな?


 コンロに火をつけ、簡易的な朝食3人分を作る。ご飯と味噌汁。ウインナーともやしを塩コショウ、醤油で簡単に炒めたもの。今日は会社を休む。のんびり家事して、会いに行こう。


「むっちゃん仕事は?」旭が背後に来た。
「んーー、今日は休む。ちょっと予定があるから。あ、電話しなきゃ」また何かされるのでは? と、旭を警戒し、キッチンを離れる。


 密着して、旭にドキドキしたり、少し触られて感じたり。如月に千早さんのことをもう、咎めれる立場じゃない。性的な目で見てしまうことは自然なのに、詰め寄って悪かったな、と思う。


 スマホを取り出し、会社へ電話をかけた。


「すみません、具合悪くて。はいはい、すみません。すみません。はい、ありがとうございます。失礼します」ぷつ。


 これで連休。ついでに如月にも連絡を入れよう。今日の夕方に会いに行きますっと。窓の外を見る。昨日から雨が降り続いている。少しはおさまればいいけど。


「どうする一緒に如月のところ行く?」卯月に訊く。
「いかなーい。いいよ、留守番してる。作り置きして~~(※卯月はまだ夏休み)」作った朝食を卯月と一緒にリビングへ運ぶ。


 いつもとメンバーは違うが朝食を頂く。


「「「いただきまーす!!」」」


「朝ごはんまで作ってもらっちゃって。ありがとー。美味しいよ」優しく笑う旭を見ると、ホッとする。
「どういたしまして。食べたら帰れよ」


 如月の居ない朝食は何を食べても美味しくない。ふと『美味しいです~~』と笑う如月を思い出し、笑みが溢れる。早く会いたい。


「お兄ちゃん、顔緩んでる」卯月に指摘され、顔を横に背ける。
「少し、思い出しただけ」すぐ顔に出る自分が恥ずかしい。

「はぁ~~あ、羨ましいよ、弥生さんが。ごちそうさまでした。帰ります!」旭は箸を置き、立ち上がった。
「また遊びに来てよ。今度は如月が居る時に」旭を玄関まで見送る。


「やだー。居ない時にくるー。またね、むっちゃん」


 旭は軽く手を振り、帰って行った。なんか疲れた。キスされちゃったし、いっぱい抱きしめられた。友達もハグはする……。友達ってどこまでアリなの? もうわからない。


 リビングへ戻り、食べ終わった食器を片付けた。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー


 ーー夕方


 風に煽られ、篠突く雨が降る。滝のように降り注ぐ雨の中、傘を差して歩く。駅へ入ると、隅っこで傘を振り、水を切る人や、傘を持つ乗客が目に入る。


 足元は水溜まりが出来、滑りやすくなっていた。気をつけないと。駅舎内は土砂降りの外とは対照的に静かだ。それにしてもいつもより、人が多い。


 改札口を通り、電車に乗った。遅延していたのか、混んでいる。電車に乗る人々は少しせわしない。窓の外から広がる雨模様を眺めた。


 目的の駅に着き、電車を降りる。人の流れ通りに、改札口へ向かう。改札口で待つ、如月の姿が目に入り、笑みが溢れた。


「如月!!」改札口を出て、如月に抱きつく。会いたかった。
「仕事休んじゃダメでしょ」如月の手が頭を撫でる。


 1日しか離れていないのに、随分久しぶりに会った気がする。如月が俺の持つカバンに触れた。


「持ちますよ。お土産とか色々持って、手が塞がってるみたいなので。手繋ぎましょ」手を差し出す如月は優しい。

「ううん、良いよ。ありがと。手は繋ぎたいけど、自分の荷物だから自分で持つ」にっこり笑って、如月を見つめた。


 帰る時間と被ったのか、それとも雨のせいなのか、駅は人で混雑する中、人混みに紛れ、出口へ向かって歩き進む。


「混んでますね~~」如月が呟く。
「電車遅れてたし」上り下りする人が多い中、階段を降りていく。 

「そうだったんですね。睦月さん前見て歩かないと危ないですよ」会えたのが嬉しくて、如月の顔ばかり見てしまう。
「だって、嬉しいんだもん。あ、今日ね、お土産に如月の好きな」



 ドン。



 上る人と肩がぶつかった。



「あ、すみませーー」



 ぶつかった人に謝ろうと、振り返った瞬間、雨で濡れていたせいか、足が滑り、階段を踏み外した。ぐらつく身体。一瞬、宙に浮く。持っていた荷物の重さが体重に加算し、勢いよく階段から転落していく。



「睦月さぁあん!!!!」



 如月が手を伸ばすのが見えた。荷物で塞がる手は伸ばすことが出来ない。掴んだところで、道連れにはしたくない。



 あぁ。でも、素直に荷物半分渡して、手を繋いでおけば良かったかな。



「~~~~!!!!」



 身体全身に伝わる衝撃。床と触れている部分がじんわり湿り、冷えていく。痛みだす頭。すごく、後頭部が痛い。如月が何か叫んでいるけど、聞こえない。



 ただ、雨粒が道路を叩きつける音だけが耳に入り、視界には今にも泣きそうな如月の顔が映る。そんな悲しい顔するなよ。せっかく会えたのに。



 なんだか、このまま寝ちゃいそうだよ、如月。なんで泣いているの? 泣かないで。笑ってよ。俺はずっと如月のそばにいるよ……?



 頭がだんだんぼんやりする中、手を伸ばし、如月の頬に触れる。薄く微笑みを浮かべた。




「……きさらぎ、だいすき……」




 重くなる瞼に耐えきれず、そのまま瞳を閉じた。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...