如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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番外編 もしも2人の精神が入れ替わったら?!

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 ーーある平日、早朝



「ふぁあぁ~~……」


 アラームをセットしなくても自然に目が覚める。染みついた家事ルーティンのために身体を起こす。でも今日はいつもと何かが違った。


「いったぁ……」


 腰が痛い。何故? そして肩凝りが半端ない。まるでいつも同じ姿勢で長時間何かをやってるみたいな凝り感。手でげんこつを作り、首の付け根をとんとんと叩く。


 寝起きの朝のセルフチェック。違和感。んーー。具合悪いのかな。立ってるけどぉ。いつも、もっとかたくなっていたような……? まぁいっか。


 さら。


「え?」顔に髪が掛かった。


 慌てて顔に掛かった髪の毛を指先で拾う。柔らかい明るみのある茶色のさらりとした毛。俺の髪の毛ではない。


「え? は? え? え?」


 家事なんて忘れて、バタバタと脱衣所へ向かい、鏡で自分の姿を見る。


「ぇえぇぇええぇええ!!!! 如月になってる!!!!! なんで?!?! えっ!!! 嘘!!! 見た目が如月になってる!!! どういうこと?!?!」


 驚きのあまり、顔や体をベタベタ手で触る。如月そのもの。自分の体ではない。


 そう言われるとさっきの違和感は全て納得がいく。あんまり身長差はないと思ってたけど、こうして入れ替わると、如月って背が高い。目、茶色いなぁ~~。洗面台の鏡に顔を近づける。


「まつ毛ながぁ~~。この髪色、地毛なの? 鼻たか~~い。良いなぁ~~」


 今度は身体が気になってくる。どうせ如月は寝てるし? 見たところで今の如月の体の持ち主は俺だし? 何しようが俺の勝手!!! 問題なし!!!


 今後のために感度チェックは要るな!! 如月がどの程度感じて、気持ち良さを体感出来るのかは知る必要がある!!!


 どきどきしながら下着の中に手を入れる。どれくらいでイケるかどうか試してみよう。手を添え、動かしてみる。


「ぁっ……ん……はぁ…あっ…」ちゃんと感じる~~。きもち。


 ガッ。肩を掴まれた。


「人の身体で何やってるんですか」俺に睨まれている。変な感じ。
「こ、今後のえっちのために……研究を……あっ…はぁ」いつもと違って逆にいいっ! や、やめられない。

「あっ!! ちょっと!!! 私の身体でやめて!!!! そんな顔しないで!! 恥ずかしい!!!」如月は睦月の手を掴み、下着から引き抜いた。
「ぁあっ!! 良いところだったのにぃ!!」ぶーぶー。


 如月は頬を赤らめ、一時停止した。


「どしたの?」如月を見つめる。
「あーーえ~~と……この身体すごいなぁって……」如月は俯いた。
「え? 何?」


「すぐシたくなる!!!」は?


「朝起きたらすごくかたくて……頭がおかしくなるくらいむらむらして……だから抜いたのに……なのにまた湧き上がる性欲!!!」如月は両手で顔を隠した。

「人の身体で何やってるの?」目が白く濁る。


 人にするなと言いつつ、自分はちゃっかりしてる如月を白い目で見つつ、考える。今日は仕事。如月の身体で行く訳にもいかない。朝起きてから、家事は全く進んでいないが、如月と入れ替わっているなら、後でゆっくりやればいい。仕事、どうしよう?


「睦月さん。私、代わりに仕事行きましょうか?」


 如月が俺の代わりに仕事へ? 大丈夫か? 小説を書くことしか出来ないようなぽんこつ嫁(ひどい)が経理の仕事なんて出来るの?!?!


「いや~~休み取るよ、心配だし……」職場へ行かせるのは怖い。
「大丈夫ですって~~任せてくださいよ」俺の顔でウインクされても。


 う~~ん。有休も残り少ないし。心配極まりないが、行きたがっているので、ここは如月に任せよう。キッチンへ行き、髪の毛を束ね、如月と卯月の弁当を作る。


「ふぁ~~……騒がしくて目が覚めた。おはよ」卯月が起きた。
「おはようございます」

「え? 如月が弁当作ってるの? まずそ。お兄ちゃん作らないの?!?! 私嫌だよ?!?! 何入れてるかわからないような闇鍋弁当!!!」


 卯月はリビングに座る睦月とキッチンに立つ如月を交互に見つめた。


「黙って聞いてれば!!! 今度私が卯月さんの弁当作りますから!!!! 楽しみですね!!! 闇鍋弁当!!!」


 卯月の手を引っ張り、膝の上に抱き寄せ、達者な口を手でタコ口に変える。むぎゅ。


「むぐっ……きんも!!! お兄ちゃん何するの!!! やってることと言ってることが如月!!! 何?!?! どういうこと?!?!」


 卯月は何度も首を振り、2人を交互に見た。


 流石、一緒に生活してるだけはある。勘付くのが早い。ことの成り行きを一旦、話す。


「へー。おもしろ。どうやって戻るの?」卯月は首を傾げた。

「……………」
「……………」わからねーー……。


 まぁ、良い。今日は如月。家にずっと居座れる。じっくり考えよう。如月って家で何してるんだろう? ずっと小説書いてるだけなのかな?


「如月、卯月、朝食と弁当出来たよ」


 机の上に並べ、手を合わせて、一緒に食べる。目の前で自分が食べている姿を見るのはなんだか変な感じだ。


「ごちそうさまでしたぁーー!」


 卯月が慌ただしく学校へ行く準備を始める。食べ終わった食器を重ね、流し台へ運ぶ。手入れのされた細くて綺麗な手で洗い物をするのは、荒れそうで少し気が引ける。


「俺がやらなきゃ誰がやるんだ!!!」


 せめてもと思い、ビニール手袋を付け、食器を洗う。ぎゅ。後ろから抱きしめられた。こんなことするのは1人しか居ない。でも今日はいつもと違う。

 抱きしめられた瞬間香る、甘い匂い。少し高めの体温にドキッとする。如月はいつもこんな風に感じているのかな。


「卯月さん。もう学校へ行っちゃいました。私もそろそろ行かなきゃ。なんか変な感じですね」如月は睦月の顔を覗き込んだ。

「うん……」顔が近い。さらさらと落ちてくる横髪を耳にかけ、唇を重ねた。
「なんか自分の顔にキスするって恥ずかしいです」如月は頬を赤く染めた。

「確かにねーーって…ぇえ?!?! その格好で仕事行くの?!?!」


 黒の半袖オーバーサイズジャケット。白タンクトップ。黒テーパードワイドパンツ。俺がよく付けてるネックレス。これはオフィスカジュアルなの?!?! ネックレスっていいの?!?!


「え? ダメですか? おしゃれな感じにしてみました。あんまり堅苦しいの苦手ですし……」如月は目線を下げ、落ち込んだ。


 おしゃれなの?!?! まぁ? おしゃれなら会社での俺の株が上昇するかも!!! そんな眉下げてしょぼんってされても!! 顔俺だけど!! 1日くらいいつもと違っても問題ないか!!! 如月が着たいならそのまま行かせてあげよう。


「今日だけね。いいよそのまま行って」洗い物の手を止め、タオルで手を拭き、如月の方を向く。体は俺だけど、段々と如月に見えてくる。

「ありがとうございます」目を細めて笑う姿は如月にしか見えない。大好き。ぎゅう。如月に抱きつく。

「こうして、抱きついてくるの見ると、私じゃなくて、完全に睦月さんですね」頭をぽんぽんと撫でられた。


「もう行かなくちゃ。行ってきます、睦月さん」


 頬が両手で包まれ、優しく唇に口付けされる。


 ちゅ。


 行ってきますのキス。普段はそんなこと、されることもすることもないだけに、気恥ずかしくて、顔が熱くなった。


「如月、行ってらっしゃい、気をつけてね」


 頬を赤らめ、嬉しそうに手を振り、出ていく如月を玄関から見送った。



 *



 ーーオフィス 睦月の職場



 ゲートを通り、教えてもらった階までエレベーターで行く。なんだか、周りの視線が痛い。ジロジロ見られている気がする。エレベーターを降り、睦月のオフィスまで歩いた。


 オフィスへ入ると少しザワッとした。ねむ。欠伸が出る。「おはようございます」と挨拶しながら中を進んでいく。


 いつもどのデスクで働いているのだろう? 外で待つことはあっても、中に入ることはない。デスクをひとつひとつ見て回る。


 あるひとつのデスクは綺麗に整理整頓がされており、本日やることリストがきっちりまとめられ、机に貼られていた。


「睦月さんっぽい」


 引き出しを開けてみる。無造作に突っ込まれているものは何ひとつなく、住所が決められたように、仕切られて仕舞われている。ゴミひとつない、美しい引き出しだ。


「睦月さんでしょ」


 普段、調理器具も同じように仕舞ってある。もうここで決まり。勝手に座る。後ろからポンと肩を叩かれ、振り向いた。神谷だ。


「はよ、佐野~~」
「あ……おはようございます」軽く頭を下げる。
「え、何? どうしたの? 服もいつもと違うし……イメチェン?」説明するのも面倒だな。どうすべきか考えながら神谷を見る。

「イメチェンみたいなものです。似合いますか?」適当に話を合わせる。
「なんで敬語? 誰? 頭大丈夫?」


 怪訝な顔で見る神谷に更に面倒くささを感じる。脚を組みデスクに肘をついて、溜息をつく。はぁ。


「何その態度……まぁいいけどさ」神谷は呆れて、自分の席へついた。

「これ今日中にチェックしておいて」


 ドサ。上司のような人が金銭のやり取りが書かれたような書類をデスクの上に置いた。なにこれ。こんなのやるの? 無理なんだけど。


「自分でやれば良くないですか?」置いた相手を睨む。
「あ?」睨み返される。

「自分が受けたものは自分でやるべきです。私がやる必要性を感じません」1番上の書類を捲り手に取り、一度見つめる。何書いてあるかよく分からん。宙へ捨てる。

「なんだその態度は……」上司がイライラしている。
「まぁまぁまぁ~~僕も手伝うから~~ね?」神谷が仲裁するように割り入り、書類を受け取った。


 お仕事って何やるの? あんな書類の山の戦わないといけないのかな。そういえば軽いバイト程度しかしたことがない。社会できちんと働いた経験は一度もない。


「佐野さぁん、コーヒーどうぞ」若く、可愛らしい女性にコーヒーを手渡され、受け取る。ちょうど飲みたかった。気が利く。

「ありがとうございます」薄く微笑みかける。

「怖っ!! 何笑いかけてるの!! なんで受け取るの? いつも『自分の仕事しろ』って受け取らないじゃん。お前変だよ」神谷は眉根を寄せた。

「そんなことないですって。ちょっと席外しますね。神谷さん、これ全てやっておいてください」やることリストの書かれた紙を剥がし、神谷の額にくっつける。ぺた。

「誰?!?! 如月氏みたいなノリだね?!?!」本人ですから。
「はぁい、じゃあ、あとよろしくお願いしま~~す」席を立ち、飲み切ったコーヒーの紙コップを捨てた。


 オフィス滞在時間、15分程度。


 今日の睦月さんの仕事は神谷さんに押し付けたし、私は私のやりたいように過ごそう。持ってきたカバンの中からノートパソコンを取り出し、オフィスを出た。



 どこに居ても自分のペースは崩さない。
 如月弥生、初めての社会人生活。


 


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