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22話(3)

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「こ、ここが如月の実家……」

 祖母の家へ迎えに来てもらい、1日遅れで如月家に到着した。一般的な一軒家を想像していたが、思ったよりも大きい。家、お金持ちなの? 車からスーツケースを下ろし、小春が駐車し終えるのを玄関門で待つ。

「睦月ちゃんお待たせ。入ろう」車から降り、小春が来た。
「は……はい……」柄にもなく緊張する。

 玄関門を通り、小春が扉を開け、大きな声で言った。

「ただいま~~連れてきたよ~~!!」

 バタバタバタバタ。こちらに向かって足音が近づいてくる。こ、こわい!! サッと小春の後ろに隠れる。

「何やってんの? 後ろに隠れるな、女々しい」首根っこを掴まれ、前につまみ出された。

 目の前に女性が3人。

「これが噂の?!」妹かな?!
「へぇ……いらっしゃい」お、義母さま?!
「恋人見たくって、実家に帰ってきちゃった」お姉さん?!


(はわわわわわぁぁああぁあぁあ!!!!)


「さ、佐野睦月です……こ、こんにちわ……初めまして……お世話になっています(?)」誰を見たら良いか分からず、目線が下がる。

「…………」
「…………」
「…………」何?! 品定めされてる感がすごい!!

「あっ…えっと……よろしくお願いします」ぎこちなく頭を下げる。

「めっちゃ若いんだけど!」視線が痛い!
「……自分の年齢考えろ、バカ息子……」呆れないで!
「千早くんとは全然違うタイプに見える」比べないで!!

 なんで如月は来ないの?! 早く家に上がらせて!! こんなところで品評会みたいなことしないで!!!

「あ、来たんですか?」猫を抱きかかえた如月が廊下に顔を出した。
「来ましたよ、そりゃあ……」スーツケースのポケットから新しい雑巾を取り出し、キャスターを拭く。

「そういうことやるタイプ……」顔を見上げると、妹? と目が合った。
「え? 部屋が汚れたら嫌じゃないですか?」ふきふき。
「まぁ……配慮ありがとう」なんか気まずい。

 靴を脱ぎ、廊下に上がる。脱ぎ散らかった靴を全て揃えていく。こういうの気になる。

「……へぇ」お義母さん?
「あ、すみません……勝手に……」揃え終わったぁ。
「ありがとう」微笑まれた!

 スーツケースを持ち上げ、案内されるまま、ついて行く。リビングだ。広い。良いなぁ。まだ、緊張は解けない。

「弥生、荷物持って行ってあげて」
「荷物置きにいくね。はい、どうぞ」如月に猫を渡され、抱っこする。
「ありがと……」腕の中で猫が少し暴れている。如月と離れるのがイヤみたいで、ぴょんっと、腕からすり抜け、どこかへ行ってしまった。

 如月はスーツケースを持ち、リビングを出て行った。知らない家で1人。どうしよう。「座ったら」と、小春に言われ、ソファへ腰掛けた。落ち着かない。

 キッチンから声が聞こえる。

「お昼何も用意してないけど!」
「どうするの!」
「パスタはあるよ」
「具は何かあるの?」
「うーーん……お母さんどこ?」

(手伝おうかな……)

 ソファから立ち上がり、キッチンへ行ってみる。パスタ麺を片手に、何か悩んでおり、料理は進んでいなさそう。声をかけてみる。

「あの……手伝います……」4人の女性の視線が降りかかる。痛い。
「睦月ちゃんが?」

 料理出来るの? そんな不審な顔をしている。こ、これは!! 俺が活躍出来る場!! 成功すれば好感度爆上げ!! うじうじしていても仕方がない!! 開き直って立ち向かえ!!!

「やります!! やります!! やらせてください!! 俺が全部作りますから!! お姉さんたちは休んでいてください!! 失礼します!!」勝手に冷蔵庫を開ける。ふむふむ。おけ、作れる。

「ほう?」視線を感じながら料理を始める。いいんだ、これで! これでこそ俺! 
「何やってるんですか」如月合流。

「クリームパスタと明太子パスタ作ってる!」フライパンを取り出し如月に見せつける。調子が戻ってきた!

 おおよそ30分程度で2つのパスタを作り終わる。我ながら、仕上がりは完璧。味も保証出来る。お皿に盛り付け、リビングのテーブルへ運ぶ。

「美味しそう……」でしょ!!
「できる男……」ふふふ、おまけにスープ付き!!

 全てを並べ終え、席に着いた。

「「頂きます!!」」家族で食べるって良いなぁ。
「美味しい~~!」喜んでもらえて嬉しい。

「自己紹介まだだったね。こちらが長女、香澄。二女、小春。四女、琴葉。三女は結婚して、家を出てるから居ないよ」お義母さんが淡々と話していく。

「私も結婚しているよー。今日は弥生の恋人が来るって聞いたから来ただけで、実家には住んでないよ」香澄は笑った。

「自分もちゃんと自己紹介したら?」もう緊張はない! 大丈夫!! 小春に促され口を開く。

「佐野睦月です!! 24歳です!! 弥生さんとお付き合いさせて頂いてます!! よろしくお願いしまぁす!!」1人ずつ顔を見て、笑顔で言う。

「若~~……」眩しそうに香澄に見つめられる。
「私より5つも年下!(※琴葉は29歳)」

 俺の年齢が気になるようで。まぁ、年の差は結構あるもんね。それはどう頑張っても埋められないし。話を訊きながら、パスタをフォークで巻き、口に運ぶ。

「あなた37よ? もっと年相応の……」お義母さんが呆れている。
「ぇえ? 別にいいでしょ。誰と恋愛したって」

 あれ? 如月家は俺が恋人でもあんまり拒否反応はないんだなぁ。前の恋人も男だったから、あんまり抵抗ないのかな?

「うちは弥生が自分のセクシュアルマイノリティで悩んだ時期もあったから、その辺は理解はあるつもり。だから気にしないでね」お義母さん……。

「はぁ~~美味しかった」

 たくさん作ったパスタはあっという間になくなった。良かった。つい癖で空になった食器を重ね、キッチンへ持っていく。はっ。気づいたら、片手にスポンジが!! まぁいっか。洗っちゃおう。

「何この子……家事力半端ない……」後ろにいるお姉さま達の視線が気になる。
「あ、作ったの俺なので、鍋も全部洗いますねー!」

 片付けまでが料理!! 片付けないとかあり得ない!! 使った調理器具を全て洗い、IHクッキングヒーターの上を拭いていく。IHは手入れが楽でいいな! 元より綺麗になっちゃったぁ。片付け完了。

「終わりました!!」後ろを振り返るとお姉さま、お義母さまが並んでいた。
「あ、えっと、何か? 問題が……?」少し焦る。
「いやぁ、ありがとうね! 若いのにすごい!」囲まれた。

「どうも?」如月どこ?
「お茶飲む?」
「あ、はい飲みます!」如月どこ?
「よく見たらめっちゃ可愛い顔してる!」
「色々話聞かせてよ~~」

 如月ぃいいぃいい?! 助けて!!! どこにいるの?! 俺を1人にしないで!!
 大きなお姉さま方に囲まれながら、リビングへ連れて行かれる。質問攻めにひとつひとつ答える。あ~~疲れる。

「あの……弥生さんは……?」この状況を抜け出したい。
「自分の部屋で本でも読んでるんじゃない? 2階だよ。行ってみれば」小春に場所を教えてもらい、リビングを出る。はぁ、やっと脱出。

 階段あった。この上か。階段を登り、突き当たりの部屋まで進む。ドアノブに手をかけ、押した。クーラーがんがん。ベッドに寝転がり、本を読んでいる如月が目に入った。

「1人にしないでよ~~」ドアを閉め、如月のそばに駆け寄る。
「だって、面倒くさいし」ひど。
「ちゅーして」如月を見つめる。
「ん」顔が近づき、口付けされた。

 そんなフレンチじゃ物足りないんですけど。でも如月の実家だし、我慢しなきゃ。如月の部屋。大きな本棚に本がいっぱい。なんか、ないかな。引き出しを開けてみる。

「ちょっ……何開けてるんですか」開け切る前に引き出しを閉められた。
「何かあるの?」気になる。
「……いや、えっとダメ」ふーん? 開けよ。

「ちょっと!! 無理矢理開けないで!!!」ガタガタ。
「見たい!! 何入ってるの!!」開いた。

 …………ねこみみ。

「ぎゃぁあぁあぁあぁああぁあ!!!!」
「睦月さんうるさい!! だからダメって!!」叫ぶ口を如月が手で塞いでくる。

「ち、千早さんにねこみみを?!?!」誰用これ?!?!
「なんで千早の名前知ってるんですか!! 千早にはねこみみ付けたことないです!!」えっ。

「お、俺用のねこみみとでもいうのかぁああぁあぁぁあぁあ!!!!」睦月はねこみみ情事を思い出し、頭を抱えた。
「うるさい! 大声でねこみみ言わないで!!」また口を塞がれる。

「ん~~~~っ!!!」すぽ。えっ? 頭を触る。ねこみみ。
「あはっ、かわゆ」急に手を引っぱられ、ベッドの上へ倒れ込んだ。

「あ~~もうっ!! しないしないしないしないしないしない絶対シない!!!!」仰向けに寝る如月の上に体が重なる。

 ぎゅ。抱きしめられた。

「そんなことしてもシないから!!」薄目で如月を睨む。
「ぇえ? そう? これでも?」背中の方から服の下へ手が入ってくる。
「っん……」もうっ。

 ガタン

「へ?」ドアの方を如月と見る。お姉さま方が雪崩れ込んできた。

「お姉さま!!! みんなして見てたんですか? やめてください!! 見ないで!!! いやぁあぁああぁあぁあ!!!!」ねこみみを手で隠す。

「なんかぎゃあぎゃあうるさいから……」
「見にきたら……」
「ねこみみを装着……」
「2人にそんな趣味があるとは……」がっつりみてるっ!!!

「ちっがーーーーう!!!!」ねこみみを外し、引き出しに封印する。はぁはぁはぁ!!
「少なくとも弥生にはそういう趣味がありそうだったけど……」うっ。

「別にぃ……睦月さんって目がくりくりしててねこみたいでかわいいから……」はぁ?!

「もう封印します!!!」机の上に置かれた原稿用紙に油性ペンで大きく『闇』と書き、引き出しにセロテープで貼り付ける。これでオッケー!

「何してるんですかぁ~~」
「これは封印されし、ねこみみディア」引き出しを手で押さえ付ける。
「へぇ。じゃあ、私がそのねこみみを手にすれば私の勝利ですね!!!!」如月は引き出しに手を伸ばした。

「やめて!!! 開けないで!!!!」ガタガタガタガタ。
「私はねこみみを手中に収め、この戦いを制する!!!」ガタガタガタガタ。

「こいつらバカだな……戻ろ……」姉たちはそっと扉を閉め、戻って行った。

「なに本気になってるの!!! やめて!!! 引き出し壊れるよ!!!」ガタガタガタガタ。
「絶対勝つ!!! ーーん」急に顔を近づけられ、唇が重なる。押さえていた手が緩み、引き出しが開いた。

「あ~~~~っ」その勝ち方はずるい。
「ふふ、私の勝ち~~今度続きしてもらおうっと」

 如月は満足気にねこみみカチューシャを引き出しへ戻した。


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