如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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19話(5)

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 ーー大阪 2日目


「遊園地わふぅ~~!!」卯月はメリーゴーランドの馬に乗りながら、如月と写真を撮った。

 楽しそうに写真を撮る2人をメリーゴーランドのゲートの外から眺める。卯月の希望で遊園地に来た。折角の遊園地なのに、如月のせいでめちゃくちゃ体が怠い。ゲートにもたれ、休憩する。如月のばか。

 如月をじーーっと見つめる。楽しそう。

「いっぱい写真撮った!!」

 メリーゴーランドを終えた卯月が自慢気に写真を見せてきた。如月の写真、欲しい。

「俺にもちょうだい」卯月のスマホの画面を覗く。
「お兄ちゃん、写ってなくね?」卯月は眉を顰めた。
「別にいいでしょうが!!!」卯月のスマホを奪い、自分のスマホに送る。

「やめてよ!! キモい!!」
「キモくないわ!!!」スマホの奪い合いの兄妹ケンカ。
「何してるんですか……次行きましょう」如月は呆れながら2人の背中を押し、歩いた。

 ティーカップ、お化け屋敷、モノレール、ジェットコースターと順番に回っていく。ジェットコースターを連続で乗った頃、如月がダウンした。

「……もう無理……あとは、お2人でどうぞ……おえっ……若者の力恐るべし」如月の背中をさする。
「お昼だし、ちょっと休む?」顔が青い。
「そうですね……」

 場所は違えど、以前遊園地に来た時と比べれば、お互いすごく打ち解けたなぁ。そりゃ、あの時とは違い、今は恋人ですから? 当たり前ですけど。

「卯月、なんか飯食べよう!」パンフレットを見る卯月に声を掛ける。
「おけ~~何がいい?」

「如月が食べれそうなもの」ベンチに座り、口元を押さえる如月に視線を向ける。具合悪そう。
「ファーストフードしかなくね?」ですよね。

「ううん……とりあえず水飲ませてくる……」自販機で水を買い、ベンチに座る如月のそばへ行き、渡す。ペットボトルを持つ指先が触れた。
「あ……ありがとうございま……す……」如月の頬が少し赤く染まる。

「えぇ、なに~~? ちょっと手が触れただけじゃない? 照れてるの?」隣に座り、如月の横顔に顔を近づける。
「なっ……照れてないし!! 何言ってるんですか!」ぷ。如月って時々うぶ。

「あ~~もう治った!! お腹空きました!! 何か食べにいきましょう!!」如月はペットボトルの水を飲み、立ち上がる。
「ぷっ。顔赤いよ~~。手繋ご、手。如月」立ち上がり、如月の手を掴む。
「こんなところで繋ぎません!!」そう言いながら、指を絡めてくれる如月好きぃ。

「なになに~~勝手にいちゃいちゃモード? やめてくんない? 私いますけど!!」卯月はパンフレットを顔の前にかざし、目だけ出して2人を見つめる。
「す、すみません……」如月は睦月の手を離した。

 あ……手……。今繋いだばっかりだったのに……。
 人目を気にする如月が、公で俺とスキンシップを取ることに少しずつ寛容になっている気がする。良いことだ。

 でも手離されてさびしい。むー。まぁでも? ここ人多いし? そうは言えど、多分、人目気にしてると思うし? 無理に繋ぐ必要性はないかな。我慢我慢。うん……。

「早く飯、行こうよ~~」如月の隣を歩く。
「ハンバーガー食べたい」
「ハンバーガーはちょっと……」

 パンフレットを見ながら、3人横並びで、ファーストフード店へ向かった。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
 *


 ハンバーガーを食べ終わり、遊園地内をぶらぶら巡回する。手を離してから睦月さんの元気がない。明るくは振る舞ってはいるが心なしかどこかしょんぼりしたオーラを感じる。

 手、離しちゃ、まずかった?

 いやぁ、でも。人もいっぱいいるし、卯月さんにも指摘されたし、やっぱり繋ぐのはどうかと思う。う~~ん。どうしよう。まぁでも? いつもリードされっぱなしだし? 私からリードというのも悪くない!! はず!!

 てててててて手を繋ごう!!! 私から!!!! 睦月さんは繋ぎたい派!!! たぶん!!! 私が頑張れば喜んでくれる!!! がんばれ弥生!!

 隣を歩く、睦月の手を見る。うん、イケる。ちょっと指先触って、ぎゅっでオーケーなはず。いいよね? あれ? 違う? 今までどうしてたっけ? あれ?

 もたもたし過ぎて、睦月の手に自分の手が当たる。

「あ、ごめん」謝られた。
「え? あ、いえ……」ちっがーーう!! そこは『手、繋ぐ? 睦月さん(にこ)』でしょうが!! ぁああぁあぁあ!!

 リベンジ。テイク2だ、弥生。そう、自然に。ナチュラルに、大人な感じで(?)もう一度。よく分からない催し物の展覧会を一緒に見ながら、機会を窺う。

「書き下ろしだって~~」誰のなんの絵ですかこれ……。
「う、うん。いいのでは……」今イケるか?! タイミング少し微妙だけど!!

 いけ!! 弥生!! 手を握れ!!
 睦月の手を握ろうと下に手を伸ばす。

 スッ

 睦月の手が後ろのポケットへ入った。
 
 えぇ……。しゅん。

 いや、めげるな!! 弥生!! 3度目の正直!! ここは女の子をエスコートする感じで、声に出し、誘い、自分から握るべし!!

 睦月さんの手は……ポケットから出た!! チャンス!! 成功させるためになんて声を掛けるかは重要だ!! やっぱりここはシンプルにいくべきか?!

『睦月さん。手、繋ぎません?(顔を傾けて耳に髪の毛をかける)』
『き、如月?(はにかみ顔)』やば。きゅん。

 脳内シュミレーション完璧。やれる!! やれるぞ!! 弥生!!! テイク3だ!! いけぇええぇえぇええ!!!

 壁に貼られた絵を見つめる睦月に声を掛ける。

 ーー現実

「……睦月さ……えっと……あ……そのぉ……手……ん~~……」恥ずかしくて頬ばかり赤くなる。
「え? 何?」訝しげな目で見てくる。

「……う~ん……えっと…手……そう、手…繋ぎません……?」恥ずかしくてまともに睦月を見れない。
「え? いや、いいよ。人多いし」断られた!!!
「あーーうん、そ、そうですねぇ……」握ろうと思っていた手を背中に隠す。

 めちゃくちゃ勇気出したのに、無下にされた気分。いや、そうね。人多いもんね。睦月さんも気になるよね……。でもちょっと気持ち汲んで欲しかったなぁ。

 ずーーん。

「あ……えっと……ちょっとお手洗い行ってきま~~す……」如月は卯月と睦月に軽く笑いかけ、その場を離れた。
「如月、目が笑ってなかったけど……」卯月は睦月の方を見る。
「お、俺……? 俺のせい?」

 はぁ、傷心。いや、睦月さんは悪くないし。私が勝手にやって、勝手に自爆しただけだし。でも泣き。つら。頑張ったのにぃ。

 いつも人前オーケーのウェルカム体制じゃん。何故今日に限って断る……。うぅ。睦月さんのばか。ばーーーーか!! もう2度と手なんか繋いであげない!!

 はぁ。深くため息をつき、お手洗いの鏡の前でぼーーっと自分を見つめる。突然現れる、鏡に映る、自分以外の人物。

「なんですか……」後ろを振り返り、旭を見る。
「こんなところで会えるとは思わなくてー。なんか元気ないね」旭は如月の頭を撫でた。
「別に……」

 傷ついているせいか、今は睦月さんのところへ戻りたくない。私は自分勝手だな。まぁ、この際、旭さんとのデートを今終わらせよう。今ならこのデートも楽しめる気がする。

 拠り所を求めるように、旭の肩へもたれかかり、口を開く。

「デートの件、今からしても良いですよ」後ろめたくて、目線を逸らす。
「上から目線だなー。じゃあ、夜まで付き合ってね」旭はもたれかかる如月の肩をぐっと引き寄せた。

「はいはい。1人で遊園地来てたんですか?」肩を抱き寄せられたまま歩き出す。
「悪いー? 乗り物乗ろ、乗り物」展覧会を出る。睦月さん置いてきちゃった。

 連絡入れようかな。ポケットからスマホを取り出し、連絡画面を開く。連絡は来ていない。

 む。戻ってくるの、遅いって思わない? それに旭さんと出てきたんだよ? おかしいって思うでしょう、普通。気づいてないの? 見てすらいないの? もう、睦月さんのばか! 鈍感! ほんとばか!! もう知らない!!

 腹いせに手でも繋いでやろう。

「旭さん、手繋ぎます?」旭に手を差し出し、微笑む。

 なんでこんな簡単に言うことが出来るのだろう。睦月さんにはこんな上手く言えなかったのに。

「ぇえー? いいの? じゃあ、遠慮なく」繋がれる手。何も感じない。

 卯月さんと手を繋ぐ時と同じ。そこから体温が伝わろうと、指が絡まっても、心臓が早まることはない。その何も感じない感情が私を冷静にさせる。一体、何をしているのだろう。色んな考えが頭を巡る。

 歩いていた足は自然に止まり、絡まっていた指を解いていく。

「どうした?」旭は俯く如月を見つめた。
「んーー。なんでしょうね。私は実に自分勝手で、自己中心的です。時間も、お金も、愛も、全て自分の為だけに使ってきました」コンクリートを見つめ、続ける。

「なのに今は、時間も、お金も、愛も、全て睦月あの人の為に、使ってる。サイン会が終わったんだから、家に帰って執筆した方が有意義な時間のはずじゃない?」旭は黙って如月の話を訊く。

「ちょっとしたことで、自分の全てを振り回されて、馬鹿馬鹿しいですね。これが、レンアイだったのでしょうか?」顔を上げ、旭を見つめた。

「弥生さんって、誰かを『本気』で好きになったこと、なかった感じ?」
「ぇえ……そんなことないと思いますけど……睦月さんとお付き合いして、色々不可解なことは多い気がします……」首を傾け、悩む。

「まぁ、あれっしょ。今まで愛情受けてぬくぬくしてる恋愛ばっかりしてきたから、自分から愛情返したことなくて、波瀾万丈? みたいな」一理ある。

「早く戻ってやれよ、むっちゃんのとこへ。俺は弥生さんが幸せならそれでいいから! なっ!」旭は如月の背中を叩き、前へ押す。
「なんか、すみません。いつも……」背中を押され、前へ踏み出す。

「良いってことよ! 少しでいいからまた俺と遊んでねー!」旭は笑い、如月に手を振る。
「ありがとう」旭に手を振り返す。

 少し気分転換になった。今なら、自分の気持ちを伝えて、もう一度、睦月さんに手を繋ぐことを誘えそう。

 たとえ、また断られてしまっても、伝えた気持ちは、きっと嬉しいはずだからーー。





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