如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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おまけ 天の川に再会を願って

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 今日は七夕。でもその1日も終わりを告げようとしている。就寝準備を済ませ、布団に寝転がる。くつろぎモード。隣には如月。本を読んでいる。同じ布団でごろごろ。


 ふと、七夕がどんな物語か気になった。


 枕の上で本を読む如月に声をかける。


「ねぇ、七夕ってどんな物語?」
「そんなことも知らないんですかぁ……」如月は本から目を離し、体を起こすと話し始めた。


「夜空に煌めく美しい天の川。その川のほとりでは天の神の娘、織り姫が美しいはたを織っていましたぁ~~」ふむふむ。


「織り姫の織る布は5色に光輝き、季節が変われば彩りまで変わるほどそれはそれは美しいものでしたぁ」織り姫すごい!


「天の神はそんな娘が自慢で溺愛していましたが、織り姫ははたを織るのが好き過ぎて、自分の髪や服を気にかけません」あらまぁ。


「そんな娘を持つ天の神は言いました。『織り姫もいい年頃だ。はた織ってばかりじゃ結婚できない!! 行き遅れる!! そうだ! 結婚させよう!! 織り姫に相応しい、イケメンを連れてこよう!!』と」如月は立ち上がり、右手を上に挙げ、左手は胸元へ、そして感情を込め、話した。


「絶対天の神そんなこと言ってないし……」アホらしくて目が濁る。まぁ、如月小説家らしいか。耳を傾ける。


「天の神はあちこちを探しましたが、イケメンは見つかりません。それに織り姫はあの見た目。高望みしすぎです」お疲れ、天の神。如月は布団に座った。


「天の神は天の川の岸辺を歩いていると、牛の世話をする若い男と出会いました」彦星かな?


「若者は彦星といい、牛に餌をやったり、畑を耕したり、休む間もなく仕事をし続ける、ブラック企業で働く社畜でした」おぃいいぃい!!


「彦星社畜なの?!」如月に訊く。
「真面目な社畜です」真顔で答える。どんだけ。


「『あーーもう、こいつで良くね? もうこれ以上探すの無理なんですけど。毎日真面目に働いてるし、良いでしょ』天の神はイケメンを探すのに疲れ、織り姫の結婚相手に彦星を選びました」如月は顎に親指と人差し指を当て、顔を傾け話す。


「100%そんな選び方してないでしょ!!」如月の頭を職員室のスリッパで叩く。
「痛っ!!! 何するんですかぁ!! どこから出したの!! それ!!」如月は叩かれたところを押さえ、話を続ける。


「織り姫と彦星はお互い一目惚れをし、なんだかんだ仲の良い夫婦になりました。しかし、お互いを溺愛し過ぎて、仕事を放棄し、ニートになりました」如月は白い目で言う。


「ニートですか……」睦月は目を濁らせた。
「ニートです。仕事してないんで」確かに。


「はた織り機には埃がつもり、牛は餌がもらえずどんどん痩せました。まぁ、ある意味、彦星は社畜から解放された訳です」
「そうなのか……?」訝しげに如月を見る。


「『お前らそろそろ仕事をしろぉおぉおぉお!!!』天の神はキレました。2人は『自宅警備員なんで』と言うだけで、いちゃいちゃしてばかり。仕事をしません」如月は手のひらを上にあげ、やれやれと、頭を左右に振る。


「完全にニートじゃん」自然と遠い目になる。
「ニートなんですって」この物語、本当に合ってんの?


「織り姫がはたを織らなくなってしまったので、空の神さまの服はもちろん、天の神の服もボロボロになり、そして汚れ、臭くなりました。彦星も仕事を辞めたので、畑の作物は枯れ、牛は病気になりました」あーー……。


「『服くさいとかマジで無理だから!! もうお前ら二度と会うな!! そして働き、服を作れ!! もうくさい!! 無理!!』と天の神はキレました」如月は鼻をつまむ。
「どんだけくさいの天の神」天の神になりきりすぎ。


「天の神は織り姫を天の川の西へ、彦星を天の川の東へ無理やり引き離しました。こうして2人は天の川を挟み、姿を見ることも出来なくなってしまいました」
「……可哀想」小さく呟く。声が聞こえたのか、如月はそっと手を伸ばし、睦月の頭を撫でた。


「それからというもの、彦星に依存していた織り姫はメンヘラ化し、泣き叫ぶ毎日。彦星は彦星で、ニートの良さを知ってしまい、引きこもりに」
「いやいやいや~~もうそれ絶対違うもん」睦月は体を起こし、『ちがう』と布団を3回叩く。


「天の神は言いました。『お前らが以前みたいにちゃんと働くなら1年に1回会ってもいいよ』これは現状に疲れた天の神の妥協」
「違う違う違う!!! 絶対違う!! そこは天の神の優しさとかでしょ!!」如月の頬を片手で引っ張る。


「いだだだだだ!! いだい゛!! 妥協だって!! 離して!! 睦月さぁん!!」反対側の頬も引っ張る。
「え? 何? 天の神のなんだって??」両側から頬を引っ張り続ける。
「いいいいいだい゛!! 天の神のやざしざでず!!」如月の頬から手を離した。如月は頬に手を当て、続きを話す。


「2人は心を入れ替え、社畜のように働きました。そう、一年に一度、7月7日に会える日を楽しみにしてーー」如月は睦月の目を見つめる。しばらく見つめ合い、如月は話を続けた。


「やがて待ちに待った7月7日。夜になると織り姫と彦星は天の川を渡り、一年に一度の再会を果たすのでした。めでたしめでたし」


「……ん」如月は睦月の頬に手を触れ、顔を近づけた。そして優しく唇を重ねる。再会を果たした、織り姫と彦星のような、甘いキスだ。


「これ、話合ってるの?」睦月は如月に訊く。
「流れは合ってると思うけど?」見つめ合い、お互い、笑みを溢す。


 如月は立ち上がり、吹き出し窓に向かい、ベランダの笹を見つめる。笹は風に揺られ、さらさらと動いた。


「……揺れてる」如月は呟く。
「どうしたの?」睦月は後ろから如月を抱きしめた。


「いや。織り姫と彦星は会えたのかなって」如月は空を見上げ、言う。
「さぁね。俺は如月織り姫に会えたよ」如月は睦月の言葉に頬を赤く染める。そんな如月が愛しくて、肩を抱き寄せた。


「もう1回キスする?」睦月は如月に訊く。如月は何も言わず、目を細める。



 そして瞼をゆっくり閉じ、顔を傾けたーー。

 


 ーー短冊に願いを。



 この想い、届きますように。









 あとがき。

 いつもご愛読ありがとうございます!! このおまけはカクヨムの自主企画参加用に作った物です。

 『如月さん、拾いましたっ!』は投稿して2ヶ月が経ちました。その記念として、本編で、公開することにしました。

 カクヨム用に作った物は文字制限があり、色々削らざるを得なかったので、こちらに記載しているのは加筆と編集をしたものになります。

 カクヨムで掲載したvarは『気まぐれなる短編集』にて公開しております。

 1エピソード辺りの文字数が日を追うごとに増えていたり、描写が段々えっちになっていたり(?)

 実力不足で表現がわかりづらい部分もあるかもしれませんが、如月と睦月の行末と、卯月の今後を見守って頂けたらなと思います。

 長くなってしまいました。すみません。

 いつも応援ありがとうございます!! 今後も『如月さん、拾いましたっ!』をよろしくお願いします!! 

 睦月がX始めました! 全力で絡みます!
 良かったら会いに来てください!(笑)
 霜月より。



 おまけショット。ラフ画。休日のほっと一息。佐野家はローテーブルだけどね。只今、どこかのタイミングで挿絵を検討中。

 




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