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18話(7)
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ーー翌日 日曜日、七夕
朝10時。家事が一段楽して、リビングで休む。如月はリビングでノートパソコンと睨めっこをして、執筆をしている。向かい側に座り邪魔しないように静かにスマホをいじる。
ピンポーン
「誰? 約束なんてしてないけど」
立ち上がり、玄関まで行き、覗き穴から相手を確認する。旭だ。えっ。来てくれたの? 昨日色々あったけど! ドアを開けた。
「旭! どうしたの?!」ドアを開け、旭を部屋に招き入れる。
「謝ろうと思って。来ちゃったー、入って良い?」旭はスニーカーを脱ぎ、部屋に上がった。歩きながら、旭は話す。
「むっちゃん、ごめんね。あんなことするべきじゃなかった。本当にごめん」旭は睦月に頭を下げた。
「いいよ、もう。二度としないって約束してくれる?」睦月は真っ直ぐ旭を見つめる。
「うん、二度と無理強いはしない」無理強いは、ね。まぁいいけどさ。
「テキトーに座って」睦月はキッチンへ行き、コップを3つ取り出す。
「おう」旭は如月の隣に座った。
「は? なんでここに座るんですか?」如月はパソコンを閉じ、旭を見る。
「えー? なんとなく。如月サンて何歳なの?」旭は机に肘をつき、如月へ訊く。
「37ですけど……」如月は怪訝な表情で旭を見る。
「見た目からはそこまで年上に見えないなー。下の名前はなんて言うの?」旭は少し近づき、如月に距離を詰めた。
「弥生……なんですか? なんで近づくんですか?」如月は近づいた分だけ隣にずれる。
「へえ! 和風! 元々距離は近い方だし? スキンシップも好きー」旭は隣にずれた分、また近づく。如月の背中を手で触った。
「なんですか?」如月は眉を顰める。
「今日は昨日のお詫びにお出かけの誘いをしに来た。3人でどうかな?」旭は如月の肩に腕を回し、抱き寄せた。
「ちょ、何?!」如月は顔を傾け、旭を見る。
「人との距離近い方なんで。弥生さんって、近くで見ると本当に綺麗」旭は如月の顔にかかっている、髪の毛を指先に乗せ、如月の耳にかけた。
「ちょっと……やめてくださいよ」如月の頬がほんのり赤く染まる。
「ぁあぁあぁあ!! ちょっとやめてよ!! 何してんの?!」如月と旭の顔、近!! 旭が横向いたらキスじゃん!!
「むっちゃん、お茶持ってきてくれたの? ありがとー」旭は腕を離そうとしない。
「如月から離れて!!」睦月は机に勢いよく、コップが乗ったお盆を置く。
「元々距離が近いんで、普通なことでーす。離れませーん。仲良くなるためにスキンシップも兼ねてまーす」何それ! ありなの?!
「むっちゃん、この後、弥生さんも含めて3人で出掛けようよ」なんで下の名前で如月のこと呼んでるの?!
「いいけどぉ……」対象は俺じゃなかったの?!
「離して? 旭さん」如月は肩に乗った腕を掴む。
「やだー。キスする? 弥生さん」旭は如月の方を見た。は? 何言ってるの!!
「なんで、貴方と。する訳ないじゃないですか。早く腕離しーーんっ」旭は顔を近づけ如月に軽く口付けした。はぁあぁあぁあ!!!
「は…………」突然のことで如月は目を見開いて固まっている。
「旭!!!」如月の間に割り込み、引き裂く。
「ごめーん、我慢出来なくなっちゃった。もう、何? 雰囲気がさぁ、色っぽくて」ぁああぁあぁあ!! 如月のフェロモン!!! 分かるけど!!!
「旭ぃ~~!! 如月とらないでぇ!!」睦月は如月に抱きつく。
「俺、2番目でいいし」そういう問題違う!!
「……すみません、ちょっとお手洗い……」如月は立ち上がる。
「お手洗い行くの? 手伝おうか?」旭は立ち上がり、如月に訊く。
「何を?」如月の目が濁る。
「色々?」だめぇええぇええ!!
「旭!! ほら、俺と遊ぼう!!」旭の後ろから抱きつき、押さえる。
「もう、何むっちゃん~~やめて~~」
「如月早く行ってぇ~~」もぉ何この状況~~。
「す、すみません……」如月は早歩きで向かう。
「なんか大変なことになってんね」卯月は面白そうに3人を見つめる。
「もぉ、どうしよ~~卯月~~」旭を押さえながら卯月に訊く。
「3人で出かけるに一票。如月×旭かぁ。最近お兄ちゃんとのいちゃいちゃは見飽きたからなぁ」卯月?! どうしたの?!
ーー卯月は同居者が同性愛なだけに、BLばかり検索しており、少し腐っていた。
「良いかも! 如月×旭! 強引な旭と甘え如月! ぉお!! 旭、頑張って!!」妹!! 道を間違えるな!!
「がんばるぅーー」
「ぇえ、やだぁ~~行きたくないぃ~~」絶対楽しくない。
「出掛けようよ、むっちゃーん」
出かけないと旭は帰るつもりがなさそうなので、仕方なく出かける準備をし、如月と一緒に家を出た。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
ーー動物園
何故こんなことに……。
「こ、こわいですって!! 無理無理無理!!」如月は餌を持ち、キリンの前で立ち止まる。
「大丈夫だって~弥生さん餌やりしたことないの?」
旭は如月の後ろに回り、体を密接させる。如月の餌を持つ手を持った。どう見ても、後ろから抱きしめてるようにしか見えない。
「いくよー」旭は如月の手首を持ち、キリンへ向かって葉っぱを向ける。
「食べました!!!」如月は嬉しそうに笑う。
「良かったねー、弥生さん。次どこ行くー?」旭は優しい笑みを浮かべた。
ベンチに座り2人を見守る。まぁ終始、こんな感じである。如月が楽しそうにしてるから別に良いのだけど。正直、ヤキモチしかない。蚊帳の外感も半端ない。
触られすぎて、旭のスキンシップに抵抗がなくなっている如月にもイラ。逆に旭に対して、何も意識していないという現れでもあるのかもしれない。
でもあの距離感やだぁ~~。それに、普通に2人でデートに来たかった。モヤモヤしかない。
「私、飲み物買ってきます」如月は売店の方へ行こうとする。
「1人で行ける?」旭は如月の手を掴んだ。
「バカにしないで」如月は掴まれた手を振りほどき、売店へ向かう。旭はその背中を少し見つめ、睦月の座るベンチへ歩いた。
「弥生さん俺にちょうだい」旭は睦月の隣に座る。
「はぁああぁあ?! ダメに決まってんだろ!!」旭を睨む。
「2番で良いって」それも納得いかない。と言うかヤダ。
「弥生さんって、あんな大人っぽい顔してるくせに全然リードしないよね」旭は売店にいる如月を見つめる。
「え? あーーそうかも」売店でもたもたしている如月を眺める。何やってるんだか。
「ちょっとギャップっていうかさーーって、あぁもう、全く……」旭は会計に困っている如月を見て立ち上がり、売店へ向かった。
今日なんにも出来てない。本来なら今も俺が行くべきだった。はぁ。如月と楽しみたいのに、旭が一歩先をいく。前に出れなくて、退いている。はぁ。ライバルが居ると意外と内気な自分。溜め息しか出ない。
「現金しか使えなかったのー?」旭は如月の背後に立ち、自分の財布からお金を出し、会計を済ませる。
「えぇ、まぁ……」如月は恥ずかしそうに目線を下げる。
「うわ、何? 現金一銭も持ってないじゃーん」旭は如月の財布を取り上げ、千円札を1枚入れた。
「……ありがとうございます」
「むっちゃん待ってるからいこー」旭は如月の肩に手を置き、ベンチへ向かう。
あーーーー! もうなに? その手!! 旭の距離感なんなの!! 自分へもそんな感じだったっけ?! 好きな人にやられると腹立つ。いらいら。
「あ、私たこ焼き食べたいので、旭さん買ってきてください」如月はベンチに腰掛け、旭の顔を見る。
「んーー。まぁいいよ、買ってきてあげる」旭から嫉妬に満ちた視線を一瞬感じる。旭はベンチから離れ、キッチンカーの集まりに向かって歩き始めた。
「……旭といちゃいちゃしてばっかり」小さく呟く。
「ぇえ? 皐みたいなもんでしょ」時々、如月の感覚が分からない。
「あんなに蔑んだ目で旭を見てたくせに、仲良くしてる」今日の不満が次々出てしまう。
「まぁ。話してみたら普通に良い人でしたし。睦月さんが友達って言うなら普通に接したい」アレが普通なの?
「……朝ちゅーしてた」自分が言える立場じゃない。気まずくて、俯く。
「あれは事故。こっち向いて、睦月さん」如月は親指と人差し指で優しく睦月の顎を持ち、唇を重ねた。
「ずる」如月を見つめる。
「ぇえ~~? どこが?」全てが!
「存在が!!」如月の頬を両手で挟み、潰す。
「うっちょっと!! やめて!!」かわいい。
「今度2人で動物園来てくれる?」潰してる頬を少し緩める。
「へ? ちょっと!! やめて!! 変な顔になる!!」もう一度強く手で挟む。
「行く!! 行く行く行く!!! 動物園、今度睦月さんと2人で行きます!!!」如月は挟んでいる睦月の手を叩く。
「何やってんのー」旭がたこ焼きを片手に戻ってきた。
「え~~? お仕置きぃ」睦月は手を緩め、優しく如月の頬を包み、口付けする。
「俺の前でちゅーとかしないでーさびしいー」旭は睦月の隣に腰掛けた。
「ほっぺ痛かった?」如月の頬が少し赤い。でもこれは痛みの赤さじゃない。照れ。
「全然。楽しみにしてますね」如月は目を細めて笑う。
「好きだよ、如月」顔を近づけ、もう一度キスをしようとした瞬間後ろから頭が掴まれた。
「なーーっ!! ああああああっ!!」頭が後ろに引かれ、顔が離される。
「はい、ストップ~~。これ以上はダメでーーす」首に腕が回る。引き剥がされたぁ。
「ちゅーしたかったぁ~~」
「俺がしてやるよ」顎を掴まれ、旭の方に向けられる。
「は? やだやだやだ!! やめて!! んーーっ!!」えーーん。ひどぉい。
「如月!! 白い目で見ないで!! これ完全に事故!!」如月の服を掴む。
「もう、そんなこと繰り返してると私、旭さんとキスするから」何言ってんの!!
「はぁあぁああ?! ダメダメダメダメ!! もう今日は解散!!」睦月は立ち上がる。立ち上がった隙に旭は席を詰め、如月の隣に座った。
「たこ焼き食べてからにしてー」旭は爪楊枝でたこ焼きを刺す。
「旭!! そこ俺の場所!!」いつの間に如月の隣に!!
「自分が立ったんだろー。はい、あーーん」おいぃいいぃ!! って、食べるなよ!! 如月!!
「あふぃ」如月は口元を押さえながらもぐもぐしている。
「もぉもぉもぉ!! 俺も如月に、あーーんやりたいぃ~~!!」
えーーん!! 全ッ然楽しくないよぉーー!! 七夕なのに如月といちゃいちゃ出来ないとかなんなの!!
もう二度とこのメンツでは出掛けない!!
色々あったけど、如月が楽しそうで良かった。如月の幸せそうにたこ焼きを食べる姿にほっとする。
ふと、空を見上げる。曇りのない青空。遠くの方で飛行機が白い線を引きながら飛ぶ。天の川みたい。自分の短冊が頭を過ぎる。
『如月といつまでも仲良く過ごせますように』
今日は織り姫と彦星は会えるかな。
睦月はまだ見えぬ星に願いを込めたーー。
朝10時。家事が一段楽して、リビングで休む。如月はリビングでノートパソコンと睨めっこをして、執筆をしている。向かい側に座り邪魔しないように静かにスマホをいじる。
ピンポーン
「誰? 約束なんてしてないけど」
立ち上がり、玄関まで行き、覗き穴から相手を確認する。旭だ。えっ。来てくれたの? 昨日色々あったけど! ドアを開けた。
「旭! どうしたの?!」ドアを開け、旭を部屋に招き入れる。
「謝ろうと思って。来ちゃったー、入って良い?」旭はスニーカーを脱ぎ、部屋に上がった。歩きながら、旭は話す。
「むっちゃん、ごめんね。あんなことするべきじゃなかった。本当にごめん」旭は睦月に頭を下げた。
「いいよ、もう。二度としないって約束してくれる?」睦月は真っ直ぐ旭を見つめる。
「うん、二度と無理強いはしない」無理強いは、ね。まぁいいけどさ。
「テキトーに座って」睦月はキッチンへ行き、コップを3つ取り出す。
「おう」旭は如月の隣に座った。
「は? なんでここに座るんですか?」如月はパソコンを閉じ、旭を見る。
「えー? なんとなく。如月サンて何歳なの?」旭は机に肘をつき、如月へ訊く。
「37ですけど……」如月は怪訝な表情で旭を見る。
「見た目からはそこまで年上に見えないなー。下の名前はなんて言うの?」旭は少し近づき、如月に距離を詰めた。
「弥生……なんですか? なんで近づくんですか?」如月は近づいた分だけ隣にずれる。
「へえ! 和風! 元々距離は近い方だし? スキンシップも好きー」旭は隣にずれた分、また近づく。如月の背中を手で触った。
「なんですか?」如月は眉を顰める。
「今日は昨日のお詫びにお出かけの誘いをしに来た。3人でどうかな?」旭は如月の肩に腕を回し、抱き寄せた。
「ちょ、何?!」如月は顔を傾け、旭を見る。
「人との距離近い方なんで。弥生さんって、近くで見ると本当に綺麗」旭は如月の顔にかかっている、髪の毛を指先に乗せ、如月の耳にかけた。
「ちょっと……やめてくださいよ」如月の頬がほんのり赤く染まる。
「ぁあぁあぁあ!! ちょっとやめてよ!! 何してんの?!」如月と旭の顔、近!! 旭が横向いたらキスじゃん!!
「むっちゃん、お茶持ってきてくれたの? ありがとー」旭は腕を離そうとしない。
「如月から離れて!!」睦月は机に勢いよく、コップが乗ったお盆を置く。
「元々距離が近いんで、普通なことでーす。離れませーん。仲良くなるためにスキンシップも兼ねてまーす」何それ! ありなの?!
「むっちゃん、この後、弥生さんも含めて3人で出掛けようよ」なんで下の名前で如月のこと呼んでるの?!
「いいけどぉ……」対象は俺じゃなかったの?!
「離して? 旭さん」如月は肩に乗った腕を掴む。
「やだー。キスする? 弥生さん」旭は如月の方を見た。は? 何言ってるの!!
「なんで、貴方と。する訳ないじゃないですか。早く腕離しーーんっ」旭は顔を近づけ如月に軽く口付けした。はぁあぁあぁあ!!!
「は…………」突然のことで如月は目を見開いて固まっている。
「旭!!!」如月の間に割り込み、引き裂く。
「ごめーん、我慢出来なくなっちゃった。もう、何? 雰囲気がさぁ、色っぽくて」ぁああぁあぁあ!! 如月のフェロモン!!! 分かるけど!!!
「旭ぃ~~!! 如月とらないでぇ!!」睦月は如月に抱きつく。
「俺、2番目でいいし」そういう問題違う!!
「……すみません、ちょっとお手洗い……」如月は立ち上がる。
「お手洗い行くの? 手伝おうか?」旭は立ち上がり、如月に訊く。
「何を?」如月の目が濁る。
「色々?」だめぇええぇええ!!
「旭!! ほら、俺と遊ぼう!!」旭の後ろから抱きつき、押さえる。
「もう、何むっちゃん~~やめて~~」
「如月早く行ってぇ~~」もぉ何この状況~~。
「す、すみません……」如月は早歩きで向かう。
「なんか大変なことになってんね」卯月は面白そうに3人を見つめる。
「もぉ、どうしよ~~卯月~~」旭を押さえながら卯月に訊く。
「3人で出かけるに一票。如月×旭かぁ。最近お兄ちゃんとのいちゃいちゃは見飽きたからなぁ」卯月?! どうしたの?!
ーー卯月は同居者が同性愛なだけに、BLばかり検索しており、少し腐っていた。
「良いかも! 如月×旭! 強引な旭と甘え如月! ぉお!! 旭、頑張って!!」妹!! 道を間違えるな!!
「がんばるぅーー」
「ぇえ、やだぁ~~行きたくないぃ~~」絶対楽しくない。
「出掛けようよ、むっちゃーん」
出かけないと旭は帰るつもりがなさそうなので、仕方なく出かける準備をし、如月と一緒に家を出た。
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ーー動物園
何故こんなことに……。
「こ、こわいですって!! 無理無理無理!!」如月は餌を持ち、キリンの前で立ち止まる。
「大丈夫だって~弥生さん餌やりしたことないの?」
旭は如月の後ろに回り、体を密接させる。如月の餌を持つ手を持った。どう見ても、後ろから抱きしめてるようにしか見えない。
「いくよー」旭は如月の手首を持ち、キリンへ向かって葉っぱを向ける。
「食べました!!!」如月は嬉しそうに笑う。
「良かったねー、弥生さん。次どこ行くー?」旭は優しい笑みを浮かべた。
ベンチに座り2人を見守る。まぁ終始、こんな感じである。如月が楽しそうにしてるから別に良いのだけど。正直、ヤキモチしかない。蚊帳の外感も半端ない。
触られすぎて、旭のスキンシップに抵抗がなくなっている如月にもイラ。逆に旭に対して、何も意識していないという現れでもあるのかもしれない。
でもあの距離感やだぁ~~。それに、普通に2人でデートに来たかった。モヤモヤしかない。
「私、飲み物買ってきます」如月は売店の方へ行こうとする。
「1人で行ける?」旭は如月の手を掴んだ。
「バカにしないで」如月は掴まれた手を振りほどき、売店へ向かう。旭はその背中を少し見つめ、睦月の座るベンチへ歩いた。
「弥生さん俺にちょうだい」旭は睦月の隣に座る。
「はぁああぁあ?! ダメに決まってんだろ!!」旭を睨む。
「2番で良いって」それも納得いかない。と言うかヤダ。
「弥生さんって、あんな大人っぽい顔してるくせに全然リードしないよね」旭は売店にいる如月を見つめる。
「え? あーーそうかも」売店でもたもたしている如月を眺める。何やってるんだか。
「ちょっとギャップっていうかさーーって、あぁもう、全く……」旭は会計に困っている如月を見て立ち上がり、売店へ向かった。
今日なんにも出来てない。本来なら今も俺が行くべきだった。はぁ。如月と楽しみたいのに、旭が一歩先をいく。前に出れなくて、退いている。はぁ。ライバルが居ると意外と内気な自分。溜め息しか出ない。
「現金しか使えなかったのー?」旭は如月の背後に立ち、自分の財布からお金を出し、会計を済ませる。
「えぇ、まぁ……」如月は恥ずかしそうに目線を下げる。
「うわ、何? 現金一銭も持ってないじゃーん」旭は如月の財布を取り上げ、千円札を1枚入れた。
「……ありがとうございます」
「むっちゃん待ってるからいこー」旭は如月の肩に手を置き、ベンチへ向かう。
あーーーー! もうなに? その手!! 旭の距離感なんなの!! 自分へもそんな感じだったっけ?! 好きな人にやられると腹立つ。いらいら。
「あ、私たこ焼き食べたいので、旭さん買ってきてください」如月はベンチに腰掛け、旭の顔を見る。
「んーー。まぁいいよ、買ってきてあげる」旭から嫉妬に満ちた視線を一瞬感じる。旭はベンチから離れ、キッチンカーの集まりに向かって歩き始めた。
「……旭といちゃいちゃしてばっかり」小さく呟く。
「ぇえ? 皐みたいなもんでしょ」時々、如月の感覚が分からない。
「あんなに蔑んだ目で旭を見てたくせに、仲良くしてる」今日の不満が次々出てしまう。
「まぁ。話してみたら普通に良い人でしたし。睦月さんが友達って言うなら普通に接したい」アレが普通なの?
「……朝ちゅーしてた」自分が言える立場じゃない。気まずくて、俯く。
「あれは事故。こっち向いて、睦月さん」如月は親指と人差し指で優しく睦月の顎を持ち、唇を重ねた。
「ずる」如月を見つめる。
「ぇえ~~? どこが?」全てが!
「存在が!!」如月の頬を両手で挟み、潰す。
「うっちょっと!! やめて!!」かわいい。
「今度2人で動物園来てくれる?」潰してる頬を少し緩める。
「へ? ちょっと!! やめて!! 変な顔になる!!」もう一度強く手で挟む。
「行く!! 行く行く行く!!! 動物園、今度睦月さんと2人で行きます!!!」如月は挟んでいる睦月の手を叩く。
「何やってんのー」旭がたこ焼きを片手に戻ってきた。
「え~~? お仕置きぃ」睦月は手を緩め、優しく如月の頬を包み、口付けする。
「俺の前でちゅーとかしないでーさびしいー」旭は睦月の隣に腰掛けた。
「ほっぺ痛かった?」如月の頬が少し赤い。でもこれは痛みの赤さじゃない。照れ。
「全然。楽しみにしてますね」如月は目を細めて笑う。
「好きだよ、如月」顔を近づけ、もう一度キスをしようとした瞬間後ろから頭が掴まれた。
「なーーっ!! ああああああっ!!」頭が後ろに引かれ、顔が離される。
「はい、ストップ~~。これ以上はダメでーーす」首に腕が回る。引き剥がされたぁ。
「ちゅーしたかったぁ~~」
「俺がしてやるよ」顎を掴まれ、旭の方に向けられる。
「は? やだやだやだ!! やめて!! んーーっ!!」えーーん。ひどぉい。
「如月!! 白い目で見ないで!! これ完全に事故!!」如月の服を掴む。
「もう、そんなこと繰り返してると私、旭さんとキスするから」何言ってんの!!
「はぁあぁああ?! ダメダメダメダメ!! もう今日は解散!!」睦月は立ち上がる。立ち上がった隙に旭は席を詰め、如月の隣に座った。
「たこ焼き食べてからにしてー」旭は爪楊枝でたこ焼きを刺す。
「旭!! そこ俺の場所!!」いつの間に如月の隣に!!
「自分が立ったんだろー。はい、あーーん」おいぃいいぃ!! って、食べるなよ!! 如月!!
「あふぃ」如月は口元を押さえながらもぐもぐしている。
「もぉもぉもぉ!! 俺も如月に、あーーんやりたいぃ~~!!」
えーーん!! 全ッ然楽しくないよぉーー!! 七夕なのに如月といちゃいちゃ出来ないとかなんなの!!
もう二度とこのメンツでは出掛けない!!
色々あったけど、如月が楽しそうで良かった。如月の幸せそうにたこ焼きを食べる姿にほっとする。
ふと、空を見上げる。曇りのない青空。遠くの方で飛行機が白い線を引きながら飛ぶ。天の川みたい。自分の短冊が頭を過ぎる。
『如月といつまでも仲良く過ごせますように』
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