64 / 306
17話(2)
しおりを挟む
「雨降る前に学校から帰ってこれて良かったね~~」
「えぇ。急に崩れましたね」
少し遅れた梅雨入り。今、外は大雨が降っている。睦月さんが心配だ。
睦月さんは多分、傘を持っていない。でもこの雨の中、迎えに行きたくはない。100%、全身が濡れる。嫌だ。
「如月、傘届けなくていいの?」卯月は鞄から勉強道具を出しながら訊く。
「えぇ~~……う~~ん。今日は大丈夫……」せめて濡れて帰ってきても、すぐ温まれるように、お風呂でも沸かしておこう。浴室へ向かい、風呂を洗う。
風呂を洗い終わり、窓から外を見る。土砂降りだ。うーん、うーーん、うーーーーん。再び思い悩む。傘ねぇ。雨、凄い。家から出たくない。ごめん、睦月さん。許せ!!!
睦月の帰りを待ちながら、気ままに本を読む。気づかぬうちに時間が潰れていく。
「ただいまぁ~~雨超やばいんですけど~~」帰ってきた。タオルを持ち、玄関へ行く。
「大丈夫ですか?」
全身びしょ濡れだ。水が髪の毛から滴り、ワイシャツは濡れ、肌に張り付き、透けている。もう、見ていられない。色っぽい。赤面。持ってきたタオルを自分の顔に当てる。
「何やってるの? タオルちょうだいよ」睦月はジャケットを脱ぎながら、タオルを奪う。
「あっ、ちょっ」睦月から顔を背ける。
「変なの」睦月はタオルで濡れた顔を拭く。
「あ~~拭いてもキリない。もういいや、ここで脱いじゃお」えっ!!
「私、和室行きますんで……じゃ」背を向けて、歩き始める。
「えっ? 待ってよ! 何? 拭いてくれないの? 拭いてよ!!」肩を掴まれ、引き止められる。
「なんで私が拭くんですか? 自分で拭けば!!」肩を掴む手を剥がそうとするが、力が強くて、離れない。ぐぐぐ。
「ほら、早く拭いて」タオルを渡される。観念。睦月と一緒に廊下へ座り、フェイスタオルで頭の水滴を取る。
「保護者会どうだった?」睦月はワイシャツのボタンを外しながら訊く。目線が胸元へいってしまう。ま、脱いでも肌着だから見えないけど。
「兄の嫁ですって先生に言ってきました」
「ぇえ? 『結婚してる』みたいなこと言っちゃったってこと?」睦月は焦ったような顔をする。
「いや、ちゃんと恋人って言ったので大丈夫ですよ。あ、睦月さんがオール5で生徒会やるタイプって聞きました」立ち上がり、睦月の着替えを持ってくる。
「なるほど。成績は良かったよ、これでも。着替えありがとう」いつの間にか上半身全部脱いでるし。目のやり場に困る。
「はぁ~~なんでこういうことするかな」後ろから抱きしめ、肩に顎を乗せる。体が冷たい。
「如月?」今更気づいたのか、頬が赤くなっている。
「お風呂沸かしておいたよ、入ったら? 早く入らないと襲っちゃうよ~~」悪戯な笑みを浮かべ、睦月を見る。
「ちょっ、入る! 入るから!」睦月は着替えを手に取り、脱衣所へ向かった。
やれやれ。結婚ねぇ。同性同士の結婚は日本は出来ない。パートナーシップ制度はある。自治体に宣誓するようなものだ。
法的効力は何もない。結婚に相当する関係になるだけ。同一生計者として認められたりはするけど。そのためだけに、根掘り葉掘り聞かれて、自治体に提出はしたくない。
睦月さんもまだ若いしね。戸籍に変動はないが、あとで解消することになったりした時、面倒くさい。
結婚指輪をみたり、嫁とかなんとか言われ、自分の中で、少し結婚を意識したが、宣誓してまで何かを結ぶ必要はないだろう。今のままで充分だ。
「脱ぎっぱなし!!」
濡れたジャケットはハンガーにかける。廊下に落ちているタオルと肌着、半袖シャツを持ち脱衣所へ行く。自分の脱ぎ捨てたものは気にならないが、人のものは気になる。
ガラッ
絶妙なタイミングで睦月が風呂から出てくる。
「何故今出る!!!!」睦月は思いっきり脱衣所の引き戸を閉めた。あれ? 脱衣所に2人きり。
「え? 如月が来たから。いいじゃん。てかさ、もう何度も見てるんだから、いい加減、慣れろよ」引き戸に背が当たる。迫られている。取手に手をかけ、逃げる準備をする。
「無理ーーーーっ」
睦月は引き戸に手を付き、唇を重ねた。髪から水滴が落ち、自分の顔につく。お風呂上がりの体から出る湯気が熱い。薄目を開けて睦月を見る。顔が火照っている。睦月さんのくせに色っぽい。まぁいっか。唇の隙間から舌を差し込む。
どんどんどん。卯月は引き戸を叩いた。
「うおーーーーい!! ドア閉めて何してるの!!」睦月は唇を離して舌打ちした。
「なにもしてないですよ~~」引き戸を開けて、外に出る。
「……空気読め」睦月は卯月を睨む。
「私はいちゃいちゃを邪魔することにした!!!」卯月はせせら笑う。
「そういうのは良くないと思うよ?」睦月は左の口角が上げ、ひきつった笑みを浮かべる。
「ぇえ? 家の中でいちゃつきまくる方が良くないと思うけど~~じゃ、そういうことで」卯月はリビングへ戻り、勉強の続きを始めた。
まぁ、私は邪魔されようがどっちでもいいけども。睦月さんの機嫌が悪くなるのは嫌だな。
「あぁ~~あ、萎えた」睦月はキッチンで、お茶を飲む。
「まぁそう言わずに……」
「俺、思うんだけど」睦月は隣に立つ如月を見つめる。
「え?」如月も睦月を見つめる。
「期末テストの勉強教えたりして休日は全部潰れたし、紫陽花以降、レスじゃね?」そんな真剣な眼差しで言われても。
「……レスというのはいちゃつきとかもない状態のことなのでレスではないと思うのですが……」そっと顔を逸らす。
個人的には一緒に生活していて、むらむらすることはあるが、なければないで別に構わない。
「いや、そういうことじゃなくて。2週間くらいえっちしてない」ん~~。
「私的には特に問題はないというか……ハグとキスがあれば別に……」いやぁ、顔見れない。経験上、セックスの価値観の相違は埋めづらい。でも理解はしたい。
「俺はそれだけじゃ、やだ。これは俺の愛情表現だから」求められているだけ、ありがたいことのなのかもしれない。
「えっと……拒否はしてないと思うのですが……頻度を上げたいということでしょうか?」こちらとしては無理に頻度を上げたくない。
「……そう。最低でも1週間に1、2回は……」睦月は気まずそうに目を伏せる。ん~~。多い。私とは行為に対する考え方が違うのかもしれない。
「俺は……その……昔は自分が気持ちよくなれればそれでいいと思ってたけど……今は……どれくらいお互いを大切に思っているかを感じることが出来るものだから、ないのはイヤというか……」睦月は伏せていた目を如月へ移した。
「セックスをしないと大切に思われてないと感じるということですか?」逸らした顔を戻し、睦月をもう一度見る。
「違う!!」睦月は突然大きな声を出し、否定する。私は言い方を誤った。これはダメだ。
「すみません、そんなつもりでは……言葉の選択を間違えました」睦月は目線を下げ、淋し気な表情をしている。
「まぁ、そうですね。お付き合いしている以上、他の人と楽しめることではないですからね。それに感情が入りますし……お互いを思いやってすることですもんね」睦月の首にかかっているフェイスタオルを取り、頭へ被せる。
「確かにセックスすることで、愛されてると思えたり、自分のことを大切に想っていると感じますね。それは理解できます。我慢しろとは言いませんよ」如月は続ける。
「だけど、お互いがしたいと思うタイミングが合ってこそ、じゃないですか?」フェイスタオルの端を持つ。外から顔が見えないように優しく唇を重ねる。
「それは……そうだね。ごめん、変なこと言った。気にしないで」如月は俯く睦月をそっと抱き寄せた。
「まぁ、回数の問題に加えて、環境も伴ってないのでなんの解決になってないかもですけど、睦月さんが私を求めてくれるのは嬉しいですよ」睦月は少し顔を上げ、如月を見る。
「ほんと?」はらり。フェイスタオルが睦月の頭から落ちた。浮かない顔が現れる。そんなに心配?
「そんなこと嘘ついてどうするんですか」ちゅ。腕の中の睦月に顔を近づけ、頬へキスをする。
「これだけでも満たされませんか?」充分じゃない?
「ぜ~~んぜん、足りませーーん!! やっぱりキスはこれぐらいしないと!!」如月の首の後ろを持ち、引き寄せる。唇が重なる寸前で卯月は声を掛けた。
「ねぇねぇ、どんなキスするの?」両手を頬に当て、その場にしゃがむ。2人をじーーっと見つめる。
「……キスしづらい……」睦月は如月の首の後ろから手を離し、近づいた顔を背ける。
「なが~~くて、甘いキスですよ」体を前に出し、睦月を台所の淵に押し当てる。
「き、如月? 卯月見てる……」睦月は頬を赤らめた。
「うん?」なんか卯月さん目の前でめっちゃ見てるけど、まぁいっか。
元気付けたいし、キスしたいもん。片手を睦月の頬に添える。まだ少しあったかい。睦月の顔を引き寄せながら強めに抱きしめ、唇を重ねた。
「~~~~っ」かわいい。身動き出来ないね。恥ずかしいのか、開けようしない唇を無理矢理、舌でこじ開け、差し込む。
「ぉお……」卯月は口元を手で押さえながら見つめる。卯月の顔は段々、赤く染まっていく。
卯月が見ているのが気になるのか、睦月は如月の背中をトントンと叩く。まだ全然、舌絡めていないのに。仕方なく、唇を離す。
「ーーっはぁっだめでしょっ如月さん!」睦月の顔は真っ赤だ。
「そう? ここはかなりいい感じになってきたと思ったけど?」睦月の膨らんでいるところを手で触る。
「あ~~っやめなさい!!! 卯月がいる!!!」睦月は如月の背中を強めに叩く。
「もう、痛いなぁ~~」
「あ、お構いなく。見てるだけなんで害はないです。続けてどうぞ」卯月は引き続き、じーーっと見つめる。
「ですって、どうする?」如月はにこっと笑い、睦月を見る。
「どうするも何もしない!!!」睦月は如月の肩を両手で持ち、離す。
「今タイミングだと思ったのにぃ」腕を伸ばし、睦月を触ろうとする。
「ダメダメ! 離れて! タイミング今違う!」触ろうとする如月の手を払う。
「けちだね」如月は卯月の隣にしゃがむ。
「お兄ちゃんはけちだから」卯月と如月は顔を見合わせた。
「…………」
「…………」しばらく見つめ合う。
「えっ? ちょっと! 何見つめ合ってるの?! キスとかしないでよ?!」睦月は慌てたように間に割り込み、座る。
「睦月さん邪魔~~今いいとこだったぁ」如月は睦月の頬を人差し指でつんつんする。
「お兄ちゃん邪魔~~あと少しだったぁ」卯月も頬を人差し指でつんつんする。
「ダメダメダメダメ!! そんなのお兄ちゃん許しませんから!!! つんつんやめて!!」
如月と卯月はつんつんする手を止め、睦月の口角を人差し指で上げた。
「ま、とりあえず笑っとけば?」
「曇った顔は似合わないですよ?」
「誰のせいでそうなったと思ってるの……全く、あぁもぉ~~」睦月は両サイドの頬の人差し指を掴み、外す。
「誰のせいでもないしぃ」
「そうですねぇ」
「そうだね」
3人はあはは、と声に出して笑った。
「えぇ。急に崩れましたね」
少し遅れた梅雨入り。今、外は大雨が降っている。睦月さんが心配だ。
睦月さんは多分、傘を持っていない。でもこの雨の中、迎えに行きたくはない。100%、全身が濡れる。嫌だ。
「如月、傘届けなくていいの?」卯月は鞄から勉強道具を出しながら訊く。
「えぇ~~……う~~ん。今日は大丈夫……」せめて濡れて帰ってきても、すぐ温まれるように、お風呂でも沸かしておこう。浴室へ向かい、風呂を洗う。
風呂を洗い終わり、窓から外を見る。土砂降りだ。うーん、うーーん、うーーーーん。再び思い悩む。傘ねぇ。雨、凄い。家から出たくない。ごめん、睦月さん。許せ!!!
睦月の帰りを待ちながら、気ままに本を読む。気づかぬうちに時間が潰れていく。
「ただいまぁ~~雨超やばいんですけど~~」帰ってきた。タオルを持ち、玄関へ行く。
「大丈夫ですか?」
全身びしょ濡れだ。水が髪の毛から滴り、ワイシャツは濡れ、肌に張り付き、透けている。もう、見ていられない。色っぽい。赤面。持ってきたタオルを自分の顔に当てる。
「何やってるの? タオルちょうだいよ」睦月はジャケットを脱ぎながら、タオルを奪う。
「あっ、ちょっ」睦月から顔を背ける。
「変なの」睦月はタオルで濡れた顔を拭く。
「あ~~拭いてもキリない。もういいや、ここで脱いじゃお」えっ!!
「私、和室行きますんで……じゃ」背を向けて、歩き始める。
「えっ? 待ってよ! 何? 拭いてくれないの? 拭いてよ!!」肩を掴まれ、引き止められる。
「なんで私が拭くんですか? 自分で拭けば!!」肩を掴む手を剥がそうとするが、力が強くて、離れない。ぐぐぐ。
「ほら、早く拭いて」タオルを渡される。観念。睦月と一緒に廊下へ座り、フェイスタオルで頭の水滴を取る。
「保護者会どうだった?」睦月はワイシャツのボタンを外しながら訊く。目線が胸元へいってしまう。ま、脱いでも肌着だから見えないけど。
「兄の嫁ですって先生に言ってきました」
「ぇえ? 『結婚してる』みたいなこと言っちゃったってこと?」睦月は焦ったような顔をする。
「いや、ちゃんと恋人って言ったので大丈夫ですよ。あ、睦月さんがオール5で生徒会やるタイプって聞きました」立ち上がり、睦月の着替えを持ってくる。
「なるほど。成績は良かったよ、これでも。着替えありがとう」いつの間にか上半身全部脱いでるし。目のやり場に困る。
「はぁ~~なんでこういうことするかな」後ろから抱きしめ、肩に顎を乗せる。体が冷たい。
「如月?」今更気づいたのか、頬が赤くなっている。
「お風呂沸かしておいたよ、入ったら? 早く入らないと襲っちゃうよ~~」悪戯な笑みを浮かべ、睦月を見る。
「ちょっ、入る! 入るから!」睦月は着替えを手に取り、脱衣所へ向かった。
やれやれ。結婚ねぇ。同性同士の結婚は日本は出来ない。パートナーシップ制度はある。自治体に宣誓するようなものだ。
法的効力は何もない。結婚に相当する関係になるだけ。同一生計者として認められたりはするけど。そのためだけに、根掘り葉掘り聞かれて、自治体に提出はしたくない。
睦月さんもまだ若いしね。戸籍に変動はないが、あとで解消することになったりした時、面倒くさい。
結婚指輪をみたり、嫁とかなんとか言われ、自分の中で、少し結婚を意識したが、宣誓してまで何かを結ぶ必要はないだろう。今のままで充分だ。
「脱ぎっぱなし!!」
濡れたジャケットはハンガーにかける。廊下に落ちているタオルと肌着、半袖シャツを持ち脱衣所へ行く。自分の脱ぎ捨てたものは気にならないが、人のものは気になる。
ガラッ
絶妙なタイミングで睦月が風呂から出てくる。
「何故今出る!!!!」睦月は思いっきり脱衣所の引き戸を閉めた。あれ? 脱衣所に2人きり。
「え? 如月が来たから。いいじゃん。てかさ、もう何度も見てるんだから、いい加減、慣れろよ」引き戸に背が当たる。迫られている。取手に手をかけ、逃げる準備をする。
「無理ーーーーっ」
睦月は引き戸に手を付き、唇を重ねた。髪から水滴が落ち、自分の顔につく。お風呂上がりの体から出る湯気が熱い。薄目を開けて睦月を見る。顔が火照っている。睦月さんのくせに色っぽい。まぁいっか。唇の隙間から舌を差し込む。
どんどんどん。卯月は引き戸を叩いた。
「うおーーーーい!! ドア閉めて何してるの!!」睦月は唇を離して舌打ちした。
「なにもしてないですよ~~」引き戸を開けて、外に出る。
「……空気読め」睦月は卯月を睨む。
「私はいちゃいちゃを邪魔することにした!!!」卯月はせせら笑う。
「そういうのは良くないと思うよ?」睦月は左の口角が上げ、ひきつった笑みを浮かべる。
「ぇえ? 家の中でいちゃつきまくる方が良くないと思うけど~~じゃ、そういうことで」卯月はリビングへ戻り、勉強の続きを始めた。
まぁ、私は邪魔されようがどっちでもいいけども。睦月さんの機嫌が悪くなるのは嫌だな。
「あぁ~~あ、萎えた」睦月はキッチンで、お茶を飲む。
「まぁそう言わずに……」
「俺、思うんだけど」睦月は隣に立つ如月を見つめる。
「え?」如月も睦月を見つめる。
「期末テストの勉強教えたりして休日は全部潰れたし、紫陽花以降、レスじゃね?」そんな真剣な眼差しで言われても。
「……レスというのはいちゃつきとかもない状態のことなのでレスではないと思うのですが……」そっと顔を逸らす。
個人的には一緒に生活していて、むらむらすることはあるが、なければないで別に構わない。
「いや、そういうことじゃなくて。2週間くらいえっちしてない」ん~~。
「私的には特に問題はないというか……ハグとキスがあれば別に……」いやぁ、顔見れない。経験上、セックスの価値観の相違は埋めづらい。でも理解はしたい。
「俺はそれだけじゃ、やだ。これは俺の愛情表現だから」求められているだけ、ありがたいことのなのかもしれない。
「えっと……拒否はしてないと思うのですが……頻度を上げたいということでしょうか?」こちらとしては無理に頻度を上げたくない。
「……そう。最低でも1週間に1、2回は……」睦月は気まずそうに目を伏せる。ん~~。多い。私とは行為に対する考え方が違うのかもしれない。
「俺は……その……昔は自分が気持ちよくなれればそれでいいと思ってたけど……今は……どれくらいお互いを大切に思っているかを感じることが出来るものだから、ないのはイヤというか……」睦月は伏せていた目を如月へ移した。
「セックスをしないと大切に思われてないと感じるということですか?」逸らした顔を戻し、睦月をもう一度見る。
「違う!!」睦月は突然大きな声を出し、否定する。私は言い方を誤った。これはダメだ。
「すみません、そんなつもりでは……言葉の選択を間違えました」睦月は目線を下げ、淋し気な表情をしている。
「まぁ、そうですね。お付き合いしている以上、他の人と楽しめることではないですからね。それに感情が入りますし……お互いを思いやってすることですもんね」睦月の首にかかっているフェイスタオルを取り、頭へ被せる。
「確かにセックスすることで、愛されてると思えたり、自分のことを大切に想っていると感じますね。それは理解できます。我慢しろとは言いませんよ」如月は続ける。
「だけど、お互いがしたいと思うタイミングが合ってこそ、じゃないですか?」フェイスタオルの端を持つ。外から顔が見えないように優しく唇を重ねる。
「それは……そうだね。ごめん、変なこと言った。気にしないで」如月は俯く睦月をそっと抱き寄せた。
「まぁ、回数の問題に加えて、環境も伴ってないのでなんの解決になってないかもですけど、睦月さんが私を求めてくれるのは嬉しいですよ」睦月は少し顔を上げ、如月を見る。
「ほんと?」はらり。フェイスタオルが睦月の頭から落ちた。浮かない顔が現れる。そんなに心配?
「そんなこと嘘ついてどうするんですか」ちゅ。腕の中の睦月に顔を近づけ、頬へキスをする。
「これだけでも満たされませんか?」充分じゃない?
「ぜ~~んぜん、足りませーーん!! やっぱりキスはこれぐらいしないと!!」如月の首の後ろを持ち、引き寄せる。唇が重なる寸前で卯月は声を掛けた。
「ねぇねぇ、どんなキスするの?」両手を頬に当て、その場にしゃがむ。2人をじーーっと見つめる。
「……キスしづらい……」睦月は如月の首の後ろから手を離し、近づいた顔を背ける。
「なが~~くて、甘いキスですよ」体を前に出し、睦月を台所の淵に押し当てる。
「き、如月? 卯月見てる……」睦月は頬を赤らめた。
「うん?」なんか卯月さん目の前でめっちゃ見てるけど、まぁいっか。
元気付けたいし、キスしたいもん。片手を睦月の頬に添える。まだ少しあったかい。睦月の顔を引き寄せながら強めに抱きしめ、唇を重ねた。
「~~~~っ」かわいい。身動き出来ないね。恥ずかしいのか、開けようしない唇を無理矢理、舌でこじ開け、差し込む。
「ぉお……」卯月は口元を手で押さえながら見つめる。卯月の顔は段々、赤く染まっていく。
卯月が見ているのが気になるのか、睦月は如月の背中をトントンと叩く。まだ全然、舌絡めていないのに。仕方なく、唇を離す。
「ーーっはぁっだめでしょっ如月さん!」睦月の顔は真っ赤だ。
「そう? ここはかなりいい感じになってきたと思ったけど?」睦月の膨らんでいるところを手で触る。
「あ~~っやめなさい!!! 卯月がいる!!!」睦月は如月の背中を強めに叩く。
「もう、痛いなぁ~~」
「あ、お構いなく。見てるだけなんで害はないです。続けてどうぞ」卯月は引き続き、じーーっと見つめる。
「ですって、どうする?」如月はにこっと笑い、睦月を見る。
「どうするも何もしない!!!」睦月は如月の肩を両手で持ち、離す。
「今タイミングだと思ったのにぃ」腕を伸ばし、睦月を触ろうとする。
「ダメダメ! 離れて! タイミング今違う!」触ろうとする如月の手を払う。
「けちだね」如月は卯月の隣にしゃがむ。
「お兄ちゃんはけちだから」卯月と如月は顔を見合わせた。
「…………」
「…………」しばらく見つめ合う。
「えっ? ちょっと! 何見つめ合ってるの?! キスとかしないでよ?!」睦月は慌てたように間に割り込み、座る。
「睦月さん邪魔~~今いいとこだったぁ」如月は睦月の頬を人差し指でつんつんする。
「お兄ちゃん邪魔~~あと少しだったぁ」卯月も頬を人差し指でつんつんする。
「ダメダメダメダメ!! そんなのお兄ちゃん許しませんから!!! つんつんやめて!!」
如月と卯月はつんつんする手を止め、睦月の口角を人差し指で上げた。
「ま、とりあえず笑っとけば?」
「曇った顔は似合わないですよ?」
「誰のせいでそうなったと思ってるの……全く、あぁもぉ~~」睦月は両サイドの頬の人差し指を掴み、外す。
「誰のせいでもないしぃ」
「そうですねぇ」
「そうだね」
3人はあはは、と声に出して笑った。
11
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる