如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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16話 2人きりでデートがしたい!

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 お好み焼きパーティが終わり、洗い物をする。もちろん、片付けをするのは俺だ。誰も手伝ってはくれない。かなしみ。
 洗い物をしながら考え事をする。そういえば、如月と最後にデートをしたのはいつだっけ?

 5月? おうちデートはデートじゃないな。ブックカフェ以降、どこへも行っていない。え、そんなのダメダメ!! 恋人としてあり得ない!! デートしなきゃ!!

 食器用スポンジを皿に叩きつける。手の泡を水で流し、リビングにいる如月の元へ行く。

「如月!!」リビングで床に座り本を読んでいる如月へ声をかける。
「なに~~」
「週末お出かけしよぉ~~」後ろから抱きしめ、如月を左右に揺する。
「最近出かけてないですもんね。卯月さんも一緒にどうですか?」え? それじゃデートにならな……。
「期末テスト近いからパス~~」良かった!

「私は今の時期、紫陽花とかみたいですけど、睦月さんはそういうの興味なさそうですよね」がっかりしたように目線を下げる。
「いいよ、行く! 如月の行きたいところへ行く!! はい、決まりぃ」2人で出かけられるならどこでもいい。

 デート、デート、デート!! いぇ~~い!! 紫陽花デートとか、大人!! 如月から離れ、うきうきしながら、洗い物の続きを始めた。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー


 ーーそして週末。土曜 デート日和


 はぁ~~。楽しみ。洗面台で髪の毛をセットする。もう着替えも済んで、あとは出かけるだけだ。最近やめていたけど、香水つけちゃお。

「如月、準備できたーーえ?」リビングへ行くと、着替えを済ませた卯月が如月に髪を結ってもらっている。
「何してるの?」怪訝な表情で卯月に訊く。
「髪の毛結ってもらってる」いや、そうじゃない。
「どっか行くの?」質問を変える。
「紫陽花見に行く」行かないんじゃないの!!

 デートが、デートが、デートが! 俺と如月のらぶらぶデートがたった今この瞬間にデートじゃなくなった!!

「ハーフアップ完成~~ついでにヘアアクセも付けちゃいますね」
「はぁい」もう行く気満々じゃん。
「はい出来上がり~~」如月は立ち上がり、睦月の頭を撫でた。
「まぁまぁ、良いじゃないですか。たまには。ん~」額にキスされる。ずる。

「今日カジュアルめなんですけど、変じゃないですか?」如月は卯月に訊く。
「別に? ビッグシルエットグレーTに白パンとか大人だわぁ」卯月は睦月と見比べる。
「俺と比較しないでくれる?」
「もうすぐ電車の時間なので行きますよ~~」玄関へ向かい、靴を履き、家を出た。


 紫陽花を見に行くっていうから、寺的な場所で見るかと思っていた。電車を乗り継ぎ、田舎の方へ。途中、バスに乗る。そして更に山奥へ。
 温泉街に紫陽花の名所があるとは、知らなかった。

「結構山奥に来ましたね」バスを降り、歩き始める。中々急斜面でつらい。
「こんなところに紫陽花咲いてるの?」卯月はスマホをいじりながら、歩く。

 卯月はいるけど、手を繋ぎたい。元々はデートだし。恋人だし。さりげなく、恋人らしく。その日の気分で手を繋いできたせいで、何も思わなかった。手を繋ぐことを意識すると心臓がドキドキする。
 如月の手を目指して、手を伸ばす。あと少し。

「あっ! 看板見えてきました!」握ろうとした手が上がる。如月は看板を指差した。
「あーー……ね」繋げなかった。
「どうしました?」首を傾け、睦月に訊く。
「……なんも~~」そっと手を後ろのポケットに入れる。はぁ。

 あじさいの里。入ってすぐ目に飛び込んだのは、斜面一面、色鮮やかに咲き乱れる紫陽花。広大な敷地を全て埋め尽くすように咲き誇る。遊歩道にも紫陽花が隙間なく植えられている。高台になっているせいか、下から眺める景色は美しい。

 正直、紫陽花なんて……。と思う自分もいたが、こんなに綺麗な場所だとは思わなかった。三味線の音楽が紫陽花と合わさり、和を感じる。視界を覆うほどの紫陽花に圧倒される。

「綺麗ですねぇ」階段を登りながら紫陽花を眺める如月の表情はとても穏やかだ。
「写真撮ろうよ~~写真!」卯月はスマホを構える。
「良いですよ~~」如月は少し屈み、卯月に顔を近づける。紫陽花をバックに写真を撮った。


 何? ずる。俺も撮りたい。如月と一緒に写真撮りたい!!


「俺とも撮って?」如月の服を引っ張る。
「良いですよ、3人で撮りましょ」なんか違う!! 複雑な気持ちのまま、3人で写真を撮る。
「結構、人多いですね。気をつけないと」如月はさりげなく卯月に手を差し出す。
「んだねーー」2人は手を繋いだ。

 うぉおおぉおおい!!! 確かにお祭りみたいな感じで人多いけど! 迷子とかダメだけど!! 俺を差し置いて卯月と手を繋ぐとか!! 妬けるっっ!! 妬けるぜっっ!! ぐぅううう!!

「……どんまい」卯月は口に手を当て、見下した目で、睦月を見つめ、ニヤッと笑う。
「っだぁあぁあーー!!」腹立つ! パンフレット丸め、如月の頭を叩く。
「痛っ! ちょっと! なんですかぁ!」叩かれたところを押さえ、睦月を見る。
「うるさい! 全部如月がわるい!」えーーん。
「はぁ?」
「ヤキモチだよ、ヤキモチ」うるさい!

 イライラしながら紫陽花に囲まれた階段を登り切る。
 高台の方がまでくると、街の景色と紫陽花を一望することが出来た。なかなか良いものだ。紫陽花。

「疲れたぁ、ちょっと休憩」卯月はベンチに座った。

 チャンス!! 2人きりで紫陽花が見れる!! 手、繋いじゃおうかな?! それともちょっと抱き寄せちゃう?!

 如月の隣に立つ。遠くの方を眺める如月の顔を見つめる。はぁ、アンニュイ。その切れ長の目、いつ見てもやばすぎ。誘ってるみたいでえっち。あぁもう! 考えるだけ無駄! 行動!!

「如月、手ーー」
「お前は綺麗しか言えないのか。全く語彙力がないな」あぁ、この声はーー。
「貴女だって、さっきから綺麗しか言ってないでしょうが!!」神谷と皐だ。

 もう、おわた。デートにはならん。2人きりになれるかも分からん。なんでここまで来て出くわすかな。

「皐?」如月は声の方を見る。
「弥生~~。こいつ『キレイダ(棒)』しか言わなくて、本当につまらない」皐はバカにしたように神谷を見つめる。
「そんな風には言ってないでしょ!!」

「一緒にまわる?」如月は皐に訊き、手を差し出す。え。いや、何その手。
「まわるとも」皐が手を乗せようとする。
「ぁ゛ぁああぁああーー!!」手の側面で2人の手を思いっきり断ち切る。
「やだぁ、絶対やだぁ~~繋いじゃだめ~~」如月に抱きつく。もう涙でる。

「ふ。はいはい。ごめんね? 一緒に回ろ?」なだめるように、人差し指で、薄く浮かんだ涙を拭かれる。
「うぅ~~俺と手繋いで」如月の目を見る。
「え、ヤダ」がーーーーん!
「人多いし、抵抗が。あと離れて、恥ずかしい」ひど!

「……俺も休憩する」とぼとぼ歩き、卯月の隣に座る。
「湊、私は弥生とまわる。勝手にしろ」神谷め。皐をどうにかしろ。
「はぁ、言い方。休憩させてもらいますよ」神谷は卯月と同じベンチに座った。

 せっかくここまで来たのに。デートのかけらもなければ、手は繋いでくれないし、元カノに如月取られるし、つまんなーーい!!

「はぁ……」如月と皐を眺める。手は繋いじゃダメって言ったけど、腕組んでいいとは言ってないんですけど。

「大人でーと。らぶらぶ」卯月が呟く。
「思っても言わないで……傷つく」両手で顔を隠す。
「神谷もちょっとどうにかしてよ!」神谷の肩を掴み、揺する。
「制御不能。終始振り回されているのでむりぽこまるぅ」神谷の顔はしんでいる。

 うわぁ、アイス買ってるし。しかも2人でひとつってさぁ。間接キスじゃん。なにもぉ。デートじゃん。俺としてよぉ。

 如月と皐がベンチまで戻ってくる。皐は睦月を見て、口を開いた。

「返す」如月の背中を押す。
「ありがとう……あ、この前もありがとうございます」軽く頭を下げる。
「気にするな。これでプライマイゼロだ」皐は薄く笑った。

「あーー湊、みたらし団子たべたい。買って来て」
「僕に押し付ける気? 一緒に買いに行こうよ」皐の手を強引に繋ぎ、神谷はベンチを離れた。なかなかハードな恋愛をしているのだな。お疲れ、神谷。

「ライトアップがあるらしいんですけど、見ていきます?」如月はベンチに腰掛けた。
「見たいけど、勉強が。来週から期末テストなんで。私、先帰ろうかな?」卯月は口元に笑みを浮かべ、睦月を見る。

「いいの?」小さい声で卯月に訊く。
「その代わりお小遣いちょうだい。泊まる時は連絡入れてね?」なんか卯月がませてきた。
「くっ……」財布から一万円取り出し、卯月へ渡す。出費が痛い。でもこれはデートのため!!
「毎度あり~~。卯月、帰りまぁす」嬉しそうにお金を財布にしまい、立ち上がる。

「あ、そうだ。如月、7月に保護者会あるからよろ。じゃ、ごゆっくりぃ~~」
「え?」卯月は手を振り、紫陽花の写真を撮りながら、ベンチを離れた。

 やっと2人。如月の顔を見る。目が合う。しばらく見つめ合う。キスして良いかな。誰も見てないよね。静かに顔を近づける。

「誰か見てますって」如月は目線を逸らす。
「俺しか見てないよ」紫陽花に溶け込むように、忍びやかな口付けをする。

「ほら、誰も見てない」ベンチに置かれた如月の手の上に自分の手を重ねる。
「……そうですねぇ」本当はもっとキスしたいけど、グッと堪える。
「今度は2人で見てまわろう?」立ち上がり、如月に手のひらを見せる。
「それは良いですけど~~ぇえ~~……」

 如月は眉にしわを寄せながら手を重ねた。やっとデートのスタートラインに立てた気がする。如月の指の間に、指を差し込み絡めた。

 ほんのり染まっている如月の頬。意外と照れ屋だよね。指摘すると怒るから言わないけど。

「俺、青色の紫陽花が一番好きかも~~」
「紫陽花の花言葉知ってますか?」如月は睦月に訊く。
「え? 知らない」

「色ごとに花言葉は違うんですけどね。青色の紫陽花の花言葉は『辛抱強い愛情』ですよ」如月はクスッと笑い、睦月の頭の後ろを撫でる。

「紫陽花や、昨日きのふの誠、今日けふの嘘。正岡子規の俳句です」
「え?」

「紫陽花の花は薄紅色から上品の青色に変化していくものがあるんですよ。紫陽花の花言葉は無常。色の変化ゆえですかね。人の心の移り変わりを紫陽花にたとえて詠んだ句です」如月は紫陽花を眺めた。

「昨日まで信じていたものに、今日突然裏切られたり。昨日は真実だと思っていても、今日は偽りになってしまう。人の心は移ろいやすく、儚いもの。この世はまさしく、諸行無常」如月はゆっくり、睦月の方を見る。

「それでも辛抱強く、私のこと愛してくださいね」如月は睦月の頭にキスをした。如月を見つめ、優しく微笑み答える。


「言われなくても、ずっと愛していくよ」


 ライトアップが待ち遠しくなった。


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