如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

文字の大きさ
上 下
55 / 306

14話(5)

しおりを挟む
 ーー翌日


 いつもより早く目が覚める。寝つきが悪く、寝不足感は否めない。布団から起き上がり、玄関を見に行く。如月の靴はない。はぁ。いや、うん。俺が悪かった。いくらなんでもあんなこと言うべきではなかった。それしか思い浮かばない。

 スマホを開き、如月のやり取りの画面を開く。送った内容、全て既読無視。返事が来ないから、鬼のようにメールを送る。自分でも分かる、最早、メンヘラ。

【どこにいるの?】既読。
【なんで出て行くの?】既読。
【いつ帰ってくるの?】既読。
【誰といるの?】既読。
【1人なの?】既読。
【今日は帰ってくるの?】既読。
【まだ怒ってるの?】既読。
【話し合いたいんだけど】既読。
【さびしい】既読。
【如月返事ちょうだい】既読。
【電話していい?】既読。

 送った全てのメールに既読がつく。返事は来ない。でも、今既読がつくってことはスマホを見ている。電話してみよう。通話のボタンを押す。

『はい』繋がった。出てくれた。
「……話し合いたいから、帰ってきて」ごめんの一言が出てこない。
『……メール、うざい。少し放っておいて。そのうち帰るから』うざい……。声が冷たい。
「そのうちっていつ? 今日? 明日? 明後日? ねぇ、今どこにいるの? ねぇ1人なの? それとも誰かと」ツーツー。切れた。あう~~。

 うざいか。え、うざいの? 俺、うざいの? そうなの? だって、だって~~、仕方ないじゃあ~~ん。まぁ声聞けただけ良しとするか。とりあえず、朝のルーティンを行おう。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー


 ーー経理課、オフィス

「神谷、おはよう」椅子に座っている神谷に声を掛ける。
「あぁ……おはよう」どこか上の空だ。
「何かあった? 大丈夫?」ぶっちゃけ、他人のことを気にかける余裕はない。
「まぁ……皐が出て行っちゃった……」ん?

 皐も家出している? 今までの経験則から直ぐに勘づく。2人は絶対に一緒にいる!

「神谷、あのね。如月も家出中なの。どこ行ったか知らない?」皐への嫉妬で顔が歪む。
「知らんがな~~。あ、でも如月さんって自分の家あるんでしょ。帰ったんじゃないの」神谷は机に伏せ、ため息をついた。

「え? 家あるの?」初耳だ。家あるなら、いちゃつけるじゃん!
「恋人に対して無関心すぎでしょ。前も思ったけど、佐野ってさ、如月さんのことあんまり知らないよね」机に伏せながら神谷はスマホに映る皐の写真を眺める。

「そんなことは……」神谷は少し考えて、口を開いた。
「……行ってみれば家。家わかるよ、僕。皐のことつけてたから偶然だったけど」何か考えるような目つきでこちらを見る。
「皐さんもそこに居るんじゃないの? 一緒に行こうよ」1人じゃ不安だ。

「行かない。僕が行くと、多分如月さんに会えないよ。1人で行ってきて」神谷は住所をメールで送った。

 1人でいくのは嫌だな。皐と一緒に居るのかもと思うと、余計に行きたくない。見たくないものを目の当たりにしそうで、怖い。ケンカしたままでもいい。一目、顔が見たい。少し、顔を見たら帰ればいい。早く、仕事終われ。


 *


「おはよう、弥生。久しぶりに同じ布団で一緒に寝たね?」皐はにんまりと笑う。
「ひとつしかないからぁ~~。ソファで寝たくないですし」ソファに座り、脚を組む。膝の上にクッションを置き、ノートパソコンをその上に重ねて、執筆を始める。あ、割ったティーカップ片付けてなかった。まぁいっか。

「私は仕事へ行くよ。あまり部屋を汚してはいけないよ」鞄を片手に皐は玄関を出た。
「はいはい、いってらっしゃい」

 朝から睦月からのたくさんのメールで疲労感。返す気も起こらず、全て既読して済ませた。挙句、追い討ちのような電話。若い女の子と付き合っているような錯覚に陥り、げっそりする。

「はぁ。集中出来ない。お腹すいた」

 ノートパソコンを閉じ、コーヒーテーブルに置く。とりあえず着替えよう。紅茶で汚れたシャツを脱ぎ、ソファに掛ける。仕事部屋のクローゼットから着替えを取り出し、居間へ戻る。

 テーパードパンツから、テーパードパンツに履き替える。脱いだものはとりあえず床に捨て、キッチンへ行く。冷蔵庫を開けても、何もない。睦月さんの朝ごはんが食べたい。う~~ん。

 まぁいっかぁ、食べなくても。

 あぁ、そうだ、原稿を印刷しようと思ったんだ。仕事部屋へ行き、スマホからデータを送り、印刷を始める。途中から紙が出てこなくなる。紙詰まりだ。

「えぇ~~どうやるの? これ」

 表示された手順に沿って、コピー機を開けていく。奥の方で蛇腹状の紙が詰まっている。手を入れても、うまく取れない。

「直せない……後で皐に直してもらおう」

 途中まで印刷した原稿と紙詰まりでビリビリに破れた紙を持ち、居間へ行く。
 中途半端に印刷したなぁ。直ってから最初から印刷し直そう。手に持っている全ての紙を宙へ放り投げる。

「シャワーでも浴びよう」

 下着以外の全ての服を脱ぎ、床に落とす。もう一度仕事部屋へ行き、着替えを一式取り出し、浴室へいく。
 先ほど感じた疲れはシャワーと一緒に流せた気がする。着替えを済ませ、バスタオルで頭を拭きながら、キッチンへ行き、水分を補給する。

「あーー本読もうかな」

 コップをキッチンカウンターへ置き、書斎へ向かう。歩いている途中で頭に掛けていたバスタオルが落ちる。まぁいいや。
 茶系統でまとめたシックな書斎。壁一面の本棚は、魅惑そのもの。気になる本を手に取り、心ゆくまま静かに読みふける。


 如月弥生、久し振りの自堕落な生活。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
 *


 仕事が終わり、急いで、教えてもらった住所へ向かう。神谷からは『19時までに行け』とアドバイスをもらった。何故19時? 時間はギリギリだ。

 駅からマップを頼りに歩いていく。この辺らしい。目の前には高層マンション。ぇえ? 中入れないじゃん。如月あの人絶対外でないでしょ。

「どうやって中入るの!!!」

 エントランス付近を彷徨うろつく。人の出入りはない。途方に暮れ、エントランス前でしゃがみ込む。
 はぁ。会えると思ったのに。顔を合わせても、嫌な顔をされ、ケンカになるだけかもしれない。それでもいいから会いたかった。

 たった1日だけ離れた時間。

 如月をそばに感じていないと不安になる。不安を解消したくて、衝動的に行動してしまう。そんな俺に対して如月はきっと付き合いきれなくなっている。

 分かっている。今この不安を抱え、我慢していれば、時間が解決してくれることも。でも、どんな状況でも繋がっていたい。この会えない時間が、如月と俺の関係を終わらせてしまうのではないかという不安のひずみ。

 自分が壊れてしまいそうなくらい如月が好きで仕方がない。


「何故ここにいる」皐はしゃがみ込む睦月に声を掛けた。
「あ……」思うように声が出ない。やっぱり皐と居たのか、という悲しみ。
たばかったな、湊。私が睦月こいつと2人になったら、身を引き、引き合わせると思ったか。良い度胸だ。あいつの計略に免じて、助けてやろう」皐は薄く笑い、持っている買い物袋を睦月に渡した。

「何これ……?」買い物袋を受け取る。
「仲直りの魔法だ」中を見ると、2人分の夕飯が作れそうな食材が入っていた。
「あとこれ。部屋のカギだ。合鍵のスペアだ」どんだけカギ持ってるの。
「12階の角部屋だよ、睦月」初めて名前を呼ばれた気がする。皐は更に続ける。

「卯月は預かる。1日ゆっくり過ごすといい。私は人が良いな」あははと声に出し、笑い、皐は軽く手を振り、帰って行った。

「ありがとう……」聞こえなかったかもしれない。また会った時、伝え直そう。エントランスへ向かい、鍵を差し込み開錠する。エレベーターで12階へ。角部屋まで足を進め、鍵を差す。ドアを引き、中へ入った。

「おかえり、皐」脱力感のあるいつもの如月の声。声の聞こえた方へ向かう。ソファに腰掛け、気怠げな表情で執筆する如月の前に立った。

 如月は執筆する手を止め、睦月を見た。無言の見つめ合いに、胸が詰まる。頭では、一言『ごめん』と言えばいいと分かっているのに言葉が出ない。情けない。

「…………俺のことまだ好き?」なんて愚かで浅はかな質問なんだろう。
「……嫌いになるとでも思った?」その言葉に安堵して、目が潤む。自然に次の言葉が出た。
「ごめん……」

 それ以上の言葉はもう要らない。引き寄せられるようにお互い、顔を近づける。顔を少し傾け、唇を重ねる。唇が軽く触れる程度の優しいキス。薄目を開けて、如月を見る。穏やかに微笑まれ、舌先で上唇をぺろりと舐められた。

「あけて」

 如月は立ち上がり両手で睦月の顔を挟み、唇を密着させる。言われた通り、口を少し開く。入ってくる舌を優しく包み込み歓迎する。舌の挿入と包み込みを、顔を傾け交互に何度も繰り返す。舌の密着度に愛を感じ、離れがたくなる。

「ーーはぁ……」ゆっくりと呼吸を整える。
「ごめんね?」如月は人差し指を軽く曲げ、唇に当て、クスッと笑う。
「絶対悪いと思ってないでしょ」キスの余韻で頬が熱い。如月の顔が近づき、耳元で止まる。
「そんなことないですよ。お風呂、入る?」蜜のように甘い声と吐息が耳に響く。
「ーー……うん」心臓が早鐘を打った。


 なんだか安心してしまい、ふと周りに視線を移す。なんだ、この部屋は。如月しか目に入っていなくて、全然気付かなかった。きたない。物凄く汚い!! 汚部屋!!

「ーー痛っ」何かを踏んだ。陶器の破片。危な!
「大丈夫ですか?」如月は平然とソファに座る。乾いた紅茶で汚れたソファ。足元には割れたティーカップが放置されている。
「え、そこ座るの?」普段、家事をしているせいか、部屋が汚くて落ち着かない。
「え? ダメですか?」ノートパソコンを手に取り、執筆を始めようとする。


(風呂、洗ってないだろうなぁ……)


 ねぇ、如月。もしかして、俺の風呂洗い待ちだったりする? まぁ、そうだわね。こういうのは俺担当だもんね。えぇ、やりますとも!! この汚部屋、綺麗にしてみせましょう!!

 鞄をテーブルの上に置く。ワイシャツのボタンを2つ開け、指の関節を鳴らし、気合いを入れた。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...