如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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13話(7)

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「皐と結婚……?」驚きで呆然とする。

 4人で食卓を囲い、睦月の作った夕飯を食べる。最初に口を開いたのは神谷だった。あまりの衝撃告白に現実を受け止めきれない。
 皐は私がいる限り、ずっと独身を貫くと思っていたからだ。地味にショック。睦月さんと別れた後の寄生先を失った。

「まぁ、ちょっとね。告白のつもりが、プロポーズしちゃった……」神谷自身も戸惑っているように思える。
「結婚を前提にって言えば良いんじゃないの~~?」卯月が首を傾けた。
「いやぁ~~言える雰囲気じゃなかったよね……」

「乙。良い結婚ライフを」睦月は哀れみの目で神谷を見る。
「乙。地獄の食生活を」私も哀れみの眼差しで見つめる。
「2人して憐れむなよ! 卯月ちゃんは祝ってくれるよね?!」神谷は卯月を見る。
「あんな子どもみたいな人、嫁にするとか乙」卯月は同情した。
「ひどい! 今、ご両親に挨拶へ行く予定考えてるのに!!」

 あぁ、冗談ではなく、本当に皐は結婚するんだな。何か結婚祝いを贈った方がいいのだろうか。ショックもあるけど、寂しさもある。複雑だ。
 なんとなく感じる、お祝いの雰囲気にいたたまれなくなり、みんなの食べた食器を持ち、キッチンへ向かう。

「……はぁ」別れてはいるが地味に精神的ダメージ。
「……寂しいの? そんな顔されると妬けるんだけど」残りの食器を持った睦月が隣に来た。唇を尖らせ、拗ねている。本当に妬いているのが分かり、微笑ましく思う。
「自分の大切な人がお嫁に行くのはさびしいですよ」優しく微笑み、睦月の頬にキスをしようと顔を近づけ、我に帰る。

 いや、ダメでしょ。
 無意識に一体何を……。こんなことしてるから、相手のことを考えず、歯止めが効かなくなって、シたくなるんだ。やめよう。

「如月?」怪訝な顔でこちらをみている。
「う、卯月さんたちが待っているので行きましょう」睦月の背中をグイグイ押し、リビングへ連れて行く。
「…………」よし、誤魔化せた。
「お、お茶持っていきますね~~」睦月の肩を上から無理やり押して、座らせる。キッチンへ戻る。

「……如月変じゃない?」卯月に訊く。
「そう? 皐さんが結婚するって、聞いて動揺してるんじゃない? 仲良いし、元恋人だもん」
「う~~ん、まぁ確かに。とりあえず、神谷、結婚おめでとう」睦月は神谷の背中を叩く。
「ありがとう、1人でも祝福してくれる人がいて嬉しいよ」神谷は目を細め、笑った。

 4人分のコップをお盆に乗せ、お茶を注ぐ。恋人になる前の感覚でやり過ごせば、きっといちゃいちゃは発生しないはずだ!
 深呼吸をして、お盆をテーブルまで運ぶ。コップを一人一人の前に並べていると、睦月が口を開いた。

「相談があるんです……。蒼に付き纏われている訳なんですけど……1回セックスしたら、もう付き纏わないって……どう思う……?」

 大方予想通り。自分が女性であることに絶対的に自信を持っている。私に勝つ唯一の方法を出してきた。

 だが、これはチャンス!!!


 ーー如月は昨日までの怒りと自分のしたことを忘れるほど、考えすぎておかしくなっていた。


 1回女性とセックスしてきてもらった方が睦月さんの体を元に戻すことが出来るのでは?! 女性への挿れる喜びと締まる快感を思い出させれば、軌道修正ができる!!
 蒼も居なくなり、睦月さんの体も元に戻って私さえ、気をつければ最早、ウィンウィン!!(?)

「キモ」卯月は軽蔑の眼差しを睦月に向ける。
「それって、本当に付き纏わないって保証あるの? 僕は信じられないなぁ」神谷は眉を顰める。
「如月は? 如月はどう思う?」突然話を振られ、ハッとする。
「えっ? ウィンウィン……?」ウィンウィンなのか? 自分で言って分からなくなり、眉にシワが寄る。

 こちらとしてはウィンウィンだ。睦月さんだって、元カノの迷惑行為がなくなり、女性とセックス出来て気持ちよくなーーらない? ならないかも?!

 調教してしまったではないか!!! イケない可能性も多いにある。いや、まだ深く開拓はしていない。
『……如月ぃ…俺、お前じゃないとたたないみたい…はぁっ…(照れ顔上目遣い)』とか言われたらどうしよう!! イイ、凄くイイ!! 言われたい!! ぁああああぁ!!
 いやいやいや、そんなことになったら、軌道修正以前の問題!!! 挿れたらダメでしょうが!!!

 ーー振り出しに戻る。


「ぁああああぁああ!!!」如月は床にうずくまった。

「如月氏って知的でクールな小説家のイメージだったんだけど」叫びながら床にうずくまる如月を神谷は見つめる。
「知的でクール? 常識なしの変人の間違いでしょ、1話から読み直せし」卯月は如月のことなど気にもせずお茶を飲む。
「1話とか僕、まだ出てない!!!」卯月は神谷にアルファポリスを開いてスマホを手渡した。


「……待ってウィンウィンって? ぇえ…? やってこいってこと? 如月は俺が蒼とヤッても良いの?」睦月の空気が淀む。
「良くはないですが、(元に戻すためには)致し方ないです」同意を求めるような目で睦月を見つめる。

「何それ! 如月にとってはその程度なの?!」なっ。
「反対してほしいんですか? その方法でケジメがつくなら、良いじゃないですか。む、睦月さんも……き、気持ち良くなれる訳ですし……新手のマスターベーション的な……」自分で言っといて、意味不明だな。
「はぁ?」眉を寄せ、口角を下げ嫌な顔をしている。

「こりゃ、ケンカするな。僕帰るわ」神谷はそそくさと帰り支度を始める。
「ぇえ~~、この状態で帰るの?」卯月が怠そうに神谷を見送りに玄関まで行く。
「皐も待ってるしね。同棲始めましたからぁ」嬉しそうに笑いながら、ドアノブに手を掛けた。
「じゃあ、またね。2人によろしく」神谷は卯月に手を振り、玄関を出た。

「もういい!! 如月がそう言うなら、一発ヤッて、ケジメつける!! 文句言うなよ!」睦月は立ち上がり、洗い物を片付けにキッチンへ向かった。

 と、とりあえず作戦は成功? 少し心が痛い。あとは睦月さんが頑張ってくれれば、上手く行くはず! 自然に過ごそう。恋人になる前みたいに。大丈夫、やればできる!

「先にお風呂入ります」一応睦月に声をかけ、脱衣所へ行く。

 はぁ。やっと1人になった。体と頭の洗浄を済ませ、湯船に浸かる。ぬくぬく。あったかい。お風呂は癒し。
 睦月さんには一旦、リセットしてもらって、関係をやり直そう。それが1番きっと良い。

 ガチャ。

「ーーえ?」浴室のドアをみて青ざめる。睦月だ。何故、入ってきたぁああぁああ!!! バカなのか!! お風呂なんて一緒に入ったら……シたくなる!! くっ!!

「……ごめん。別にケンカしたいわけじゃないから……」掛け湯をし、こちらを見つめてくる。濡らすな!

 水滴の垂れる髪。浴室の温度で染まる頬。しゅんとした顔。掛け湯で濡れた少し筋肉質の身体。うっ……可愛くてえっち……首筋にキスして鳴かせた……うぁああ!!!

「うわぁあああぁあむり!!」勢いよく湯船から立ち上がり、急いで浴室から出る。
「え? 如月?」突然出ていかれ、愕然とする。

 バスタオルで水滴を拭き取り、着替えを急いで済ませ、脱衣所を出て、足早にキッチンへ向かう。

 落ち着け。落ち着くんだ。元々距離感がちょっとおかしい人だったではないか。意識し過ぎているのはこちらだ。睦月さんにはその気はない! 冷静を保て!
 でも前よりドキドキしてる気がする。なんで?! 宣告して抑えてるから? 我慢は良くないということか?!
 
 あぁ~~~もぉ~~~。
 濡れたバスタオルに顔を埋め、その場にへたり込んだ。

「大丈夫?」背後から睦月さんの声。これは危険!

 ぎゅぅ。

 後ろからハグ。ダメだって!!
 睦月の吐息が耳元にかかり、心臓の鼓動が早くなる。

「俺、なんかした?」こちらを覗き込むように後ろからみてくる。
「何もしていないです」バスタオルから顔を離し、横を向く。睦月と目が合う。ぐはっ。すぐ顔を逸らす。

 か、かわいい……。こちらを見ることで、目線が上向きになり、眉と目尻が下がっている。そのしょんぼりした顔がかわいすぎる。
 キスしたい。めっちゃキスしたい。顎を持って、いきなりキスして、舌を無理やり入れた……ダメだ! 抑えろ弥生! そんなことしたら、シたくなる!! いやぁああぁあ!!

「いやぁああぁあぁあだめぇ!!!」以前の失敗を踏まえ、突き飛ばさずに、回されている腕を優しく外し、早歩きで和室に入り、ふすまを閉じる。鼓動は更に早まる。

 瞼を閉じても睦月の顔が浮かぶ。頭の中は睦月、睦月、睦月、睦月。笑ってる顔が、甘えてくる姿が、喜怒哀楽が分かりやすいところが。おひさまみたいに一緒にいるとあたたかくて居心地がいいところが。好き。

「……心臓がうるさい……」

 襖に背を付け、膝を抱え座り込む。先の見えない自分たちの関係。自分の恋愛経験上、同性愛で、片方がバイセクシュアルの場合、行き着く先は別れだと分かっている。

 どこか、これ以上深入りしないように気持ちをセーブしていたのかもしれない。いつか、その日が来た時、自分が後腐れなく身を引けるように。そして、自分自身が傷つかないために。

 たった1回だ。たった1回許してしまった体の繋がり。ただ、それだけのことで、かけていたブレーキが壊れてしまい、睦月への気持ちと欲求が溢れ出る。

 これは、辛抱だ。睦月さんが蒼と、ことが済めば、きっと全てが丸く収まる。睦月さんに施した身体も、蒼の迷惑行為も、私のこの、今まで以上にもっと愛情を注ぎたいという気持ちも。大丈夫、きっと大丈夫。

 元に戻るーー。
 

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