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13話(3)
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やっと、やっと仕事が終わった。残業はない。頑張った。数字を見過ぎで、目元が重い。退社するために、デスクの上を片付けていく。
「やれば出来るじゃないか、佐野くん」上司に肩を叩かれる。
「はは……もう帰りますから」神谷の方を見る。まだ業務をこなしている。
「志田さんって女の子が呼んでるよ」えぇ、やだぁ……。
「用事があるんで、テキトーに断っておいてください……」
「自分で断れ。お疲れ」上司はこの場を離れ、帰ってしまった。神谷はまだ作業をしている。神谷に声を掛ける。
「まだかかる?」
「あと少し」
「ちょっと蒼に呼び出されたから行ってくる……終わったら待ってて」会うって考えるだけで鬱だ。
「お気をつけて」神谷は手を止め、心配そうに睦月を見た。
経理課を出たところに蒼は立っていた。まぁ丁度良い。少し聞きたいこともある。自販機の前まで移動した。
「なんでこの会社に?」自販機に小銭を入れ、飲みの物を見つめる。
「それは睦月くんが居るからぁ~~」でしょうね。カフェラテのボタンを押す。
「宴会場でくれた水、何か入れたよね?」落ちてきたカフェラテを自販機の下から取り出し、蒼を睨む。
「何かって? 何を? 証拠もないのにやめてくれる?」確かに証拠はない。でもあの水を飲んでから眠くなり、記憶が途切れている。気づいた時には部屋だった。
「何が目的?」蒼を問い詰める。
「睦月くんが欲しい。ただそれだけだよ? 男の恋人なんてやめれば? 付き合ってどうするの? 結婚も出来ないのに」睦月の目を見て話す。
「それは……そうだけど……」カフェラテのフタを開け、口を付ける。あまり考えたくない話題だ。
「今はこれでいい……」視線を下に落とし答える。
「より戻そうよ、睦月くんだって私のこと求めてたじゃん」蒼に胸を押され、背中が自販機に当たる。
「いや、あれは事故……より戻すとかはもう考えられない」蒼が密着するように、詰め寄る。触れ合う体と、吐息が首筋にかかり、鼓動が早くなる。少し死角になっているとはいえ、人が来たらまずい。
「でも体は私を求めてるんじゃない?」蒼の手が下半身に添えられる。
「…………っやめて」軽く肩を押すが、離れてくれない。好きではないのに、添えられた手が少し動くと、バカみたいにドキドキする。
「遅い……って何やってんだよ~~」神谷がこちらに歩いてきた。こちらを見るなり苦い顔をする。
「あーー、邪魔した? ごめんね? でも職場ではやめようね?」冷たい目で蒼を見る。
「神谷さんっていつもタイミング悪い」神谷になんてお構いなしに添えられた手が撫でるように動く。
「…………っ!」体が感じている。顔を横に逸らし、誤魔化す。さっきより強めに蒼の肩を押し、退ける。
「体は素直だねぇ。じゃあね、睦月くん」蒼は手を振って、去っていった。
「お前って、意外と雰囲気に流されやすいよね」神谷は睦月の背中を押し、歩き始める。
「もうやだ……なんなのこの体」両手で顔を隠す。
「男の宿命ですよ」押している背中をポンポンと叩いた。
蒼とあんなことがあったせいか、性的に意識してしまい、敏感になっている気がする。如月という恋人がいるのに、女性にも反応するこの体。仕方がないことと分かっていても、気持ちが割り切れなくて、苦しい。如月に会いたい。
「皐の家、行こっか」神谷はGPSを見る。
「流石にもう帰ったかな?」
「んーー、どうかな。玄関まで見送りした感じはなかったけどね」神谷と一緒に、会社を後にし、皐の家へ向かった。
家に着くなり、神谷は鍵を取り出し、扉に差し、ドアノブを引いた。
「なんでカギ持ってるの?」怪訝な顔で訊く。
「作ったから? ちゃんと許可得てるよ?」さも、自分の家のように部屋にあがる。
「どんな関係なの、それ……」
「う~~ん。セフレに近いかな……」神谷の目が濁る。
「皐さ~~ん、来たよ」神谷は迷わずひとつの部屋のドアを開けた。
ドアの向こうにはダブルベッドの真ん中に片膝を立てて座る如月と、倒れた腿に両腕と顎を乗せている皐。2人の前にうつ伏せになり、寝転がって教科書を開いている卯月が居た。
「…………」なにこれ。如月を見つめる。
「ほら、何にもない~~」神谷は荷物を下ろす。これ何もないの?
「勉強教えてもらってるだけだよ?」卯月が言う。如月は無意識に皐の頭を撫でる。
「なんかモヤるんだけど……」
「弥生は手癖が悪いからな」皐は呟く。
「まだ言うの? それ」如月は皐の頬をつねる。
「あだっ……まぁ睦月も手癖が悪そうだな」皐は睦月の襟元を見つめる。
「卯月さん、続きは家でやりましょう」
「はぁい」起き上がり、勉強道具を仕舞った。
「皐、今日はありがとう。助かったよ」皐の脇の下に手を入れ、少し持ち上げ、腿の上から下ろす。
(……それアリなの? 今絶対、胸触ったよね?)
「いいんだ。役に立てたなら良かった。なんだ? ヤキモチか? 醜いな」皐は睦月を見て嘲笑う。
「違うわ!!!」如月がベッドから降り、こちらに近づいてきた。
「な、なに?」如月の顔が近づく。毛先が顔に当たり、こそばゆい。キスかな。目を閉じる。
「…………如月?」重ならない唇。閉じていた瞼をあげ、如月を見る。眉間にシワを寄せ、すごく嫌な顔だ。
「……くさい」如月が小さくぼやいた。
「え?」
「穢らわしい女の匂いがする。悪い虫がついた」襟元についた、口紅のような化粧品をトンと叩き、人差し指で睦月の顎を上にあげる。
「その汚い女をどうにかしろ。反吐が出る。帰る」如月は部屋を出た。
「あぁ、もうっ」頭をぐしゃっと掻き、如月を追いかける。
「ちょっと待ってよぉ~~」卯月は鞄を持ち、2人の背中を追った。
「またケンカですかぃ~~」神谷は呆れながら、皐の隣に座る。
「そうではない。ペットへの躾だ」のそのそと移動し、神谷の腿に両腕と顎を乗せる。
「調教の始まりだよ」
「調教って……佐野に何するんですか……」皐の頬を手の甲で撫でる。
「……ふふっ、それを言ったら、私がされてきたことがバレてしまうだろう? なぁに、心配することはない。愛欲に溺れるだけだ」手を伸ばし、神谷の顎を引っ張る。
「皐さん、セフレ止まりは勘弁してよ?」皐の唇に口付けをする。
「……考えておく」神谷はワイシャツのボタンを少し外し、襟元を緩める。皐をお姫様のように抱きかかえ、膝の上に座らせ、そっと胸の上に手を乗せる。
「お弁当美味しかった、また作ってよ」
「嘘をつけ。アレのどこが美味しいんだ」しばらく無言で見つめ合い、もう一度唇を重ねた。
*
近づいた瞬間、甘い、鼻に付くような悪臭がした。すれ違っただけで、付くようなものではない。襟元にはピンク色の化粧品が付着していた。あんなところに化粧品を付けるには、密着しなければあり得ない。
頭の悪そうな女に見えたから、そこまで害はないと思ったが、意外と粘着している。睦月さんも自分の筋を通すタイプのクセに、迫られると流されやすい。つけ込まれている。
色々面倒くさいな。
後ろから呼ぶ声を無視して、家へ向かう。職場で浮気紛いなことをしていることは気に入らないが、それに対して怒りはさほどない。それよりも、たかが女1人突っぱねることが出来ない、流されやすい睦月に腹が立つ。
どうしてくれようか。
「如月、待って、少し話そう」後ろから服を掴まれ、足を止める。
「言いたいことは全て言った。話すことはないし、怒ってはいない」掴んでいる手を払う。
「そんなの絶対嘘……」睦月を無視し、止まった足を進める。もうすぐ家だ。
「とりあえず、家の中で話し合えば?」面倒くさそうに卯月は睦月の背中を押しながら歩く。
「まぁでもさぁ、私が彼女だったとしても、これは嫌かも~~」睦月の襟元を見て、卯月は言う。
「うっ……何これ……ほんとやめてくれないかな」襟元を見て、驚く。
先に家へ入る。リビングへ行き、腰を下ろし、机に頬杖をつく。
睦月も追うようにリビングへ来て、鞄を下ろし、側に座った。
「まず、着替えて風呂に入ってこい」見るのも嫌だ。
「……はい」睦月は脱衣所へ向かった。風呂からは掃除する音が聞こえる。
「体調はすっかりいいけど、機嫌は悪いね」卯月が隣に座る。
「これは予想してなかったですから。同じ会社なら接触はありますよねぇ」はぁ、と溜息をつく。
「でも別れてるんでしょ?」卯月は訊く。
「えぇ。決着をつけるには無理な要求をしてくるかもしれませんねぇ」また溜息が出る。
「まぁ、大体何を要求してくるか想像出来ますから、ちゃんと調教しておかないとね」如月は薄く、妖しい笑みを浮かべた。
「お風呂、上がった……」睦月は如月の側に寄り、そっと髪の毛に触れた。
髪の毛から水滴が落ち、頬は火照り、濡れているせいか肌着は少し透け、胸の突起が見える。色っぽくてドキドキする。この期に及んで誘っているのか。
睦月の顔をじーーっと見つめる。
「なんですかぁ……」泣きそうである。
早めに調教しないと取り返しがつかなくなりそうだ。まだ若いし、将来に沢山の選択が出来るような人をこちら側に引き込むつもりはなかった。
でも誰にも渡したくないなぁ。本人も望んでいるし、問題ないよねぇ?
「ご飯作って? 食べたら少し出かけましょ」睦月を軽く抱きしめ、頭を撫でる。
「う、うん……?」不審そうに如月を見る。
「卯月さん、出かけたら、今日は帰らないかも~~」艶かしい目つきで睦月を見て笑う。
「きさ……らぎ…さ…ん……?」睦月は赤面し、固まっている。かわいいなぁ。逃がさないよ。
「ぇえ~~、まぁいいけど。朝食までには帰ってきてね」卯月は2人をみてにんまり笑った。
「やれば出来るじゃないか、佐野くん」上司に肩を叩かれる。
「はは……もう帰りますから」神谷の方を見る。まだ業務をこなしている。
「志田さんって女の子が呼んでるよ」えぇ、やだぁ……。
「用事があるんで、テキトーに断っておいてください……」
「自分で断れ。お疲れ」上司はこの場を離れ、帰ってしまった。神谷はまだ作業をしている。神谷に声を掛ける。
「まだかかる?」
「あと少し」
「ちょっと蒼に呼び出されたから行ってくる……終わったら待ってて」会うって考えるだけで鬱だ。
「お気をつけて」神谷は手を止め、心配そうに睦月を見た。
経理課を出たところに蒼は立っていた。まぁ丁度良い。少し聞きたいこともある。自販機の前まで移動した。
「なんでこの会社に?」自販機に小銭を入れ、飲みの物を見つめる。
「それは睦月くんが居るからぁ~~」でしょうね。カフェラテのボタンを押す。
「宴会場でくれた水、何か入れたよね?」落ちてきたカフェラテを自販機の下から取り出し、蒼を睨む。
「何かって? 何を? 証拠もないのにやめてくれる?」確かに証拠はない。でもあの水を飲んでから眠くなり、記憶が途切れている。気づいた時には部屋だった。
「何が目的?」蒼を問い詰める。
「睦月くんが欲しい。ただそれだけだよ? 男の恋人なんてやめれば? 付き合ってどうするの? 結婚も出来ないのに」睦月の目を見て話す。
「それは……そうだけど……」カフェラテのフタを開け、口を付ける。あまり考えたくない話題だ。
「今はこれでいい……」視線を下に落とし答える。
「より戻そうよ、睦月くんだって私のこと求めてたじゃん」蒼に胸を押され、背中が自販機に当たる。
「いや、あれは事故……より戻すとかはもう考えられない」蒼が密着するように、詰め寄る。触れ合う体と、吐息が首筋にかかり、鼓動が早くなる。少し死角になっているとはいえ、人が来たらまずい。
「でも体は私を求めてるんじゃない?」蒼の手が下半身に添えられる。
「…………っやめて」軽く肩を押すが、離れてくれない。好きではないのに、添えられた手が少し動くと、バカみたいにドキドキする。
「遅い……って何やってんだよ~~」神谷がこちらに歩いてきた。こちらを見るなり苦い顔をする。
「あーー、邪魔した? ごめんね? でも職場ではやめようね?」冷たい目で蒼を見る。
「神谷さんっていつもタイミング悪い」神谷になんてお構いなしに添えられた手が撫でるように動く。
「…………っ!」体が感じている。顔を横に逸らし、誤魔化す。さっきより強めに蒼の肩を押し、退ける。
「体は素直だねぇ。じゃあね、睦月くん」蒼は手を振って、去っていった。
「お前って、意外と雰囲気に流されやすいよね」神谷は睦月の背中を押し、歩き始める。
「もうやだ……なんなのこの体」両手で顔を隠す。
「男の宿命ですよ」押している背中をポンポンと叩いた。
蒼とあんなことがあったせいか、性的に意識してしまい、敏感になっている気がする。如月という恋人がいるのに、女性にも反応するこの体。仕方がないことと分かっていても、気持ちが割り切れなくて、苦しい。如月に会いたい。
「皐の家、行こっか」神谷はGPSを見る。
「流石にもう帰ったかな?」
「んーー、どうかな。玄関まで見送りした感じはなかったけどね」神谷と一緒に、会社を後にし、皐の家へ向かった。
家に着くなり、神谷は鍵を取り出し、扉に差し、ドアノブを引いた。
「なんでカギ持ってるの?」怪訝な顔で訊く。
「作ったから? ちゃんと許可得てるよ?」さも、自分の家のように部屋にあがる。
「どんな関係なの、それ……」
「う~~ん。セフレに近いかな……」神谷の目が濁る。
「皐さ~~ん、来たよ」神谷は迷わずひとつの部屋のドアを開けた。
ドアの向こうにはダブルベッドの真ん中に片膝を立てて座る如月と、倒れた腿に両腕と顎を乗せている皐。2人の前にうつ伏せになり、寝転がって教科書を開いている卯月が居た。
「…………」なにこれ。如月を見つめる。
「ほら、何にもない~~」神谷は荷物を下ろす。これ何もないの?
「勉強教えてもらってるだけだよ?」卯月が言う。如月は無意識に皐の頭を撫でる。
「なんかモヤるんだけど……」
「弥生は手癖が悪いからな」皐は呟く。
「まだ言うの? それ」如月は皐の頬をつねる。
「あだっ……まぁ睦月も手癖が悪そうだな」皐は睦月の襟元を見つめる。
「卯月さん、続きは家でやりましょう」
「はぁい」起き上がり、勉強道具を仕舞った。
「皐、今日はありがとう。助かったよ」皐の脇の下に手を入れ、少し持ち上げ、腿の上から下ろす。
(……それアリなの? 今絶対、胸触ったよね?)
「いいんだ。役に立てたなら良かった。なんだ? ヤキモチか? 醜いな」皐は睦月を見て嘲笑う。
「違うわ!!!」如月がベッドから降り、こちらに近づいてきた。
「な、なに?」如月の顔が近づく。毛先が顔に当たり、こそばゆい。キスかな。目を閉じる。
「…………如月?」重ならない唇。閉じていた瞼をあげ、如月を見る。眉間にシワを寄せ、すごく嫌な顔だ。
「……くさい」如月が小さくぼやいた。
「え?」
「穢らわしい女の匂いがする。悪い虫がついた」襟元についた、口紅のような化粧品をトンと叩き、人差し指で睦月の顎を上にあげる。
「その汚い女をどうにかしろ。反吐が出る。帰る」如月は部屋を出た。
「あぁ、もうっ」頭をぐしゃっと掻き、如月を追いかける。
「ちょっと待ってよぉ~~」卯月は鞄を持ち、2人の背中を追った。
「またケンカですかぃ~~」神谷は呆れながら、皐の隣に座る。
「そうではない。ペットへの躾だ」のそのそと移動し、神谷の腿に両腕と顎を乗せる。
「調教の始まりだよ」
「調教って……佐野に何するんですか……」皐の頬を手の甲で撫でる。
「……ふふっ、それを言ったら、私がされてきたことがバレてしまうだろう? なぁに、心配することはない。愛欲に溺れるだけだ」手を伸ばし、神谷の顎を引っ張る。
「皐さん、セフレ止まりは勘弁してよ?」皐の唇に口付けをする。
「……考えておく」神谷はワイシャツのボタンを少し外し、襟元を緩める。皐をお姫様のように抱きかかえ、膝の上に座らせ、そっと胸の上に手を乗せる。
「お弁当美味しかった、また作ってよ」
「嘘をつけ。アレのどこが美味しいんだ」しばらく無言で見つめ合い、もう一度唇を重ねた。
*
近づいた瞬間、甘い、鼻に付くような悪臭がした。すれ違っただけで、付くようなものではない。襟元にはピンク色の化粧品が付着していた。あんなところに化粧品を付けるには、密着しなければあり得ない。
頭の悪そうな女に見えたから、そこまで害はないと思ったが、意外と粘着している。睦月さんも自分の筋を通すタイプのクセに、迫られると流されやすい。つけ込まれている。
色々面倒くさいな。
後ろから呼ぶ声を無視して、家へ向かう。職場で浮気紛いなことをしていることは気に入らないが、それに対して怒りはさほどない。それよりも、たかが女1人突っぱねることが出来ない、流されやすい睦月に腹が立つ。
どうしてくれようか。
「如月、待って、少し話そう」後ろから服を掴まれ、足を止める。
「言いたいことは全て言った。話すことはないし、怒ってはいない」掴んでいる手を払う。
「そんなの絶対嘘……」睦月を無視し、止まった足を進める。もうすぐ家だ。
「とりあえず、家の中で話し合えば?」面倒くさそうに卯月は睦月の背中を押しながら歩く。
「まぁでもさぁ、私が彼女だったとしても、これは嫌かも~~」睦月の襟元を見て、卯月は言う。
「うっ……何これ……ほんとやめてくれないかな」襟元を見て、驚く。
先に家へ入る。リビングへ行き、腰を下ろし、机に頬杖をつく。
睦月も追うようにリビングへ来て、鞄を下ろし、側に座った。
「まず、着替えて風呂に入ってこい」見るのも嫌だ。
「……はい」睦月は脱衣所へ向かった。風呂からは掃除する音が聞こえる。
「体調はすっかりいいけど、機嫌は悪いね」卯月が隣に座る。
「これは予想してなかったですから。同じ会社なら接触はありますよねぇ」はぁ、と溜息をつく。
「でも別れてるんでしょ?」卯月は訊く。
「えぇ。決着をつけるには無理な要求をしてくるかもしれませんねぇ」また溜息が出る。
「まぁ、大体何を要求してくるか想像出来ますから、ちゃんと調教しておかないとね」如月は薄く、妖しい笑みを浮かべた。
「お風呂、上がった……」睦月は如月の側に寄り、そっと髪の毛に触れた。
髪の毛から水滴が落ち、頬は火照り、濡れているせいか肌着は少し透け、胸の突起が見える。色っぽくてドキドキする。この期に及んで誘っているのか。
睦月の顔をじーーっと見つめる。
「なんですかぁ……」泣きそうである。
早めに調教しないと取り返しがつかなくなりそうだ。まだ若いし、将来に沢山の選択が出来るような人をこちら側に引き込むつもりはなかった。
でも誰にも渡したくないなぁ。本人も望んでいるし、問題ないよねぇ?
「ご飯作って? 食べたら少し出かけましょ」睦月を軽く抱きしめ、頭を撫でる。
「う、うん……?」不審そうに如月を見る。
「卯月さん、出かけたら、今日は帰らないかも~~」艶かしい目つきで睦月を見て笑う。
「きさ……らぎ…さ…ん……?」睦月は赤面し、固まっている。かわいいなぁ。逃がさないよ。
「ぇえ~~、まぁいいけど。朝食までには帰ってきてね」卯月は2人をみてにんまり笑った。
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