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13話 表現によっては誤った印象を持たれかねない!

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 ーー次の日、朝

「如月、早く起きて。卯月は起きたよ。朝ごはんだよ」

 寝起きはそこまで悪くない如月が起きてこない。気になって、和室まで様子を見にいく。掛け布団にうずくまり、いも虫のようになっている如月がいた。

「如月?」側に寄り、声を掛ける。
「……寒い……すごく寒い……はぁ…」頬は赤く染まり、目が据わっている。
「具合悪いの?」如月の頬に手を当てる。熱い。熱がある。こんな時に不謹慎だが、少し可愛く思え、額をくっつけ、体温を感じてみる。熱い。

「卯月、体温計持ってきて」遠くの方で返事が聞こえる。
「大丈夫? 仕事休もうか?」
「……仕事は行ってください……1人で大丈夫なんで……あーーしぬ……最近疲れが溜まっていたのだと思います……旅行行った分、執筆も進まなかったので、取り返すために無理をしました……」目がとてもうつろだ。
「お兄ちゃん持ってきたよぉ~~うわぁこれは重症だね」如月に体温計を渡す。


 ピピピピピピーー


「38.3です。知恵熱みたいなもんです、多分」体温計を卯月へ返す。
「私もう行くから~~」卯月は体温計を机に置き、家を出てしまった。
「いや~~……ほんと大丈夫?」無理させてしまったようで、申し訳なく思う。

「いいですね、多少無理しても次の日に引きずらないって」羨ましそうな目で睦月を見る。
「昔から風邪とかあんまり引かないからね!」如月は睦月をじーーっと見て答える。
「あぁ。なんとかは風邪引かないとか言いますもんね」かっちーん。
「お昼つくっておいてください」このやろ~~!

 人が心配してるのに! なにそれ! 今日の如月はむかつく! もう如月なんか知らない!!!!

「もう仕事行く!!」如月に背を向け、キッチンへ向かい、エプロンを付け、高速で雑炊を作る。俺って優しくね?

「作ったから!! もういく!!」エプロンを投げ捨て、ビジネスバッグを持ち、玄関を出た。

 うぅ。出てきてしまった。そうはいえど心配。如月は執筆以外はまるでダメだ。薬の場所は分かるかな? ちゃんと水分を摂ってるかな? ぁあ! 倒れたりしてないかな? はぁ、心配だ。


 *


 大人になってからの高熱ってしんどい。背中が異常に寒い。頭がズキズキする。体が怠くて、動くのがつらい。これは歳のせい?

「薬……どこだろうか……」重たい体を引きずり、リビングへ行く。入っていそうな引き出しを開け、探す。見つからない。

 この家に来てから2人が風邪を引いたところを見たことがない。薬って常備してあるのだろうか。
 机には自分の朝食と雑炊が並べられていた。

「……雑炊美味しそう」ぐるるるるぅ。


 怠くてもお腹は減る。雑炊の器に触れると、まだ温かい。ご丁寧にスプーンも置いてある。睦月さんは優しいな。
 ラップを剥がし、スプーンで食べる。

「美味しぃ~~」この人、料理は天才だな。

 スプーンが進む。空になった器を台所へ下げ、再び薬を探す。ない。買いに行くしかない。雑炊で体が温まったのか、少し楽になった気がする。今のうちに行こう。
 だらだらと歩き、洋室の衣装ケースから外着を取り出し着替える。スマホをポケットに入れ、玄関へ向かう。

 玄関を出ると、隣に住む人と鉢合わせた。気まずそうにこちらを見てくる。ほとんど顔を合わせたことも、話したこともない。

「……あの」声をかけられた。
「なんですか……?」手短に済ませたい。
「ほどほどに」……。
「……すみません」気まず……。

 階段を降り、ドラッグストアへ歩き始める。んーー。怠い。歩くことがしんどい。少しふらつく。全然進んでないけど、休憩しよう。その場にしゃがみ込む。

「またここで会ったね、弥生」頭上で声がした。上を向く。
「皐……ドラッグストア連れて行って」もう動けない。
「良いとも。この辺りは車でよく来るからね。乗せてあげよう」皐は如月の手を持った。
「熱いじゃないか。寝た方がいい。何をやっているんだ、あの睦月は。管理能力がまるでない」小さな体で如月を後ろから担ぎ、ずるずると引きずるように、車へ運ぶ。

「ごめん、迷惑かける」155センチも身長がない皐はちっちゃい。私を担いで潰れてしまわないだろうか。
「私と弥生の仲だろう? 車に乗って、弥生」

 押し込まれるような形で車に乗る。怠くて力の入らない体にとって、発進した車の揺れは、心地よく、自然と眠りについた。

「弥生、着いたよ」肩を軽く揺すられ、目を覚ます。ここ、ドラッグストアじゃないし。
「私のうちだ。看病しよう」まぁいっか。もう面倒くさい。皐の肩を借りながら、家の中へ入った。


 *


「おはようございま~~す」ヘラヘラしながら、神谷が出勤してきた。
「おはよう」如月のことが心配過ぎて、眉根を寄せてしまう。
「渋い顔だな、おい」悪かったな。
「如月が38度熱あって、心配で……はぁ」やっぱり休めば良かった。
「また如月さんですかぃ……ん?」呆れた表情で、スマホを取り出しGPSを見る。

「どうした……」仕事を始める準備をしながら神谷に訊く。
「いやぁ、皐がいつもと違う行動してるなって」少し気になり、GPSを覗く。
「うちの近くじゃん」
「それは大した問題じゃない。作家の家が近くにあるから。ほら変だろう? 道端でずっと立ってるなんて。あ、歩いた」GPSはノロノロと動き、また止まる。そして、軽快に進み始めた。

「車に乗ったなぁ。方向的に家へ帰るっぽいな」神谷がしかめ面になる。
「具合悪かったんじゃな……い」

 脳裏に如月が居なくなったことが過ぎる。もしかして、一緒に居るとかないよね? ちゃんと別れたし、良好な関係を築いている。一緒に居てもどうかなるとかはないと思うが気にはなる。

「如月っちは家に居るの?」俺と同じことを疑っているようだ。
「多分……熱があるから、出かけても、そんな遠くへ行くことは出来ないと思うけど……電話してみようか?」スマホを取り出し、如月の連絡先を開く。
「よろしく~~」如月へ電話をかけた。

 5コールくらい鳴ってから、電話が繋がった。

『……はぃ』しんどそうな声がする。
「大丈夫? 帰ろうか?」神谷が早く聞けと口パクをする。
『あ~~……いやぁ、帰ってこなくて大丈夫です、えぇ』怪しい。
「薬飲んだ?」
『薬はさっき飲ーーぁあっ、やめっ、さつ』ブチ

「~~~~っ!!!!」

 何? 皐さんの家にいるの? なんの声ですか? 何してるんですか? えっちしてしてるの?! こんの放浪作家がぁああ!

「皐って言いかけた! 皐さんちに居るんじゃないかなぁ? 許せないよねぇ? 神谷ぁ?」怒りと嫉妬で煮えくり返る。
「そりゃあ、許せんさぁ。でも僕はまだ皐とは恋人じゃないし、今の皐が如月っちに手出すとは思えないから」神谷はくるくるとペンを回しながら続ける。

「まぁ、あの2人の仲の良さは認めるよ。別れているのに、独特の絆みたいなものがあるよね」神谷は、はぁ、とため息を吐いた。

「家、行こう」よからぬ妄想が止まらず、立ちあがろうとした瞬間、何かが机に置かれた。机に目を向けると、山積みの伝票や書類。
「どこへ行くのかな?」上司が笑顔で側に立っている。こわい。

「月曜日有休取って休んだ分、業務が溜まってますよ、佐野くん。神谷さんもその日、仕事バックれたからなぁ~~誰がこれ片付けるのかな?」笑顔が怖い。
「え? 休んだの? 頼んだ仕事やってないの?」神谷の方を見る。焦りからか、回していたペンが手から落ちた。
「あは……ちょっと行かなくてはいけないところが出来て……」絶対皐だろ!

 残業確定ーー。
 早く帰りたいよぉ~~。

 おもむろに1番上の書類に手を伸ばす。ダメだ、電話の続きが気になって全然集中出来ない。でも残業はしたくない。頬叩き、気合いを入れ直し、業務に取り掛かった。


 *

 家の中へ入ると以前とは雰囲気が少し違う。直感で男が出来たと感じる。もう別れているし、束縛するつもりもないが、自分以外の誰かに目を向けるようになったと思うと少し寂しい。リビングに置かれた2つのマグカップを見つめ、皐に訊く。

「……恋人でも出来た?」
「そんなものはいない。気になるか? 少し変やつが出入りしているだけだ」皐は如月を担ぎながら、寝室へ案内する。
「悪いね、ここしかない。またここで寝てくれ」ダブルのベットに如月を下ろす。
「はいはい……」そのまま横になる。皐の匂いがする。何年もここで寝泊まりしていたせいか、少し懐かしく感じる。

 はぁ、それにしても怠い。寒さは軽減されたが、頭痛と関節痛がする。寝慣れたベッドは気持ちが良い。うとうとしてくる。

「弥生は頑張り過ぎると熱を出すからな。薬、持ってきたよ」水と薬を渡され、受け取る。
「ありがとう」水と一緒に錠剤を流し込む。あとはしばらく寝れば良くなるだろう。

 ヴーヴーヴーヴーヴー

 着信、睦月。
 なんか、面倒くさそう。チラッと皐を見る。皐は少し首を傾げ、微笑んだ。
 体を起こし、とりあえず出る。

「……はぃ」この状況に躊躇いながら出る。
『大丈夫? 帰ろうか?』皐がベッドの上に乗ってきた。
「あ~~……いやぁ、帰ってこなくて大丈夫です、えぇ」顔を少し振り、あっち行けと合図する。
『薬飲んだ?』皐が覆い被さり、ニヤニヤしながら、冷却ジェルシートの透明フィルムを剥がし、額に貼ろうとする。
「薬はさっき飲ーーぁあっ、やめっ、皐!」冷蔵庫で冷やしてあったのか、めちゃくちゃ冷たい。あまりの冷たさに驚き、変な声が出る。
「皐特製、冷え冷えジェルシートだ」満足気に笑みを浮かべる。

 か、かわいい……。いや、そういう問題じゃない。あ、電話途中で切っちゃった。絶対誤解された気がする。どうしよう……。
 具合の悪い体には額の冷たさがすぐに馴染んだ。起こした体をもう一度横にする。少しずつ効く薬に、眠くなり、そのまま瞼が落ちた。
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