32 / 306
10話(2)#ブックカフェデートに潜む魂胆はバレバレ?!私は受けになりたくない?!
しおりを挟むブックカフェというから、こじんまりとしたところを想像していたが、着いたところは明るく、広々とした店内だった。クッション付きのソファが置いてあり、あたり一面は本棚だ。
「全て置いてある本は読み放題です。ドリンク頼んできますね」
如月はどこか嬉しそう。来てよかった。レモンスカッシュを2つ持った如月が戻り、一緒にソファに腰掛けた。
「皐さんともここへ来るの?」
「ここへは来ないですよ。皐とはもっとアンティークなブックカフェへ行きます」
「…………」
「いいじゃないですか。ほら、本選びましょ」
少し敗北感に苛まれながら、如月と一緒に店内を見て回る。手に取っては、元の位置に本を戻す。どの本にも全く興味が湧かない。俺にも読める本はあるかな?
「如月は何読むの?」
「純文学」
「そ、そう」
純文学が何の本なのかさえ分からない。でも満足させるって決めたのだから、俺も何か読んで付き合おう。
「俺にも読めそうなやつある?」
「はい、どうぞ」
手渡された小説を開くと、1話がとても短い、短編集だった。これなら俺にも読めそう!!
「ありがとう」
ソファに戻り、横並びで本を読む。横目で如月を見ると、脚を組み、片手で本を読んでいた。深い思考にふけっているような表情は落ち着きがあり、綺麗な顔を際立たせる。
「なに?」
「本読んでる如月もいいなぁって」
「……っ見てないで本を読め」
「はいはい、読む読む」
素早く背けられたその顔は薄紅色に染まっているのが見えた。
*
「僕のドーナツを何故食べる……」
「食べたいと思った、だから食べた。仕方ない、返そう」
神谷の惣菜ドーナツを皐が何食わぬ顔で食べている。食べかけのドーナツを神谷へ返し、指先に付いた砂糖をぺろっと舐める皐の姿は少し色っぽい。神谷の視線が皐へ釘付けになるのも分かる気がする。
でも何故、そんなに見つめるのか。
「いや、食べかけ返すなよ……」
そう言いつつも食べかけのドーナツを受け取り、神谷が口の中に入れている。それ、食べるんだ。
ドーナツは生ドーナツで、口内でしゅわっと広がり、とても美味しい。どれを食べても口の中でとろける食感はとてもドーナツには思えない。美味しすぎる。待った甲斐があった。
「美味しいよぉ~~」
「あぁ、そうだな。こんなに美味しいドーナツは、初めてだ。惣菜ドーナツも中々良い。赤キャベツのマリネとトマトの組み合わせは、絶品だな」
「だからそれ僕の……」
ドーナツを食べ終わり、ジュースを飲みながら、一息つく。神谷は食べたいものが食べれなくて、悲しみに暮れているが、皐さんは満足しているように見える。良かった。
「美味しかったね! 皐さんっていくつなの?」
「私か? 33だ。弥生が結婚してくれないから、三十路を過ぎてしまったよ」
「如月と出会ったのはいつなの……?」
「24の時。弥生も27くらいだったと思うが、よく覚えていない」
長い。5年以上も一緒に居たってこと? すごい。長く一緒に過ごしたからといって、結婚出来るとは限らないんだなぁ。恋愛って難しい。
「お腹もいっぱいになった。人の恋路を邪魔する程、愚かではない。そろそろ、帰るとしよう」
「どの口が言ってるんだ……」
「え、帰っちゃうの? 別にデートとかじゃないよ?」
帰り支度を始める皐をみて、急に寂しくなり、皐を引き留める。
「恋とは一瞬で落ちる。頭で理論的に考えるのは、無意味だよ、卯月。自分の相手へ感じた欲求が全てだ」
「また家へ行くよ、卯月。あぁ、そうだ。ドーナツの割合は、弥生が2個だからね」
兄の分はないんかい!!!
皐と別れ、神谷と2人になった。先ほどの言葉が引っかかり、神谷を変に意識してしまう。
神谷の顔をじぃっと見る。イケメンというよりは万人受けするような、パーツバランスの良い顔だな。優しく微笑むその顔に安心し、心惹かれてしまう。
「どこ行く?」
「そ、そうだね~~」
私に顔を少し近づけ、神谷が訊く。その距離に緊張して、鼓動が早くなる。顔の近さに恥ずかしくなり、頬が熱くなる。手で顔を扇いだ。
「食べ歩きでもする?」
「まだ食べるの?!」
「だって、僕のドーナツ、皐さんに食べられちゃったんだもん。それなのに、自分のドーナツはくれないなんて、ひどいよねぇ」
神谷と一緒にぷらぷらと歩き始めた。横並びで歩いていると、時々、手と手が触れる。手が当たっても、神谷は手を繋いではくれない。
もっと手が当たれば繋いでくれるのだろうか。繋いでみたい。少し見上げ、神谷を見つめると、神谷と目が合った。
「どうしたの?」
「あ、いや、何もないです……」
目線を逸らし、誤魔化す。
「そう? クレープでも食べよっか」
もっと近づきたい、神谷のことが知りたい。自然に目線はまた神谷を追う。再び歩き始めると、また手が当たった。
でも神谷は私と手を繋いではくれないーー。
*
本当にいいのか? そう思いつつ来た、ブックカフェ。睦月さんが何を読めばいいのか分かなさそうだったので、読みやすそうなショートショートと呼ばれる超短編小説を渡した。
睦月さんを見ていると、小説を読みながら表情がコロコロ変わり、その様子を眺めているだけで、少し幸せな気分になる。本当に可愛い人。
お気に召してくれたみたいでなによりだ。本の世界に浸りながら、読み進めているうちに肩から重みを感じた。
ぐぅ。
本をテーブルに置き、睦月の顔を見る。柔らかい表情で静かに寝息をたて、口元からは少し涎を垂らしている。
「あんなに行くとイキっておいて、結局これですよ、全く」
頬っぺたを人差し指でつんつんしてみる。起きやしない。
「大体ね、魂胆がバレバレなんですよ」
「………………」
「自分が満足出来てないからシたいだけのくせに」
「………………」
「本当は起きてるんでしょ」
両手で頬を引っ張る。
「痛い痛い痛いぃいぃ~~っ!!! やめてぇ!! 起きてる!!! あと満足してないからシたいとかじゃないぃ~~痛い痛いぃ~~うぅ~~」
「じゃあ、なんですか」
頬から手を離すと、睦月は頬を大事そうに押さえた。
「……いつも邪魔が入るから2人でゆっくり過ごしたかっただけ」
「………ふぅん……」
嘘くさ。疑いの眼差しで睦月を見る。
「ホントだって!! もぉ~~」
眉を八の字に下げ、甘えた表情で見てくる。可愛さに惹かれて、髪先を掴むように頭を撫でた。
「んーー2人でゆっくり出来るところ行く?」
「えっ……」
「何赤くなってるんですか、家に帰るに決まってるでしょ~~頭の中それしかないんですか、もう」
「違うわ!!!」
本を片付け、外へ出た。行き先は勿論、家。家に向かっていることが分かると、睦月は少し肩を落としているように見えた。
家に着き、リビングへ向かう。やはりまだ卯月さんは帰ってきていない。時計を見るとまだ正午。あまり読書も出来なかったし、随分と早い帰宅だ。
斜め掛けカバンを下ろし、床に足を伸ばして座る。短い時間ではあったが、なんだか疲れた。座って一息ついていると、後ろから抱きしめられ、睦月の脚の間にすっぽりはまった。
「如月、キスしよ?」
顔を少し後ろに向け、キスしようとした瞬間、右から頭を強く掴まれ、強引に唇が重なった。唇の隙間から舌が捩じ込まれ、激しく絡み合う。
「ーーはぁっ……」
「何? 俺がいつもやられてるだけだと思った?」
積極さに少し戸惑い、睦月の目を見る。睦月の手がお腹の下まで迫ってくる。
「いや……あは……えっと……ヤ、ヤダ? 受けはあまり趣味じゃないっていうか……」
「へぇ~~そうなんだぁ、だから何?」
笑顔が怖い……。
「……やめよう……? ねっ? あはは……やめて……脚広げないで……えへ?」
左足の膝を持ち、脚を曲げ、そしてゆっくり腿を倒された。恥ずかしさで頬が赤く染まる。
「やめると思った? 俺の時はやめなかったくせに。都合いいな。それにいつも皐皐皐って。よそ見するな」
肩に睦月の顎が乗り、身体が密着した。耳元に睦月の口唇が近づき、吐息がかかる。
「ごめんなさいぃいいぃ~~ひゃっあっ……」
耳の中でくちゅくちゅと唾液の音が響き渡る。聴覚を通じて、身体がビクっと反応する。急に敏感になる身体に鼓動が早くなった。
「耳は……いや……はぁっ…ん…あっ…待っ……ん」
睦月がズボンの上から幹をゆっくり撫でてくる。耳の愛撫が終わると、首筋に何度も口付けが始まる。
ちゅっ、ちゅっ…。
「俺はお願いしないと、ちゃんと触らないから」
私におねだりしろと? 去ね!!!!!
「ハ、言う訳ないじゃないですか」
「そんなこと言って~~顔は全然余裕なさそうだけど?」
下半身を中心に熱が全身を巡る。身体はもっと、もっと触れてくれと言わんばかりに、全てを欲する。
でも、つまらないプライドが邪魔して、言いたくはない。
まだ、耐えられる。耐えていれば、状況を逆転するチャンスがあるはずだ。ぼうっとする頭と格闘しながら、好機を待つ。
「俺良いこと思いついちゃったぁ~~」
妖しい笑みを浮かべながら、下着の中に手が入ってくる。指先は何かを探している。
「え? 待ってくださ……え……やだ……やだやだやだ!! 絶対やだ! ほんとやめて……されるのはやだ!!! いやだぁああああああ~~!!」
「如月はうるさいなぁ」
指先が窄みに辿り着き、いやらしくなぞる。その気持ち良さに肩が小さく震え上がった。
12
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる