32 / 250
10話(2)#ブックカフェデートに潜む魂胆はバレバレ?!私はねこになりたくない?!
しおりを挟むブックカフェというから、こじんまりとしたところを想像していたが、着いたところは明るく、広々とした店内だった。
クッション付きのソファが置いてあり、あたり一面は本棚だ。
「全て置いてある本は読み放題です。ドリンク頼んできますね」
如月はどこか嬉しそうだ。来てよかった。レモンスカッシュを2つ持った如月が戻り、一緒にソファに腰掛けた。
「皐さんともここへ来るの?」
どうしても気になってしまう。
「ここへは来ないですよ。皐とはもっとアンティークなブックカフェへ行きます」
「…………」負けた気分になる。
「いいじゃないですか。ほら、本選びましょ」
如月と一緒に店内を見て回る。手に取っては、元の位置に本を戻す。どの本にも全く興味が湧かない。俺にも読める本はあるだろうか。
「如月は何読むの?」
「んーー純文学」
「そ、そう」
純文学が何の本なのかさえ分からない。でも満足させるって決めたのだから、何か読んで付き合おう。
「俺にも読めそうなやつある?」
「はい、どうぞ」
手渡された小説を開くと、1話がとても短い、短編集だった。これなら俺にも読めそうだ。
「ありがとう」
ソファに戻り、横並びで本を読む。横目で如月を見ると、脚を組み、片手で本を読んでいた。深い思考にふけっているような表情は落ち着きがあり、綺麗な顔を際立たせる。
「なに?」
「本読んでる如月もいいなぁって」
「……っ見てないで本を読め」
「はいはい、読む読む」
素早く背けられたその顔は薄紅色に染まっているのが見えた。
*
「僕のドーナツを何故食べる……」
皐が神谷の惣菜ドーナツを何食わぬ顔で食べている。
「食べたいと思った、だから食べた。仕方ない、返そう」
食べているドーナツを渡し、指先に付いた汚れをぺろっと舐める。神谷の視線が釘付けになっているのが気になる。
「いや、食べかけ返すなよ……」
そう言いつつも食べかけのドーナツを受け取り、神谷が口に入れている。
ドーナツは生ドーナツで、口の中に入れると、しゅわっと広がって、とても美味しい。どれを食べても口の中でとろける食感はとてもドーナツには思えない。美味しすぎる。
「美味しいよぉ~~」待ったかいがあった。
「あぁ、そうだな。こんなに美味しいドーナツは、初めてだ。惣菜ドーナツも中々良い。赤キャベツのマリネとトマトの組み合わせは、絶品だな」
「だからそれ僕の……」
ドーナツを食べ終わり、ジュースを飲みながら、一息つく。神谷は食べたいものが食べれなくて、悲しみに暮れているが、皐は満足気だ。
「美味しかったね! 皐さんっていくつなの?」
「私か? 33だ。弥生が結婚してくれないから、三十路を過ぎてしまったよ」
「如月と出会ったのはいつなの……?」
「24の時。弥生も27くらいだったと思うが、よく覚えていない」
長い。5年以上一緒に居たってこと? すごい。長く一緒に過ごしたからといって、結婚出来るとは限らないのだな。難しい。
「お腹もいっぱいになった。人の恋路を邪魔する程、愚かではない。そろそろ、帰るとしよう」
指先で唇に付いた砂糖を取り、舐める様子を神谷はじっと見る。その視線がまた気になる。確かに色っぽくはあるが。
「どの口が言ってるんだ……」神谷はぼやく。皐は帰り支度を始めた。
「え、帰っちゃうの? 別にデートとかじゃないよ?」帰ってしまうのは寂しい。
「恋とは一瞬で落ちる。頭で理論的に考えるのは、無意味だよ、卯月。自分の相手へ感じた欲求が全てだ」
「また家へ行くよ、卯月。あぁ、そうだ。ドーナツの割合は、弥生が2個だからね」
兄の分はなかった。
皐と別れ、神谷と2人になる。先ほどの言葉が引っかかり、変に神谷を意識してしまう。
イケメンというよりは万人受けするような、パーツバランスの良い顔。優しく微笑むその顔に安心し、心惹かれてしまう。
「どこ行く?」
「そ、そうだね~~」
少し顔を近づけ、神谷が訊く。その距離に緊張して、何も思いつかない。急に心拍数が速くなる。
「食べ歩きでもする?」
「まだ食べるの?!」
少し顔が熱い。手で顔を扇ぐ。
「だって、僕のドーナツ、皐ちゃんに食べられちゃったんだも~~ん。それなのに、自分のドーナツはくれないなんて、ひどいよねぇ」
神谷と一緒に歩き始める。横並びで歩いていると、時々、手と手が触れる。手が当たっても、神谷は手を繋いではくれない。
もっと手が当たれば繋いでくれるのだろうか。少し見上げ、神谷を見つめる。神谷と目が合った。
「どうしたの?」
「あ、いや、何もないです……」
目線を逸らし、誤魔化す。
「そう? クレープでも食べよっか」
神谷は立ち止まり、クレープ屋を指差した。
もっと近づきたい、神谷のことが知りたい。自然に目線はまた神谷を追う。再び歩き始めると、また手が当たった。
でも神谷は手を繋いではくれないーー。
*
本当にいいのか? そう思いつつ来た、ブックカフェ。睦月が何を読めばいいのか分かなさそうだったので、読みやすそうなショートショートと呼ばれる超短編小説を渡した。
睦月を見ていると、小説を読みながら表情がコロコロ変わる。その様子を眺めているだけで、少し幸せな気分になる。
お気に召してくれたみたいでなによりだ。ページも夢中で読み進めているうちに、肩から重みを感じた。
ぐぅ。
本をテーブルに置き、顔を見る。柔らかい表情で静かに寝息をたて、口元からは少し、よだれがでている。
「あんなに行くとイキっておいて、結局これですよ、全く」
頬っぺたを人差し指でつんつんしてみる。起きやしない。
「大体ね、魂胆がバレバレなんですよ」
「………………」
「自分が満足出来てないからシたいだけのくせに」
「………………」
「本当は起きてるんでしょ」
両手で頬を引っ張る。
「痛い痛い痛い! やめて! 起きてる! あと満足してないからシたいとかじゃない~~痛い痛い~~う~~」
「じゃあ、なんですか」
頬を手から離すと、睦月は頬を大事そうに押さえた。
「……いつも邪魔が入るから2人でゆっくり過ごしたかっただけ」
「………ふぅん……」
疑いの眼差しで睦月を見る。
「ホントだって! もぉ~~」
眉を八の字に下げ、うるうるとした目に、惹かれ、髪先を掴むように頭を触る。気持ち良さそうにする姿に少しそそられる。
「んーー2人でゆっくり出来るところ行く?」
「えっ……」
「何赤くなってるんですか、家に帰るに決まってるでしょ~~頭の中それしかないんですか、もう」
「違うわ!!!」
本を片付け、外へ出る。行き先は勿論、家。家に向かっていることが分かると、睦月は少し肩を落としていた。
家に着き、リビングへ入ると、やはりまだ卯月は帰ってきていない。時計を見るとまだ正午。あまり読書も出来なかったし、随分と早い帰宅になった。
斜め掛けカバンを下ろし、床に足を伸ばして座る。短い時間ではあったが、疲れた。座って一息ついていると、後ろから抱きしめられ、睦月の股の間にすっぽりはまる。
「如月、キスしよ?」
顔を少し後ろに向け、キスしようとした瞬間、右から頭を強く掴まれ、強引に唇が重なる。唇の隙間から舌が捩じ込まれ、激しく絡まる。
「ーー……はぁっ」
積極さに少し戸惑い、睦月の目を見る。
「何? 俺がいつもやられてるだけだと思った?」
睦月の左手がお腹の下まで迫ってくる。
「いや……あは……えっと……ヤ、ヤダ? ねこはあまり趣味じゃないっていうか……」
「へぇ~~そうなんだぁ、だから何?」
笑顔が怖い……。
「……やめよう……? ねっ? あはは……やめて……脚広げないで……えへ?」
左足の膝を持ち、脚を曲げ、そしてゆっくり腿を左に倒された。恥ずかしさで耳が赤くなる。
「やめると思った? 俺の時はやめなかったくせに。都合いいな。それにいつも皐皐皐って。よそ見するな」
肩に睦月の顎が乗る。
「ごめんなさいぃいいぃ~~ ひゃっあっ……」
耳の中で舌を動かす音、吐息が響き渡り、聴覚を通じて、体が急に敏感になる。
「耳だめ……う~~っあっ待っ……ん」
ズボンの上に手が乗り、指先で遊ばれながら、首筋は繰り返し口付けがされる。
「俺はお願いしないと、ちゃんと触らないよ」
去ね!!!!!
「ハ、言う訳ないじゃないですか」
「そんなこと言って~~顔は全然余裕なさそうだけど?」
下半身を中心に熱が全身を巡る。身体はもっと、もっと触れてくれと言わんばかりに、全てを欲する。
でも、つまらないプライドが邪魔して、言いたくはない。
まだ、耐えられる。耐えていれば、状況を逆転するチャンスがあるはずだ。ぼうっとする頭と格闘しながら、好機を待つ。
「俺良いこと思いついちゃったぁ~~」
妖しい笑みを浮かべながら、下着の中へ左手が入っていき、指は何かを探している。
「え? 待ってくださ……え……やだ……やだやだやだ!! 絶対やだ! ほんとやめて……されるのはやだ!!! いやだぁああああああ~~!!」
睦月は動く如月を右腕でしっかり押さえる。
「如月はうるさいなぁ」
指先が窄みに辿り着き、体はビクッと反応した。
10
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる