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9話(10)戻ってきた日常?!無くしたものが全て戻ってくるーー。
しおりを挟む外に出ると、卯月と神谷が門の前に座り、待っていた。俺と如月の顔を見ると、安心したように、2人が笑った。
「お兄ちゃ~~ん、電話出ないから心配したよぉ~~」
「ごめんごめん、もう大丈夫だから」
「へぇ、妹だったのか。お前の兄は、私の家で弥生と「やめなさい」
如月が青い顔で皐の口を手で塞いだ。卯月にはとても言えない。
「え? お兄ちゃんが何?」
「なんでもないですから、早く帰りましょう」
「今度、原稿を取りに行くよ、弥生。あとこれ、靴だ」
あんなに修羅場だったのに、如月に脱ぎ履きしやすそうなサンダルを渡したり、優しく微笑んで、俺たちに手を振る皐に、この人を嫌いになることはできなかった。
やっとみんなで家に帰れる。
それがとても嬉しい。卯月も如月も神谷もみんな無事で良かった。緊張がほぐれ、ほっと胸をなでおろした。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
私たちの日常は戻ってきた。寂しかった毎日は如月が帰って来たことで、彩りを与えた。ただ、少しだけ、変わったことがある。
まず、お兄ちゃんと如月が家の中でめちゃくちゃ、いちゃつくようになったこと。
如月からの兄へのスキンシップは私の前ではハグ程度しかないが、兄は完全に壊れた。如月にベッタリだ。元々溺愛体質だったのかもしれない。もはや、犬にさえ見えてくる。
寝ている時に如月の布団へ入って、いちゃつこうとするのはやめて欲しい。気まずくて洋室へ移動することもしばしば。如月は鬱陶しそうだけど。
1番変わったのは夜に来る、この来客。
ーーピンポーン
「は~~い」
玄関の扉を開けると、皐が手のひらを見せ薄く笑った。
「やぁ、卯月。勉強は捗っているか? お邪魔するよ」
「皐さん!!!」
「……またきた……今週多い……何回目……」
皐さんが仕事終わりに不定期でうちへ来るようになった。兄は皐さんが来るたびにうなだれるけど、私は姉が出来たみたいで嬉しい。
「原稿の進み具合はどうかな? 弥生」
「もう少し時間が欲しいかな」
ノートパソコンを2人で仲良くみる如月と皐の姿に兄は毎回イライラしている。
「ふむ、大方問題はなさそうだなぁ。このまま頼むよ、弥生。どれ、卯月。私が勉強を見てあげよう」
「ほんと? じゃあ歴史教えて!」
私の隣に座る皐に歴史の教科書を見せた。皐がぱらぱらと教科書を捲る。
「ねぇ、如月。皐さんのどこを好きになったの?」
「え? 小説と私への愛は勿論ですが、やっぱり1番は……」
「1番は?」
兄と如月の会話が気になり、教科書から目を離し、如月を見つめる。1番はなんだ?!?!
「面白い! 可愛い! 尊い!」
「は……」
目を瞑り、拳を握りながら語る如月に兄が引いている。私も引く。
「別れてから、余計なものがなくなり、より推しとして、尊さしかないです」
「どういう価値観……」
「側からみたら可笑しいと思えることでも、全力で取り込んで自慢げになるところとか、もう尊すぎる……はぁはぁ」
こいつ大丈夫か?
如月の熱弁に呆れて歴史の教科書に目を戻すと、歴史の教科書の全ての文字に蛍光ペンが引かれていた。なにこれ。
「歴史は、教科書を覚えるだけで、点が取れる。だから、全部引いたよ、卯月」
「何やってんの!!!! やめてよ!!!」
これでは、どこが重要なのかわからない!!!
「この教科書は、真面目すぎてつまらない。時には、引き込まれる要素も必要だ。偉人の顔に、落書きをしておいた。これで少しは楽しめるはずだ」
「ちょっと!!! 何これ!! いやーーーー!!!」
「尊っ……」
「あれが尊いの? 俺よく分かんないや……」
「ふん。知性のカケラもない、欲にまみれた男には私の魅力はわからないだろう」
皐が嘲笑うような目で兄を見つめている。皐さんは兄には冷たいな。
「~~~~っ!!! 帰れーーーー!! さっさと帰れーー!!!」
「何をするんだ! 私はただ本当のことをーー」
兄により皐が強制送還され、騒がしかった家の中は落ち着き始める。勉強もひと段落し、お茶を飲んで一服していると、兄が近くに座った。
「6月に慰安旅行があるんだ。家族同伴の場合、家族代は自腹なんだけど……」
「いってらっしゃい」
風呂から上がりたての如月が頭を拭きながら、興味なさげに言い放つ。ひどいな。少し兄に同情する。
「なっ……一緒に行きたいとかないわけ?!」
「ないですよ、なんか……面倒くさそう」
「私、6月は体育祭と期末テストがあるし無理~~。体育祭来なくていいから」
「卯月さんが行かないなら、余計行かないです。いってらっしゃい」
兄は頬を膨らませて、お風呂へ入りに脱衣所へ行ってしまった。
「私1人でも大丈夫だし、如月、行ってきてもいいよ?」
「行かないですって。会社の慰安旅行ですよ?」
如月がごろんと、リビングに寝転がり、肘をついて片手で本を読み始めた。慰安旅行には本当に興味がないらしい。
「まぁでも、睦月さんの様子を見に日帰りで行くのはいいかもしれませんね」
「日帰りなら行ってみたいかも」
不敵な笑みを浮かべる如月に釣られ、私も悪い顔になる。私たちはこっそりと計画を企てた。
ぽんっ。
スマホに通知がきた。神谷からだ。
【如月氏、家に戻ったんだから、約束守ってよね。今週の土曜はどう?】
忘れていた。慰安旅行の密偵より、こちらの方が先になりそうだ。
神谷のことは名前と兄の同僚兼友達ってこと程度しか知らない。2人きりで会っていいのだろうか? 少しだけ、警戒する。
【わかった。友達連れてきてもいい?】
【いいよ! 女の子がいいなぁ】チャラいな。
【おけまる】送信。
うーん、星奈は受験に向けて、土日は塾に通っている。誰を誘おうかな? 私ってそんなに友達いたっけ。う~~ん、どうしよう。決まらないから明日考えよう。
私はスマホを片手に和室へ行き、布団に潜って、くつろいだ。
*
やっぱり佐野家は居心地が良い。美味しいご飯と温かい雰囲気は心が休まる。2人と一緒にいるだけで穏やかな気持ちになる。帰って来れて、本当に良かった。
本の文字を目で追っていると、次第に瞼が重たくなってくる。
ぎゅう。
ん。なんかきた。
後ろからぬくもりを感じる。
「さびしぃ。レスなんだけど……」
「はい? レスじゃないですって。大丈夫大丈夫」
「好き、好き、如月大好きぃ~~キスしよ~~」
適当にあしらいながら本を読む。ぎゅうぎゅうと抱きつき、頭を私の背中に擦ってくる。面倒くさ。
「また今度ね」
「ひど!! 何それ!!」
睦月が不機嫌になるのを背中で察する。本を閉じて、睦月の方へ身体を向けた。
口をへの字にし、なんともつまらなさそうな顔をしている。目だけ上に向け、こちらを見る顔はとても可愛い。
そんな目で私をみて、誘ってるの? 少し意地悪をしてやろう。睦月を抱きしめ、首筋に口元を近づけた。
「好きですよ、睦月さん」
「う、うん? ちょっ…んっぁっ……」
唇を舌で湿らせ、思いっきり、首筋を吸い上げた。綺麗についた赤い痕に思わず笑みが溢れる。消えたらまた付けよう。睦月さんは誰にもあげない。身体を起こし、立ち上がった。
「さて、私は寝ます」
「待って! 付けたの?? ねぇ?! 痕付けたの?!?!」
頬を赤く染めながら、体を起こし、Tシャツを引っ張ってくる。伸びる。やめて。可愛いけど。
「自分で確認すれば」
「俺への態度素っ気ない!!! 前はもっと優しかった!!! 最近特に」
「も~~睦月さんはうるさいなぁ」
「うるさいってなーーっんっ」
睦月の顎を持ち、引き寄せる。動く唇を塞ぎ、言葉を飲み込んだ。不意打ちのキスだったが、欲が出る。舌も入れてしまおう。
「っん~~んんっ…んっ…はぁっ……」
口唇を離し、睦月を見ると、目はもうとろけている。早すぎ。今日はこれ以上しないよ。
「最近、欲しがりすぎじゃない?」
「そんなことは……ない……」
「まぁ、いいですけどね。たまには私のこと、満足させてくださいよ。じゃ、おやすみ」
軽く頭を撫で、和室へ行こうとすると、手が睦月に掴まれた。
「待って…これ……少し傷ついちゃったけど……」
「あ……無くしたかと思いました。良かった」
私の手のひらを持ち、睦月が私の左人差し指に指輪をはめた。
睦月さんが初めてくれた贈り物。もう見つからないかと思ったが、指に戻ってきて、心から嬉しく思う。
「捨てたわけじゃないんだよね?」
「まさか。これでも大切にしていますよ」
「なら、いいんだけど」
指輪のついた指が愛おしいのか、中々、手を離してもらえない。そろそろ離して?
「そんなに指触るなら、口の中に指入れるよ」
「何言ってんの!!」
「うそうそ、冗談ですって。ほら、寝ましょ」
私の言葉に真っ赤になる睦月は可愛い。睦月の指を指先で絡めとり、手を繋ぐ。そのまま、卯月の待つ和室へと向かった。
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