21 / 306
9話 愛情は止められない!お風呂じゃなくて愛欲に溺れろ?!
しおりを挟む「ただいま帰りました」
「ただいまぁ」
「おかえりぃ~~お兄ちゃん、お腹空いたぁ」
差している傘を閉じ、家へ上がると、卯月が玄関まで迎えにきてくれた。
2人でひとつの傘に入っていたため、肩が雨に濡れ、冷たい。その代わりに幸福感に満たされている。睦月は家に着くなり、早々と着替えを済ませ、夕飯の準備に取りかかりにキッチンへ行ってしまった。
「お風呂、洗っといたよ~~」
「ありがとうございます……?」
卯月さんが私へ風呂掃除の報告? 何故に? 何かもの言いたげに見つめてくる。何かあるのだろうか?
少し疑問に思いつつも、出来上がった晩御飯を食卓に並べ、三人で食べる。
食べ終わると、卯月が急須で暖かいお茶を淹れ、目の前に湯呑みが置かれた。卯月さんがお茶を淹れてくれるなんて益々怪しい。淹れたお茶を訝しげに思いながらも口を付ける。
「如月、一緒にお風呂入ろう」
「ぶっ」
卯月の言葉に、飲んでいたお茶を思わず全て吹き出す。
「如月、汚い」
背後から強烈な殺意を感じる。
「な、何故……睦月さんと……入れば……」
怖くて振り返れない。背中が恐ろしくて、声が震える。
「それは流石にキモい。ねぇ、せっくすってどうやるの? 色々気になるんだけど」
「え?」
ーーパリン
床に食器が落ちて割れる音がした。音がした方を振り返って見る。驚きのあまり、皿を落としたようだ。言葉を失った睦月が立っていた。
「……小学校で習いませんでしたか?」
「覚えてない」
「なるほど。ネットで調べては? いや、良くないのかな」
色々言われていることと自分の考えがまとまらず、自分の毛先を指でくるくる回す。う~~ん。
15歳かぁ。兄と二人で過ごし、誰も教えてくれなかったと。間違った認識で行動を起こして、取り返しがつかなくなるよりは、きちんと性教育をした方がいいのかもしれない。
洋室へ向かい、鞄の中からコンドームを取り、ポケットに入れる。
「ねぇ、だから一緒にお風呂入ろう?」
「う~ん……いいですよ。卯月さんが望むなら……一緒に入っても。多分、大丈夫です……」
体にも興味があるのかな。
誰かを好きになることに性別は関係ない。でも性的欲求はある。卯月に対してそういう類の欲求は一度も抱いたことはないが、やっぱり不安だ。
心の中で、もう一度自分に『大丈夫』と言い聞かせ、安心を得ようとする。
「俺とは入らないのに卯月とは入るわけ?」
睦月さんの私への嫉妬心と独占欲は相当だ。そもそも、妹が得体の知れない私と風呂に入ろうとしている点に怒りを感じてほしい。
わりとフランクな人間関係を築く私には少し愛が重い。
「また今度、機会があれば(一緒になど入らないがな)」
「それは楽しみだな(愛欲に溺れさせ、俺以外見えなくしてやるよ)」
「では睦月さんまた後で。(愛憎の念が入り混じって、もがき狂ってしまえ)卯月さん、15分後に入ってきてくださいね」
コンドームをひらひら睦月に見せ浴室へ向かった。
「わかったぁ~~(2人の愛がこわいよーー)」
「ちょっと! 浴室で何する気?!」
「べつに~~」
慌てふためく睦月を無視して、脱衣所で服を脱ぎ、浴室へ入る。15分後に入ってくることを考慮し、急いで全身を洗い、シャワーを浴びる。浴槽に浸かって卯月を待った。
もう一度考える。本当にいいのか、これで。そんなこと考えても今更だけど。
「入るよう」
浴室の折れ戸の向こうで声がする。
「どうぞ……って体を隠すとか私への配慮はないのですか」
「何も隠してない人に言われてもなぁ~~」
入ってきた卯月から思わず目線を逸らす。なんか恥ずかしい。相手が中学生にも関わらず、頬が染まる。卯月がバスチェアに座り、シャワーで体を洗い流し始めた。
色白で、もちもちしている肌に美しいボディライン。胸も大きすぎず、小さすぎない。卯月さんは綺麗だ。でも性的欲求は感じない。卯月さんが望んだことだ。問題はない。
このカオスな状況に、居てもいい口実を探す。
「私も、は~~いろ」
「え」
湯船に入ろうとする卯月に、私は固まる。
「いいでしょ、寒いんだから」
私の膝の上になんの躊躇もなく座る卯月の純粋さに恐怖する。
「そう…ですね……」
「はぁ~~これでゆっくり話せる」
卯月はそう言い、私の胸元にもたれかかってきた。こちらとしては、ここまで来たらヤケクソである。
まぁ確かに、お風呂はリラックスできるし、ゆっくり話をするには良い場なのかもしれない。この際、卯月さんとのお風呂を楽しみたい。
「で、なんで急に私とお風呂に入りたいなんて言い出したのですか?」
「お兄ちゃんたち見てたら、なんか色々知りたくなっちゃって。せっくすシてみたいなぁとか思ったりもする。でもあんまり詳しく知らないし」
「なるほど。あ、先に言っておきますけど、私で試したいとかはナシですからね」
とりあえず、釘を刺す。
「それはないっ」
ぱしゃ。
湯船のお湯を顔にかけられた。一応の釘刺しだってば!!! 顔にかけられたお湯を手で拭う。
一通り、必要であろう性の知識と避妊法を説明する。とても真剣に話を訊くので、私も真面目に話す。
「性行為だけでなく、手を繋ぐとかそういったボディタッチにも、セクシュアルコンセントは必要だということを忘れないでください」
卯月の頭を優しく撫で、話し続ける。
「その相手との性行為を望んでいるのか、お互いが性行為をしたいと思っている、適切な場所、正しい避妊方法をお互い認識していることが大切ですよ」
「無理強いはだめってことだね!」
「そういうことです~~睦月さんに言っといて」
浴槽に頬杖を付き、ため息をつく。はぁ。
「お兄ちゃんとはお風呂入らないの?」
「入りたくないです。今の私は保存食用に育てていたペットが実は肉食獣で、食べられそうになっている件です」
「何それ~~」
ニヤニヤしながら睦月さんとのことを訊いてくる卯月の肩に、顎を乗せ少し抱きしめる。
「セクシュアルコンセントを無視して近寄ってくるあの強靭メンタル。どうかしてますよ」
「あれはもはや溺愛~~私はこんな状況でフツーに抱きしめてくる如月もどうかしてると思うけどね~~」
「え? ただの愛情表現でした」
「お兄ちゃんにしてあげなよ……」
ゆっくり話しながら湯船に浸かっていると、心も体も温まり、いつの間にかリラックスしていた。はじめに感じた不安はいつの間にかどこかへ消え去り、自然とぼんやりタイムに突入する。
睦月さんが私のことを意識するようになり、自分からスキンシップを取ることが出来なくなっていた。
傷つけたくないという気持ちが先行し、どんな距離感で触れて良いのか、分からなくなる。恋人ってどんな感じだったかな。中々思い出せない。
「暑いからそろそろ上がるね」
「はーい」
卯月が立ち上がり、浴槽から出て、折り戸を開けた。
「お兄ちゃん呼んでくるね」
「はーい……て、呼ばなくていいですって!」
「そんな愛しそうな顔で考えごとされても説得力ないよぉ~~お先ぃ~~」
行ってしまった!!! 早く出よう、危険だ!!!
浴室を出ると体育座りをした睦月が待っていた。話を聞いていたのか、呼ばれてきたのかは分からないけど。
だが、今の私はリラックスしている。そして最高に気分が良い。
水滴のついた体を拭きあげ、着替えを済ませた。後ろから睦月を抱きしめて座る。近づいたことで、首元から睦月の甘い匂いを感じ、気持ちが昂る。口を尖らせ拗ねたような表情を浮かべる睦月に顔を近づけた。
「あ~~ムラムラしてきました」
「へ? ーーっあ」
後ろから首筋にキスをする。ほんのり赤く染まる頬と驚いて体をうねる姿が可愛くて、何度も首筋に唇を付けていく。
ちゅ。ちゅ。
「~~っ 卯月みてる! ダメだってばぁ~~」
「まだよそ見する余裕がありそうですね。あーー、愛欲に溺れろでしたっけ? 私以外見えなくしてあげますよ」
片手をTシャツの下へ忍ばせ、肌に触れる。
「セクシュアルコンセントはぁ」
「そんな顔で言われてもねぇ、同意してるとしか思えませんね」
睦月の体が熱を帯び、目がとろんとしている。まだ何もしてないのに早いですよ、睦月さん。顎を掴み顔の向きを変えさせ、唇を重ねる。
「あぁ、もう~~んっーー」
ここから先は、卯月さんには見せられないな。
脚で脱衣所のドアをそっとスライドさせ、閉めた。
13
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる