如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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8話 誰かと同じである必要なんてない!恋愛のカテゴリ分けはナンセンス?!

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 ゴールデンウィークも終わり、怠けた体を引きずり職場へ向かう。久しぶりに二駅分歩いた体は悲鳴をあげた。オフィスに着くと、神谷から声をかけられた。


「おはよ」
「あーー、おはよう」


 自分の席に着き、鞄を置く。なんだか少し、周りから視線を感じる気がする。


「今日からまた仕事だね」
「だるー」


 朝礼が終わり、仕事が始まる。領収書を一枚一枚、チェックしていく。


 はぁ、眠い。如月は今何してるかな。如月のことを考えるだけで、思わず笑みが溢れる。


 手は自然に指輪へ触れた。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー


「ん~~っっ」


 作業をしているうちにあっという間に昼休み。同じ姿勢で固まった体を、両手を伸ばし、背伸びをしてほぐす。鞄から弁当を取り出し、昼食の準備を始めると神谷に肩を叩かれた。


「なにー?」
「一緒に食べない?」
「いいけど。社食行く?」
「コンビニで買ってきたから外へ行こう」


 広げようとした弁当箱を手に持ち、イスから立ち上がる。神谷と一緒に席を離れた。


 神谷とは歳が近いということもあり、気兼ねなく、なんでも話せる。同僚であり、友達でもある。そんな存在だ。


 オフィス外構のベンチに2人で腰掛ける。空はどんよりとした曇り空で、雨の匂いが漂う。室内干しにしてきて良かった。


「表情柔らかすぎ、変」
「そんなことはないですぅ~~」


 神谷に訝しげな眼差しを向けられつつも、膝の上で、ランチクロスをほどく。


「じゃあ、この指輪はなんですか~~。指輪を見て、女の子たちがみんな固まってたよ」


 神谷が口の中にパンを口に入れながら、俺の指輪を指差した。


 カミングアウトする?


 する、しないに関わらず、恋人の存在は伝えるべきだ。


「恋人が出来た」


 とりあえず性別は明かさなくていっか。


「へーー。どんな子? 可愛いの?」


 やはり、女性が前提だ。


「可愛いし、めっちゃキレイ」


 嘘は言ってない。でも、女性を指すような意味合いにはなるかな。


「写真ないの?」
「あるけど……」


 こんな形で説明せずにカミングアウトして大丈夫なのか? だけど、隠すつもりは微塵もない。一歩踏み出す、この瞬間は緊張と不安で落ち着かない気分になる。


 ポケットからスマホを取り出し、スマホの待ち受け画面を神谷に見せた。待ち受けは卯月と如月の3人で撮った双子コーデの写真だ。


「めっちゃ年下だね」


 当然のように卯月のことを言ってきた。


「それは妹なんだな~~。こっち」
「え、男じゃん」


 俺の突然のカミングアウトにびっくりして、神谷が目を見開いている。


「まぁ、そうだね」
「いいと思うよ。人それぞれだしね」


 当たり障りない言葉を受ける。それ以外、どう反応していいか神谷も分からないのだろう。


 ばん!!


 神谷に背中が強く叩かれた。


「引いてないから!」
「ほんとに? 結構マジだから、引かれると傷つくんですけどぉ」
「そっち行くとは思わなかっただけ! 社内の女子可哀想~~。お前、人気高かったのに~~」


 誰かの視線を感じたような気がして、周囲を見渡す。辺りには自分たち以外、誰もいない。気のせい?


 食べ終わった弁当箱をランチクロスで包み、片付けていく。もう休憩時間も終わり。


「ま、気をつけろよ」
「何に?」


 ベンチから立ちあがり、神谷と世間話をしながらオフィスへと歩き始めた。


 自分が所属している部署へ戻ると、なんだか署内が騒がしい。オフィスは女子たちの小さな話し声でざわざわしている。気にせず自分の席に着くが、嫌でも話し声は耳に入ってきた。


「佐野さんに恋人出来たって本当ですかぁ?」
「後ろでご飯食べてたから聞こえちゃったので確かな情報です」
「しかも女じゃない」
「ゲイだったの?! やば」
「私、休みの日佐野さんとデートしたことありますよ~~。誘ったら普通に会ってくれましたし、それホントなんですか?」


 んーーうざ。


 飛び交う噂話に鬱陶しさを感じながらも、ひとつの疑問が生じる。


 自分のセクシュアルマイノリティって何?


 性自認はしている。自分が心も体も男性だということは認識している。如月に対して、恋愛感情を抱き、本人には言えないが、性的魅力も感じる。


 性自認が『男性』の如月を好きになっているのか? その上で、『女性』にも性的魅力を感じるのか?


 あれ? わからないーー。


「ーー野っーー佐野!」


 神谷に肩をゆすられハッと我に帰る。


「考えすぎて、意識どっかいってたわ」
「周りのことは気にするな」


 どうやら気遣ってくれているようだ。


「え? あぁ、そうだね。一言、言ってくるわ」
「そんなことしたら、また異動になるぞ」


 席を立ち、噂話がする方へ向かうと、神谷が呆れながら、後ろからついてきた。


 *


「如月、ただいまぁ~~」
「おかえりなさい」


 私は家へ帰るなり、和室の襖を開けた。キーボードを叩く手を止め、画面から顔を上げた如月と目が合った。和室に入り、如月の隣へ座る。


「如月~~。あのね、進路が決まらない……」
「実力に見合ったところを受ければ良いのでは」


 如月はノートパソコンを閉じ、私の方へ身体を向けた。


「確かに。あとね、その……」


 私は恥ずかしくて、中々口に出せなくなる。スカートの裾をぎゅっと握り、言葉を続けた。


「スポーツブラやめたい……」
「はい?」


 ずっと気になっていた。お風呂上がりに鏡で映る自分の身体のこと。身長は伸び、いつのまにか胸は膨らみ、体は柔らかく丸みを帯びてきて、女性らしくなっている。


 私は兄と如月が付き合うようになってから、成長していく体と性への関心が強まっていた。


 星奈はどこか幼く、少女的で思うように相談出来ずにいた。如月は私を上から下まで舐めるように見て、口を開いた。


 その目線に少しドキドキしてしまう。色んなことが多感になるこの頃。


「買いましょう、卯月さんが危険です」
「一緒に来てくれる?」
「なんで私が!!! 行く訳ないでしょう!!!」


 あれ、なんか耳赤くなってる。


「じゃあ、勉強終わったら、ネットで一緒に選んでね」
「一緒に?!?!」
「どれ選んでいいか分からないもん~~」


 如月に無理矢理了承を取る。しばらくすると、如月はまた画面とにらめっこ。


 水滴がコンクリートに当たる音がする。雨だ。窓から外を見ると、パラパラと雨が降り始めていた。


「お兄ちゃん、傘持って行ったかな?」
「傘は荷物になるから持たない派とか言って持っていきませんでしたよ」


 如月が執筆をやめ、外出用の服に着替えている。


「傘、持って行くの?」
「えぇ、まぁ。駅まで行こうかなって。一緒に行きます?」
「ううん、行かない。中間テスト近いから勉強する」


 窓からしばらく雨を眺め、如月が家を出て行く姿を見送る。さぁ、勉強しよう。


 *


 噂話ばかりする女子たちに「俺が決めたこと。うるさい黙れ、仕事しろ」と最高の笑顔で伝えてから、オフィス内で噂話する者は居なくなった。


 時刻はまもなく終業時間となる。デスクの周りを片付け、帰る準備を始めた。


「お疲れ~~。女の子に『うるさい黙れ』はないわ~~」
「真実を言ったまでですわ。って、雨降ってきてるし~~」


 オフィスの窓から、しとしと降る雨を神谷と一緒に眺める。


「雨が強くなる前に早く帰ろう」




 退社する人間で溢れかえるエレベーターへ神谷と一緒に乗った。腕を組み、エレベーターの階数表示をぼーっと見つめる。


 エレベーターという小さな世界で色々な話が行き交う。複雑な人間関係が垣間見える気がして、空間に息苦しさを感じた。


「さっき外出た時、アンニュイなイケメンが傘さして会社の前に立っていたんですよーー」
「まだ居ますかねぇ?」
「連絡先交換したので聞いてみます~~」
「居るらしいです」
「眼福を得て帰ります~~」


 アンニュイなイケメン? 連絡先交換? いやまさかね。如月だったりする? 人目を気にするやつが傘を持って会社まで来るかな?


 う~~ん。


 如月かもしれないと考えたら、同時に腹も立つ。自分以外の誰かと連絡を取るなんて許せない。苛立ちで、組んだ腕を指でトントン叩く。


「あんま、イライラすんな! お疲れ!」


 エレベーターが1階に着くと、神谷は別れを告げ、足早に帰って行った。オフィスビルを出ると、傘を差した如月が伏し目がちに待っていた。


 本当に如月だった。


「傘、持ってきてくれたの?」
「えぇ。駅まで行こうと思ったのですが、会社まで来てしまいました。迷惑でしたか?」


 雨の中、如月の側に寄ると、差している傘を渡された。受け取らずに、傘の内側に入る。


「なんで入るんですか、傘2本ありますって」
「要らんし」


 如月が閉じている傘を押し付けてくる。


「私が使いますから、この傘持ってくださいよ」
「イヤだね~~」


 差している傘を受け取らない俺に対して、如月は目をキッとさせた。


 2人で1本の傘を差し、帰路に着く。


 雨の日は服も靴も濡れるし、憂鬱な気分になるが、こういうのは悪くない。雨音も心地よくすら思う。


 自分のセクシュアルマイノリティについては、何に該当するのかハッキリ分からない。


 恋愛のあり方、男女のセクシュアルが人によって違うのに、分類分けするという線引き自体が必要のないことなのかもしれない。


 だってそうだろう? みんな違って、みんな良いんだからさ。

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