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2話 思い込みだけで話を進めてはいけない!
しおりを挟むーー1時間前
今日は家庭訪問だ。如月の存在が不審に思われない対策として、私と如月は事前打ち合わせをすることにした。
「こういうのは大概、先に思い込ませたら勝ちだと思います。そのためには、嘘とほんの少しの真実を混ぜて伝えれば良いんですよ」
なるほど。如月がリビングのローテーブルを人差し指でとんとん、と叩く。考えてくれているようだ。嘘と真実……。
「こちら、遠い親戚の粗大ゴミです?」
「…………(バカなのかな)」
「今私のこと絶対バカだと思ったでしょ!!!!」
如月が淀んだ目をして私を見つめる。嘘と真実、ちゃんと混ぜたじゃん。そんな目で私を見るな。
「……親戚の叔父さんが遊びに来てます、でいいの?」
「そうですね」
何? 叔父さんはイヤなの? 不服そうな顔すんな!!! もう、わがままだなぁ!!!
ピンポーン。
「来た!!!!」
チャイムの音と共に、緊張が走る。玄関へ行き、覗き穴から相手を確認すると、担任の竹内先生がソワソワしながら立っているのが見えた。
ドアノブに手をかけ、先生にドアが当たらないように、そっと開ける。ドアの向こうに居る先生と目が合った。
「先生、こんにちわ。部屋の中へ入りますか?」
「玄関先で大丈夫です」
先生をドアの内側に招き入れ、ゆっくりドアを閉めると、先生は優しく微笑んだ。
「お邪魔します」
そういえば、昨年も玄関先だったかな? 近年は部屋の中へ入らないらしい。先生が玄関の段差に腰掛けたので、私も隣へ座る。
あ、飲み物!! 玄関先とはいえ、先生に何か飲み物は要るな!!! 昨年、何をしたのか全く覚えていない。兄が全てやってくれた説。
如月に飲み物持ってきてもらおう。
「きさーー」あ。
これダメなやつ!!!! 言いかけた言葉を飲む。でも先生は見逃してくれなかった。
「きさ?」
「……喫茶店でやるかと思いました」
「そんなところではやらないよ」
苦しすぎる言い訳!!! でも先生は笑ってるからオーケーだね!!! 誤魔化せた!!!
「おうちの人は居るかな?」
「きさーー喫茶店でやるかと思いました」
「…………」
何言ってんだ私!!!!!
さっきまで笑顔だった先生が無表情になった。せめて突っ込んで!!! いや、突っ込まれても困る!!!
「お茶、持って来たよ」
麦茶ポットと透明なコップをお盆に乗せ、如月が持って来てくれた。ぉお!!! 気が利く!!! 如月からお盆を受け取り、床へ置く。
「おうちの方ですか?」
「はい、お父さんです」
如月は真顔で答えた。
(打ち合わせと設定違うんですけどぉおおぉおぉ!)
嘘とほんの少しの真実どころか、嘘100%である。これ、絶対バレる案件。自分でお父さんとか言うか普通。あ、叔父さんが嫌だったとか? そんなことで変えるなよ。
この設定、不安すぎる!!!!
私たちのことなんて、お構いなしに先生はニコッと笑って、口を開いた。
「お父さんでしたか! お父さんかっこいいですね!」
如月がかっこいい? 先生の目が光り輝いている。如月の顔を見ると、見たことのないお洒落丸メガネをしていた。おまけにサラサラなセミロングの髪は軽くウェーブがかかっている。巻いたの?
(こっ、これは丸メガネ効果ーー)
平凡な顔面偏差値の男子でも、お洒落丸メガネをかけることで顔面偏差値がアップし、イケメンに見えてしまう、丸メガネ効果。そしてウェーブの髪にラフな茶色ベースのシャツと黒のテーパードパンツという王道丸メガネコーデ。知的さとイケメン感を演出している。
なお女子が丸メガネで効果を得るのは、顔面偏差値が高い人に限る。可愛い人が更に、可愛くなる魔法のメガネだ。 解説:佐野卯月
「まず、住所、ご連絡先はこちらで合っていますか?」
「え? あぁはい、大丈夫です(知らんけど)」
絶対分かってないだろ。如月が私の後ろに腰を下ろす。
「卯月さんは学校では真面目に過ごしています。みんなのやりたがらない掃除やゴミ捨てなど積極的にやってくださって、助かります」
「そうですか~~」
真面目に話を聞いているようだ。
学校といういつもの自分とは違う一面を知られてしまうみたいで、少し恥ずかしく思う。
「おうちでの卯月さんはどうですか?」
「いつも家事を手伝ってくれます(知らんけど)」
いいぞ、如月!!! もっと私を褒めろ!!! 心の中で応援する。
「進路希望についてなのですが、進路希望用紙には、『ごみ収集の人』と第一希望から第三希望まで書いてありましたが、どういう、いきさ「喫茶店でやるかと思いました」
如月は食い気味で被せた。
言ってみたかっただけだろ。絶対、今ので面倒くさいことになるよ。
先生はじとりと如月を見つめる。玄関先で続く無言の空間に、居た堪れなくなり、口を開いた。
「特に希望とかなかったから、適当に書いちゃいました~~」
苦笑いしかない。適当に書いたことは事実。頭をぐしゃぐしゃと掻く。
「そうですか。ゴミ回収業はみんなの暮らしを支える素敵な仕事です。まだ時間はありますから、進路についてはまた一緒に考えていきましょうね」
「はぁい」
どうにか乗り切ったんじゃない?!?! これ!!!!
「お父さんも一緒に考えてあげてください」
「はーい、分かりました~~」
如月も先生と穏やかな雰囲気でいい感じ!!!
「あっ、今日はお母さんは「「喫茶店でやるかと思いました」」
「ちょっ!!! まだ終わってないですよ!!! 何?!?!」
私と如月は強めに被せる。強制終了。先生の背中を押して、笑顔で玄関の外へ無理やり追い出す。これ以上の詮索はダメです、先生。
「先生、麦茶です」
「ありがとうございます」
「…………(今更渡すかぁ?)」
如月にコップを渡され、先生は麦茶を一気に飲み干した。
「佐野さん、明日学校で。サボっちゃダメですよ。お父さん、お時間ありがとうございました」
「はーい」
「いえいえ。貴重な、お話ありがとうございました」
私と如月は玄関から出て、先生が帰る背中を見守った。
「なんとかなったね、お父さん」
「そうだね、娘よ」
私たちは顔を見合わせて大きな声で笑った。
ーー家庭訪問後、職員室にて
私は竹内夏菜子。今年の春に、この中学校に赴任してきたばかりの新任だ。本日分の家庭訪問を終え、職員室に戻ってきた。
「竹内~~、佐野さんの家はどうだった?」
「どうとは?」
主任の宮田だ。神妙な表情で話し始めた。
「佐野さんの家は震災でご両親が亡くなっていてな。震災自体の地域被害は少なかったんだが、不慮の事故で……。家庭環境に変わりはなかったかと思って。毎回少し気にしているんだ」
「へ?」
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私は今日覚えた究極の切り札を使った。
「喫茶店でやるかと思いました」
意味不明な言い訳をした私はこの後、主任にお説教されたが、佐野家を守ることには成功した。
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