如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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1話(4)なんだかんだ受け入れる兄はどうかしている?!

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 視力が良く、眼鏡など持っていない兄が突然眼鏡をかけ、眼鏡の横をクイっとあげた。眼鏡のクイやりたかっただけだろ。


「では、今から採用面接を行う!!!」
「よろしくお願いします」


 オジサン(?)が深々と頭を下げている。なんか面接っぽくなってきた!!!


「名前と年齢をどうぞ!!!」


(履歴書使わないんかい!!!)


如月弥生きさらぎやよい。42歳」
「二月か三月だか分からねー名前だな!!」
「お兄ちゃんは睦月で私は卯月だから、暦が揃ったね!」


 私の発言に白い目で2人が見てくる。何よぉ。事実を言っただけじゃん。兄の目が泳いでいる。何かこのオジサン(?)のことについて知ってるのだろうか?


「しょ…職業は?」


 兄が凄く躊躇っている。何かある。怪しい。


「小説家」
「あぁ……ううん……」
「何? 有名なの?」


 兄の歯切れの悪さと変な空気を感じ、追求する。


「何か代表作があるの? お兄ちゃんは読んだことあるの?」
「まぁ…読んだことないこともないし、コミカライズされたやつがうちに……ってお前は読まなくていい」
「はぁ?」


 思わず顔を顰める。何? 自分は読んでるし、持ってる(?)くせに私には読むなって言うの? 言ってることめちゃくちゃでしょ!!! 腹が立つな!!!


「如月、有名なの? 代表作教えてよ」
「子どもが読むようなものでは……」


 目線を逸らし、気まずそうにするところを見ると、教える気はなさそうだな。2人して隠して何?!?! 逆に気になるわ!!! 立ち上がり、如月の肩を掴み、激しく揺らした。このこのこの!!!


 ゆさゆさゆさゆさ。


「おーしーえーてー!!!!!」
「あ~~~~やめて!!! 言うから!!! そのゆさゆさやめて!!! 頭ガクガクする!!!」
「言うの?! マジで?! 本当に言うの?! やめない?!」


 兄が焦っているが、如月の方が私のゆさゆさに限界が来て、話し始めた。


「まぁメインは恋愛? もので、多分、お兄さんが読んでるのは私が適当に書いた『転生したらエロんんーーーーーー!!!!」
「それ以上言うなぁぁあぁあぁああ!!!!」


 兄は顔を真っ赤に染め、如月の口を両手で塞いだ。


 すん。


 冷たい目で2人を見る。もう、全文言わなくてもどんなジャンルの小説なのか、一瞬で理解した。兄が言おうとしないのはそういうこと。


 兄の手を剥がし、如月が手のひらを上に上げて話し始めた。なんか調子に乗ってきたな。こいつ、一旦、捨ててこようか。


「人生は選択の連続です。お兄さんが私をここに残すことも、妹さんが私をここに残すことも、私がここに残ることも、全てあなた自身が選んだことでしかない!!!」

「その選択の中に、この家から出て行くという選択肢を入れろぉおおぉおぉおお!!!!」


 兄は絶叫しながら職員室のスリッパで如月を叩いた。


 バシ。


 職員室のスリッパで叩かれようと、如月の話は止まらない。むしろなんかちょっと後光さしてる。


「睦月、如月、弥生、卯月。揃ってしまったのだ。これは最早、運命としか言いようがない!!!!」

「お前は1ページ前の神設定一旦忘れろ!!! あと、1人で2つ暦繋いでるのに揃ってるって言っていいのか!!!」


 私も如月を職員室のスリッパで叩いた。


 スパーン。


「あう」


 スリッパで叩かれた音と共に、如月はその場に倒れた。これは魂抜けたな。


 如月がこの家を出て行きたくないのは、よく分かった。そしてどうしてもここに、居座ろうとしている。連れて来たのは私だが、本当にこれで良かったのか。少し反省。


 兄は腕を組み、少し考えてから如月に訊いた。


「ノートパソコンがあればお金は稼げるの?」
「えぇ、まぁ。たぶん。ネットバンキングにログインさえできれば今の収入と貯金も分かります」


 兄は真面目な顔をして、畳をとんとん、と指先で叩いた。


「月六万。月六万稼いでこの家に入れるなら、衣食住全て提供する」
「月六万ですね、分かりました」


 不敵な笑みを浮かべている。自信があるようだ。


「お兄ちゃん、ありがとう」
「睦月さん、卯月さん、これからよろしくお願いします」
「よろしくね」
「よろしくー」


 如月と握手を交わし合う。なんかいい!!


「あぁ、そうだ、お兄ちゃん。明後日、家庭訪問なんだけど、そっちもよろしくね」
「急に言われても有給は取れないから無理」
「えーーどうするの??」


 兄は如月を指差してニヤリと笑った。


「そこにもう一人いるだろ、大人が。さ、解決だな」
「「え」」


 私と如月は顔を見合わせ、固まった。いやいやいや。如月で家庭訪問対応しろと? 無理だろ。


 担任は赴任して来たばかりの新しい先生。自分たちの家庭の事情など、あまり詳しくはないとは思う。知らんけど。そう考えれば大丈夫かも?!?!


(ま、なるようになるか)


 私はそんなことよりも如月が受け入れられたことにより、新しい家族が出来たみたいで嬉しかった。今日から新しい生活が始まると思うとワクワクする。


 兄と如月はノートパソコンを開きながら、何かをやっている。一緒に住む上で必要なことなのだろう。邪魔してはいけないなと思い、その場をそっと離れ、洗濯物を取り込みに行く。



 気づけばもう、夕方。



 私のわがままに付き合い、如月を受け入れてくれた兄には感謝しかない。



 お兄ちゃん、ありがとう。





 ーー次の日コンビニにて


 学校が終わり、ちょうど小腹も空いてきたので近所のコンビニへ寄った。「いらっしゃいませ~~」と聞いたことあるような、やる気のない声が店内に響いた。


 如月だった。


「小説で稼がないんかい!!!」
「逃げ場は必要なんだ……」


 如月は目を閉じて、拳をグッと握った。閉じた目からは涙が流れ落ちた。


 如月は時々、周囲を警戒して、店内を見渡す。この人は何かから逃げて、粗大ゴミ置き場に居たのかもしれない。そんな挙動不審な如月が面白くて、私はまたコンビニに来ることにした。


「如月、またあとでね」
「うん、またあとで。ありがとうございました~~」


 この後、店長にパパ活の疑いをかけられ、うまく弁明出来ず、如月はコンビニをクビになった。
 

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