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本編

駆ける彗星!(グ)

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「悪い!遅くなった!!!!」

大きい音を立てて私達は『ヨサク』に乱入した。
…正直、怖かった。皆が…仲が悪くなる気がしたから。しかし。

「遅いな、発生から1分。」

「お嬢??!大丈夫?!」

「八神さん…そんな言わないでも…ルイさん。無事でしたか。良かった。」

何時のメンバーに加え、多くの仲間が私達を出迎えてくれた。鼓動が遅くなっていく。
シバは苛立ちでも、不安でもなく…真剣な顔で話す。

「…いいか。今回はお嬢…ルイ狙った襲撃に間違いない。」

「その根拠は。」

ヤトが冷たい視線で問う。勿論シバは微動だにしない。

「…身内か、イミテーションが仕組んだ事だと思うからだ。」殆どの人が目を丸くする。ヤトは目を見開いた。

「…身内だとっ!!?お前は……仲間が裏切るとでも思っているのか!」
ヤトはいつもの冷静さを失い、早口で怒鳴る。

「…八神さん。今はこの状況の打開が最優先だと思います。」リュダか小さく窘めた。ヤトが俯く。

「そうだったな…。とりあえずお嬢は幹部の俺達が守る。おそらく前線で戦う事だろう。」

四人が私をチラ見する。前線…という事は戦いは避けられない…という事。

「それと、『緋雨団』は増援に警戒して入口付近、前線、ボスの警護に分担しろ、良いな。」

すると、フードを被った人達が小さく頷いた。
…そういえばアクセルが言っていた。
シバとアクセルで『緋雨団』という殺し専門の軍団を創っている…と。

「よし…時間も無い。とっとと片付けるぞ!!!」

「「「「「了解!!!」」」」」

ヨサクの中は覇気に満ち溢れ、各々の持ち場へと兵士は駆ける。
私は四人の後を追った。向かったのは玄関前。

その前のホールは…荒れていた。人の残骸。血飛沫。かつての美麗な屋敷は血の匂いしか残っていない。
すると急にシバが振り向く。青ざめた顔で。



「避けろ!!!!!!」



咄嗟に体が左へと浮いて動く。地に手を付けバランスを保ち、ヤツをひん剥く。
敵だ。
そう思ったのはおそらく私達全員だ。返り血のシャワーで彩ったソレはゆっくりと鋭い刃物を取り出す。
その時。





ーーーそれと同時に天井から沢山の人が姿を現した。…全部で、10人。




もちろん4対10なんて相当なハンデ。
…此処が、墓場になるかもしれないのに。


何でだろう…凄くワクワクするんですけど!!


すると、共鳴したように私達は四方に散る。
まず接近戦の3人…アクセル、シバ、私が斬りにかかる。
敵は予想が的中したようにハンドガンで応戦してきた!

シバは弾丸を出現させた二つの短刀…『煙刺し』と『血斬り』で食い止めた。
耳障りな金属音を立てながら『豆』をコロコロ落としていく。

一方アクセルはあのトマホークを出し、弾丸なんて問答無用で走る速度を増す。
シバの様に弾を避けたり処理するのではなく。…まるで自殺行為だ。
だが、彼はそれがいとも簡単に出来てしまうのだ。凄い才能だ。

私は演習で鍛えた素早さで弾を避けまくる。しかし、
服の布の先が無様にも弾け飛ぶ。胸が張り裂けそうだ。
今度は私達が喰らわせる番である。
シバが人の急所…心臓辺りを次から次へと刺していく。…かまいたちだ。
それに続く様にアクセルは狂気の表情を浮かべながら腹に切りを入れ、
腹の中身が見えるくらいで真っ二つに折っている。

…残念ながら私はそういう刃物を持っていない。…じゃあ、どうするのか。

殴って、蹴るのだ。それしかない。

勢いを出して引いた左腕をストロークの様に敵の腹に決めていく。
勿論、内臓が今にも弾け出そうな彼らはその場でコロリ、だ。
殴って蹴り、殴っては蹴る。しかし、そのコンボに水を差すモノが居た。

アクセルに腹をヤラれ死んで同然だったソレは目の前の宝に手を伸ばす。
宝の口が向かった先は勿論…


私の背中である。


私はソレに全く気づかない。しかし、異変にアクセルが気づく。


「お嬢ぉぉぉ!!!!」


彼のハスキーな声が直ぐに私の鼓膜へと走る。…振り返ると、弾丸だ。
スローモーションで見える。…死を感じる。


ズドン。


「…アクセル。お嬢を護りたいなら、まずは敵の確立した排除に臨むべき。」

声の主を上に滑らす。…リュダが二階で狙撃銃を構えていた。
リュダの弾丸に殺されたヤツは見事に急所を撃ち抜かれている。
リュダの居場所は二階と言っても狙いにくい位置だった。
しかし、それを簡単に撃ち抜くスナイパー…流石だ。
その時。



ーーーその場の敵が一斉に倒れこむ。



何事かと振り返ると右手を前に掲げたヤトがニヤッとして立っていた。


「ちょぉ?!今やってたのにぃ!!!ヤトのズル助!超能力とか反則!!!」

「お前らの処理が遅すぎたのがいけないと思う。さっきなんて何なんだ。」

シバの言う通り、ヤトはサイバー系が特に凄いが、特殊能力も使える。
遠くの敵を締め上げたりするのはゲームで言うとチーターというヤツ。

「それよりも!さっき無線でボスのところに繋いだが…本気でヤバそうだ、いくよ。」

ヤトは真顔で言う。私は冷汗が流れ、顔が怖ばる。

「ヤバイ…??」

「うん。…どうやら今回の襲撃のボスと名乗る人物が出てきたらしい。」

まさか…こんな大きな事だとは思っていなかった。
ボス…という事は、ソイツを倒すと、この世界に大きな影響も与えるだろう。

私達は全速力で敵ボスとカーナバルのボスが居る部屋に向かう。最初に来た、あの部屋。





…その時の私はその人が誰だったかなんて考えなかった。




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