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背徳のキッス
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『倉木アイス様』、と書かれた楽屋から、倉木アイスが飛び出して来る。髪留めを口にくわえ、両手で髪を束ね、会場のステージを目指してまっすぐに走って行く。
「どうしよう! どうやってフェスに戻ろう。ゆんゆさん、持ちこたえてくれているかな」
キャップをかぶったスタッフの一人が、「いま、楽屋を出ました」とインカムのマイクに伝える。
ステージのバックパネルの裏で、振り付けを確認していたダンサーたち、そのすき間を風のようにぬって走って行く倉木。
「えっ? いまの、倉木アイス?」
イヤホンを外して振り返る ドレッドヘアの女子高生。
「とにかくステージに戻らなきゃ、説明は後あと、司会の人がきっとうまくフォローしてくれる」
アルミ製の黒いステップを駆けのぼり、せまい袖パネルの裏に立ち、倉木がひと呼吸置いていると、突然彼女の新曲が流れ出す。
「あれ?」
頭上の巨大スピーカーを見上げ、それからステージを覗き込もうとする倉木、その手にそっとマイクが手渡される。
「気ぃ、抜けているぞ。しっかり」
ドンと背中を押され、よろめきながらステージに現れる倉木、後ろを振り返った刹那に二色の髪の色が見えた。
「それでは倉木アイスさんの最新ヒット曲で、『キッシング・ベリー』です、どーぞ」
ワーッと客席が歓喜に包まれ、司会者が会場をあおりながらステージを去って行く。
前を向くと、そこにはトップアイドルのまぶしい笑顔があった。何事もなかったかのように、そこから彼女のキレッキレのダンスが始まる。
「ふぅー、ギリギリセーフ」
田淵がパイプ椅子に腰掛けて、大きく安堵の胸をなでおろす。
「首の皮いちまいってところか」
ポン太が深く腕を組んで、
「しっかしリクルのやつ、なんで倉木が来るタイミングが分かったんだ?」
田淵が自分の耳を指差して、
「イヤモニ(インイヤーモニター)でスタッフから随時倉木の到着状況を聞いていたのでしょう。ここのスタッフはボランティアって話だけど、優秀だわ」
「それにしても、あいつ相当賭けに出ている。賭けに出過ぎだ。もうオケまで流しちゃ、ちょっとでも倉木の出番が遅れたら放送事故だ。それをまざまざと成功させて、この会場の盛り上がりだ。度胸あるなあの女、俺ぁ心底感心した」
夏を生み出すカゲキな太陽、それが一日の役目を終えてスーッと海まで落ちると、浜辺は一気にフォトジェニックなサンセットビューへと変わる。
フェスのクライマックスを堪能して、興奮冷めやらぬといった金田たち一行は、オレンジ色に染まる渚を広って歩いていた。
「すごかったでしゅね、あんな近くでアイドルを見たのは初めてでしゅよ」
相羽がサメの尾ひれをフリフリする。
「ホントだねー、席なんてあってないようなものだから、柵から手を伸ばせばアイドルとタッチできそうだったよ」
そう言って海老原はスナック菓子の袋に手を入れる。
「そんな菓子まみれの手、誰がタッチするかっての」
後ろ歩きになりながら、雛形がしっしと手を払う。
「そりゃ僕だってアイドルとタッチする時はちゃんと手を拭くよ」とTシャツを使ってごしごしと手を拭いて見せる海老原。
「ギャー、それやめろ! 気色わるい」
ゾゾゾと雛形が寒気を感じる。
ビーチパラソルを閉じたり、浮き輪の入ったワゴンを移動させたりと、あちこちの浜茶屋で閉店の準備が始まる。
立ち止まって夕日の海を撮影していた久遠が、
「結局あれから八木のやつ一回も顔を出さなかったな」
海老原もオレンジ色に顔を染めながら、
「ホントだねー、ちょっと顔を見せたかと思えばそれっきりだもんね。なんかバタバタしていた感じだったけど」
それを聞いて金田が口を開けた時、遠くから八木の声が聞こえて来た。
「みんなー、ごめーん、遅くなっちゃったー」
渚を歩く五人がいっせいに振り返る。
急に金田が大きな声を出して、
「おー、これはこれは、たまたま立ち寄った浜茶屋が親戚の経営している店で、人手不足から一日中こき使われていた八木じゃないか!」
久遠が金田に顔を近づけて、
「誰に説明してんだ? お前」
食べ終わった菓子の袋を覗き込んで、海老原、
「ふーん、そうだったの。せっかくの海水浴なのに、かわいそうな一日だったね。その分だと今日は一回も海に入ってないんじゃない?」
そこで金田と八木は顔を合わせ、あれだけ長い間海を泳いだのに、とひそかに笑い合う。
「ちょーっとー、なに今の、見過ごすわけにはいかないんだけどぉ。いま目配せしたでしょう」
雛形が二人の間に割って入る。
「まだデートが終わったわけじゃないんだからね。みんなあっちへ行ってよ あっちへ。ほら行った 行った」
雛形に背中を押され、惰性で少し歩く久遠、
「そういや今日はそういう設定だったな、フェスが楽しすぎてすっかり忘れていた」
ある程度みんなと離れた所で、雛形が金田の腕を引っ張って波打ち際を走って行く。行く当てのない久遠たち一行は、近くの浜茶屋の パーテーション代わりに使われたサーフボードの裏に隠れる。
「少し金田がかわいそうに思えて来たでしゅよ。強引過ぎでしゅ、雛形さん」
年季の入ったサーフボードからサメが顔を出す。
「だよねー、一日中ふりまわされっ放しで、さすがに金田もげんなりした様子だった」
言いながら海老原が二袋目のスナック菓子を開ける。
「ま、まだ食べるの」と八木が笑顔に汗をかく。
「お、おい、二人に動きがあったぞ」
久遠がサーフボートの影から眼鏡を光らせる。
夕日に向かって金田がガッツポーズを見せる。
「おーし! これでお前とのデートは終わりだ。なげー一日だったぜーまったく。
約束だからな、次の実行委員会には絶対に出席しろよな」
雛形はあごに人差し指を置いて、
「うーん、これでデートが終わりっていうのも、何か物足らないのよねー。ただ海に遊びに来ただけのような」
金田が眉をひそめる。
「遊びに来た以外に何がある」
「何って、これはデートなのー、遊びじゃないんだからねー。ここで帰ったらあたしたち、友達と何も変わらないじゃない」
「だから俺ら友達」
「あ そーだ」と雛形が相手の言葉を打ち消すように大きく手を叩いて、
「ねえ金田、あたしとキスしてよ。お別れのキッス」
「はあ⁉」と金田がガニ股になって両腕を振り下ろす。
「いいじゃない、せっかくのデートなんだから、それくらいサービス サービス」
人差し指を立ててウインクをして見せる雛形。
ガーといって火を吹くゴジラのように暴れて見せる金田。
「なに言ってんだお前! 調子に乗ってんじゃねーよ、そんなのできるわけねーだろ!」
「あー、そ。ふーん、そ。じゃーあたし、実行委員会には参加しなーい」
ソッポを向いて腕を組む雛形、その周りを金田が走り回る。
「ちょっと待ってくれよ! これだけお前に付き合ってやったんだぞ? それを最後の最後で台無しにする気かよ! そりゃないぜーまったく!」
後ろ手に組んだ雛形が素っ気なく歩き出す。
「台無しだなんて、そんなんじゃないじゃない。今からあたしとキスをすれば、今日のデートはこれにて終了、次の実行委員会にあたしは参加する。これって、ハッピーエンドじゃない?」
ぐぬぬと金田が右手のこぶしを上げて、
「デートはいい、最悪デートはいいとして、キスはダメだろう。それはカップルがいい感じになってやるやつだ」
足を止めて雛形がぐいっと金田の顔に近づける。
「そんーなに、あたしとキスするのが嫌なわけ? 失礼しちゃうわ まったく。こんな可愛い子とキスができるなんて、反対に感謝してほしいくらいだわ」
「お前のその底なしの自信はどこから来るんだ?」
雛形は横を向いてゆっくりと腕を組んで、
「あんたの大好きな倉木アイスだって、ドラマではキスシーンがあったわけなんだし」
「あれは仕事だから仕方がない」
うんうんと悟ったような顔を見せる金田。
「じゃあこれも委員長の仕事だと思えばいいんじゃない?」
「どこの委員長の仕事にキスなんてあるんだよ!」
さらに何か言おうと口を開ける雛形、そこで急に気を変えてだしぬけに明るい声を出して、
「あ、そーだ。ねえねえ、さっきのフェスで倉木アイスの写真を撮ったんだけど、見る? 結構接近して撮れたのよねー、これなんだけど」
そういって金田に携帯電話の画面を向けると、
「えっ! どれどれ!」と反射的に金田が雛形の前に顔を突き出す。
「スキあり」
「!」
静かに目を閉じる雛形、大きく目を見ひらく金田。
「ギャー、ちょ、ちょっと、見るでしゅよあの二人! 金田と雛形さんがキ、キ、キスをしているでしゅよー!」
サーフボードからあわててサメが飛び出す。
「マジかー! やるなー金田」と興奮した海老原が口の中に菓子を詰め込んで、
「金田からキスをしに行ったように見えたけど、どういう風の吹き回しなんだろうね。あれだけ雛形の事を煙たがっていたのに」
サメが腹ヒレで赤い頬を隠す。
「あの二人、じつはずっと前から付き合っていたりして」
その時めきめきと木の裂ける音がした。
「!」
おどろいて三人がふり返ると、八木が折れたサーフボードを手に笑っていた。
「あれ? このサーフボード、折れちゃった」
久遠は眼鏡を掛け直して、コンコンとサーフボードを叩いてみる。
「これ、バルサ材を使った頑丈なサーフボードだぞ? どうやったらこんなふうにへし折れるんだ?」
八木は笑顔に青筋を立ててその場から歩き去って行った。
「どうしよう! どうやってフェスに戻ろう。ゆんゆさん、持ちこたえてくれているかな」
キャップをかぶったスタッフの一人が、「いま、楽屋を出ました」とインカムのマイクに伝える。
ステージのバックパネルの裏で、振り付けを確認していたダンサーたち、そのすき間を風のようにぬって走って行く倉木。
「えっ? いまの、倉木アイス?」
イヤホンを外して振り返る ドレッドヘアの女子高生。
「とにかくステージに戻らなきゃ、説明は後あと、司会の人がきっとうまくフォローしてくれる」
アルミ製の黒いステップを駆けのぼり、せまい袖パネルの裏に立ち、倉木がひと呼吸置いていると、突然彼女の新曲が流れ出す。
「あれ?」
頭上の巨大スピーカーを見上げ、それからステージを覗き込もうとする倉木、その手にそっとマイクが手渡される。
「気ぃ、抜けているぞ。しっかり」
ドンと背中を押され、よろめきながらステージに現れる倉木、後ろを振り返った刹那に二色の髪の色が見えた。
「それでは倉木アイスさんの最新ヒット曲で、『キッシング・ベリー』です、どーぞ」
ワーッと客席が歓喜に包まれ、司会者が会場をあおりながらステージを去って行く。
前を向くと、そこにはトップアイドルのまぶしい笑顔があった。何事もなかったかのように、そこから彼女のキレッキレのダンスが始まる。
「ふぅー、ギリギリセーフ」
田淵がパイプ椅子に腰掛けて、大きく安堵の胸をなでおろす。
「首の皮いちまいってところか」
ポン太が深く腕を組んで、
「しっかしリクルのやつ、なんで倉木が来るタイミングが分かったんだ?」
田淵が自分の耳を指差して、
「イヤモニ(インイヤーモニター)でスタッフから随時倉木の到着状況を聞いていたのでしょう。ここのスタッフはボランティアって話だけど、優秀だわ」
「それにしても、あいつ相当賭けに出ている。賭けに出過ぎだ。もうオケまで流しちゃ、ちょっとでも倉木の出番が遅れたら放送事故だ。それをまざまざと成功させて、この会場の盛り上がりだ。度胸あるなあの女、俺ぁ心底感心した」
夏を生み出すカゲキな太陽、それが一日の役目を終えてスーッと海まで落ちると、浜辺は一気にフォトジェニックなサンセットビューへと変わる。
フェスのクライマックスを堪能して、興奮冷めやらぬといった金田たち一行は、オレンジ色に染まる渚を広って歩いていた。
「すごかったでしゅね、あんな近くでアイドルを見たのは初めてでしゅよ」
相羽がサメの尾ひれをフリフリする。
「ホントだねー、席なんてあってないようなものだから、柵から手を伸ばせばアイドルとタッチできそうだったよ」
そう言って海老原はスナック菓子の袋に手を入れる。
「そんな菓子まみれの手、誰がタッチするかっての」
後ろ歩きになりながら、雛形がしっしと手を払う。
「そりゃ僕だってアイドルとタッチする時はちゃんと手を拭くよ」とTシャツを使ってごしごしと手を拭いて見せる海老原。
「ギャー、それやめろ! 気色わるい」
ゾゾゾと雛形が寒気を感じる。
ビーチパラソルを閉じたり、浮き輪の入ったワゴンを移動させたりと、あちこちの浜茶屋で閉店の準備が始まる。
立ち止まって夕日の海を撮影していた久遠が、
「結局あれから八木のやつ一回も顔を出さなかったな」
海老原もオレンジ色に顔を染めながら、
「ホントだねー、ちょっと顔を見せたかと思えばそれっきりだもんね。なんかバタバタしていた感じだったけど」
それを聞いて金田が口を開けた時、遠くから八木の声が聞こえて来た。
「みんなー、ごめーん、遅くなっちゃったー」
渚を歩く五人がいっせいに振り返る。
急に金田が大きな声を出して、
「おー、これはこれは、たまたま立ち寄った浜茶屋が親戚の経営している店で、人手不足から一日中こき使われていた八木じゃないか!」
久遠が金田に顔を近づけて、
「誰に説明してんだ? お前」
食べ終わった菓子の袋を覗き込んで、海老原、
「ふーん、そうだったの。せっかくの海水浴なのに、かわいそうな一日だったね。その分だと今日は一回も海に入ってないんじゃない?」
そこで金田と八木は顔を合わせ、あれだけ長い間海を泳いだのに、とひそかに笑い合う。
「ちょーっとー、なに今の、見過ごすわけにはいかないんだけどぉ。いま目配せしたでしょう」
雛形が二人の間に割って入る。
「まだデートが終わったわけじゃないんだからね。みんなあっちへ行ってよ あっちへ。ほら行った 行った」
雛形に背中を押され、惰性で少し歩く久遠、
「そういや今日はそういう設定だったな、フェスが楽しすぎてすっかり忘れていた」
ある程度みんなと離れた所で、雛形が金田の腕を引っ張って波打ち際を走って行く。行く当てのない久遠たち一行は、近くの浜茶屋の パーテーション代わりに使われたサーフボードの裏に隠れる。
「少し金田がかわいそうに思えて来たでしゅよ。強引過ぎでしゅ、雛形さん」
年季の入ったサーフボードからサメが顔を出す。
「だよねー、一日中ふりまわされっ放しで、さすがに金田もげんなりした様子だった」
言いながら海老原が二袋目のスナック菓子を開ける。
「ま、まだ食べるの」と八木が笑顔に汗をかく。
「お、おい、二人に動きがあったぞ」
久遠がサーフボートの影から眼鏡を光らせる。
夕日に向かって金田がガッツポーズを見せる。
「おーし! これでお前とのデートは終わりだ。なげー一日だったぜーまったく。
約束だからな、次の実行委員会には絶対に出席しろよな」
雛形はあごに人差し指を置いて、
「うーん、これでデートが終わりっていうのも、何か物足らないのよねー。ただ海に遊びに来ただけのような」
金田が眉をひそめる。
「遊びに来た以外に何がある」
「何って、これはデートなのー、遊びじゃないんだからねー。ここで帰ったらあたしたち、友達と何も変わらないじゃない」
「だから俺ら友達」
「あ そーだ」と雛形が相手の言葉を打ち消すように大きく手を叩いて、
「ねえ金田、あたしとキスしてよ。お別れのキッス」
「はあ⁉」と金田がガニ股になって両腕を振り下ろす。
「いいじゃない、せっかくのデートなんだから、それくらいサービス サービス」
人差し指を立ててウインクをして見せる雛形。
ガーといって火を吹くゴジラのように暴れて見せる金田。
「なに言ってんだお前! 調子に乗ってんじゃねーよ、そんなのできるわけねーだろ!」
「あー、そ。ふーん、そ。じゃーあたし、実行委員会には参加しなーい」
ソッポを向いて腕を組む雛形、その周りを金田が走り回る。
「ちょっと待ってくれよ! これだけお前に付き合ってやったんだぞ? それを最後の最後で台無しにする気かよ! そりゃないぜーまったく!」
後ろ手に組んだ雛形が素っ気なく歩き出す。
「台無しだなんて、そんなんじゃないじゃない。今からあたしとキスをすれば、今日のデートはこれにて終了、次の実行委員会にあたしは参加する。これって、ハッピーエンドじゃない?」
ぐぬぬと金田が右手のこぶしを上げて、
「デートはいい、最悪デートはいいとして、キスはダメだろう。それはカップルがいい感じになってやるやつだ」
足を止めて雛形がぐいっと金田の顔に近づける。
「そんーなに、あたしとキスするのが嫌なわけ? 失礼しちゃうわ まったく。こんな可愛い子とキスができるなんて、反対に感謝してほしいくらいだわ」
「お前のその底なしの自信はどこから来るんだ?」
雛形は横を向いてゆっくりと腕を組んで、
「あんたの大好きな倉木アイスだって、ドラマではキスシーンがあったわけなんだし」
「あれは仕事だから仕方がない」
うんうんと悟ったような顔を見せる金田。
「じゃあこれも委員長の仕事だと思えばいいんじゃない?」
「どこの委員長の仕事にキスなんてあるんだよ!」
さらに何か言おうと口を開ける雛形、そこで急に気を変えてだしぬけに明るい声を出して、
「あ、そーだ。ねえねえ、さっきのフェスで倉木アイスの写真を撮ったんだけど、見る? 結構接近して撮れたのよねー、これなんだけど」
そういって金田に携帯電話の画面を向けると、
「えっ! どれどれ!」と反射的に金田が雛形の前に顔を突き出す。
「スキあり」
「!」
静かに目を閉じる雛形、大きく目を見ひらく金田。
「ギャー、ちょ、ちょっと、見るでしゅよあの二人! 金田と雛形さんがキ、キ、キスをしているでしゅよー!」
サーフボードからあわててサメが飛び出す。
「マジかー! やるなー金田」と興奮した海老原が口の中に菓子を詰め込んで、
「金田からキスをしに行ったように見えたけど、どういう風の吹き回しなんだろうね。あれだけ雛形の事を煙たがっていたのに」
サメが腹ヒレで赤い頬を隠す。
「あの二人、じつはずっと前から付き合っていたりして」
その時めきめきと木の裂ける音がした。
「!」
おどろいて三人がふり返ると、八木が折れたサーフボードを手に笑っていた。
「あれ? このサーフボード、折れちゃった」
久遠は眼鏡を掛け直して、コンコンとサーフボードを叩いてみる。
「これ、バルサ材を使った頑丈なサーフボードだぞ? どうやったらこんなふうにへし折れるんだ?」
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