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消えたギターの謎
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「ちゃーっす」
右手を上げて、地下のライブハウスへ入って行く早川。
照明の少ないカウンターで、髭のおじさんが ギターの弦の張り替えから 顔を上げる。
「あれー? どうしたの 早川くん。今日は何もイベントがなかったと思うけど」
「あー、今日はちょっと、店の中を見学させてもらおうと思って」
早川はくるくるとドラムスティックを回す。
「見学? 今さら何を言っているの? 早川くんはもうここの常連」
と言いかけて、同じように店へ入って来る 金田たちに目を動かす。
「こいつら、俺らの後輩バンドで、今度ここでライブをやりたいって」
歌舞伎役者のようなフサフサな髪のカツラをかぶった金田や、トゲトゲしいスタッズの付いた革ジャンを着た雛形が、
「よろしく」とガムを噛みながらそっぽを向く。
「ほう。これはまた、トガった後輩バンドだね」
後から入って来た八木と久遠は普通の制服姿で。
「いいっスか? 店長、ちょっと中 見させてもらっても」
再び店長は弦の張り替えを始める。
「別に構わないよ。今日は平日だから、スタジオの予約くらいしか入っていないし」
「サンキュー」と金田が 人差し指と小指を立てる メロイック・サインを見せて、「やめろ、バカ」と早川にたしなめられる。
「いやー、一回こういう格好をしてみたかったんだよなー。これでギターでも弾ければ最高だぜ」
フサフサと 歌舞伎役者の髪を揺らして、激しいエア・ギターを見せる金田。それを見て雛形もマイクを取り出して、
「あたしもー、いつかは声優仲間でバンド組んでみたいと思っていたんだよねー。もちろんあたしがヴォーカルだけど」
久遠が「はあ」と深いため息をついて、
「そんな古くさい衣装、いまどきどこ行きゃ売っているんだよ ったく、あちこちで目立ってしょうがない」
五人はスタジオが並ぶ通路を歩いて、防音ドアの小窓から中を覗いたりした。ひと部屋だけ明かりが点いていて、激しくドラムを叩く腕が見えた。あとの部屋は真っ暗だった。さらにその先の角を曲がって、金田は少し早足になって、
「おい 早川、いい加減 教えてくれよ。このライブハウスと、高木がギターを弾かなくなった理由、いったい何の関係があるんだよ」
早川はそれには答えず、近くのドアを開けて、パチッと部屋の電気を点ける。
「ここは 俺たちがライブをやる時に使う楽屋だ」
四畳くらいの小さな部屋。地下ともあり窓は一つもない。
「うわー、THE、ライブハウスの楽屋って感じー、有名人のサインとかあったりして」
はしゃぐ雛形が壁の落書きを見て回る。近くのロッカーにはすき間がないくらいステッカーが貼られていて、中央のテーブルには黒く汚れた灰皿が置いてあった。
久遠が部屋に入った途端「蒸し暑いな」とワイシャツの胸をパタつかせる。
「ここ『リキッド・ザ・タイム』は、ひとバンドにつき、ひと部屋の楽屋が用意される。だから、一回のライブに出演できるバンドは、部屋数の六組。こんなライブハウスは他にはない」
金田が投げてあったボロボロの雑誌をめくって、
「ふーん、なんで? 別に個室にしなくたって、相部屋でいいじゃん。そうすりゃ、もっと多くのバンドが出演できるし、みんなでワイワイ楽しいだろ」
早川はピッといって冷房を点ける。故障中と書かれたエアコンから風を感じ、お、直っている、と一人驚いた様子。
「それがな、金田。そんなのん気な事も言っていられないんだ。
ここでは昔 バンド同士の大きな乱闘騒ぎがあって、数多くの怪我人が出た。傷害事件として 警察も動いて、新聞にも載った。仲の悪いバンドって、結構多くてな、とにかくヤベー連中はヤベーんだ。その対策の一つとして、店長は六つの楽屋を用意した。ご丁寧に鍵まで付けて」
久遠は眼鏡に手をやって、
「それで? 俺たちにこの楽屋を見せて、お前は何を言いたい?」
「そうそう、高木の話はどこ行った?」と雛形が一つ一つロッカーの中身を確かめていると、早川はやれやれといった感じで、
「せっかちな野郎だぜ ったく。俺はずーっと高木の話をしているんだぜ?
じゃ、結論から言おう。
この楽屋で、高木のギターが盗まれた」
「え?」と四人が一斉に早川の顔を見る。
八木があごに手を置いて、すぐにハッとした表情に変わって、
「もしかして 高木くんって、ギターが盗まれたから バンドに参加しなくなったの?」
「そ。」と早川がタバコのヤニまみれの換気扇を見上げる。
「俺らもさ、高木のギターが無くなって、本気になって探したんだ。ステージから客席まで、手分けして探した。あいつも必死になって、自分のギターがどこかの中古楽器屋に売られていないか、ギターの特徴を言って店員にも協力してもらっていたけど、結局 手がかりは一つも見つからなかった。普通さ、バイクとかバスケットシューズとか、そういう高価な物が盗まれた時って、決まって怪しいやつの名前が出て来たりするものだろう? 例えば、誰それがギターを盗んであちこちに売りさばいている、とか、誰それは前々から高木のギターを狙っていた、とか。
だけど高木のギターに関しては、そういった話はいっさい出て来なかった。同じライブに参加したバンドのやつらだって、そんな悪そうなやつは一人もいなかった。
ある日突然 高木のレスポールギターだけが忽然と俺たちの前から姿を消した」
遠くから演奏の音が聞こえて来て、またすぐに聞こえなくなった。誰かがスタジオのドアを開けたらしい。
「それでも、次のライブは近づいて来るし、新曲も仕上げなきゃいけないし。あいつは仕方なく別のギターで練習に参加していたけど、どうやっても自分の音が出せない様子で、とにかくイラつきながらエフェクターを構っていた。俺ら的には、結構いい線行っているなと思っていたけど、(演奏の)途中であいつはキレて、ギターを投げてそのままスタジオから出て行った」
部屋の奥にある大きな鏡に、早川の話を聞いている四人の姿が映っていた。
「それもさ、無理もない話でさ。その盗まれたギターというのが 父の形見だって話なんだ。あいつは小さい頃から 親父にギターを教わっていて、『HASH!』という音楽雑誌が主催する全国ギターコンテストで、オーディエンス賞を受賞して、スーパー小学生ギタリストとしてテレビでも紹介された。親は親で『トレビュート・ラボ』というアマチュア・バンドで、若い頃から全米を回るツアーをやっていた。クラウディオ・ミラー指揮による、アンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏が、当時として珍しい二枚組のコンセプトアルバムとして発売され、今でも根強いファンがいるらしい。そんな偉大な父のギターを譲り受けて、小さな頃からずっとギターを練習して来たあいつは、その五本指を巧みに使ったキレ味抜群のカッティングは 親父のレスポールでしか出せないサウンドだって、いつも自慢していたっけ」
みんなの頭に ステージに立って笑顔でギターを弾く高木の姿が浮かんだ。
「そんな大切なギターを、誰かが盗んだって言うの? 許せない」
雛形がメリケンサックを見せる。
「お おい、どっからそんな凶器を」と間髪入れずに凶器を奪う久遠。
「ま、盗まれたと決まったわけじゃない。どう考えても ってやつだ」
金田が廊下をふり返って、
「盗まれた以外に考えられるかよ! 俺たちだってこんなにすんなりとここまで入って来られたじゃねーか。考えてみりゃ、さっきスタジオで練習していたやつらだって、ここへ来てギターを盗もうと思えば」
「それがな 金田。そんな簡単な話じゃないんだ。さっきのカウンターや、ライブ会場には、防犯上の理由で監視カメラが設置されている」
「ほう」と久遠の眼鏡が光る。
「ギターの盗難があった日、俺たちは店長に頼んで、当時の監視カメラの映像を確認させてもらった。そうしたら、楽屋へ通じる廊下を出入りするやつは、みんな、ライブに出演するバンドの連中だった。つまり、今回の盗難に関して、部外者が関わった可能性はゼロという事だ」
それを聞いた金田が、握りこぶしを前に突き出して、
「そこまで分かっているなら 話は簡単じゃねえか。その日 ライブに参加したやつらを一人一人しょっぴいて、お前がやったんだろうって締め上げればいい」
「昭和の刑事ドラマか」と久遠がこめかみに指を当てる。
「それが、できないんだよ」
「なんで! その日にライブに出演バンドは 六組か。お前らを抜かして五組、高木のギターを盗んだ犯人はそこまで絞り込めているんだろ? もう目星はついているじゃねえか!」
みんな、早川の次の言葉を待つ。
「よーし 金田」と早川は相手のこぶしを下におろして、
「これからギターが盗まれた当時の状況を再現してやる。出来るものなら、お前、あの時 犯人がやったように楽屋からギターを盗んでみろ」
ライブハウスの地下の廊下に、ドロボーの格好をした金田が顔を出す。曲がり角から大きく右足を出して、抜き足、差し足、忍び足。さっきまでいた楽屋のドアへ音もなく近づく。
「へ、こんなの楽勝じゃねえか。楽屋の前の廊下には監視カメラがない。だから、そうっと楽屋に忍び込んで、高木のギターを盗めばいい」
そう言って金田がドアノブをつかむと、
「あれ?」
ガチャガチャと激しくドアノブを鳴らす。
「お、おい 早川、汚ねーぞ、ドアに鍵を掛けたら、中に入れねーじゃねえか」
廊下の向こうからぞろぞろと四人がやって来る。
「分かったか 金田。当時 俺らは ライブが終わって、楽屋へ戻って、ちょっと一服した後、あまりの暑さから、近くのコンビニへ出掛けた。楽器は楽屋に置いたまま、こんなふうに部屋に鍵を掛けてな」
真剣な顔をして、八木が何かを考えている。
「そして一時間後に楽屋に戻ってみると、高木のギターケースは空っぽになっていた。もちろん戻って来た時には今みたいにちゃんと鍵は掛かっていた」
店長から借りて来た鍵を取り出して、早川はドアの鍵を開ける。
「だからな、金田。当時出演したバンドのやつらをとっちめて、口を割らそうとしても、どうやって鍵の掛かった部屋からギターが盗めるんだよ って反論されたら、俺らは何も言い返せない」
「密室殺人!」と金田が恐ろしい横顔を見せる。
「金田くん、誰も亡くなっていないって」
あきれ顔にアホ毛を見せる八木。
早川は窓のない楽屋を背に、みんなの方を振り返って、
「どうだ お前ら、この難解な謎を解いて、高木のギターを探し出して、もう一度あいつにギターを弾かせる事が出来るか」
右手を上げて、地下のライブハウスへ入って行く早川。
照明の少ないカウンターで、髭のおじさんが ギターの弦の張り替えから 顔を上げる。
「あれー? どうしたの 早川くん。今日は何もイベントがなかったと思うけど」
「あー、今日はちょっと、店の中を見学させてもらおうと思って」
早川はくるくるとドラムスティックを回す。
「見学? 今さら何を言っているの? 早川くんはもうここの常連」
と言いかけて、同じように店へ入って来る 金田たちに目を動かす。
「こいつら、俺らの後輩バンドで、今度ここでライブをやりたいって」
歌舞伎役者のようなフサフサな髪のカツラをかぶった金田や、トゲトゲしいスタッズの付いた革ジャンを着た雛形が、
「よろしく」とガムを噛みながらそっぽを向く。
「ほう。これはまた、トガった後輩バンドだね」
後から入って来た八木と久遠は普通の制服姿で。
「いいっスか? 店長、ちょっと中 見させてもらっても」
再び店長は弦の張り替えを始める。
「別に構わないよ。今日は平日だから、スタジオの予約くらいしか入っていないし」
「サンキュー」と金田が 人差し指と小指を立てる メロイック・サインを見せて、「やめろ、バカ」と早川にたしなめられる。
「いやー、一回こういう格好をしてみたかったんだよなー。これでギターでも弾ければ最高だぜ」
フサフサと 歌舞伎役者の髪を揺らして、激しいエア・ギターを見せる金田。それを見て雛形もマイクを取り出して、
「あたしもー、いつかは声優仲間でバンド組んでみたいと思っていたんだよねー。もちろんあたしがヴォーカルだけど」
久遠が「はあ」と深いため息をついて、
「そんな古くさい衣装、いまどきどこ行きゃ売っているんだよ ったく、あちこちで目立ってしょうがない」
五人はスタジオが並ぶ通路を歩いて、防音ドアの小窓から中を覗いたりした。ひと部屋だけ明かりが点いていて、激しくドラムを叩く腕が見えた。あとの部屋は真っ暗だった。さらにその先の角を曲がって、金田は少し早足になって、
「おい 早川、いい加減 教えてくれよ。このライブハウスと、高木がギターを弾かなくなった理由、いったい何の関係があるんだよ」
早川はそれには答えず、近くのドアを開けて、パチッと部屋の電気を点ける。
「ここは 俺たちがライブをやる時に使う楽屋だ」
四畳くらいの小さな部屋。地下ともあり窓は一つもない。
「うわー、THE、ライブハウスの楽屋って感じー、有名人のサインとかあったりして」
はしゃぐ雛形が壁の落書きを見て回る。近くのロッカーにはすき間がないくらいステッカーが貼られていて、中央のテーブルには黒く汚れた灰皿が置いてあった。
久遠が部屋に入った途端「蒸し暑いな」とワイシャツの胸をパタつかせる。
「ここ『リキッド・ザ・タイム』は、ひとバンドにつき、ひと部屋の楽屋が用意される。だから、一回のライブに出演できるバンドは、部屋数の六組。こんなライブハウスは他にはない」
金田が投げてあったボロボロの雑誌をめくって、
「ふーん、なんで? 別に個室にしなくたって、相部屋でいいじゃん。そうすりゃ、もっと多くのバンドが出演できるし、みんなでワイワイ楽しいだろ」
早川はピッといって冷房を点ける。故障中と書かれたエアコンから風を感じ、お、直っている、と一人驚いた様子。
「それがな、金田。そんなのん気な事も言っていられないんだ。
ここでは昔 バンド同士の大きな乱闘騒ぎがあって、数多くの怪我人が出た。傷害事件として 警察も動いて、新聞にも載った。仲の悪いバンドって、結構多くてな、とにかくヤベー連中はヤベーんだ。その対策の一つとして、店長は六つの楽屋を用意した。ご丁寧に鍵まで付けて」
久遠は眼鏡に手をやって、
「それで? 俺たちにこの楽屋を見せて、お前は何を言いたい?」
「そうそう、高木の話はどこ行った?」と雛形が一つ一つロッカーの中身を確かめていると、早川はやれやれといった感じで、
「せっかちな野郎だぜ ったく。俺はずーっと高木の話をしているんだぜ?
じゃ、結論から言おう。
この楽屋で、高木のギターが盗まれた」
「え?」と四人が一斉に早川の顔を見る。
八木があごに手を置いて、すぐにハッとした表情に変わって、
「もしかして 高木くんって、ギターが盗まれたから バンドに参加しなくなったの?」
「そ。」と早川がタバコのヤニまみれの換気扇を見上げる。
「俺らもさ、高木のギターが無くなって、本気になって探したんだ。ステージから客席まで、手分けして探した。あいつも必死になって、自分のギターがどこかの中古楽器屋に売られていないか、ギターの特徴を言って店員にも協力してもらっていたけど、結局 手がかりは一つも見つからなかった。普通さ、バイクとかバスケットシューズとか、そういう高価な物が盗まれた時って、決まって怪しいやつの名前が出て来たりするものだろう? 例えば、誰それがギターを盗んであちこちに売りさばいている、とか、誰それは前々から高木のギターを狙っていた、とか。
だけど高木のギターに関しては、そういった話はいっさい出て来なかった。同じライブに参加したバンドのやつらだって、そんな悪そうなやつは一人もいなかった。
ある日突然 高木のレスポールギターだけが忽然と俺たちの前から姿を消した」
遠くから演奏の音が聞こえて来て、またすぐに聞こえなくなった。誰かがスタジオのドアを開けたらしい。
「それでも、次のライブは近づいて来るし、新曲も仕上げなきゃいけないし。あいつは仕方なく別のギターで練習に参加していたけど、どうやっても自分の音が出せない様子で、とにかくイラつきながらエフェクターを構っていた。俺ら的には、結構いい線行っているなと思っていたけど、(演奏の)途中であいつはキレて、ギターを投げてそのままスタジオから出て行った」
部屋の奥にある大きな鏡に、早川の話を聞いている四人の姿が映っていた。
「それもさ、無理もない話でさ。その盗まれたギターというのが 父の形見だって話なんだ。あいつは小さい頃から 親父にギターを教わっていて、『HASH!』という音楽雑誌が主催する全国ギターコンテストで、オーディエンス賞を受賞して、スーパー小学生ギタリストとしてテレビでも紹介された。親は親で『トレビュート・ラボ』というアマチュア・バンドで、若い頃から全米を回るツアーをやっていた。クラウディオ・ミラー指揮による、アンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏が、当時として珍しい二枚組のコンセプトアルバムとして発売され、今でも根強いファンがいるらしい。そんな偉大な父のギターを譲り受けて、小さな頃からずっとギターを練習して来たあいつは、その五本指を巧みに使ったキレ味抜群のカッティングは 親父のレスポールでしか出せないサウンドだって、いつも自慢していたっけ」
みんなの頭に ステージに立って笑顔でギターを弾く高木の姿が浮かんだ。
「そんな大切なギターを、誰かが盗んだって言うの? 許せない」
雛形がメリケンサックを見せる。
「お おい、どっからそんな凶器を」と間髪入れずに凶器を奪う久遠。
「ま、盗まれたと決まったわけじゃない。どう考えても ってやつだ」
金田が廊下をふり返って、
「盗まれた以外に考えられるかよ! 俺たちだってこんなにすんなりとここまで入って来られたじゃねーか。考えてみりゃ、さっきスタジオで練習していたやつらだって、ここへ来てギターを盗もうと思えば」
「それがな 金田。そんな簡単な話じゃないんだ。さっきのカウンターや、ライブ会場には、防犯上の理由で監視カメラが設置されている」
「ほう」と久遠の眼鏡が光る。
「ギターの盗難があった日、俺たちは店長に頼んで、当時の監視カメラの映像を確認させてもらった。そうしたら、楽屋へ通じる廊下を出入りするやつは、みんな、ライブに出演するバンドの連中だった。つまり、今回の盗難に関して、部外者が関わった可能性はゼロという事だ」
それを聞いた金田が、握りこぶしを前に突き出して、
「そこまで分かっているなら 話は簡単じゃねえか。その日 ライブに参加したやつらを一人一人しょっぴいて、お前がやったんだろうって締め上げればいい」
「昭和の刑事ドラマか」と久遠がこめかみに指を当てる。
「それが、できないんだよ」
「なんで! その日にライブに出演バンドは 六組か。お前らを抜かして五組、高木のギターを盗んだ犯人はそこまで絞り込めているんだろ? もう目星はついているじゃねえか!」
みんな、早川の次の言葉を待つ。
「よーし 金田」と早川は相手のこぶしを下におろして、
「これからギターが盗まれた当時の状況を再現してやる。出来るものなら、お前、あの時 犯人がやったように楽屋からギターを盗んでみろ」
ライブハウスの地下の廊下に、ドロボーの格好をした金田が顔を出す。曲がり角から大きく右足を出して、抜き足、差し足、忍び足。さっきまでいた楽屋のドアへ音もなく近づく。
「へ、こんなの楽勝じゃねえか。楽屋の前の廊下には監視カメラがない。だから、そうっと楽屋に忍び込んで、高木のギターを盗めばいい」
そう言って金田がドアノブをつかむと、
「あれ?」
ガチャガチャと激しくドアノブを鳴らす。
「お、おい 早川、汚ねーぞ、ドアに鍵を掛けたら、中に入れねーじゃねえか」
廊下の向こうからぞろぞろと四人がやって来る。
「分かったか 金田。当時 俺らは ライブが終わって、楽屋へ戻って、ちょっと一服した後、あまりの暑さから、近くのコンビニへ出掛けた。楽器は楽屋に置いたまま、こんなふうに部屋に鍵を掛けてな」
真剣な顔をして、八木が何かを考えている。
「そして一時間後に楽屋に戻ってみると、高木のギターケースは空っぽになっていた。もちろん戻って来た時には今みたいにちゃんと鍵は掛かっていた」
店長から借りて来た鍵を取り出して、早川はドアの鍵を開ける。
「だからな、金田。当時出演したバンドのやつらをとっちめて、口を割らそうとしても、どうやって鍵の掛かった部屋からギターが盗めるんだよ って反論されたら、俺らは何も言い返せない」
「密室殺人!」と金田が恐ろしい横顔を見せる。
「金田くん、誰も亡くなっていないって」
あきれ顔にアホ毛を見せる八木。
早川は窓のない楽屋を背に、みんなの方を振り返って、
「どうだ お前ら、この難解な謎を解いて、高木のギターを探し出して、もう一度あいつにギターを弾かせる事が出来るか」
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