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プロローグ

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 高級 デザイナーズベッド、その上に、光沢のある シルクのベッドカバー。それが、そこで寝ている女性の、豪快な寝返りによって、大きくめくれ、大きくはだけ、そのベッドカバーから、プロポーション抜群の美しい脚があらわになった。
 周囲を見渡すと、和モダンな花台が置かれたり、壁一面の油彩アートが飾られたりと、その部屋はまるで、高級ホテルの一室のような、フォトジェニックな寝室だった。
 ヘッドボードに置かれた目覚まし時計が 突然、ピピピと鳴り出して、下から伸びて来た手によって、ピ……とアラームは止められた。
 大きなあくびが聞こえて来る。
「ふぁーあ、もう 朝かー。ぜんぜん眠れなかった」
 んーっと背伸びを一つして、ベッドから起き上がる女性、そのまま長い髪をかき上げて、くしゃくしゃっと適当に後ろへ流す。キャミソール姿で立ち上がり、リビングの方へ歩いて行って、冷蔵庫の中から牛乳を取り出す。パックの口を開けて、そこへ口を付けて、ごくごくといい飲みっぷりを見せる彼女。その後ろ、ガラステーブルの上に、ロゼシャンパンや、ボルドーワインなど、それらの空き瓶が並んでいて、テーブルの四隅にはグラスも置いてある。これを見る限り、昨夜この部屋で小さなパーティーが開かれていた事が分かる。
 女性は再び大きなあくびを見せて、テーブルからリモコンを拾うと、適当にテレビをつける。
『たった今入ったニュースです、ドラマ『やどかり刑事』のいずみ役で人気を博し、今や歌手としてもひっぱり凧の人気アイドル、倉木アイスさんが、昨夜遅く、休養宣言を出しました』
 リモコンをサイドテーブルに置く。
『詳しい事情は明らかになっていませんが、ドラマの撮影や、新曲のレコーディングなど、過密なスケジュールにより体調を崩したのではないかと、関係者の間で憶測が飛び交っています。仕事をセーブしながらも体調回復に努める、と言った所でしょうか』
『そうですね、私もアイドル時代、あまりの忙しさから、不眠に悩まされた時期がありました。今でも私は睡眠衛生の指導を受けています。倉木さんもそうならないよう、しっかりとお休みをとって頂いて、また元気なお姿を私たちに見せてもらいたいものですね』
「体調不良?」
『詳しい情報については、今後 所属事務所から発表される予定となっています』
「なんで、誰がそんなこと」
 近くにある固定電話の、『留守』というボタンが、音も無く点滅している。
「…………………」
 少し考えてから、そっと『留守』のボタンを押してみる。
『こらー、電話に出ろー、無視すんなー、今回の件、あたしは絶対に許さないからなー、勝手にこんな事をして、タダで済むと思っているのかーコラー。折り返し電話を寄越せー』
 思わず耳をふさいで、留守番電話の再生を止める彼女。
「もう、まだ怒っているみたい。仕方ないじゃない、何回言っても分かってくれないんだから。結局、こうするしかなかったのよ。悪く思わないでね、マネージャー」
 時計の針を見て、「やば」と言ってキャミソールを脱ぐ女性。クローゼットの中からセーラー服を取り出して、急いでそれに袖を通す。姿見の前に立って、スカートのファスナーを上げた所で、ひと言。
「良かった、まだ着られるみたい」
 ブラウスの胸に手を当てて、ルンルンと体を一回転させる。その反動で、スカートが広がり、太ももの辺りまで見えた所で、あわててそれを両手で押さえる。
「(制服の)スカートって、こんなに短かったっけ。はしたない、はしたない。気を付けなきゃ」
 鏡台の前に座って、丁寧に髪を梳かす彼女、首の後ろで髪を結び、おくれ毛をミストで直し、きれいに前髪をそろえて行く。最後に赤い丸眼鏡を掛けて、鏡に向かってニッコリほほ笑み掛ける。
「これでよし と」
 通学用のカバンを肩に掛け、広いバルコニーに出て来る彼女、強い朝の日差しを浴びながら、手摺りの所まで走って行って、
「さてと、準備は整いました。この街のみなさん、私 これからこの街にお世話になる事になりました、八木里子と申します。ふつつか者ではありますが、ご指導ご鞭撻のほど、 よろしくお願いします」
 そう言って彼女は、朝もやの街並みに向かって、大きく一礼を見せた。
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