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4. 相合傘

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紫苑くんにクッキーを渡したあと、少し英語の勉強をして。この日の勉強を終えたわたしたちが昇降口まで行くと、外はザーザーと雨が降っていた。


先週梅雨入りしたけれど、今朝は晴れていたから。うっかり、傘を持ってくるのを忘れてしまったわたし。


「どうしよう。今日、傘持ってきてないのに」


梅雨なのに傘を忘れるなんて、わたしのバカ……!

濡れるのは嫌だし、雨が止むまでもう少し学校に残っていようかな。


「あの、紫苑くん。わたし……」


わたしが雨宿りしていこうと思っていることを言おうとすると、紫苑くんが隣で青色の折りたたみ傘を広げた。


「咲来は、家の車が迎えに来るの?」

「いや。わたしは……徒歩通学だから」


聖来は、いつも家のリムジンで送迎してもらっているけど。なぜかわたしだけ、それを許してもらえていない。

お母さんが言うには、『贅沢はダメ。あくまでも、普通の中学生らしく生活しなさい』とのこと。


「そっか。それなら、俺と一緒だな」


紫苑くんが、わたしのほうへと傘を差しかけてくる。


「紫苑くん?」

「咲来。もし傘を忘れたのなら、良ければ俺の傘に入ってく?」

「えっ、いいの?」

「ああ。雨宿りしていたら、帰るのもっと遅くなっちゃうだろ?」

「それじゃあ……お願いします」


こうしてわたしは、紫苑くんの傘に入れてもらうことになったのだが──。


……ち、近い。


学校の校門を出て、わたしと紫苑くんは小さな折り畳み傘の中で肩を寄せ合うようにして歩いている。


まさか、紫苑くんと相合傘をすることになるなんて思ってもみなかった。


「咲来、もっとこっち来て。濡れるだろ」


わたしが少しでも紫苑くんと距離を取ろうと彼から離れようとするとすぐにバレてしまい、紫苑くんのほうへと腕をぐいっと引き寄せられてしまう。


きゃーっ。


「ごっ、ごめん!」


その際にわたしの肩が紫苑くんの腕に当たってしまい、わたしは慌てて謝る。


さっきからわたしの心臓は、尋常じゃないくらいにバクバクとうるさくて。


こんなに距離が近かったら、わたしの心臓の音が紫苑くんに聞こえちゃいそうだよ……っ。


うつむいていた顔を上げると、雨はまだ止みそうになくて。


ザーザーと降りしきる雨の音が、この心音を隠してくれますように。


そう思いながらわたしは、学校から家までの道を歩いた。



学校から15分ほど歩いて、家に到着。


「紫苑くん。家まで送ってくれてありがとう」

「ううん。ていうか、咲来の家ってやっぱり豪邸なんだね」


家の前まで送ってくれた紫苑くんが、大きな門構えの三階建ての我が家を見て言う。


「そ、そうかな?」

「うん。咲来の親の会社、ミナセホールディングスだったっけ?」

「そうだよ。あの……ちなみに、紫苑くんのおうちは? お父さんはやっぱり、会社の社長さんか何か?」

「え、俺んち?」


紫苑くんの眉が、ピクっと動くのが分かった。


「あー……俺の家は、ごくフツーのサラリーマンの一般家庭だよ。だから、家も普通」


そういえば、紫苑くんの家の話は一度も聞いたことがなかったなと思って、ほんの軽い気持ちで聞いてみたんだけど。

もしかして、聞いたらまずかったかな?


「悪い。家のこと、あまり触れられたくなくて」


ふいっと、わたしから顔を背ける紫苑くん。


「ごっ、ごめん。余計なことを聞いてしまって。それより紫苑くん、肩濡れて……」


帰り道を歩いているとき紫苑くん、ほとんどわたしのほうへと傘を差しかけてくれていたから。


「わたし、家からすぐにタオル持ってくるから。良かったら玄関で待ってて」

「いいよ。ウチ、ここから近いし。それじゃあ咲来、また明日ね」


それだけ言うと、紫苑くんは早足でわたしの家から去って行ってしまった。


家の話をした辺りから、明らかに紫苑くんの様子が変だった。

どうしよう。わたし……もしかして紫苑くんのこと、怒らせてしまったかな?


それからわたしは家に入ってすぐに自分の部屋に行き、【さっきは本当にごめんね】と、紫苑くんにスマートフォンからメッセージを送ったけれど。

メッセージに既読がついたのみで、その日彼から返事が来ることはなかった。
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