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9. 紫苑くんの先生
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数日後。
今日の3限目は家庭科の授業のため、わたしはナナちゃんとミサキちゃんと3人で家庭科室へと移動中。
「ナナ、お裁縫って苦手なんだよね」
「あたしも~」
「確かに、難しいよね」
3人で話しながら歩いていると、前から走ってきた聖来がすれ違いざまにわたしの肩にぶつかってきた。
「きゃっ!」
──ガシャーン!!
その弾みで、わたしが持っていた裁縫セットが落ちてしまった。
縫い針やハサミ、チャコペンシルなどの裁縫道具が中から飛びだし、廊下に散らばってしまう。
「もう! 咲来ちゃんったら、どこ見て歩いてるのよ。ほんと、どんくさい!」
聖来は悪びれた様子も見せず、そのまま走っていってしまった。
「ちょっと! あなたがぶつかってきたんだから、ちゃんと謝りなさいよー!」
怒り顔のミサキちゃんが、走っていった聖来に向かって叫ぶ。
どうしよう。早く拾わないと……!
歩いている誰かが、もし針を踏んだりしたら大変!
わたしは廊下に散らばった裁縫道具を、慌てて拾いはじめる。
「大丈夫!? 咲来ちゃん!」
「手伝うよ」
ナナちゃんとミサキちゃんが廊下にしゃがみこみ、一緒に拾ってくれる。
「ごめんね、ふたりとも」
「ううん。困ったときはお互いさまだよ」
「そうそう。それに、こういうときは『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』でしょ?」
こちらに笑顔を向けてくれるナナちゃんとミサキちゃんに、胸の奥が温かくなる。
「そうだね。ごめ……いや、ありがとう」
わたしは、二人にニッコリと微笑む。
今ここに、ナナちゃんとミサキちゃんがいてくれて良かった。
派手にぶちまけられた裁縫道具は、廊下のあちこちに飛び散ってしまったから。わたし一人じゃ拾うのに時間がかかって、授業に遅れたかもしれない。
そして何より、聖来と肩がぶつかったときにキツい言葉を投げかけられて、きっと落ち込んでしまっただろうから。
ナナちゃんとミサキちゃんの優しさのおかげで、わたしは今落ち込まずに笑っていられる。
ひと通り拾い終えると、わたしたちは急いで家庭科室へと向かった。
◇
何とかチャイムが鳴るまでに、家庭科室に着いたわたしたち。
家庭科の授業では現在、巾着袋を制作中。
先週は採寸して布を切ったから。今日から、縫い始める予定。
わたしの布は赤と白のチェック柄なんだけど、シンプルで可愛い。
針に糸を通して準備万端のわたしは、さっそく縫い始める。
お菓子作りが趣味のわたしは、裁縫もどちらかというと好きなほうだから。順調に、布の半分まで到達。
うん。この調子なら、思ったよりも早くできそう。完成したら、ここに何を入れて持ち歩こう……?
ひとりで色々と考えながら、わたしが黙々と縫っていると。
「……いってえ」
後方からそんな声がして振り返ると、後ろの席に座っている紫苑くんが顔を歪めていた。
どうやら、お裁縫の針で指を誤って刺してしまったみたい。
紫苑くんの指が、ほんの少し出血している。
「紫苑くん、大丈夫!?」
「うん。俺、小学生の頃から裁縫とか料理が苦手でさ。やってしまった……」
「ははっ」と、苦笑いする紫苑くん。
イケメンで勉強もスポーツもできて。非の打ち所がない、完璧な人なのかと思っていたけれど。
「紫苑くんでも、苦手なことってあるんだ……」
「そりゃあ、そうだよ。俺だって、何でもできるワケじゃないよ。テレビのスーパーマンとかじゃないんだから」
まずい。今の、声に出てた!?
「ご、ごめんね……」
わたしは、慌てて口元を手でおおう。
「ううん。人間、誰しも得意不得意ってものがあるから。咲来も勉強とか、バスケットボールとか。人よりもできないことがあっても、あまり気にする必要はないよ」
紫苑くんが、指を怪我していないほうの手でわたしの頭を軽くぽんぽんする。
「ありがとう、紫苑くん。あっ、そうだ。わたし、絆創膏持ってるから。良かったら、貼ろうか?」
「うん。お願いしてもいい?」
紫苑くんが、人差し指をこちらに差し出してきたので、わたしは彼の指に絆創膏を貼ってあげた。
「ありがとう。ねぇ、咲来。良かったら、縫い方教えてくれない? ちょっと俺には、難しくて……」
「う、うん。もちろんだよ!」
わあ。紫苑くんに、頼られちゃった……!
「それじゃあ、よろしくお願いします……咲来先生?」
おどけたように言ってみせる紫苑くん。
「せ、先生!?」
「うん。今日は、咲来が俺の先生」
紫苑くんに笑顔で先生とか言われると、なんか緊張してきた……。
「ええっと。ここは、なみ縫いで縫うんだけど。こうして……」
わたしが教える横で、覗きこむようにじっとわたしの手元を見ている紫苑くん。
うう。そんなにまじまじと見られたら、余計に緊張しちゃうよ~。
「……と、こんな感じかな」
「なるほど。咲来、すごい。器用なんだね」
「そう? 縫い方を覚えて慣れたら、案外簡単にできるようになるよ」
「いや、マジですごいよ……!」
ふふ。褒められちゃった。
紫苑くんには、いつも勉強を教えてもらっている立場だから。
こうして反対にわたしが、紫苑くんに何かを教える側になるなんて。なんだかちょっと、変な感じ。
「ありがとう、咲来。俺、やってみるね」
「うん。もしまた分からなくなったりしたら、遠慮なく聞いてね」
紫苑くんが巾着袋作りを再開させたので、わたしも自分の作業に戻る。
紫苑くんには、いつもお世話になっているから。ほんの少しでも彼の役に立てたなら、嬉しいな。
今日の3限目は家庭科の授業のため、わたしはナナちゃんとミサキちゃんと3人で家庭科室へと移動中。
「ナナ、お裁縫って苦手なんだよね」
「あたしも~」
「確かに、難しいよね」
3人で話しながら歩いていると、前から走ってきた聖来がすれ違いざまにわたしの肩にぶつかってきた。
「きゃっ!」
──ガシャーン!!
その弾みで、わたしが持っていた裁縫セットが落ちてしまった。
縫い針やハサミ、チャコペンシルなどの裁縫道具が中から飛びだし、廊下に散らばってしまう。
「もう! 咲来ちゃんったら、どこ見て歩いてるのよ。ほんと、どんくさい!」
聖来は悪びれた様子も見せず、そのまま走っていってしまった。
「ちょっと! あなたがぶつかってきたんだから、ちゃんと謝りなさいよー!」
怒り顔のミサキちゃんが、走っていった聖来に向かって叫ぶ。
どうしよう。早く拾わないと……!
歩いている誰かが、もし針を踏んだりしたら大変!
わたしは廊下に散らばった裁縫道具を、慌てて拾いはじめる。
「大丈夫!? 咲来ちゃん!」
「手伝うよ」
ナナちゃんとミサキちゃんが廊下にしゃがみこみ、一緒に拾ってくれる。
「ごめんね、ふたりとも」
「ううん。困ったときはお互いさまだよ」
「そうそう。それに、こういうときは『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』でしょ?」
こちらに笑顔を向けてくれるナナちゃんとミサキちゃんに、胸の奥が温かくなる。
「そうだね。ごめ……いや、ありがとう」
わたしは、二人にニッコリと微笑む。
今ここに、ナナちゃんとミサキちゃんがいてくれて良かった。
派手にぶちまけられた裁縫道具は、廊下のあちこちに飛び散ってしまったから。わたし一人じゃ拾うのに時間がかかって、授業に遅れたかもしれない。
そして何より、聖来と肩がぶつかったときにキツい言葉を投げかけられて、きっと落ち込んでしまっただろうから。
ナナちゃんとミサキちゃんの優しさのおかげで、わたしは今落ち込まずに笑っていられる。
ひと通り拾い終えると、わたしたちは急いで家庭科室へと向かった。
◇
何とかチャイムが鳴るまでに、家庭科室に着いたわたしたち。
家庭科の授業では現在、巾着袋を制作中。
先週は採寸して布を切ったから。今日から、縫い始める予定。
わたしの布は赤と白のチェック柄なんだけど、シンプルで可愛い。
針に糸を通して準備万端のわたしは、さっそく縫い始める。
お菓子作りが趣味のわたしは、裁縫もどちらかというと好きなほうだから。順調に、布の半分まで到達。
うん。この調子なら、思ったよりも早くできそう。完成したら、ここに何を入れて持ち歩こう……?
ひとりで色々と考えながら、わたしが黙々と縫っていると。
「……いってえ」
後方からそんな声がして振り返ると、後ろの席に座っている紫苑くんが顔を歪めていた。
どうやら、お裁縫の針で指を誤って刺してしまったみたい。
紫苑くんの指が、ほんの少し出血している。
「紫苑くん、大丈夫!?」
「うん。俺、小学生の頃から裁縫とか料理が苦手でさ。やってしまった……」
「ははっ」と、苦笑いする紫苑くん。
イケメンで勉強もスポーツもできて。非の打ち所がない、完璧な人なのかと思っていたけれど。
「紫苑くんでも、苦手なことってあるんだ……」
「そりゃあ、そうだよ。俺だって、何でもできるワケじゃないよ。テレビのスーパーマンとかじゃないんだから」
まずい。今の、声に出てた!?
「ご、ごめんね……」
わたしは、慌てて口元を手でおおう。
「ううん。人間、誰しも得意不得意ってものがあるから。咲来も勉強とか、バスケットボールとか。人よりもできないことがあっても、あまり気にする必要はないよ」
紫苑くんが、指を怪我していないほうの手でわたしの頭を軽くぽんぽんする。
「ありがとう、紫苑くん。あっ、そうだ。わたし、絆創膏持ってるから。良かったら、貼ろうか?」
「うん。お願いしてもいい?」
紫苑くんが、人差し指をこちらに差し出してきたので、わたしは彼の指に絆創膏を貼ってあげた。
「ありがとう。ねぇ、咲来。良かったら、縫い方教えてくれない? ちょっと俺には、難しくて……」
「う、うん。もちろんだよ!」
わあ。紫苑くんに、頼られちゃった……!
「それじゃあ、よろしくお願いします……咲来先生?」
おどけたように言ってみせる紫苑くん。
「せ、先生!?」
「うん。今日は、咲来が俺の先生」
紫苑くんに笑顔で先生とか言われると、なんか緊張してきた……。
「ええっと。ここは、なみ縫いで縫うんだけど。こうして……」
わたしが教える横で、覗きこむようにじっとわたしの手元を見ている紫苑くん。
うう。そんなにまじまじと見られたら、余計に緊張しちゃうよ~。
「……と、こんな感じかな」
「なるほど。咲来、すごい。器用なんだね」
「そう? 縫い方を覚えて慣れたら、案外簡単にできるようになるよ」
「いや、マジですごいよ……!」
ふふ。褒められちゃった。
紫苑くんには、いつも勉強を教えてもらっている立場だから。
こうして反対にわたしが、紫苑くんに何かを教える側になるなんて。なんだかちょっと、変な感じ。
「ありがとう、咲来。俺、やってみるね」
「うん。もしまた分からなくなったりしたら、遠慮なく聞いてね」
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