10 / 14
10. 期末テスト
しおりを挟む
それからあっという間に1週間が過ぎていき、いよいよ期末テストの前日となった。
放課後。わたしは今、いつものように紫苑くんと一緒に図書室の自習スペースで勉強中。
紫苑くんから『これから俺と一緒に勉強頑張って、今度の期末テストで妹よりも良い点とって。聖来たちを見返してやろうよ』って言われたときは、とにかくびっくりして。一体どうなることかと思ったけれど。
紫苑くんとの勉強は楽しくて、今日まであっという間だったな。
ちらっと隣に目をやると、数学を勉強している紫苑くんの横顔はとても真剣だ。そんな彼のノートには、数式がビッシリ書き込まれている。
紫苑くんとこうして一緒に勉強するのも今日で最後かもしれないと思うと、胸のあたりがチクッとして……寂しいな。
「……咲来? どうしたの? 手、止まってるじゃない」
「あっ」
いけない。紫苑くんに気づかれちゃった。
わたしは慌てて、右手に持ったままのシャーペンを机の上に置く。
「どうした? もしかして、分からない問題でもある?」
「えっと。明日がいよいよテスト本番だって思うと、緊張しちゃって……」
今日で、紫苑くんとの勉強が最後だと思うと寂しいだなんて。本当のことを言って、紫苑くんを困らせたくないから。つい、嘘をついてしまった。
もちろん、明日のテストが緊張するっていうのも半分本当だけど……。
「咲来……」
紫苑くんの整った顔がこちらへと近づいてきて、彼のおでこがわたしのおでこにコツンとくっついた。
「し、紫苑くん?!」
いきなりの紫苑くんのドアップに、胸が脈打つ。
「今日まで咲来は、誰よりも一生懸命頑張って来たんだから。きっと大丈夫だよ。明日は自信をもって、テストに臨んだら良い」
「紫苑くん……ありがとう」
紫苑くんはどんなときも、わたしに優しい言葉をかけてくれるね。
「俺も頑張るから。明日からのテスト、お互いに頑張ろう」
「はいっ!」
紫苑くんがニコッと笑いかけてくれたので、わたしも同じように笑い返す。
そうだ。今は、寂しがっている場合じゃない。大事なテストが控えているんだから。
今日まで学校のある日の放課後は毎日、わたしに勉強を教えてくれた紫苑くんのためにも、明日からのテストは精一杯頑張らなくちゃ。
◇
翌日から5日間、学校では予定通り期末テストが実施された。
一番苦手な数学のテストのときは、問題と答案用紙を前にすると、胸のドキドキがわずかに増したけれど。
図書室でわたしに大丈夫だと言ってくれたときの紫苑くんの優しい笑顔を思いだすと、不思議と落ち着いた。
だからわたしは、苦手な数学も日本史も。その他の教科も、平常心で取り組むことができた。
特に大きなトラブルもなく、こうして1学期の期末テストの5日間は過ぎていった。
◇
「水瀬咲来さん」
期末テスト明けの、最初の数学の時間。
今は先生からテストの答案用紙が返却されていて、名前を呼ばれたわたしはドキドキしながら教卓へと向かう。
「咲来さん。今回は、よく頑張りましたね」
「え?」
数学の先生がわたしにテストの答案用紙を渡す際、ニコッと笑いかけてくれた。
「うそ……」
返却された答案を見たわたしは、自分の口元を手でおさえる。
わたしの名前の右斜め上に、赤ペンで大きく書かれていた数字は「89」
なんと、数学のテストの点数は89点だったのだ。
あと一歩で90点だなんて! 前回の中間テストでの点数が、赤点ギリギリの40点だったから。まさか、こんなにも点数が上がったなんて信じられない。
「やったぁ!」
何よりも嬉しい気持ちが勝ったわたしは、ここが教室だということも忘れ、両手で思いきりガッツポーズをする。
わたしが紫苑くんの席のほうへ目をやると、彼がわたしのほうを見てくれていたらしく目が合った。
「……っ!」
わたしが視線を逸らそうとしたとき、紫苑くんの口がゆっくりと動く。
『良かったね』
席が離れているため、声はよく聞こえなかったけど。紫苑くんは確かにそう言ってくれたのだと分かり、わたしは更に嬉しくなった。
◇
「……それで? 聖来は、なんて言ってたの?」
数学の授業後の休み時間。
わたしは、紫苑くんの席へと先程のテストのお礼を言いにやって来た。
「あー、それが……」
あのあと聖来がわたしのところへ来て、横から数学の答案をのぞき込み、悔しそうな顔をしていた。
そのとき聖来が手にしていた答案用紙には、84点と書かれていて。
『こんなの、たまたまでしょう。もしかして咲来ちゃん、カンニングでもしたんじゃないの?!』
「……って、言われたの」
紫苑くんに話しながら、わたしは苦笑する。
「カンニングって。ほんと失礼なヤツだな。素直に負けたって認めれば良いのに」
「でも、どれだけ嫌なことを言われても。聖来のことも、お母さんのことも……やっぱり心の底から嫌いにはなれないんだよね」
わたしが幼稚園の頃までは母娘3人、ほんとに仲が良くて。
出かけるときには、よく3人でリンクコーデをしたり。川の字になって、一緒にお昼寝をしたり。
『せいらね、さくらちゃんのことがだーいすき』
幼い頃の聖来は、よくそう言ってわたしにハグをしてくれたっけ。
「……っ」
昔のことを久しぶりに思い出したら、何だか少し泣きそうになる。
どうして今、3人の関係がこんなふうになってしまったのだろうと思ってしまう。
「まぁ一番の原因は、出来損ないのわたしにあるんだろうけど……」
「咲来」
わたしの頭に、紫苑くんの手がポンとのせられる。
「咲来は、出来損ないなんかじゃないよ。咲来はちゃんとできるってこと、こうして自分でもしっかりと証明できたじゃない。だから、もっと自信もって」
紫苑くん……。
「ありがとう」
今日は期末テストの翌日で、全てのテストの答案が返ってきた訳じゃないから。まだ最終的な結果は、分からないけれど。
まずはこうして数学だけでも、聖来よりも良い点がとれたんだ。
今まで妹に一度も勝てたことのなかったわたしにとっては、とても大きな進歩だ。
「日々の努力が、ちゃんと結果に現れて。えらいよ咲来」
紫苑くんの優しい笑顔に、胸が甘く締めつけられる。
「ほんと、よく頑張ったな」
「ありがとう」
紫苑くんを見てると、胸のドキドキはおさまるどころかますます大きくなっていく。
さっきからずっと、胸が苦しい。
ここ最近、紫苑くんのそばにいると、なぜかこうなることが増えた気がする。
何なんだろう、これは。
もしかしてわたし……病気なのかな?
放課後。わたしは今、いつものように紫苑くんと一緒に図書室の自習スペースで勉強中。
紫苑くんから『これから俺と一緒に勉強頑張って、今度の期末テストで妹よりも良い点とって。聖来たちを見返してやろうよ』って言われたときは、とにかくびっくりして。一体どうなることかと思ったけれど。
紫苑くんとの勉強は楽しくて、今日まであっという間だったな。
ちらっと隣に目をやると、数学を勉強している紫苑くんの横顔はとても真剣だ。そんな彼のノートには、数式がビッシリ書き込まれている。
紫苑くんとこうして一緒に勉強するのも今日で最後かもしれないと思うと、胸のあたりがチクッとして……寂しいな。
「……咲来? どうしたの? 手、止まってるじゃない」
「あっ」
いけない。紫苑くんに気づかれちゃった。
わたしは慌てて、右手に持ったままのシャーペンを机の上に置く。
「どうした? もしかして、分からない問題でもある?」
「えっと。明日がいよいよテスト本番だって思うと、緊張しちゃって……」
今日で、紫苑くんとの勉強が最後だと思うと寂しいだなんて。本当のことを言って、紫苑くんを困らせたくないから。つい、嘘をついてしまった。
もちろん、明日のテストが緊張するっていうのも半分本当だけど……。
「咲来……」
紫苑くんの整った顔がこちらへと近づいてきて、彼のおでこがわたしのおでこにコツンとくっついた。
「し、紫苑くん?!」
いきなりの紫苑くんのドアップに、胸が脈打つ。
「今日まで咲来は、誰よりも一生懸命頑張って来たんだから。きっと大丈夫だよ。明日は自信をもって、テストに臨んだら良い」
「紫苑くん……ありがとう」
紫苑くんはどんなときも、わたしに優しい言葉をかけてくれるね。
「俺も頑張るから。明日からのテスト、お互いに頑張ろう」
「はいっ!」
紫苑くんがニコッと笑いかけてくれたので、わたしも同じように笑い返す。
そうだ。今は、寂しがっている場合じゃない。大事なテストが控えているんだから。
今日まで学校のある日の放課後は毎日、わたしに勉強を教えてくれた紫苑くんのためにも、明日からのテストは精一杯頑張らなくちゃ。
◇
翌日から5日間、学校では予定通り期末テストが実施された。
一番苦手な数学のテストのときは、問題と答案用紙を前にすると、胸のドキドキがわずかに増したけれど。
図書室でわたしに大丈夫だと言ってくれたときの紫苑くんの優しい笑顔を思いだすと、不思議と落ち着いた。
だからわたしは、苦手な数学も日本史も。その他の教科も、平常心で取り組むことができた。
特に大きなトラブルもなく、こうして1学期の期末テストの5日間は過ぎていった。
◇
「水瀬咲来さん」
期末テスト明けの、最初の数学の時間。
今は先生からテストの答案用紙が返却されていて、名前を呼ばれたわたしはドキドキしながら教卓へと向かう。
「咲来さん。今回は、よく頑張りましたね」
「え?」
数学の先生がわたしにテストの答案用紙を渡す際、ニコッと笑いかけてくれた。
「うそ……」
返却された答案を見たわたしは、自分の口元を手でおさえる。
わたしの名前の右斜め上に、赤ペンで大きく書かれていた数字は「89」
なんと、数学のテストの点数は89点だったのだ。
あと一歩で90点だなんて! 前回の中間テストでの点数が、赤点ギリギリの40点だったから。まさか、こんなにも点数が上がったなんて信じられない。
「やったぁ!」
何よりも嬉しい気持ちが勝ったわたしは、ここが教室だということも忘れ、両手で思いきりガッツポーズをする。
わたしが紫苑くんの席のほうへ目をやると、彼がわたしのほうを見てくれていたらしく目が合った。
「……っ!」
わたしが視線を逸らそうとしたとき、紫苑くんの口がゆっくりと動く。
『良かったね』
席が離れているため、声はよく聞こえなかったけど。紫苑くんは確かにそう言ってくれたのだと分かり、わたしは更に嬉しくなった。
◇
「……それで? 聖来は、なんて言ってたの?」
数学の授業後の休み時間。
わたしは、紫苑くんの席へと先程のテストのお礼を言いにやって来た。
「あー、それが……」
あのあと聖来がわたしのところへ来て、横から数学の答案をのぞき込み、悔しそうな顔をしていた。
そのとき聖来が手にしていた答案用紙には、84点と書かれていて。
『こんなの、たまたまでしょう。もしかして咲来ちゃん、カンニングでもしたんじゃないの?!』
「……って、言われたの」
紫苑くんに話しながら、わたしは苦笑する。
「カンニングって。ほんと失礼なヤツだな。素直に負けたって認めれば良いのに」
「でも、どれだけ嫌なことを言われても。聖来のことも、お母さんのことも……やっぱり心の底から嫌いにはなれないんだよね」
わたしが幼稚園の頃までは母娘3人、ほんとに仲が良くて。
出かけるときには、よく3人でリンクコーデをしたり。川の字になって、一緒にお昼寝をしたり。
『せいらね、さくらちゃんのことがだーいすき』
幼い頃の聖来は、よくそう言ってわたしにハグをしてくれたっけ。
「……っ」
昔のことを久しぶりに思い出したら、何だか少し泣きそうになる。
どうして今、3人の関係がこんなふうになってしまったのだろうと思ってしまう。
「まぁ一番の原因は、出来損ないのわたしにあるんだろうけど……」
「咲来」
わたしの頭に、紫苑くんの手がポンとのせられる。
「咲来は、出来損ないなんかじゃないよ。咲来はちゃんとできるってこと、こうして自分でもしっかりと証明できたじゃない。だから、もっと自信もって」
紫苑くん……。
「ありがとう」
今日は期末テストの翌日で、全てのテストの答案が返ってきた訳じゃないから。まだ最終的な結果は、分からないけれど。
まずはこうして数学だけでも、聖来よりも良い点がとれたんだ。
今まで妹に一度も勝てたことのなかったわたしにとっては、とても大きな進歩だ。
「日々の努力が、ちゃんと結果に現れて。えらいよ咲来」
紫苑くんの優しい笑顔に、胸が甘く締めつけられる。
「ほんと、よく頑張ったな」
「ありがとう」
紫苑くんを見てると、胸のドキドキはおさまるどころかますます大きくなっていく。
さっきからずっと、胸が苦しい。
ここ最近、紫苑くんのそばにいると、なぜかこうなることが増えた気がする。
何なんだろう、これは。
もしかしてわたし……病気なのかな?
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
恋の三角関係♡探偵団 ~私、未来を変えちゃった!?~
水十草
児童書・童話
未来には無限の可能性が広がっている。
オトナはそう言うけど、何にでもなれるはずない。六年生にもなれば、誰だって現実ってものがわかると思う。それがオトナになるってことだと思ってた。
でもあの事件が起こって、本当に未来が、私たちの運命が大きく変わったんだ――。
ミステリー作家志望の真琴と荒っぽいけど頼りになる直人、冷静沈着で頭脳明晰な丈一が織りなす、三角関係な学園恋愛ミステリー。
佐藤さんの四重奏
木城まこと
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――?
弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。
第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……
弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」
そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。
コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。
---------- あらすじ ----------
空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。
この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……?
(2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる