親ガチャ転生記 〜最果ての地で紡ぐ英雄譚〜

蒼獅

文字の大きさ
上 下
4 / 17

不穏な影とゴードンの策略

しおりを挟む
タケルとリリスは、バルトの相談を受けて隣の村へ向かうことにした。バルトの村では、家畜に異変が起こり始めており、その原因を突き止める必要があった。タケルは、ゴードンが直接的な襲撃を避け、より巧妙な手段で村々にダメージを与えようとしていることを感じ取り、胸に不安を抱きながらもリリスと共に調査を進める決意を固めた。

「タケル、何か胸騒ぎがするわ」

馬を走らせながら、リリスはふとつぶやいた。

「この村に何か良くないことが起きている……そんな気がしてならないの」

「俺も同じだ、リリス。ゴードンがただ手をひくとは思えない。何か裏で動いているのかもしれないな」

タケルはリリスの言葉に同意しつつも、次に何が待ち受けているのか不安を隠せなかった。
村に到着すると、リリスはすぐに家畜の様子に異常を感じ取った。彼女の目は鋭くなり、何かを察知したかのようにあたりを見回す。

「タケル、この家畜、明らかに普通じゃない。目が曇っていて、動きが鈍いわ」

リリスはしゃがみ込み、家畜の体調を確認し始めた。

「この家畜の水はどこから運んできていますか?」リリスが問いかけると、村人は「川の水を汲んで使っています」と答えた。

「その川に連れて行ってください」リリスは即座に指示し、タケルと村人たちと共に川へ向かった。リリスは川に到着すると、水を手にすくい上げ、そっと匂いをかいだ。

「どうだ?」タケルはリリスの反応を待ちきれずに尋ねた。

「川の水自体は問題ないわ。でも……」リリスは水をさらに確認し、「樽に移した時に何かが混入された可能性がある。この水、少しだけど異様な匂いがする」

「異様な匂い?」タケルは眉をひそめた。「何か具体的に分かるか?」

「樽に行ってみましょう。何かが見つかるかもしれない」リリスは冷静に答え、村人たちと共に水が保管されている場所へと急いだ。

樽のそばに立った瞬間、リリスは眉をひそめ、冷たい視線でタケルを見つめた。

「この水……ただの水じゃない。樽の中にナイトシェード(夜陰草)が混入されている。これは非常に強力な神経毒で、家畜や人間に摂取されると、徐々に身体を麻痺させていくわ」

「ナイトシェード……!」タケルは驚愕の声を上げた。

「ゴードンがこんな手を使うとは……これで家畜や村人たちをじわじわと弱らせ、戦う力を奪おうというのか」

その驚きは瞬く間に、激しい怒りへと変わっていった。タケルの拳は震え、心の奥底から湧き上がる感情が止まらなかった。

「許せない……」タケルはちいさな声でつぶやいた。「ゴードンは、自分の抱えている憎しみを、無関係な村人たちにまで向けている。『同じ母親から生まれて…こうまで違うのか』と言われたことが、そんなに悔しかったのか?だからといって、何も悪くない人々にその怒りをぶつけるなんて、卑劣すぎる。親や環境のせいにして、他人を苦しめるなんて最低だ!」

タケルの中で、前世の記憶が鮮明に蘇ってきた。前世でも、親や環境のせいにして自分の行動を正当化しようとする者たちを何度も目にしてきた。そして、転生後のこの人生でも、同じような人間が存在することに、タケルは耐え難い嫌悪感を抱いていた。

タケル自身、過去、そして今も最悪な環境や親のもとで生まれ育ったが、一度も他人のせいにしたことはなかった。「甘えた考え方の奴は大嫌いだ!善悪の区別もつけられない人間は…どうかしている」と、タケルは言葉に力を込めた。

リリスは静かにうなずきながらも、その瞳にはタケルの怒りに共鳴する鋭い光が宿っていた。

「ゴードンは、私たちが気づかないうちに、村々を少しずつ滅ぼそうとしているのよ。今すぐ水の供給を止めて、村全体の状況を確認する必要があるわ。タケル、どうする?」

タケルは固く拳を握りしめ、決意を新たにした。

「ゴードンを放っておくわけにはいかない。彼のような奴に、村を好き勝手にさせるわけにはいかない!」
力強くリリスに向き直り、さらに言葉を続けた。

「まずは村の安全を確保する。その後、必ずゴードンを止める!自分の怒りを他人に向けるゴードンは最低だ、絶対に許さない!」

タケルは村人たちのことを考え、毒に詳しいリリスに従うことにした。

「リリス、君が指示してくれ。村人たちには、すぐに水の使用を止めるよう伝えるんだ。俺たちも他に毒が広がっていないか、しっかりと調査しよう。」


リリスは軽くうなずいた後、ふと思い出したように口を開いた。

「そうだ、タケル。ナイトシェードの解毒薬を作るために、すぐに準備しないと。幸い、必要な薬草は近くの森で手に入るはず。」

タケルは真剣な表情でリリスを見つめた。「何が必要なんだ?」

「まず、ベラドンナの根。それから、セイヨウオトギリソウとサンショウウオの胆嚢がいるわ。ベラドンナの根は毒を中和して、セイヨウオトギリソウは神経を守る働きがあるの。サンショウウオの胆嚢は解毒剤としてとても効果的なのよ。」

「よし、急ごう。俺が森に行って薬草を集めてくる!」タケルは決意を固め、リリスにそれぞれの材料の場所を教えてもらった。

リリスは地図を広げて、具体的な場所を指し示しながら言った。「気をつけてね、タケル。森の中には何が潜んでいるかわからないから。」

タケルはすぐに森へ向かい、リリスが教えてくれた薬草を集め始めた。一方で、リリスは村に残り、村人たちに川の水を使わないように指示し、家畜の状態を確認して回った。

タケルが薬草を持って戻ると、リリスはすぐに解毒薬の調合に取りかかった。彼女は慎重に薬草を砕き、サンショウウオの胆嚢から緑色の液体を絞り出して混ぜ合わせた。

「これで解毒薬が完成したわ。まず家畜に飲ませて、効果を確認しましょう。」リリスは家畜に解毒薬を与え、その様子をしばらく観察した。

「どうだ?」タケルは不安そうに尋ねた。

「少しずつだけど、反応が良くなっているわ。目の曇りが取れて、動きも軽くなってきた。間違いなく効果があるわ。」リリスはほっとした表情でタケルに微笑んだ。

「良かった……でも、これで終わりじゃないな。水の浄化も急がないと。」タケルは気を引き締めた。

「そうね。この川の水を浄化するためには、ミョウバンと灰汁(あく)を使いましょう。ミョウバンは不純物を固める力があって、灰汁は毒を中和してくれるわ。まずミョウバンを川の上流で撒いて、その後に灰汁を流し込むのが効果的よ。」

タケルとリリスはすぐに行動を開始し、村人たちの協力を得て川の上流へ向かった。ミョウバンを慎重に水に溶かしながらまき、その後に灰汁を流し込んだ。

「これで、しばらくすれば水が浄化されるはずよ。完全に浄化されるまでには時間がかかるけれど、少しずつ効果が出てくるわ。」リリスは自信を持って言った。

「ありがとう、リリス。君がいてくれて本当に助かる。」タケルは感謝の気持ちを込めて彼女に微笑んだ。

リリスも微笑み返しながら、「できることをしただけよ、タケル。これからも一緒にこの村を守っていきましょう」と力強く答えた。

村の家畜も少しずつ体調が良くなり、村人たちは安心した。しかし、村人の中には1人だけ悔しそうな表情をしている若者がいた。タケルはその若者を見逃さなかった。

リリスの隣にはバルトがいた。バルトもその村人の曇った表情に気づいていた。タケルは、その若者が山賊の手引きをして自分だけ利益を得ようとしているのではないかと疑った。タケルの推測は的中した。

タケルはバルトに「あの若者、何か問題を抱えているのか?」と尋ねた。バルトは少し考えた後、首を横に振った。 もしかしたら、若者はただ刺激を求めていただけかもしれない。しかし、今回の異変に気づくのが遅れていたら、村人たちは命を落としていたかもしれない。

タケルはその若者が感じている刺激のなさに着目し、さまざまな方法を考えた。最終的に、タケルは村の若者たちを大きな国の兵士にすることで、刺激と同時に国を守る責任感を持たせることができると考えた。タケルはその案を国王に提案することにした。

バルトは、村の内部での分裂を避けるため、タケルの提案を村の長に詳しく説明した。村の若者たちのために、タケルの提案に賛成することを決めたが、中には村を離れたくないという若者もいた。そのため、参加を希望する者だけを募ることにした。

タケルが村を救うために一生懸命動き回っている間も、心の中には重い思いが残っていた。ゴードンの無差別な攻撃がどうしても許せなかった。

夜が更け、村人たちが疲れて眠りにつく頃、タケルは1人で考え込んでいた。月明かりが薄暗い部屋をぼんやりと照らし、タケルの顔には影が落ちている。リリスとバルトもその様子に気づき、そっと彼に近づいた。

「タケル、何か悩んでるの?」リリスが優しい声で尋ねる。

タケルは深いため息をつき、少しの間、言葉を探した後、ようやく口を開いた。「ゴードンとは話にならない。何を言っても聞く耳を持たないし、誰がどうなろうと気にしちゃいない。このまま放っておけば、村だけじゃなく、もっと多くの人々が危険にさらされる。」

バルトが真剣な顔でタケルを見つめた。「それで、どうするつもりなんだ?」

タケルは決意を込めて2人を見返した。「ゴードンの父親、山賊の長に直接会って話をつけるしかない。ゴードンを止めるには、それしか方法がない。」

リリスは驚きを隠せなかったが、すぐに冷静な表情に戻った。「ゴードンの父親に会うのは危険だけど、あなたが行くなら私たちも一緒に行くわ。放っておけないことよ。」

タケルはその言葉に感謝の気持ちを込めて微笑み、うなずいた。「ありがとう、リリス。でも、これは俺が決めたことなんだ。もし俺が戻らなかったら、この村とみんなを守ってくれ。」

バルトは眉間にシワを寄せながらも、「君が戻らないなんて考えたくもないが、万が一のときは全力で守るさ。でも、タケル、無理はしないでくれ。」

「分かってるさ」とタケルは力強く答えたが、その目には深い決意が宿っていた。

そしてタケルは、準備を整え、ゴードンの父親に会いに行く計画を練り始めた。山賊の本拠地に向かう道は険しく、危険が伴うことは明らかだったが、タケルは一歩一歩を確かめるように進んでいく覚悟を固めた。

その夜、タケルの胸の奥には、ゴードンとの対決だけでなく、もっと大きな試練が待ち受けているという予感が芽生えていた。まるで風が彼の心に不安の種をまいていくように、タケルの胸の奥深くで静かにざわめきが広がっていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

一般職アクセサリーショップが万能すぎるせいで、貴族のお嬢様が嫁いできた!〜勇者や賢者なんていりません。アクセサリーを一つ下さい〜

茄子の皮
ファンタジー
10歳の男の子エルジュは、天職の儀式で一般職【アクセサリーショップ】を授かる。街のダンジョンで稼ぐ冒険者の父カイルの助けになるべく、スキルアップを目指すが、街全体を巻き込む事態に? エルジュが天職【アクセサリーショップ】で進む冒険物語。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...