親ガチャ転生記 〜最果ての地で紡ぐ英雄譚〜

蒼獅

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不穏な影とゴードンの策略

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タケルとリリスは、バルトの相談を受けて隣の村へ向かうことにした。バルトの村では、家畜に異変が起こり始めており、その原因を突き止める必要があった。タケルは、ゴードンが直接的な襲撃を避け、より巧妙な手段で村々にダメージを与えようとしていることを感じ取り、胸に不安を抱きながらもリリスと共に調査を進める決意を固めた。

「タケル、何か胸騒ぎがするわ」

馬を走らせながら、リリスはふとつぶやいた。

「この村に何か良くないことが起きている……そんな気がしてならないの」

「俺も同じだ、リリス。ゴードンがただ手をひくとは思えない。何か裏で動いているのかもしれないな」

タケルはリリスの言葉に同意しつつも、次に何が待ち受けているのか不安を隠せなかった。
村に到着すると、リリスはすぐに家畜の様子に異常を感じ取った。彼女の目は鋭くなり、何かを察知したかのようにあたりを見回す。

「タケル、この家畜、明らかに普通じゃない。目が曇っていて、動きが鈍いわ」

リリスはしゃがみ込み、家畜の体調を確認し始めた。

「この家畜の水はどこから運んできていますか?」リリスが問いかけると、村人は「川の水を汲んで使っています」と答えた。

「その川に連れて行ってください」リリスは即座に指示し、タケルと村人たちと共に川へ向かった。リリスは川に到着すると、水を手にすくい上げ、そっと匂いをかいだ。

「どうだ?」タケルはリリスの反応を待ちきれずに尋ねた。

「川の水自体は問題ないわ。でも……」リリスは水をさらに確認し、「樽に移した時に何かが混入された可能性がある。この水、少しだけど異様な匂いがする」

「異様な匂い?」タケルは眉をひそめた。「何か具体的に分かるか?」

「樽に行ってみましょう。何かが見つかるかもしれない」リリスは冷静に答え、村人たちと共に水が保管されている場所へと急いだ。

樽のそばに立った瞬間、リリスは眉をひそめ、冷たい視線でタケルを見つめた。

「この水……ただの水じゃない。樽の中にナイトシェード(夜陰草)が混入されている。これは非常に強力な神経毒で、家畜や人間に摂取されると、徐々に身体を麻痺させていくわ」

「ナイトシェード……!」タケルは驚愕の声を上げた。

「ゴードンがこんな手を使うとは……これで家畜や村人たちをじわじわと弱らせ、戦う力を奪おうというのか」

その驚きは瞬く間に、激しい怒りへと変わっていった。タケルの拳は震え、心の奥底から湧き上がる感情が止まらなかった。

「許せない……」タケルはちいさな声でつぶやいた。「ゴードンは、自分の抱えている憎しみを、無関係な村人たちにまで向けている。『同じ母親から生まれて…こうまで違うのか』と言われたことが、そんなに悔しかったのか?だからといって、何も悪くない人々にその怒りをぶつけるなんて、卑劣すぎる。親や環境のせいにして、他人を苦しめるなんて最低だ!」

タケルの中で、前世の記憶が鮮明に蘇ってきた。前世でも、親や環境のせいにして自分の行動を正当化しようとする者たちを何度も目にしてきた。そして、転生後のこの人生でも、同じような人間が存在することに、タケルは耐え難い嫌悪感を抱いていた。

タケル自身、過去、そして今も最悪な環境や親のもとで生まれ育ったが、一度も他人のせいにしたことはなかった。「甘えた考え方の奴は大嫌いだ!善悪の区別もつけられない人間は…どうかしている」と、タケルは言葉に力を込めた。

リリスは静かにうなずきながらも、その瞳にはタケルの怒りに共鳴する鋭い光が宿っていた。

「ゴードンは、私たちが気づかないうちに、村々を少しずつ滅ぼそうとしているのよ。今すぐ水の供給を止めて、村全体の状況を確認する必要があるわ。タケル、どうする?」

タケルは固く拳を握りしめ、決意を新たにした。

「ゴードンを放っておくわけにはいかない。彼のような奴に、村を好き勝手にさせるわけにはいかない!」
力強くリリスに向き直り、さらに言葉を続けた。

「まずは村の安全を確保する。その後、必ずゴードンを止める!自分の怒りを他人に向けるゴードンは最低だ、絶対に許さない!」

タケルは村人たちのことを考え、毒に詳しいリリスに従うことにした。

「リリス、君が指示してくれ。村人たちには、すぐに水の使用を止めるよう伝えるんだ。俺たちも他に毒が広がっていないか、しっかりと調査しよう。」


リリスは軽くうなずいた後、ふと思い出したように口を開いた。

「そうだ、タケル。ナイトシェードの解毒薬を作るために、すぐに準備しないと。幸い、必要な薬草は近くの森で手に入るはず。」

タケルは真剣な表情でリリスを見つめた。「何が必要なんだ?」

「まず、ベラドンナの根。それから、セイヨウオトギリソウとサンショウウオの胆嚢がいるわ。ベラドンナの根は毒を中和して、セイヨウオトギリソウは神経を守る働きがあるの。サンショウウオの胆嚢は解毒剤としてとても効果的なのよ。」

「よし、急ごう。俺が森に行って薬草を集めてくる!」タケルは決意を固め、リリスにそれぞれの材料の場所を教えてもらった。

リリスは地図を広げて、具体的な場所を指し示しながら言った。「気をつけてね、タケル。森の中には何が潜んでいるかわからないから。」

タケルはすぐに森へ向かい、リリスが教えてくれた薬草を集め始めた。一方で、リリスは村に残り、村人たちに川の水を使わないように指示し、家畜の状態を確認して回った。

タケルが薬草を持って戻ると、リリスはすぐに解毒薬の調合に取りかかった。彼女は慎重に薬草を砕き、サンショウウオの胆嚢から緑色の液体を絞り出して混ぜ合わせた。

「これで解毒薬が完成したわ。まず家畜に飲ませて、効果を確認しましょう。」リリスは家畜に解毒薬を与え、その様子をしばらく観察した。

「どうだ?」タケルは不安そうに尋ねた。

「少しずつだけど、反応が良くなっているわ。目の曇りが取れて、動きも軽くなってきた。間違いなく効果があるわ。」リリスはほっとした表情でタケルに微笑んだ。

「良かった……でも、これで終わりじゃないな。水の浄化も急がないと。」タケルは気を引き締めた。

「そうね。この川の水を浄化するためには、ミョウバンと灰汁(あく)を使いましょう。ミョウバンは不純物を固める力があって、灰汁は毒を中和してくれるわ。まずミョウバンを川の上流で撒いて、その後に灰汁を流し込むのが効果的よ。」

タケルとリリスはすぐに行動を開始し、村人たちの協力を得て川の上流へ向かった。ミョウバンを慎重に水に溶かしながらまき、その後に灰汁を流し込んだ。

「これで、しばらくすれば水が浄化されるはずよ。完全に浄化されるまでには時間がかかるけれど、少しずつ効果が出てくるわ。」リリスは自信を持って言った。

「ありがとう、リリス。君がいてくれて本当に助かる。」タケルは感謝の気持ちを込めて彼女に微笑んだ。

リリスも微笑み返しながら、「できることをしただけよ、タケル。これからも一緒にこの村を守っていきましょう」と力強く答えた。

村の家畜も少しずつ体調が良くなり、村人たちは安心した。しかし、村人の中には1人だけ悔しそうな表情をしている若者がいた。タケルはその若者を見逃さなかった。

リリスの隣にはバルトがいた。バルトもその村人の曇った表情に気づいていた。タケルは、その若者が山賊の手引きをして自分だけ利益を得ようとしているのではないかと疑った。タケルの推測は的中した。

タケルはバルトに「あの若者、何か問題を抱えているのか?」と尋ねた。バルトは少し考えた後、首を横に振った。 もしかしたら、若者はただ刺激を求めていただけかもしれない。しかし、今回の異変に気づくのが遅れていたら、村人たちは命を落としていたかもしれない。

タケルはその若者が感じている刺激のなさに着目し、さまざまな方法を考えた。最終的に、タケルは村の若者たちを大きな国の兵士にすることで、刺激と同時に国を守る責任感を持たせることができると考えた。タケルはその案を国王に提案することにした。

バルトは、村の内部での分裂を避けるため、タケルの提案を村の長に詳しく説明した。村の若者たちのために、タケルの提案に賛成することを決めたが、中には村を離れたくないという若者もいた。そのため、参加を希望する者だけを募ることにした。

タケルが村を救うために一生懸命動き回っている間も、心の中には重い思いが残っていた。ゴードンの無差別な攻撃がどうしても許せなかった。

夜が更け、村人たちが疲れて眠りにつく頃、タケルは1人で考え込んでいた。月明かりが薄暗い部屋をぼんやりと照らし、タケルの顔には影が落ちている。リリスとバルトもその様子に気づき、そっと彼に近づいた。

「タケル、何か悩んでるの?」リリスが優しい声で尋ねる。

タケルは深いため息をつき、少しの間、言葉を探した後、ようやく口を開いた。「ゴードンとは話にならない。何を言っても聞く耳を持たないし、誰がどうなろうと気にしちゃいない。このまま放っておけば、村だけじゃなく、もっと多くの人々が危険にさらされる。」

バルトが真剣な顔でタケルを見つめた。「それで、どうするつもりなんだ?」

タケルは決意を込めて2人を見返した。「ゴードンの父親、山賊の長に直接会って話をつけるしかない。ゴードンを止めるには、それしか方法がない。」

リリスは驚きを隠せなかったが、すぐに冷静な表情に戻った。「ゴードンの父親に会うのは危険だけど、あなたが行くなら私たちも一緒に行くわ。放っておけないことよ。」

タケルはその言葉に感謝の気持ちを込めて微笑み、うなずいた。「ありがとう、リリス。でも、これは俺が決めたことなんだ。もし俺が戻らなかったら、この村とみんなを守ってくれ。」

バルトは眉間にシワを寄せながらも、「君が戻らないなんて考えたくもないが、万が一のときは全力で守るさ。でも、タケル、無理はしないでくれ。」

「分かってるさ」とタケルは力強く答えたが、その目には深い決意が宿っていた。

そしてタケルは、準備を整え、ゴードンの父親に会いに行く計画を練り始めた。山賊の本拠地に向かう道は険しく、危険が伴うことは明らかだったが、タケルは一歩一歩を確かめるように進んでいく覚悟を固めた。

その夜、タケルの胸の奥には、ゴードンとの対決だけでなく、もっと大きな試練が待ち受けているという予感が芽生えていた。まるで風が彼の心に不安の種をまいていくように、タケルの胸の奥深くで静かにざわめきが広がっていった。

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