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二章

79.家の主導権はリルにあり

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「私はラムネですぅ~~!!!」
「私はシノ。ハルトの許嫁」
「前回から若干変わってるし」
「えへへ。仲がいいね。私はリル! よろしくね?」
「よろしくです~!」
「よろしく」

 ラムネの家へと向かう道中で一通りの自己紹介を済ませた。
 ラムネとリルが横並びで前を歩きその後ろにハルトとシノがついていくように歩いていく。
 少し歩いているとシノがハルトのコートを引っ張り話しかけてくる。

「ハルト、髪飾りがさっき取れた」
「そうか」
「ん」
「ん?」
「ん」
「いやなんだよ」

 するとシノはコートから取れた髪飾りを取り出しそれをハルトに差し出した。
 差し出されたハルトは少しの間シノが何をしてほしいのか理解することができなかったがなんとなくつけてと言いたいのだろうと思い始めた。
 ハルトは髪飾りを受け取るとシノの髪につけようと試みるがやはり動きながらだとどうしても思うようにはつけることが出来なかったのでみんなに一度止まってほしいとお願いをした。
 それを聞いたみんなは一度歩くのをやめる。

 シノはハルトの方を向いて付けられるのを待っていた。
 動きが止まった事でつける難易度が下がったハルトは容易にシノの髪に髪飾りをつけることができた。
 そんな二人の様子をラムネとリルはずっと見つめていた。

「なんだよ」
「「羨ましい(ですぅ~)」
「ふたりはまだこの土俵には立てていない」
「何で張り合ってんだ!」
「んたッ!!! なんで私を今チョップしたんですか!?」
「そんな事言われると難しいな。ん~程よい高さに頭があったから?」
「いやっ! 私とリルさん、背丈ほとんど変わりませんからね!! なんだったら五ミリくらいリルさんの方が高いですし!!」
「そこはほら罪悪感が残るか残らないかの違いだろ」
「それじゃあもう頭どうのこうのとか関係ないじゃないですかぁ! それ私だからやってますよね!!」
「てか真っ暗になるから早く家に連れて行ってくれ」
「なんかもういいです!!!!」

 そう言ってラムネは一足先に歩き出した。
 ラムネを追ってリルは駆けていく。
 それに続いてハルトとシノは歩いてついていった。


@@


 しばらく歩いたのちラムネがいきなり歩く足を止めた。
 他三人がどうしたのかと様子を見ているとラムネはハルト達の方を振り向いて「私の家へようこそです!!」と両手を広げて言った。
 三人は思わず驚いてしまった。
 なぜならラムネの家だけ明らかに大きいからだ。
 比較対象のお隣さんは普通の二階建てに対してラムネの家は二階建ての家が二つ分ほどある。
 
 ハルトがなぜこれほどまでにラムネの家が大きいのかと尋ねると「あ~これは両親に用意してもらったんですぅ!!」と答えた。
 ハルト、シノ、リルは全員が同じ事を思った。
 一体どこのお嬢様なんだ、と。
 家の前で三人が止まっているとラムネが扉を開けて早く入るように促す。
 そしてハルト達はラムネの大きな家の中へ入った。

 これほどまでに家がデカければさぞ内装もすごいのだろうと期待するのが普通なのだがハルトは何となく最初の家を見た時から察していた。
 こいつの家の中は何にもないか散らかりまくっているかのどちらかだと。
 結果は前者のほとんどなんもないだった。

「お前こんなんでよく生活出来るな」

「私基本夢の都にはいないので家具とかあっても無駄かなって思って買ってないんですよ! あ、でも椅子とかテーブルとかベッドとかお風呂とか必要になりそうなものはありますよ! 食べ物はないですけど」

「ダメダメじゃねぇか、この家」
「でもほらハルトさんがちょうど手に食料を持ってますし大丈夫ですよ!!」
「いや、これはリルのだから」
「みんなで食べましょう! 私が調理しますから」
「いいのか?」
「もちろん! これも友達になってくれたお礼」

 リルはハルトの持っている袋を奪い取って家の奥へと向かっていく。
 ラムネもその後をついていき「調理場は確かこっちですぅ! あ、いやあっちですぅ! いや、こっちだったかも……」と何の役にも立たない情報をリルに教える。
 ハルトは自分の家なのになんでわからないんだよと思いながらシノと一緒に何もない家の中へと入っていく。

「ハルトさんとシノさんはそこの椅子にでも座っていてください!!」
「あぁ、わかった」
「いやぁ~【ロイゼン王国】で色々ありましたしなんか疲れましたねぇ!!」
「なんでお前も座ってんだ」
「え、いや私料理出来ないので行っても意味ないかなと思いまして」

 それを聞いたハルトはため息をしながら「俺が手伝うから待っとけ」と言って椅子から立ち上がりリルの元へ向かった。
 椅子に座っているシノとラムネはハルトの様子をずっと見ていた。

「リル、なんか手伝えることはあるか?」
「ん~じゃあこれを出来るだけ太くならないようにスライスしといて欲しいかな」
「なんか意味があるのか?」
「それはもちろん。火がよく通るようにするために薄くスライスするの!」
「わかった。やっとくよ」

 人参によく酷似した野菜を受け取るとハルトは包丁を持って切ろうとした時隣にいたリルが「あ、待って」と言って切るのをやめさせる。
 ハルトがどうしたんだと聞くと「言うの忘れてたけどそれはまず皮をばーって剥いてからこの上の部分を切り落としたあとにスライスして」と答えた。
 わかったと言いハルトは人参を持ち皮を剥こうとしだした。
 しかしこれが案外難しいようで皮がちょっとしか取れずちまちまと剥いていた。

「ハルトさん、おそぉーいですぅ!」
「ハルト、不器用」
「うるさい!!」

 野次が飛んでくるがそれでもどうにか皮をちょっとずつ剥いていく。
 しかしこのままでは明日の朝になってしまいそうだ。そこでリルが「剥くのは私がやるよ。代わりにこれを半分の半分にしてそれをばらけさせといて!」と言いハルトの持っていた人参を取る。
 新たに渡された野菜はキャベツだった。異世界だから正確にはキャベツの様な何かなのだがもはやキャベツでしかなかった。
 
 ハルトはそれを指示通り半分の半分に切る。その後半分の半分にしたひとつをバラバラにした。
 するとリルが「バラバラにしたのをいい感じに食べれるサイドに切って」と言ったので早速ハルトは食べやすい様なサイズに切っていく。
 しかしどれもバラバラのサイズで見栄えは終わっていた。

「ハルトさん! それじゃあ口の中に刺さっちゃいますよ!」
「ハルトが作ったものならなんでも大丈夫」
「いきなりの裏切り!?」

 切り終えたのを確認したリルはキャベツを回収し皮を剥き上が切り落とされた状態の人参を渡した。
 ハルトは人参を太くならないように薄くスライスしていく。
 一本の人参まるまるをスライスし終えるとそれもリルが回収していった。
 そしてリルはラムネに「お鍋とかってどこかにあるの?」と聞くと「えーっと確か後ろの棚にあった気が、っていや机の下に置いてありましたぁ!」と鍋を掲げていった。

 椅子から立ち上がりラムネはリルに鍋を受け渡す。
 するとリルは鍋を持ってハルトの事を見つめだした。
 いきなり何だと思っているとハルトは鍋を見た時【レアルタ】を案内してもらった際にリルが核保管庫の感触は鍋と一緒だと言っていた事を思い出した。
 そしてハルトはその鍋の外側を優しく撫でる。

「こんな感じかぁ~」
「え、どうしちゃったんですか。おかしくなっちゃいましたか?」
「ち、ちげぇよ!!!!」

 恥ずかしさのあまり顔を赤くして否定するハルト。
 それを見て本気でひいているラムネ。
 変な雰囲気が漂い始めたところでリルが変えるべく火を起こせるものがないかと尋ねる。
 それに対してハルトが名乗りをあげハルトの切った野菜やリルが既に用意していた野菜、肉が入っている鍋に向かって火の魔法を放った。
 火は鍋そのものを燃やし始める。中の食材はすぐに焼けだしいい匂いを漂わせていた。
 ちょっとしてリルが「ストップで!」と言ったのでハルトは火の魔法を止める。

「椅子に座っておいて。あとは私がやるから!」
「よろしく」
「ハルトさん、ついに解雇されましたねぇ~」
「お前、ちょっとは黙れないのか」

 そんな事をしているとリルが四人分のお皿を用意して盛り付けたあと持ってこようとしていた。
 それに気づいたハルトは流石に落としそうだなと思いリルの元に行き二つのお皿を持った。
 リルは「ハルト、ありがとう」と言って一緒にシノとラムネが座っている椅子に向かった。
 料理をテーブルに置きハルトはシノの隣の椅子へリルはラムネの隣の椅子に座った。

「ご飯ですぅ~! 久しぶりのまともなぁ!!!」
「やっぱり凍らせたこれも必要」
「冷凍食品を引っ張り出してくんな!」
「えへへ、みんなで食べるご飯は美味しいんだね」

 ハルトはリルの満面の笑みを見て少し幸せな気持ちになった。
 しかしラムネは料理をドカ食いしシノは氷の魔法で凍らせておいた料理を解凍しようとしていたり、あまりにもめちゃくちゃ過ぎて呆れていた。

「ラムネ、なんかこの家の主導権をリルに乗っ取られてて可哀想だな」
「ハルトさん、何か言いましたか?」
「いいや、ただ哀れんでただけだから」
「気になるんですけどぉ!」
「ほら、よそ見してたら料理なくなるぞ?」
「あぁ!!!! ちょっと私のお肉取らないでくださいよぉ!!!!」

 ハルト達は夢の都でも変わらぬやりとりを繰り広げるのだった。
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