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一章 神童
1.天才とは努力により培われた才能であるなら、彼女は天才ではない
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天才とは"努力により培われた才能を持つ者である"と定義するならば、白銀髪少女は天才では無い。
「……。」
どこにでもある一般の普通の家庭に生まれた彼女は、僅か2歳の時、保育所にたまたま置かれていた『とけいのよみかた』という本から数字を、その順番、規則、方程式を覚え当時母親が記入していた家計簿から家の資産とその支出額を算出し彼女に使われている金額が全体の何%なのかを割り出した。
彼女が高めの栄養価の高いベビーパウダーより安物のパウダーを「あー」と言いながら選んだ理由である。
「まま、あかちゃんのつくりかた、おしえて?」
「コウノトリさんが運んでくれるのよ」
「はこびやさんじゃなくて、つくりかたをきいてるの」
言葉足らずではあるものの色々な事を見聞きし始めた途端、めきめきとその片鱗が見え始めた。
物事に対しての謎を自分の中だけで解決できるようになれば『えほん』や『しんぶんし』より言語を学び『車』や『電車』の構造、さらには保育士の愚痴から『所得税』や『年収』の言葉の意味さえ覚えてしまう。彼女が一般の成人と同じ知識量になるまで僅か4歳のことであった。
「ママ、模試受けてもいい?」
「年齢的に無理ね。……過去問なら解けるけど」
「ん。それでいい」
この時点ですでになんでもない、変哲のない子供とは呼べなかった。彼女がクレヨンで見たこともない数字や方程式を用いて計算を行なっているのを母親が見たその日から、彼女の才能は(当時は母親が大袈裟に自分の子供を自慢していると思われてはいたが)すぐにも近隣に広まった。
「あなたはお母さんの大事な大事な宝物よ。あなたはなんでもできるし、きっと何でも成功するわ」
この時から母親は彼女のありとあらゆる可能性を模索し始めた。ピアノ、エレクトーン、バイオン、水泳、書道、バレエ、サッカー、油絵、学習塾、跳び箱、マット運動、鉄棒、和太鼓、ボルタリング、ダンス、プログラミング、将棋、囲碁、オセロ、身体能力ですら以上なほどに成長する彼女は様々な習い事を訪れた当日に完璧に理解し各々の先生が驚愕し唖然とする姿を見て母親は笑みを溢す毎日だった。
まさに天才、まさに神童と人々は口を揃えた。以前はただ笑っていた近所の母親たちもその口を閉じ、あの子のようにしなさい、あの子と同じことをやりなさいと教育するのである。
彼女は嬉しかった。自身の才能が母親を笑顔にする、ニコニコと笑い凄いねと褒められることが嬉しくて、彼女は日々を笑って過ごしていた。
そんな月日が経ち、彼女が7歳の時だった。
「次は演劇やってみましょ、貴方なら簡単にできるわ」
この一言、この判断によって世間が彼女を認知することになる。いつもと同じ軽く、単調に。流れ作業のように彼女は演劇を受け入れた。また母親に褒められる、それを想像して彼女はくすくすと笑いながら頷くのだった。
結果、既に喜怒哀楽の表現方法を知っていた彼女は誰が見ても完璧な演技を行った。当時の大手プロデューサーがすぐにでもと駆け寄ってきたときの母親の顔は心底嬉しそうで、その日の夕食が贅沢なすき焼きだったのを覚えている。
その次の日からすぐにも特別レッスンが始まり、厳しい指導があったものの一度言われれば全て覚えられる彼女は日に日に怒声を浴びることが減った。
加えて身体能力。彼女の体は人間の平均発達段階の何倍もの速度で成長していったのである。
僅か7歳にしてアクションドラマに出演、当時子役のスタントマンなどいるはずもなかった中、彼女は迫り来る自動車を自身の力のみで回避してみせたり、ビルの屋上で逆さになり夜空を見上げるなどといった大人でさえ不可能な行いを淡々とやってのけるのである。
視覚、聴覚、嗅覚がずば抜けて高く、撮影の際に訪れた現役プロレスラーですらその動き、身体能力に驚いた。最初は用意されていたスタントマンらも一日中椅子に座ってただ待つだけ、その次の日には呼ばれることはなく、彼女のありとあらゆる噂は電車がばらまくかのように世間に広がり、彼女単体で雑誌が組まれるほどとなった。
結果。周りとは比べものにもならないほど異彩を放つ彼女は一躍有名人となった。『白銀髪の天才美少女現る!』連日連夜、雑誌テレビ媒体を通して彼女を世間に知らしめる。身体能力、演技力、計算能力、美貌など彼女のすべての才能がテレビという媒体のおもちゃとなったのだ。
「貴方はわたしの自慢の子供。貴方にできないことなんてないの、それをみんなに見せつけてあげるのよ!」
母親は有頂天となった。テレビという個性のみで成り上がることができる世界において、アクションドラマの主演に決まった瞬間の母親の顔を彼女は忘れられない。彼女は今日も母親の喜ぶ顔を見るためにその才能を奮うのだ。
天才とは"努力により培われた才能を持つ者である"と定義するならば、白銀髪少女は天才では無い。
彼女は生まれ持った先天的な才能を駆使し、物事のあらゆる分野を努力もなく会得し、己が願望のために使う神童である。
この物語は、
神童が、その才能を活かし世界に名を知らしめ、存在が世界から認められ羨ましがられ、幸せな日々を過ごす話ーー
ーーではない。
これは、真逆の物語である。
「……。」
どこにでもある一般の普通の家庭に生まれた彼女は、僅か2歳の時、保育所にたまたま置かれていた『とけいのよみかた』という本から数字を、その順番、規則、方程式を覚え当時母親が記入していた家計簿から家の資産とその支出額を算出し彼女に使われている金額が全体の何%なのかを割り出した。
彼女が高めの栄養価の高いベビーパウダーより安物のパウダーを「あー」と言いながら選んだ理由である。
「まま、あかちゃんのつくりかた、おしえて?」
「コウノトリさんが運んでくれるのよ」
「はこびやさんじゃなくて、つくりかたをきいてるの」
言葉足らずではあるものの色々な事を見聞きし始めた途端、めきめきとその片鱗が見え始めた。
物事に対しての謎を自分の中だけで解決できるようになれば『えほん』や『しんぶんし』より言語を学び『車』や『電車』の構造、さらには保育士の愚痴から『所得税』や『年収』の言葉の意味さえ覚えてしまう。彼女が一般の成人と同じ知識量になるまで僅か4歳のことであった。
「ママ、模試受けてもいい?」
「年齢的に無理ね。……過去問なら解けるけど」
「ん。それでいい」
この時点ですでになんでもない、変哲のない子供とは呼べなかった。彼女がクレヨンで見たこともない数字や方程式を用いて計算を行なっているのを母親が見たその日から、彼女の才能は(当時は母親が大袈裟に自分の子供を自慢していると思われてはいたが)すぐにも近隣に広まった。
「あなたはお母さんの大事な大事な宝物よ。あなたはなんでもできるし、きっと何でも成功するわ」
この時から母親は彼女のありとあらゆる可能性を模索し始めた。ピアノ、エレクトーン、バイオン、水泳、書道、バレエ、サッカー、油絵、学習塾、跳び箱、マット運動、鉄棒、和太鼓、ボルタリング、ダンス、プログラミング、将棋、囲碁、オセロ、身体能力ですら以上なほどに成長する彼女は様々な習い事を訪れた当日に完璧に理解し各々の先生が驚愕し唖然とする姿を見て母親は笑みを溢す毎日だった。
まさに天才、まさに神童と人々は口を揃えた。以前はただ笑っていた近所の母親たちもその口を閉じ、あの子のようにしなさい、あの子と同じことをやりなさいと教育するのである。
彼女は嬉しかった。自身の才能が母親を笑顔にする、ニコニコと笑い凄いねと褒められることが嬉しくて、彼女は日々を笑って過ごしていた。
そんな月日が経ち、彼女が7歳の時だった。
「次は演劇やってみましょ、貴方なら簡単にできるわ」
この一言、この判断によって世間が彼女を認知することになる。いつもと同じ軽く、単調に。流れ作業のように彼女は演劇を受け入れた。また母親に褒められる、それを想像して彼女はくすくすと笑いながら頷くのだった。
結果、既に喜怒哀楽の表現方法を知っていた彼女は誰が見ても完璧な演技を行った。当時の大手プロデューサーがすぐにでもと駆け寄ってきたときの母親の顔は心底嬉しそうで、その日の夕食が贅沢なすき焼きだったのを覚えている。
その次の日からすぐにも特別レッスンが始まり、厳しい指導があったものの一度言われれば全て覚えられる彼女は日に日に怒声を浴びることが減った。
加えて身体能力。彼女の体は人間の平均発達段階の何倍もの速度で成長していったのである。
僅か7歳にしてアクションドラマに出演、当時子役のスタントマンなどいるはずもなかった中、彼女は迫り来る自動車を自身の力のみで回避してみせたり、ビルの屋上で逆さになり夜空を見上げるなどといった大人でさえ不可能な行いを淡々とやってのけるのである。
視覚、聴覚、嗅覚がずば抜けて高く、撮影の際に訪れた現役プロレスラーですらその動き、身体能力に驚いた。最初は用意されていたスタントマンらも一日中椅子に座ってただ待つだけ、その次の日には呼ばれることはなく、彼女のありとあらゆる噂は電車がばらまくかのように世間に広がり、彼女単体で雑誌が組まれるほどとなった。
結果。周りとは比べものにもならないほど異彩を放つ彼女は一躍有名人となった。『白銀髪の天才美少女現る!』連日連夜、雑誌テレビ媒体を通して彼女を世間に知らしめる。身体能力、演技力、計算能力、美貌など彼女のすべての才能がテレビという媒体のおもちゃとなったのだ。
「貴方はわたしの自慢の子供。貴方にできないことなんてないの、それをみんなに見せつけてあげるのよ!」
母親は有頂天となった。テレビという個性のみで成り上がることができる世界において、アクションドラマの主演に決まった瞬間の母親の顔を彼女は忘れられない。彼女は今日も母親の喜ぶ顔を見るためにその才能を奮うのだ。
天才とは"努力により培われた才能を持つ者である"と定義するならば、白銀髪少女は天才では無い。
彼女は生まれ持った先天的な才能を駆使し、物事のあらゆる分野を努力もなく会得し、己が願望のために使う神童である。
この物語は、
神童が、その才能を活かし世界に名を知らしめ、存在が世界から認められ羨ましがられ、幸せな日々を過ごす話ーー
ーーではない。
これは、真逆の物語である。
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