凱旋の五重奏 ~最強と呼ばれた少年少女達~

渚石(なぎさいさご)

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第一章 ~伝説の魔剣~

第17話 作戦決行?

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「最近フェリス君の様子がおかしいと思うんだ」

 フェリスとクレアの感動的なやりとりが行われていた時と同じくして、レイヴンはシルバにそう持ちかけた。

「これまた藪から棒ね。剣魔舞闘が近づいてきて特訓が激しくなってるだけじゃない? 確かに少し落ち込んでるというか、ナルシスト成分が抜けてきているような気がするけど……私はそっちの方が良いわね」

「相変わらずフェリス君に厳しいなぁ…でもやっぱりそう思う? そうなんだよね、自信がなさそうと言うか…上手く説明は出来ないけどいつもと違うんだよ」

「まあそっとしておけばいいんじゃないかしら。私たちがとやかく言えるような問題でもないでしょうし」

「うーん……でもねぇ……」

「…レイヴン。人にはそっとしておいて欲しい問題を抱えてる時ってのがあるもんなのよ。多分だけど今があのナルシストにとって今。だからほっといてあげなさい」

「でもさぁ……? ん~なんか変なんだよね、何かを隠してるっていうか。今日もそそくさと帰っちゃったし」

「確かに最近帰るの早いわね。いつもなら構って欲しそうにこっちを見てニコニコしてるくせに。仲間にでも入れて欲しいのかしら? 「いいえ」を選択して悲しそうな顔で去らせましょうレイヴン」

「え、何の話をしてるのさシルバちゃん…」

 仲直りしたかに思われたフェリスとシルバだったが、シルバはやはり憎々しく思っているようだ。どうもあの貼り付いた笑顔が気に入らないらしい。気に入らないあまり「あの表情は強化外骨格よ。騙されてはいけないわ」と謎の発言をしている。

 だが、シルバの言うことにも一理ある。一人で解決して乗り越えなければならない問題はたくさんあるだろう。しかし、どうしてもレイヴンの心を覆い尽くすモヤモヤしたものが一向に晴れない。

 そんな時の行動なんて一つしかない。

「よし、尾行しよう」
「……は?」
「尾行だよ、尾行。尾羽の尾に行動の行で尾行」
「いや、それはわかるわよ…馬鹿にしてるでしょそれ……」
「うん」
「レイヴン。首を差し出しなさい。私の『小雨華ディフィリア』でみじん切りにしてあげるから」
「もぉ~、シルバちゃんはそういう物騒な冗談ほんと好きだよね~フェリスくんだっていつもいつも怯えt……えまって冗談だよね? ほんとに切らないよね? あれおかしいな理想状態では切れないはずの髪が切れてるよ? シルバty……わかった謝る!! 謝るからその銀色に禍々しく輝いてる刀を下ろそう!! ね!?」
「次はない」
「ありがたき幸せ」
「何してんだお前らは」

 レイヴンがシルバに跪きシルバがのけぞりかえっているという、どう見ても女王様と騎士ごっこをしているとしか思えない二人に声をかけたのは、二人の特訓を担当しているガレットだった。

 いつもと変わらず袖のない布地の服を着ており、ゆったりとしたそのいでたちから女性…というかシルバには耐性がついたことが見受けられる。やったねガレット。

 一方そんな場面を目撃されたシルバは顔を真っ赤にして今にも泣きそうな顔をガレットの方へ向けていた。恥ずかしさのあまりプルプルと震えている様子がひどくかわいらしい。

「あ、あ~…もしかしてお邪魔だった?」
「「おじゃまじゃない!!」」
「冗談だ。だからシルバちゃん。その銀色に禍々しく輝く刀を自分の腹に突き立てるような真似はよそう。……いや、ほんとに悪かったと思ってる! だからお願い!」

 恥ずかしさのあまり恥ずか死しようとするシルバをなんとか諫(いさ)めることに成功。刀は無事鞘へと戻っていった…。

「それで、なんの話をしてたんだ? よもや本当に女王様と騎士ごっこをしてたわけじゃないんだろ?」
「もちろんだよ。しかもあれはごっこじゃなくて本当に殺されるやつだったからね。僕の命に関わってたからね」
「お、おうそうか……シルバちゃん、なるべく人は殺さないようにな?」
「い、いやほんとに殺すなんてことは……はい、すみません……」
「まあ、二人が元気ならそれでいいさ。それで? 結局何の話を?」
「あぁ、フェリスくんが最近おかしいって話をしてたんだよ」
「フェリス…? それはレイヴンとシルバちゃんがよく言ってる子のことか?」
「そうそう、そのフェリスくん。最近僕たちを妙に避けてる気がするんだよね…しかも元気がないっていうか…とにかくいつも通りじゃないんだよ」
「といってもその子は剣魔舞闘本線に出場するんだろ? 緊張とかプレッシャーのせいで多少ナーバスになることは誰にでもあるからな、今は暖かい目で見守ってやるくらいでいいんじゃねぇの?」

 他人事ではあるのだが本当に他人事のように話すガレットにレイヴンがキッ!と鋭い視線を向けた。その目は「あぁ?そんなんだからシルバ以外の女の子としゃべれないんじゃない?もうちょっと人の心ってのを理解しろよ」と雄弁に語っている。

 言葉を交わさずともレイヴンの言いたいことは伝わったのだろう。しおれた植物の茎のようにふにゃっとなったガレットが賭け事で全財産溶かしたような顔をしている。

 しかし、すぐに気を取り直し、「いや、俺は軍神ガレスの一人息子。俺の息子(意味深)も一生一人であったとして何の問題がある。いわばソロプレーヤーだ。かっこいい。」などと訳の分からないことを呟いていたので恐らく精神的なダメージはそこまでないだろう。

 今のレイヴンの鋭い視線を見たからか、シルバでさえ「そうね、レイヴンが言うならきっとそうなのだと思うわ。えぇ、ちっとも疑ってなんかいない」と調子の良いことを言い始めた。

「シルバちゃんもようやくわかった? じゃあ尾行決定で」
「「え」」

 何気ない、レイヴンへの媚び売りで放たれたこの一言が皮切りとなって、フェリス尾行大作戦が発令された。



「やぁ、おはよう」
「おはようフェリス君!」
「死になさい」

 フェリスが強くなることを望み、そしてレイヴンによって尾行計画が決定された二日後の朝。教室の一角ではいつも通りの和やかな挨拶が交わされていた。互いに笑顔で挨拶をする様子はとても微笑ましい。そんな中一つだけ挨拶に見せかけた死の宣告が行われた気がしたが気のせいだろう。気のせいったら気のせいなのだ。いつもは見せない優しい表情でレイヴンと談笑していたシルバが、フェリスに声をかけられ振り向いた瞬間真顔になり、挨拶にしては過激なことを言ったような気がするが気のせいなのだ。

「ところでフェリス君、先週の授業で出された人導学の宿題わかった? どうしてもわからないところがあって……教えて欲しいんだけど」
「あぁ、勿論いいよ。多分あの問題だろう? 人導国家ガレンドとシトシス学院の関係性を述べよっていう」

 いつも通りのなんら変わらない会話。クラスの中で1位2位を争う程度には座学も優秀なフェリスに、レイヴンがわからない部分を聞く。嫌な顔一つせずにそれに答える。それをジト目でじーっと見つめるシルバ。そう、本当に何も変わらない。―ように見える。

 このとき既にレイヴンは疑問から確信へ至っていた。フェリスが何かを隠しているということに。その理由、それは……傷だ。フェリスの手の甲に深々と、いや、よく見ればあらゆる箇所に切り傷のような、普段の生活では絶対につかない長い傷が残されている。

 フェリスがいつもの軽装とは違い、このくそ暑い真夏日にも関わらず長袖を着ているのは恐らくその傷を隠すためだろう。普通に振る舞っていれば確かにバレないだろう。しかし、フェリスは気づいていない。この真夏日に長袖を着ること自体が普通ではないことを……。

 そして、何食わぬ顔で、何も気づいていないかのように、レイヴンはいつも通りを心がけた。

「ありがとう!」
「いやいや、お互い様だよ。僕もいつもレイヴンに鍛えられてるしね」

 その時、丁度授業開始の予鈴が鳴った。
 ゴーン…ゴーン…
 学院の頂上に設置されている鐘の音だ。無人でもあるのにも関わらず毎時間一秒の狂いなく鳴るのは学長の時魔法がどうたらこうたらという話だが、実際のところよくわかっていない。

 予鈴が終わると同時によく見慣れた人物―クレアが教室に入ってきた。太股と手で押さえるように持っていた教科書を、教卓の上に広げ、よく通るビシッ!とした声でこう告げた。

「では、授業を始める」



 そうしていつものように授業をこなし、陽が少し傾き始めたやや夕刻の放課後。

「じゃあ、僕はこれで失礼するよ」
「うん!お疲れ様!また明日ね!」
「せいぜい野垂れ死なないようにしなさい」

 これまたいつもの放課後の集いが終わり、ここ数日の恒例のごとくフェリスが先に帰った。今まではデナルの悪行の証拠を得るために色々と奔走していたフェリスだが、今となってはその必要は無い。いや、意味が無くなったと言った方がいいだろう。

 今日からはクレアとの特訓をより多く重ねるための早期帰宅である。

「よし」
「……」
「いこう!!」
「何でそんなに嬉しそうなのよ……」

 フェリスがいなくなって十数秒、レイヴンが目を爛々と輝かせながら両手を胸の前に組み、なにやらとても頑張りそうな雰囲気を出している。
 フェリスが学院の門から出ていく所を教室の窓から確認したレイヴンは、目を輝かせたままフェリスを追いかけに教室を出た。それをジト目で見ていたシルバは、小さな溜め息を吐いた。そして、少しだけ、ほんの少しだけ口元を緩めると、レイヴンに追いつくためにレイヴン以上の速さで駆けだした。「フェリスのためなんかじゃない。私はレイヴンが心配なだけ」と頬を真っ赤に染めあげる様子を、文字通り行動に示すように。
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