11 / 24
第一章 ~伝説の魔剣~
第10話 漆黒に光る影
しおりを挟む
三人が驚いたプレート。
レイヴンは前から知っていた。シルバが強いということを。しかしながらここまでとは思っていなかった。
ガレス、ガレットはシルバのことについてはレイヴンからの口伝えでしか聞いていない。しかしオキュラス家としての知識は持っていた。「一族全員が稀代の刀使い」「ほとんどのものが『二重使い』」など、もとより伝わる伝説めいた事実も存在する。
しかし、シルバのそれは今までのそんな常識を覆しにかかったものだった。
名前:シルバ・オキュラス
種族:人族(人導士)
魔力属性:火、水、風
概念適性:時
歳:10
力:12(2↑)
知能:23(3↑)
魔力:21(6↑)
耐久:13(3↑)
敏捷:18(1↑)
技術:32(8↑)
特殊技能:魔剣技Lv2、神風Lv1
テクネー:刀を持っているとき、力と俊敏のステータス値を二倍にする。
「「三重使い!?」」
「「「いやなにこのステータス!!」」」
ツッコミどころしかなかった。さらにテクネーも強力すぎてなんとも言えない。流石オキュラスの子。侮れない。
ステータスは同年代平均をどれも大きく上回っており、技術に至っては30を超え、最早達人の域に入ろうとしている。きっと刀捌きや体術によって磨かれたものなのだろう。オキュラス家は名門故、例えシルバであっても子供の頃から課せられる課題は相当きつかったはずである。
それを乗り越え、血反吐を吐くような思いをして手に入れたステータス値が常人とは比べ物にならないくらいということは当然のことだ。しかしだ。ここまで常軌を逸したステータス値を誇っているのなら、もうガレスやガレットの特訓なんて受ける必要ないのではないか。
少なからずレイヴンはそう思っているだろう。
だが、残念ながらそれは違う。''まだ''ルージュ親子の方が強い。二人が驚いているのはあくまで「この年齢でこのようなステータス値を示している」ということに対してであり、決して「俺よりつえーーー!」と言った類のものではない。
「いや、あの…ほんとに見掛け倒しだから…」
ステータスをまじまじと見られることに対して、赤く顔を染める。恥じらいながら言い訳とも謙遜とも取れるその言葉はきっとシルバの本心からきたものなのだろう。頬を染めるシルバ、可愛い。
しかしこんなステータス値のシルバに正面衝突の力押しで勝ったフェリスは一体どういうステータスになっているのだろうか…ひどく気になるところである。
そんな驚きと関心と呆けの混じった空間に、レイヴンが疑問という名の石を投げ込む。いつだって純粋な疑問を抑えられないのだ。だって、男の子だもん。
「でもシルバちゃん僕やフェリス君と戦う時、水属性魔剣技しか使ってないよね?もしかして…」
珍しく、少し訝しむような表情になるレイヴンにシルバが戸惑いの表情を見せる。その視線が「手加減してたの!?シルバちゃんのいけず!!」と雄弁に語っていることに気づいたのだろう。勝負事に真っ直ぐなレイヴンのことだ。手加減だとわかった瞬間じゃあ僕と戦って!本気で!と言いかねない。もちろんシルバが手を抜いたことなどないのであるが。
「いや、待ってレイヴン。私は確かに『三重使い』。けれど水属性が一番扱いやすいの。火や風は……その……。……まだ魔剣技Lv1までしか扱えなくて。」
「あ、う、うん。そうだね。そ、そういうのあるよね!!わかる!!」
最初の方はしおらしい言い方だったが、段々と口調が強くなり最後の方は何故かレイヴンが怒られているように気圧されていた。「それ以上私に恥をかかせれば命はないものだと思え。」というメッセージを受け取らされたレイヴンは、紛うことなき肯定を示したのだった。未だに風属性の魔剣技しか使ったことのないレイヴンに何が分かるのかは全く分からないが、それでもシルバはそれで機嫌を直したようである。一件落着。
「まぁまぁ、レイヴンもそういうところ気をつけろよ?相手にどんな事情があるかわかんねえ場合の方が多いんだからな。ごめんな、シルバ嬢ちゃん。こいつは元王族なのにこういうところがなってなくてな。」
「いえ、気にしてませんよ。もう分かってた事ですし。」
「そうかい?それなら有り難い。今後ともこの茶坊主をよろしく頼むよ。」
その言葉にシルバは微笑みを返した。
途中で「元王族なのにってなんだー!仕方ないzyあ、あそこに生ってる果物美味しそう。あれ絶対甘いよ。すっごい色してる。」という声が聞こえてきたが本人が幸せそうだったのでシルバは敢えてスルーした。
テクネーについては特にツッコまれなかったが、それはオキュラス家の特徴として代々受け継がれているものだからだろう。みんなが知っている訳ではないが、ある程度の層は知っていて当然といった風潮があるのだ。ただし、オキュラス家の場合、刀を持ったときに上昇するステータスが代によって変わるそうだ。
シルバは「力」と「敏捷」であったが「魔力」と「知能」だった代や「力」と「耐久」だった代もあるらしい。
そんなこんなでシルバのステータスが閉じられた。確認は済んだ、というところだろう。ちなみにステータスを閉じるのはシルバの意思ではなく、詠唱者―つまりガレスの意思によってのみ可能だ。
「それじゃ、いつも通り基礎体力の特訓を兼ねて移動して、その後に魔力のなんやかんやをやって、最後に模擬戦だ。シルバは初めてだろうから少し疲れるとは思うが……まあ初日だから流れを掴めればそれで十分だ。……じゃ、いくぞ。」
「おー!」とレイヴンの元気の良い変声期前の高い声が、太陽からの眩いばかりの光に照らされた広大な野原に響いた。
「も、もうだめ……許して……」
「……あちゃー。」
一日の授業の全日程が終了し放課となったその瞬間、シルバは死体のように机の上に突っ伏した。やっと動き出したかと思えば、首だけをレイヴンの方に向け再び目を瞑った。そしてこんなことを言い始めたのだ。
朝の特訓が終わった時点でシルバはほぼグロッキー状態だった。汗は止めどなく流れ、全く魔力切れではないのにも関わらず、魔力切れの症状が出始めるという対処困難な事態に陥っていたためだ。
ある程度落ち着いた頃にはガレットの背中に背負われてレイヴンの家まで帰り着いていたのだが(本人に帰り道の記憶はないそうだ)、その帰り道の30分の休憩でも立つのがやっとというほどまでしか回復出来なかった。
その後はレイヴンの肩車によってなんとか学校に辿り着けたのだが、シルバのライフは授業と実習によってその後もゴリゴリと削られ、今に至る。
本当に無駄な余談ではあるが、シルバを背負って帰っていたガレットが、10歳児の小さな双丘に自分が昂ぶらないよう、必至に素数を数え、感情を抑えていたことは言うまでもあるまい。
「運んで。私を。今すぐに」
「……フェリス君。この娘っ子どうしてくれようか。何か僕に言ってる気がするんだけど。僕、この子が喋ってる言語どうも理解できないみたいなんだ」
「ははっ、君がそんなことを言うなんて珍しいじゃないかレイヴン。いいよ、教えて進ぜようじゃないか。僕の曇り無き眼と崇高なる耳によると、その娘は「レイヴンく~ん、私あなたのことg」」
「今すぐに黙りなさいフェルシスト。定常状態の『小雨華』でその腹をかっ切られたくなければね」
「ま、待ってくれよシルバ。ちょ、冗談だよね?勿論冗談だよね?わかった謝るよ!謝るから僕の股間に添えられたその立派な打刀を鞘にしまって!お願いだから!!」
先程までの死体が生き返り、逆にぴんぴんしている個体を死体に変えようとする。ぴんぴんしている個体というのはフェリスではなく、フェリスのフェリスなのだがこの際全ては言うまい。
シルバの愛刀「小雨華」が教室に差し込む日光をギラリと反射したが、シルバはそれを鞘の中へ収めた。どうやら怒りは治まったようだ。フェリスのフェリス、無事生還である。
「……ふう」
それに安堵の声を漏らすも、油断は出来ないとフェリスはシルバから少し距離をとった。お腹を切ると言いながら下腹部を切ろうとしたのだ。それは警戒しないわけがない。そんな空間の中で不満の声を上げる者がいた。レイヴンである。
「なんだよ、立てるじゃないかシルバちゃん。そのまま家に帰るよ、明日もまた早くから特訓するんだから」
「ん?何かし始めたのかい?特訓って」
「あなたは知らなくて良いのよ、フェルシストフェリス・ナルシスト。その減らず口を閉じてさっさと自分の鍛錬に励みなさい。あと一ヶ月ほどで本番なんでしょ」
素直にエールを送れないところもまたシルバの可愛いところだ。レイヴンもフェリスも「素直じゃないなぁ」と言いたげな表情で生暖かな視線をシルバへ向ける。
「な、なによ。別に心配だったとかじゃなくて私があんたを倒す日がちょうど一緒だったから覚えてただけよ。……やめて。その目をやめて……お願い……」
シルバの懇願など早々見られるものではないので、言うことを聞いてニンマリとした表情で生暖かな視線を送るのをやめた。
しかし、そうなのだ。シルバの言う通り剣魔舞闘本戦まで残り一ヶ月しかないのである。フェリスには少しずつ差し迫る最終調整期間が重圧のようにのしかかっている頃だろう。本戦では自分と相手だけの戦いではない。「家名と家名の戦い」でもあるのだ。簡単に負けるわけにはいかない。
「でもまあ、そうだね。シルバの言うとおり僕にも時間が無いから、ここでお暇させてもらうよ。無様な戦いを見せるわけにはいかないからね」
そう言って手を振り教室を出て行くフェリス。フェリスの背中はいつも通りぴんと伸びており、年の割に頼れる背中という印象が強い。
いつも通りのフェリス・オルタナ。それでこそフェリスは自分の最高のパフォーマンスを発揮できる。余裕を絶やさず自信たっぷりなあのフェリスだ。
しかし、今日の背中はどこか重かった。余裕がないように見えたのだ。
それはきっと、ヒタヒタと足音を立てて迫り来る剣魔舞闘によるプレッシャーなのかもしれない。それのための鍛錬によって隠しきれなかった疲れなのかもしれない。更に言えば、シルバとの仲直りを果たしたことによって安堵してしまったが故の油断なのかもしれない。
しかし、それらは全て違ったのだ。
シルバとレイヴンの二人は後々、切にこう思うことになる。
――あの時、無理矢理にでも悩みがあるんじゃないか聞き出しておくべきだった。手足をバキボキに折ってでも監禁して拷問しておくべきだったと。
レイヴンは前から知っていた。シルバが強いということを。しかしながらここまでとは思っていなかった。
ガレス、ガレットはシルバのことについてはレイヴンからの口伝えでしか聞いていない。しかしオキュラス家としての知識は持っていた。「一族全員が稀代の刀使い」「ほとんどのものが『二重使い』」など、もとより伝わる伝説めいた事実も存在する。
しかし、シルバのそれは今までのそんな常識を覆しにかかったものだった。
名前:シルバ・オキュラス
種族:人族(人導士)
魔力属性:火、水、風
概念適性:時
歳:10
力:12(2↑)
知能:23(3↑)
魔力:21(6↑)
耐久:13(3↑)
敏捷:18(1↑)
技術:32(8↑)
特殊技能:魔剣技Lv2、神風Lv1
テクネー:刀を持っているとき、力と俊敏のステータス値を二倍にする。
「「三重使い!?」」
「「「いやなにこのステータス!!」」」
ツッコミどころしかなかった。さらにテクネーも強力すぎてなんとも言えない。流石オキュラスの子。侮れない。
ステータスは同年代平均をどれも大きく上回っており、技術に至っては30を超え、最早達人の域に入ろうとしている。きっと刀捌きや体術によって磨かれたものなのだろう。オキュラス家は名門故、例えシルバであっても子供の頃から課せられる課題は相当きつかったはずである。
それを乗り越え、血反吐を吐くような思いをして手に入れたステータス値が常人とは比べ物にならないくらいということは当然のことだ。しかしだ。ここまで常軌を逸したステータス値を誇っているのなら、もうガレスやガレットの特訓なんて受ける必要ないのではないか。
少なからずレイヴンはそう思っているだろう。
だが、残念ながらそれは違う。''まだ''ルージュ親子の方が強い。二人が驚いているのはあくまで「この年齢でこのようなステータス値を示している」ということに対してであり、決して「俺よりつえーーー!」と言った類のものではない。
「いや、あの…ほんとに見掛け倒しだから…」
ステータスをまじまじと見られることに対して、赤く顔を染める。恥じらいながら言い訳とも謙遜とも取れるその言葉はきっとシルバの本心からきたものなのだろう。頬を染めるシルバ、可愛い。
しかしこんなステータス値のシルバに正面衝突の力押しで勝ったフェリスは一体どういうステータスになっているのだろうか…ひどく気になるところである。
そんな驚きと関心と呆けの混じった空間に、レイヴンが疑問という名の石を投げ込む。いつだって純粋な疑問を抑えられないのだ。だって、男の子だもん。
「でもシルバちゃん僕やフェリス君と戦う時、水属性魔剣技しか使ってないよね?もしかして…」
珍しく、少し訝しむような表情になるレイヴンにシルバが戸惑いの表情を見せる。その視線が「手加減してたの!?シルバちゃんのいけず!!」と雄弁に語っていることに気づいたのだろう。勝負事に真っ直ぐなレイヴンのことだ。手加減だとわかった瞬間じゃあ僕と戦って!本気で!と言いかねない。もちろんシルバが手を抜いたことなどないのであるが。
「いや、待ってレイヴン。私は確かに『三重使い』。けれど水属性が一番扱いやすいの。火や風は……その……。……まだ魔剣技Lv1までしか扱えなくて。」
「あ、う、うん。そうだね。そ、そういうのあるよね!!わかる!!」
最初の方はしおらしい言い方だったが、段々と口調が強くなり最後の方は何故かレイヴンが怒られているように気圧されていた。「それ以上私に恥をかかせれば命はないものだと思え。」というメッセージを受け取らされたレイヴンは、紛うことなき肯定を示したのだった。未だに風属性の魔剣技しか使ったことのないレイヴンに何が分かるのかは全く分からないが、それでもシルバはそれで機嫌を直したようである。一件落着。
「まぁまぁ、レイヴンもそういうところ気をつけろよ?相手にどんな事情があるかわかんねえ場合の方が多いんだからな。ごめんな、シルバ嬢ちゃん。こいつは元王族なのにこういうところがなってなくてな。」
「いえ、気にしてませんよ。もう分かってた事ですし。」
「そうかい?それなら有り難い。今後ともこの茶坊主をよろしく頼むよ。」
その言葉にシルバは微笑みを返した。
途中で「元王族なのにってなんだー!仕方ないzyあ、あそこに生ってる果物美味しそう。あれ絶対甘いよ。すっごい色してる。」という声が聞こえてきたが本人が幸せそうだったのでシルバは敢えてスルーした。
テクネーについては特にツッコまれなかったが、それはオキュラス家の特徴として代々受け継がれているものだからだろう。みんなが知っている訳ではないが、ある程度の層は知っていて当然といった風潮があるのだ。ただし、オキュラス家の場合、刀を持ったときに上昇するステータスが代によって変わるそうだ。
シルバは「力」と「敏捷」であったが「魔力」と「知能」だった代や「力」と「耐久」だった代もあるらしい。
そんなこんなでシルバのステータスが閉じられた。確認は済んだ、というところだろう。ちなみにステータスを閉じるのはシルバの意思ではなく、詠唱者―つまりガレスの意思によってのみ可能だ。
「それじゃ、いつも通り基礎体力の特訓を兼ねて移動して、その後に魔力のなんやかんやをやって、最後に模擬戦だ。シルバは初めてだろうから少し疲れるとは思うが……まあ初日だから流れを掴めればそれで十分だ。……じゃ、いくぞ。」
「おー!」とレイヴンの元気の良い変声期前の高い声が、太陽からの眩いばかりの光に照らされた広大な野原に響いた。
「も、もうだめ……許して……」
「……あちゃー。」
一日の授業の全日程が終了し放課となったその瞬間、シルバは死体のように机の上に突っ伏した。やっと動き出したかと思えば、首だけをレイヴンの方に向け再び目を瞑った。そしてこんなことを言い始めたのだ。
朝の特訓が終わった時点でシルバはほぼグロッキー状態だった。汗は止めどなく流れ、全く魔力切れではないのにも関わらず、魔力切れの症状が出始めるという対処困難な事態に陥っていたためだ。
ある程度落ち着いた頃にはガレットの背中に背負われてレイヴンの家まで帰り着いていたのだが(本人に帰り道の記憶はないそうだ)、その帰り道の30分の休憩でも立つのがやっとというほどまでしか回復出来なかった。
その後はレイヴンの肩車によってなんとか学校に辿り着けたのだが、シルバのライフは授業と実習によってその後もゴリゴリと削られ、今に至る。
本当に無駄な余談ではあるが、シルバを背負って帰っていたガレットが、10歳児の小さな双丘に自分が昂ぶらないよう、必至に素数を数え、感情を抑えていたことは言うまでもあるまい。
「運んで。私を。今すぐに」
「……フェリス君。この娘っ子どうしてくれようか。何か僕に言ってる気がするんだけど。僕、この子が喋ってる言語どうも理解できないみたいなんだ」
「ははっ、君がそんなことを言うなんて珍しいじゃないかレイヴン。いいよ、教えて進ぜようじゃないか。僕の曇り無き眼と崇高なる耳によると、その娘は「レイヴンく~ん、私あなたのことg」」
「今すぐに黙りなさいフェルシスト。定常状態の『小雨華』でその腹をかっ切られたくなければね」
「ま、待ってくれよシルバ。ちょ、冗談だよね?勿論冗談だよね?わかった謝るよ!謝るから僕の股間に添えられたその立派な打刀を鞘にしまって!お願いだから!!」
先程までの死体が生き返り、逆にぴんぴんしている個体を死体に変えようとする。ぴんぴんしている個体というのはフェリスではなく、フェリスのフェリスなのだがこの際全ては言うまい。
シルバの愛刀「小雨華」が教室に差し込む日光をギラリと反射したが、シルバはそれを鞘の中へ収めた。どうやら怒りは治まったようだ。フェリスのフェリス、無事生還である。
「……ふう」
それに安堵の声を漏らすも、油断は出来ないとフェリスはシルバから少し距離をとった。お腹を切ると言いながら下腹部を切ろうとしたのだ。それは警戒しないわけがない。そんな空間の中で不満の声を上げる者がいた。レイヴンである。
「なんだよ、立てるじゃないかシルバちゃん。そのまま家に帰るよ、明日もまた早くから特訓するんだから」
「ん?何かし始めたのかい?特訓って」
「あなたは知らなくて良いのよ、フェルシストフェリス・ナルシスト。その減らず口を閉じてさっさと自分の鍛錬に励みなさい。あと一ヶ月ほどで本番なんでしょ」
素直にエールを送れないところもまたシルバの可愛いところだ。レイヴンもフェリスも「素直じゃないなぁ」と言いたげな表情で生暖かな視線をシルバへ向ける。
「な、なによ。別に心配だったとかじゃなくて私があんたを倒す日がちょうど一緒だったから覚えてただけよ。……やめて。その目をやめて……お願い……」
シルバの懇願など早々見られるものではないので、言うことを聞いてニンマリとした表情で生暖かな視線を送るのをやめた。
しかし、そうなのだ。シルバの言う通り剣魔舞闘本戦まで残り一ヶ月しかないのである。フェリスには少しずつ差し迫る最終調整期間が重圧のようにのしかかっている頃だろう。本戦では自分と相手だけの戦いではない。「家名と家名の戦い」でもあるのだ。簡単に負けるわけにはいかない。
「でもまあ、そうだね。シルバの言うとおり僕にも時間が無いから、ここでお暇させてもらうよ。無様な戦いを見せるわけにはいかないからね」
そう言って手を振り教室を出て行くフェリス。フェリスの背中はいつも通りぴんと伸びており、年の割に頼れる背中という印象が強い。
いつも通りのフェリス・オルタナ。それでこそフェリスは自分の最高のパフォーマンスを発揮できる。余裕を絶やさず自信たっぷりなあのフェリスだ。
しかし、今日の背中はどこか重かった。余裕がないように見えたのだ。
それはきっと、ヒタヒタと足音を立てて迫り来る剣魔舞闘によるプレッシャーなのかもしれない。それのための鍛錬によって隠しきれなかった疲れなのかもしれない。更に言えば、シルバとの仲直りを果たしたことによって安堵してしまったが故の油断なのかもしれない。
しかし、それらは全て違ったのだ。
シルバとレイヴンの二人は後々、切にこう思うことになる。
――あの時、無理矢理にでも悩みがあるんじゃないか聞き出しておくべきだった。手足をバキボキに折ってでも監禁して拷問しておくべきだったと。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる