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第一章 ~伝説の魔剣~
第5話 圧倒的な諍い
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「ということで、属性ごとには相性がありそれは人導士も魔道士も変わらない。火、水、雷、土、風の五つの属性があるわけであるが、……フェリス・オルタナ。各属性の相性を答えろ」
三日間の予選が終わったつぎの日。
人導士学院アレシドの初等部棟二階のレイヴン達のクラスでは予選に通った者を祝うでも激励するでも休みになるわけでもなく、通常通りの授業が行われていた。
今までも特別なことがあったわけでもないらしく、生徒達から不満が上がるわけでもないため、昨日全国規模の大会出場を懸けた戦いが終わったのだと言っても信じられないほど通常運転である。
そんないつも通りの教室で優等生フェリスは担任教師であるクレア・マリアナの質問につらつらと答えた。
「各属性は、五角相性図によって属性ごとの相性が定められています。五角相性図は正五角形に火、水、雷、土、風の順に時計回りで当てはめたものですが、属性の相性は反時計回りに強い属性となっています。つまり火は風に強く、逆に風は火に弱い」
「完璧な回答だ。よくできたな」
属性にはもちろんだがそれぞれに相性があるのだが、フェリスの言うとおり火は風に、水は火に、雷は水に、土は雷に、風は土に強い。五角の力で押し合えば有利属性が負けることはほぼない。特にそれは「魔法」で顕著に表れる性質がある。
拍手と共に腰を下ろすフェリスに、隣に座っているレイヴンが無邪気な笑顔を向けた。「流石フェリス君だね!」と言いたいのだと表情から容易に読み取れる。だが、そのまた隣に座っている凍てつく氷のような雰囲気の少女の目はこう語っていた。
「調子乗るんじゃないわよ。」
と。
そのおかげでフェリスはレイヴンに笑みを返しながら冷や汗をかくというよくわからない事態に陥っていた。シルバはレイヴンのこととなると何をしでかすかわからない質があるため、いつか背後から刺される日が来るのではないか、フェリスはそう思うことが多々ある。
ここ数日特に風当たりが強いのだが、それはフェリスの剣魔舞闘の予選突破が原因なのだろう。
「?……どうしたのフェリス君、顔色悪いよ?」
「あ、ああなんでもないよ?ほんとになんでもないんだ。うん、むしろ何もない方が良いんだよ、ははは」
変なフェリス君と言って授業に意識を戻すレイヴンに、先ほどとは違い満面の笑みをフェリスに向けるシルバ。その目は「よくやったわ、それでいいの。」と饒舌に語っていた。
(僕にそんな趣味はないんだけど……)
フェリスが10歳にしてそんな特殊な性癖に目覚めているか否かはさておき、教壇の前に立っている三人の担任教師クレアは淡々と授業を続けていた。先程からチラチラとレイヴン達のいる方を向いていることから、きっと三人が授業に集中していないのに気づいているのだろう。しかし、これもいつものことである。
しかし集中していないからと当ててみると難なく答えてくる。底に更に腹が立つのだ。故に集中していないときこそ当てはしない。クレア自身が何故か負けたように感じるからだ。大人げない。
「属性については先週も授業で扱ったが、適性概念のなんたるかは未だに話していなかったな。だから今日からは「概念」についての説明をしていく。ちなみに、座学は属性より簡単だが実践はそれよりも遙かに難しい。中等部での実技試験で落胆しないよう、しっかり理解し練習しておくこと」
この学院-アトシス学院は大きく三つの学年に分かれている。
狼が紋章の初等部(9~11歳)、虎が紋章の中等部(11~13歳)、そして龍が紋章の高等部(13~15歳)だ。基礎の基礎、つまり属性の相性などや簡単な魔剣技の指導、初等教育は初等部。
中等部では魔剣技の応用に適性属性や適性概念の考え方など、少しずつ「魔力」の芯に迫る。
そして高等部では独自の魔剣技や、高度な魔剣技、さらに魔法との関連性について。加えて倫理などの「魔力を使うこと」に関しての社会性について学ぶ。段階が少しずつ踏まれるが、単位制なのでその科目を落とすと次の学年に進めず留年となることも十分にあり得る。
クレアの言葉を聞いたシルバは明らかに嫌な顔を浮かべた。中級魔剣技に次いで、魔力によって概念に干渉する「概念魔剣技」も苦手にしているのだ。そもそも、初等部では概念の実技は行わないので「苦手」という感情を持っていること自体奇妙なのではあるが……。
そんな表情のシルバを見たフェリスは、わざわざ藪から蛇をつつくように、ニヤリと口角をあげた。
「ん? どうしたんだいシルバ?」
その瞬間シルバの肩がぴくっと震える。
「な、なによ。概念魔剣技の扱いなんて5歳の頃にとっくにマスターしたわ。あなたに心配される筋合いもないし、なによりあなたより私は強いわ」
「いや、聞いてないけど」
強気な返答だ。しかしこれはいつものシルバと変わらない。ちょっとやそっとの事ではシルバの表情は変わらないし、変えられない。そうして、一見、落ち着いた様子で深緑の瞳を黒板へ戻すシルバ。
いつもならフェリス「いつもの仕返し」と称してここで終わるのだが、何故かこの日は違った。言葉に表しづらいのだが、一言で表現するなら調子に乗っていたのだ。
「へぇ、じゃあシルバ。僕と勝負しようよ」
「えっ?」
フェリスの提案に声を上げたのは、提案されたシルバではなくレイヴンだった。今まで一度も自分から戦おうと言うことがなかったフェリスに違和感を覚えたのだ。席的に二人に挟まれていたレイヴンは授業もしっかり聞いていたが、それでも二人の会話もしっかり聞いていた。フェリスを睨むシルバと、にやついたフェリスを交互に見る。端から見ればただ首振っているように見えるだろう。
「僕より強いなら逃げはしないよね? 剣魔舞闘の予選で戦ってみたかったんだけど、君ったらレイヴンが出場しないと聞いた途端に辞退しちゃうんだから」
きっとそれは本心なのだろう。だが、何故このタイミングなのか。こういうことを勢いで言ってしまうほど、フェリスが単純な男じゃないとレイヴンは知っていた。だからこそ違和感を覚えたのだ。
「ちょっと待ってよ。」その一言がレイヴンからは出ない。自分が止める道理も理由もないからである。
「……いいわよ、吠え面掻かせてやるわ」
売り言葉に買い言葉。周りの生徒に聞こえない程度の声量で交わされた会話はシルバの承諾を以て閉ざされた。
その日の放課後。つい昨日、予選が行われたばかりの静かな闘技場に三つの影が、いや正しくは二つの影が対立していた。
陽がかなり傾いているため、その影のうちの一つは、綺麗な透き通った白髪に夕陽の光が差し込み、その光が反射することで、髪色が紅く染まっている。まるで、冷たい表情とは裏腹に心の底では今にも爆発しそうな怒りを抑えているかのようだ。
一方、その反対側に佇む金色の髪をなびかせる人物は、夕陽によって大きく伸びた影が作られ、影だけでなくその人物までもが大きな影と化しているように見える。その姿からは何かを企んでいるような、そんな気配が漂う。
「勝負は一回きり。気絶か参ったの一言で敗北。武器は理想状態。これでいいわね。」
勝負を挑まれた方がルールの決定を行う。これはこのアトシス学院だけでなく、魔道士も人導士も含めた全ての教育機関で定められているルールだ。最早常識と言ってもいいだろう。
それに従い、闘争心を燃やすシルバがルールの提案-といってもフェリスに拒否権はないのだが-をする。ルールはシンプル。禁止事項は武器を定常状態にしないことのみ。
「あぁ、いいよ。承りましたとも、姫」
承諾と共に見せるのは余裕と挑発。しかしそれでもシルバの無表情は変わらない。おそらく、変えないように意識しているのだろう。
そんなシルバを見て、やれやれと肩をすくめるフェリス。やはり、その行動も挑発以外のなにものでもない。
「そんな余裕かましてられるのも今のうち。せいぜい私にボコられて泣き叫べば良いわ」
怒髪天を衝く。とはまさにこういう時のためにある言葉だろう。始め!の合図もなく、シルバが腰に下げられていた打刀に手をかける。
同時に、フェリスもレイピアを腰から抜き放ち、半身の基本姿勢で構えた。
両者とも、相手の様子を伺うようにすり足でいつでも行動に移せる構えをしている。フェリスは半身姿勢、一方シルバは未だに刀を鞘の中に収めている。居合いの構えをとっているのだ。
じりじりと、少しずつ距離を詰める二人。張り詰めた緊張感がピンと糸を張っている。均衡にして平衡の状態。視線による鍔迫り合いが行われる。だが、その糸はすぐに切れることになる。両者ともにそのことについて理解していた。
そして、そんな糸を最初に切り裂いたのは-
-フェリスだった。
「-神性を纏え。【纏魔】」
詠唱が終わると同時に、フェリスの鋭く尖ったレイピアが不規則に光り輝き出す。【纏魔(オーラル)】によってフェリスの魔力が、適正属性である雷属性に変化したのだ。
しかし、フェリスは自分からは仕掛けずバチバチッと音をたてるレイピアをシルバに突き刺すように正面に構える。いつでもかかってこい。そう言っているのだ。
「えぇ、言われなくとも殺ってやるわよ。-水馬の怒りよ、今それを鎮め、静かな怒りへと昇華させよ。【氷憑(クリュイス)】」
その瞬間、刀が収められている鞘から凍えるような冷気が漏れ出す。その冷気は次第に強くなり、やがて鞘ごと凍らせた。
魔剣技lv2の水属性剣技【氷憑】は己の武器に冷気を纏わせ、武器自体の強度と硬度、さらに切れ味を上乗せする技だ。斬った相手に対し凍傷をも付加することが出来るため、一度斬ると持続的にダメージを与え続ける。それは、理想状態においても同じであり、精神ダメージを与え続けることができる。
そこで、すり足を止めしっかりと居合いの構えとるシルバ。再び訪れた無の数秒間を二人の視線が行き来する。
しかし、二度目の硬直はそう長くは続かなかった。シルバが自身の踵を浮かせた瞬間、戦いの火蓋が切って落とされたのだ。
「閃の型【刀閃】」
オキュラス家に代々伝わる体術の一つを駆使した抜刀術、【刀閃】。鞘から引き抜く瞬間、刀を鞘に引っ掛けることで、普通は一瞬では発揮することが出来ない力を加速度的ではなく爆発的に引き出すことができる。
また、この抜刀術の特徴として体を低く構えることで抜刀する際の移動速度まで爆発的なものにすることが出来るのだ。
勢いよく抜き放たれた刀は、強すぎる冷気を纏っているあまり、白く輝いて見えている。
レイヴンが使う【刀風】に比べると幾分速度は落ちるものの、一気にフェリスとの距離を詰め、一瞬で刀を水平に振り切る。
流石に喰らえばたまったもんじゃない、とフェリスも防御姿勢に入った。レイピアの剣先と柄を両手で支え、レイピアの刀身で受けとめようと半身の態勢を崩す。
瞬間、ガキンッ!と金属と金属がぶつかり合う冷たい音が闘技場に響いた。
しかし、鍔迫り合いの平衡状態には移行せず、結果だけ言えばフェリスが大きく仰け反る形となった。フェリスの予想よりもシルバの力が強く、押し切られてしまったからである。
そこへシルバは、回転することで振り切った刀の勢いを殺すことなく二撃目へとつなげ、追い打ちをかけた。
「柔の型【回斬】」
体を回転させる際に軸足を交互に入れ替えることで、前進することによる威力を斬撃に乗せる技、【回斬】。
初太刀よりも鋭く、速い一撃がフェリスを襲う。
しかし、フェリスもやられてばかりではない。
崩れた体制を立て直そうともせず、そのまま崩れる方向に体を倒しこれを躱そうとする。立て直して二撃目を受けるよりもそのまま逃げ切った方がいいと判断したのだろう。実際、冷気を纏った恐ろしい速度の剣を受けるのは、フェリスの力と技術では不可能だろう。例え受け止めたとしてもレイピアが無事である保証はない。
上手い具合に身体を捻り加速度的に倒れていくフェリスに対して、シルバは加速しすぎた刀を制御できていなかった。刀に身体が持っていかれそうになっている。
フェリスにはそんな剣筋では当てることは出来ない、と渋々ながらわかっているシルバはその勢いを頭上に逃がすように剣を振り上げた。勿論、あわよくばフェリスに当たるように。
そんな剣筋を見たフェリスは、刀を完全に避けたと確認するとその場から大きく飛び退いた。その額には、うっすらと汗が滲んでいる。
「へぇ、これが全力? まあ、思ったよりもやるじゃないか」
「さっきからそんなあからさまな挑発で私を動揺させようとしても無駄。全部挑発だと分かっていればなにも感じないわ。私にはあなたの発言が小鳥の囀りにしか聞こえない」
「ふ~ん、そうかい?」
お互いに鈍器で殴るかのように煽り立てる二人。その様子はまさに、戦いのレベルが違う子供の喧嘩と表現するのが一番しっくりくるだろう。
「じゃあ次はこちらからいかせてもらおう。君が僕の攻撃を全部受けきって最後まで立っていられることを祈っているよ」
「寝言は寝て言いなさいナルシスト」
「ふふっ、言ってくれるね?」
その笑みはきっと、演技などではなく本心から漏れ出したものなのだろうが、殺すつもりの相手がどんな心境であろうが関係ない。シルバは刀を両手で持ち、水平よりも少し下へ傾く程度に構えた。「下段の構え」と呼ばれるその構えは、相手の攻撃をひたすらに受け続け反撃を狙う構えである。
そんなシルバの構えを見たフェリスはレイピアを構え、シルバの方へ向かって地面を蹴った。
「【暗転】」
フェリスがそう魔剣技名を呟いた瞬間、フェリスのレイピアが消えた。いや、正確に言うとフェリスのレイピアが見えなくなった。
フェリスの手は明らかに何かを握っている。しかし、その刀身はおろか柄ですら見えない。
「っ!?」
シルバはその事態に二重の驚きを示す。さらに明らかな動揺がシルバを襲い、冷静な判断力を奪った。下段の構えから、身体全体を守るようにして刀を斜めに構えてしまったのだ。
武器はどこにいったのか、ただ武器が見えなくなっただけなのか、それとも武器自体がそこにもう存在していないのか。そんないくつもの思考がシルバの脳内をぐるぐると巡る。
「僕のレイピアが見えなくなった程度で何を驚いているんだい?」
気づけばフェリスの姿を見失っていた。フェリスの姿と代償に得たものは腹立たしいフェリスの声と-大きな衝撃、倦怠感。
「ぐっ!!」
思わず呻き声をあげるシルバ。状況の理解を急ぐ。しかしフェリスはそれを許さない。まるで先程の立場を入れ替えたような状況に持ち込むよう追撃にでる。シルバはなんとか体勢を整え二撃目、三撃目は持ち前の瞬発力でなんとか防いだものの、それに伴い再び大きく体勢を崩す。
「【闇夜】」
既にシルバは冷静な判断を下せないだろう。故に僅かな時間ではもう立て直しは利かない。その判断の下でフェリスが再び魔剣技を発動させる。
魔剣技名詠唱と共にフェリスのレイピアが出現する。しかし、そのレイピアは今まで目にしたことのない真っ黒ななにかに染められている。最早、レイピア自体が見つめれば見つめるほど恐怖を覚える闇そのものになってしまったかのように。
そんなレイピアを見てフェリスは少し悲しそうな顔を浮かべた。それは申し訳なさにも、失望したようにもとれる。だが、それも束の間。シルバへの追撃を行った。
「終わりだよ」
「っ!!」
シルバが気を持ち直す。
だが、時既に遅し。シルバがレイピアを弾こうとしたときには既に、フェリスのレイピアが深々とシルバに突き刺さっていた。
深く、暗い海に落ちていくようにシルバの意識も暗い場所に落ちていく。少しずつ、ゆっくりと。
その最中、シルバにはフェリスでも、レイヴンでもないだが妙に聞き覚えのある声を聞いた。
「君には才能がある。けれど、今のままではまだ弱い。自分に足りないものはきっと自分でも分かっているんだろう?……ヒントはここまでだ。今後の君に期待しているよ」
声が終わると同時にシルバの意識は暗転。
二人の喧嘩はフェリスの勝利で幕を閉じたのだった。
三日間の予選が終わったつぎの日。
人導士学院アレシドの初等部棟二階のレイヴン達のクラスでは予選に通った者を祝うでも激励するでも休みになるわけでもなく、通常通りの授業が行われていた。
今までも特別なことがあったわけでもないらしく、生徒達から不満が上がるわけでもないため、昨日全国規模の大会出場を懸けた戦いが終わったのだと言っても信じられないほど通常運転である。
そんないつも通りの教室で優等生フェリスは担任教師であるクレア・マリアナの質問につらつらと答えた。
「各属性は、五角相性図によって属性ごとの相性が定められています。五角相性図は正五角形に火、水、雷、土、風の順に時計回りで当てはめたものですが、属性の相性は反時計回りに強い属性となっています。つまり火は風に強く、逆に風は火に弱い」
「完璧な回答だ。よくできたな」
属性にはもちろんだがそれぞれに相性があるのだが、フェリスの言うとおり火は風に、水は火に、雷は水に、土は雷に、風は土に強い。五角の力で押し合えば有利属性が負けることはほぼない。特にそれは「魔法」で顕著に表れる性質がある。
拍手と共に腰を下ろすフェリスに、隣に座っているレイヴンが無邪気な笑顔を向けた。「流石フェリス君だね!」と言いたいのだと表情から容易に読み取れる。だが、そのまた隣に座っている凍てつく氷のような雰囲気の少女の目はこう語っていた。
「調子乗るんじゃないわよ。」
と。
そのおかげでフェリスはレイヴンに笑みを返しながら冷や汗をかくというよくわからない事態に陥っていた。シルバはレイヴンのこととなると何をしでかすかわからない質があるため、いつか背後から刺される日が来るのではないか、フェリスはそう思うことが多々ある。
ここ数日特に風当たりが強いのだが、それはフェリスの剣魔舞闘の予選突破が原因なのだろう。
「?……どうしたのフェリス君、顔色悪いよ?」
「あ、ああなんでもないよ?ほんとになんでもないんだ。うん、むしろ何もない方が良いんだよ、ははは」
変なフェリス君と言って授業に意識を戻すレイヴンに、先ほどとは違い満面の笑みをフェリスに向けるシルバ。その目は「よくやったわ、それでいいの。」と饒舌に語っていた。
(僕にそんな趣味はないんだけど……)
フェリスが10歳にしてそんな特殊な性癖に目覚めているか否かはさておき、教壇の前に立っている三人の担任教師クレアは淡々と授業を続けていた。先程からチラチラとレイヴン達のいる方を向いていることから、きっと三人が授業に集中していないのに気づいているのだろう。しかし、これもいつものことである。
しかし集中していないからと当ててみると難なく答えてくる。底に更に腹が立つのだ。故に集中していないときこそ当てはしない。クレア自身が何故か負けたように感じるからだ。大人げない。
「属性については先週も授業で扱ったが、適性概念のなんたるかは未だに話していなかったな。だから今日からは「概念」についての説明をしていく。ちなみに、座学は属性より簡単だが実践はそれよりも遙かに難しい。中等部での実技試験で落胆しないよう、しっかり理解し練習しておくこと」
この学院-アトシス学院は大きく三つの学年に分かれている。
狼が紋章の初等部(9~11歳)、虎が紋章の中等部(11~13歳)、そして龍が紋章の高等部(13~15歳)だ。基礎の基礎、つまり属性の相性などや簡単な魔剣技の指導、初等教育は初等部。
中等部では魔剣技の応用に適性属性や適性概念の考え方など、少しずつ「魔力」の芯に迫る。
そして高等部では独自の魔剣技や、高度な魔剣技、さらに魔法との関連性について。加えて倫理などの「魔力を使うこと」に関しての社会性について学ぶ。段階が少しずつ踏まれるが、単位制なのでその科目を落とすと次の学年に進めず留年となることも十分にあり得る。
クレアの言葉を聞いたシルバは明らかに嫌な顔を浮かべた。中級魔剣技に次いで、魔力によって概念に干渉する「概念魔剣技」も苦手にしているのだ。そもそも、初等部では概念の実技は行わないので「苦手」という感情を持っていること自体奇妙なのではあるが……。
そんな表情のシルバを見たフェリスは、わざわざ藪から蛇をつつくように、ニヤリと口角をあげた。
「ん? どうしたんだいシルバ?」
その瞬間シルバの肩がぴくっと震える。
「な、なによ。概念魔剣技の扱いなんて5歳の頃にとっくにマスターしたわ。あなたに心配される筋合いもないし、なによりあなたより私は強いわ」
「いや、聞いてないけど」
強気な返答だ。しかしこれはいつものシルバと変わらない。ちょっとやそっとの事ではシルバの表情は変わらないし、変えられない。そうして、一見、落ち着いた様子で深緑の瞳を黒板へ戻すシルバ。
いつもならフェリス「いつもの仕返し」と称してここで終わるのだが、何故かこの日は違った。言葉に表しづらいのだが、一言で表現するなら調子に乗っていたのだ。
「へぇ、じゃあシルバ。僕と勝負しようよ」
「えっ?」
フェリスの提案に声を上げたのは、提案されたシルバではなくレイヴンだった。今まで一度も自分から戦おうと言うことがなかったフェリスに違和感を覚えたのだ。席的に二人に挟まれていたレイヴンは授業もしっかり聞いていたが、それでも二人の会話もしっかり聞いていた。フェリスを睨むシルバと、にやついたフェリスを交互に見る。端から見ればただ首振っているように見えるだろう。
「僕より強いなら逃げはしないよね? 剣魔舞闘の予選で戦ってみたかったんだけど、君ったらレイヴンが出場しないと聞いた途端に辞退しちゃうんだから」
きっとそれは本心なのだろう。だが、何故このタイミングなのか。こういうことを勢いで言ってしまうほど、フェリスが単純な男じゃないとレイヴンは知っていた。だからこそ違和感を覚えたのだ。
「ちょっと待ってよ。」その一言がレイヴンからは出ない。自分が止める道理も理由もないからである。
「……いいわよ、吠え面掻かせてやるわ」
売り言葉に買い言葉。周りの生徒に聞こえない程度の声量で交わされた会話はシルバの承諾を以て閉ざされた。
その日の放課後。つい昨日、予選が行われたばかりの静かな闘技場に三つの影が、いや正しくは二つの影が対立していた。
陽がかなり傾いているため、その影のうちの一つは、綺麗な透き通った白髪に夕陽の光が差し込み、その光が反射することで、髪色が紅く染まっている。まるで、冷たい表情とは裏腹に心の底では今にも爆発しそうな怒りを抑えているかのようだ。
一方、その反対側に佇む金色の髪をなびかせる人物は、夕陽によって大きく伸びた影が作られ、影だけでなくその人物までもが大きな影と化しているように見える。その姿からは何かを企んでいるような、そんな気配が漂う。
「勝負は一回きり。気絶か参ったの一言で敗北。武器は理想状態。これでいいわね。」
勝負を挑まれた方がルールの決定を行う。これはこのアトシス学院だけでなく、魔道士も人導士も含めた全ての教育機関で定められているルールだ。最早常識と言ってもいいだろう。
それに従い、闘争心を燃やすシルバがルールの提案-といってもフェリスに拒否権はないのだが-をする。ルールはシンプル。禁止事項は武器を定常状態にしないことのみ。
「あぁ、いいよ。承りましたとも、姫」
承諾と共に見せるのは余裕と挑発。しかしそれでもシルバの無表情は変わらない。おそらく、変えないように意識しているのだろう。
そんなシルバを見て、やれやれと肩をすくめるフェリス。やはり、その行動も挑発以外のなにものでもない。
「そんな余裕かましてられるのも今のうち。せいぜい私にボコられて泣き叫べば良いわ」
怒髪天を衝く。とはまさにこういう時のためにある言葉だろう。始め!の合図もなく、シルバが腰に下げられていた打刀に手をかける。
同時に、フェリスもレイピアを腰から抜き放ち、半身の基本姿勢で構えた。
両者とも、相手の様子を伺うようにすり足でいつでも行動に移せる構えをしている。フェリスは半身姿勢、一方シルバは未だに刀を鞘の中に収めている。居合いの構えをとっているのだ。
じりじりと、少しずつ距離を詰める二人。張り詰めた緊張感がピンと糸を張っている。均衡にして平衡の状態。視線による鍔迫り合いが行われる。だが、その糸はすぐに切れることになる。両者ともにそのことについて理解していた。
そして、そんな糸を最初に切り裂いたのは-
-フェリスだった。
「-神性を纏え。【纏魔】」
詠唱が終わると同時に、フェリスの鋭く尖ったレイピアが不規則に光り輝き出す。【纏魔(オーラル)】によってフェリスの魔力が、適正属性である雷属性に変化したのだ。
しかし、フェリスは自分からは仕掛けずバチバチッと音をたてるレイピアをシルバに突き刺すように正面に構える。いつでもかかってこい。そう言っているのだ。
「えぇ、言われなくとも殺ってやるわよ。-水馬の怒りよ、今それを鎮め、静かな怒りへと昇華させよ。【氷憑(クリュイス)】」
その瞬間、刀が収められている鞘から凍えるような冷気が漏れ出す。その冷気は次第に強くなり、やがて鞘ごと凍らせた。
魔剣技lv2の水属性剣技【氷憑】は己の武器に冷気を纏わせ、武器自体の強度と硬度、さらに切れ味を上乗せする技だ。斬った相手に対し凍傷をも付加することが出来るため、一度斬ると持続的にダメージを与え続ける。それは、理想状態においても同じであり、精神ダメージを与え続けることができる。
そこで、すり足を止めしっかりと居合いの構えとるシルバ。再び訪れた無の数秒間を二人の視線が行き来する。
しかし、二度目の硬直はそう長くは続かなかった。シルバが自身の踵を浮かせた瞬間、戦いの火蓋が切って落とされたのだ。
「閃の型【刀閃】」
オキュラス家に代々伝わる体術の一つを駆使した抜刀術、【刀閃】。鞘から引き抜く瞬間、刀を鞘に引っ掛けることで、普通は一瞬では発揮することが出来ない力を加速度的ではなく爆発的に引き出すことができる。
また、この抜刀術の特徴として体を低く構えることで抜刀する際の移動速度まで爆発的なものにすることが出来るのだ。
勢いよく抜き放たれた刀は、強すぎる冷気を纏っているあまり、白く輝いて見えている。
レイヴンが使う【刀風】に比べると幾分速度は落ちるものの、一気にフェリスとの距離を詰め、一瞬で刀を水平に振り切る。
流石に喰らえばたまったもんじゃない、とフェリスも防御姿勢に入った。レイピアの剣先と柄を両手で支え、レイピアの刀身で受けとめようと半身の態勢を崩す。
瞬間、ガキンッ!と金属と金属がぶつかり合う冷たい音が闘技場に響いた。
しかし、鍔迫り合いの平衡状態には移行せず、結果だけ言えばフェリスが大きく仰け反る形となった。フェリスの予想よりもシルバの力が強く、押し切られてしまったからである。
そこへシルバは、回転することで振り切った刀の勢いを殺すことなく二撃目へとつなげ、追い打ちをかけた。
「柔の型【回斬】」
体を回転させる際に軸足を交互に入れ替えることで、前進することによる威力を斬撃に乗せる技、【回斬】。
初太刀よりも鋭く、速い一撃がフェリスを襲う。
しかし、フェリスもやられてばかりではない。
崩れた体制を立て直そうともせず、そのまま崩れる方向に体を倒しこれを躱そうとする。立て直して二撃目を受けるよりもそのまま逃げ切った方がいいと判断したのだろう。実際、冷気を纏った恐ろしい速度の剣を受けるのは、フェリスの力と技術では不可能だろう。例え受け止めたとしてもレイピアが無事である保証はない。
上手い具合に身体を捻り加速度的に倒れていくフェリスに対して、シルバは加速しすぎた刀を制御できていなかった。刀に身体が持っていかれそうになっている。
フェリスにはそんな剣筋では当てることは出来ない、と渋々ながらわかっているシルバはその勢いを頭上に逃がすように剣を振り上げた。勿論、あわよくばフェリスに当たるように。
そんな剣筋を見たフェリスは、刀を完全に避けたと確認するとその場から大きく飛び退いた。その額には、うっすらと汗が滲んでいる。
「へぇ、これが全力? まあ、思ったよりもやるじゃないか」
「さっきからそんなあからさまな挑発で私を動揺させようとしても無駄。全部挑発だと分かっていればなにも感じないわ。私にはあなたの発言が小鳥の囀りにしか聞こえない」
「ふ~ん、そうかい?」
お互いに鈍器で殴るかのように煽り立てる二人。その様子はまさに、戦いのレベルが違う子供の喧嘩と表現するのが一番しっくりくるだろう。
「じゃあ次はこちらからいかせてもらおう。君が僕の攻撃を全部受けきって最後まで立っていられることを祈っているよ」
「寝言は寝て言いなさいナルシスト」
「ふふっ、言ってくれるね?」
その笑みはきっと、演技などではなく本心から漏れ出したものなのだろうが、殺すつもりの相手がどんな心境であろうが関係ない。シルバは刀を両手で持ち、水平よりも少し下へ傾く程度に構えた。「下段の構え」と呼ばれるその構えは、相手の攻撃をひたすらに受け続け反撃を狙う構えである。
そんなシルバの構えを見たフェリスはレイピアを構え、シルバの方へ向かって地面を蹴った。
「【暗転】」
フェリスがそう魔剣技名を呟いた瞬間、フェリスのレイピアが消えた。いや、正確に言うとフェリスのレイピアが見えなくなった。
フェリスの手は明らかに何かを握っている。しかし、その刀身はおろか柄ですら見えない。
「っ!?」
シルバはその事態に二重の驚きを示す。さらに明らかな動揺がシルバを襲い、冷静な判断力を奪った。下段の構えから、身体全体を守るようにして刀を斜めに構えてしまったのだ。
武器はどこにいったのか、ただ武器が見えなくなっただけなのか、それとも武器自体がそこにもう存在していないのか。そんないくつもの思考がシルバの脳内をぐるぐると巡る。
「僕のレイピアが見えなくなった程度で何を驚いているんだい?」
気づけばフェリスの姿を見失っていた。フェリスの姿と代償に得たものは腹立たしいフェリスの声と-大きな衝撃、倦怠感。
「ぐっ!!」
思わず呻き声をあげるシルバ。状況の理解を急ぐ。しかしフェリスはそれを許さない。まるで先程の立場を入れ替えたような状況に持ち込むよう追撃にでる。シルバはなんとか体勢を整え二撃目、三撃目は持ち前の瞬発力でなんとか防いだものの、それに伴い再び大きく体勢を崩す。
「【闇夜】」
既にシルバは冷静な判断を下せないだろう。故に僅かな時間ではもう立て直しは利かない。その判断の下でフェリスが再び魔剣技を発動させる。
魔剣技名詠唱と共にフェリスのレイピアが出現する。しかし、そのレイピアは今まで目にしたことのない真っ黒ななにかに染められている。最早、レイピア自体が見つめれば見つめるほど恐怖を覚える闇そのものになってしまったかのように。
そんなレイピアを見てフェリスは少し悲しそうな顔を浮かべた。それは申し訳なさにも、失望したようにもとれる。だが、それも束の間。シルバへの追撃を行った。
「終わりだよ」
「っ!!」
シルバが気を持ち直す。
だが、時既に遅し。シルバがレイピアを弾こうとしたときには既に、フェリスのレイピアが深々とシルバに突き刺さっていた。
深く、暗い海に落ちていくようにシルバの意識も暗い場所に落ちていく。少しずつ、ゆっくりと。
その最中、シルバにはフェリスでも、レイヴンでもないだが妙に聞き覚えのある声を聞いた。
「君には才能がある。けれど、今のままではまだ弱い。自分に足りないものはきっと自分でも分かっているんだろう?……ヒントはここまでだ。今後の君に期待しているよ」
声が終わると同時にシルバの意識は暗転。
二人の喧嘩はフェリスの勝利で幕を閉じたのだった。
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