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第2部
親愛なる友へ──フィリアより
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少し肌寒い季節になりましたね。あなたは元気にしていましたか?
もう会えないかと心配しました。また会えて本当に良かった。
あなたはとても勤勉で、集中しすぎると周りが見えなくなってしまいがちなのですから、たまには休むように。
とは言っても、もうあなたにわたしの言葉は届かないかもしれませんね。
今、わたしとあなたが出会った時のことを思い出していました。
わたしが過去の記憶を一切持たず、途方に明け暮れてあちこちさまよっていたところと、あなたが見つけてくれましたね。
最初に出会った針葉樹の森、まだ忘れていません。
目を閉じると、木々の匂いと僅かなお花畑の蜜の香りがするようです。
ここで一眠りしてしまおうか。やっぱり歩いてみようかな。そんなことを考えていて、いざ歩き始めたというところに、あなたが来たんです。
覚えてますか?
あの時から決めていたんですよ、わたし。ずっとあなたについていこうって。
嗚呼、でも。そんな甘くてときどき酸っぱい日常も、もう終わってしまうのですね。
だけど終わりをあなたと一緒に迎えられたのなら、わたしは幸せです。
本当は、あなたともっと色んな所を見て回りたかったんですけれど。
ところで、あなたはどう思いましたか?
この世界のことを。
思い出せる記憶のほとんどは、辛いものだったり、後悔であったり、思い出したくもない出来事でしょう。
そして「楽しくはなかった」と、あなたならきっと言うでしょう。
でも、わたしは楽しかったです。
あなたは良かれと思わないでしょうが、実はわたし、結構あくまの皆さんとお会いしたことがあるんですよ。
皆さんとてもいい人たちばかりで。少し変わってましたけど、暖かくてまるで家族みたいに暮らしていました。
どうして彼らは殺されなくちゃいけないんだろう、と思うくらいに。でも子どものわたしが踏み込んではいけないんだろうな、と感じていたので、それは聞かないことにしました。
だから、わたし、アトロシティの街で攫われたことを怖いだとか、悲しいだとか思いませんでした。あくまの皆さんが、わたしを守ろうとしてくれたんだ、と思いました。
でも、そのことをあなたに一度も言えなかった。
あなたに失望されたくなかった、忌避されたくなかった。だから他の二人にも、ただの一度も話したことはありません。
今ではとても後悔しています。
いいえわたしは、反省しなくてはいけません。
わたしが何も言わなかったせいで、あなたは人でなくなってしまった。
許してくださいとは絶対に言いません。言えません。
あなたは、わたしを守りたいと、その一心で人である事を捨てた。そうですね?
あの人たちよりも、ううん、あくまたちよりも力を持ってしまって、もう自分ではほとんど制御できていないんでしょう?
ごめんなさい、そしてありがとう。
辛かったよね。苦しかったよね。痛かったよね。悲しかったよね。
だからわたしは、あなたの一部となって死ぬことにします。
これが償いになるなんて思ってません。
せめて、もう二度と、あなたが寂しくならないように。
わたしがずっと、あなたと一緒にいられるように。
まずは、この世界にさようなら。
だいじょうぶ。
お空の国はいつも暖かくて、愛する人と永遠でいられるんだから。
もう会えないかと心配しました。また会えて本当に良かった。
あなたはとても勤勉で、集中しすぎると周りが見えなくなってしまいがちなのですから、たまには休むように。
とは言っても、もうあなたにわたしの言葉は届かないかもしれませんね。
今、わたしとあなたが出会った時のことを思い出していました。
わたしが過去の記憶を一切持たず、途方に明け暮れてあちこちさまよっていたところと、あなたが見つけてくれましたね。
最初に出会った針葉樹の森、まだ忘れていません。
目を閉じると、木々の匂いと僅かなお花畑の蜜の香りがするようです。
ここで一眠りしてしまおうか。やっぱり歩いてみようかな。そんなことを考えていて、いざ歩き始めたというところに、あなたが来たんです。
覚えてますか?
あの時から決めていたんですよ、わたし。ずっとあなたについていこうって。
嗚呼、でも。そんな甘くてときどき酸っぱい日常も、もう終わってしまうのですね。
だけど終わりをあなたと一緒に迎えられたのなら、わたしは幸せです。
本当は、あなたともっと色んな所を見て回りたかったんですけれど。
ところで、あなたはどう思いましたか?
この世界のことを。
思い出せる記憶のほとんどは、辛いものだったり、後悔であったり、思い出したくもない出来事でしょう。
そして「楽しくはなかった」と、あなたならきっと言うでしょう。
でも、わたしは楽しかったです。
あなたは良かれと思わないでしょうが、実はわたし、結構あくまの皆さんとお会いしたことがあるんですよ。
皆さんとてもいい人たちばかりで。少し変わってましたけど、暖かくてまるで家族みたいに暮らしていました。
どうして彼らは殺されなくちゃいけないんだろう、と思うくらいに。でも子どものわたしが踏み込んではいけないんだろうな、と感じていたので、それは聞かないことにしました。
だから、わたし、アトロシティの街で攫われたことを怖いだとか、悲しいだとか思いませんでした。あくまの皆さんが、わたしを守ろうとしてくれたんだ、と思いました。
でも、そのことをあなたに一度も言えなかった。
あなたに失望されたくなかった、忌避されたくなかった。だから他の二人にも、ただの一度も話したことはありません。
今ではとても後悔しています。
いいえわたしは、反省しなくてはいけません。
わたしが何も言わなかったせいで、あなたは人でなくなってしまった。
許してくださいとは絶対に言いません。言えません。
あなたは、わたしを守りたいと、その一心で人である事を捨てた。そうですね?
あの人たちよりも、ううん、あくまたちよりも力を持ってしまって、もう自分ではほとんど制御できていないんでしょう?
ごめんなさい、そしてありがとう。
辛かったよね。苦しかったよね。痛かったよね。悲しかったよね。
だからわたしは、あなたの一部となって死ぬことにします。
これが償いになるなんて思ってません。
せめて、もう二度と、あなたが寂しくならないように。
わたしがずっと、あなたと一緒にいられるように。
まずは、この世界にさようなら。
だいじょうぶ。
お空の国はいつも暖かくて、愛する人と永遠でいられるんだから。
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