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第1部
#31 安楽を求める学び舎
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「着いた―!」
「町に、ですけどね」
同じ雪景色でも、人の拠り所があるのとないのでは安心感が違う。しかし──。
「誰も……いないね」
僕たちのように外を歩く人は誰一人として居らず。かといって、家の明かりがついているかと言えば、そうでもない。
──無人。という単語が、この場には相応しいだろう。
「気味が悪いくらい静かだね……」
「まるで、この町の人々が突然どこかへ消えてしまったみたいですわ……」
ノアもフィリアも、この無人の町には違和感を覚えるらしい。
「こんなに広い町なのに……えっと、その、なんだっけ? ユーサなんとか……」
「ああ、魔法学校ユーサネイジアのことだね」
「そうそう、それそれ」
「この道を真っ直ぐ突き進めば着くよ。驚くほどわかりやすい! どんなお馬鹿さんも迷わせないから、学校を休む言い訳が一つ減る」
「みたいだね。うーん、今まで行ったことのある町は、影が彷徨いていたから……こんなに人気がないのは初めてかも」
「影? ……まあいいや。歩きながら話そうか」
雪を踏みしめる音と感触に、心地良さを感じながら町を歩く。やはり、どの家屋も真っ暗で、生活の色はなさそうだ。
「それにしても、レイセンさん。よくこんな場所が思いつきましたね」
「資料を探すのなら、この学舎以上に相応しい場所はないかと。この世界で学校と名の付いた建物はここだけ、ですから」
「ふふ、フィリアも大きくなったら、こーんな立派な学校で勉学に励みたいものですわ!!」
「ところでノア、一つ聞きたいことがあるのですが」
「え、僕ですか? 僕に答えられればいいけど……」
どうにも、僕は付いていけそうにない内容を話している予感がした。いつもの事だからあまり気には留めていないが。
「ノアのその服装は、この学舎の制服ですよね? ここの教育理念や授業の内容はどうですか?」
ノアは小さく唸ると、諦めがついたように話し始めた。
「ええっと、ごめんなさい。覚えてなくて……。あ! 違うんです、不真面目とかそういうのじゃなくて、覚えてたはずなのに、記憶から全部すっぽりと抜けてしまったような感じで……どうしてだろう?」
「覚えていない、というのは仕方のないことです。……所詮人ですから、忘れることくらいありますよ」
記憶喪失と似たようなものだろうか。僕が心底ノアを嫌いにならないのは、記憶の欠如による親近感のせいかもしれない。するとレイセン君は僕を見て「この方は自分の名前すら忘れてるんですから」と煽ってきた。
「ねーねー、これからそこへ行ってどうするの?」
痺れを切らした僕はレイセン君とノアの間に割って入り、気がかりだった質問を投げかけた。
「……この話の流れから察……せませんね、特に貴方は」
「うん、現にわからないから、そこは否定しないよ。ちんぷんかんぷんだ」
レイセン君が深いため息を吐いた。
「私は以前より、魔術について調べておりました。スペリォールの館の図書館でも同様に」
「そうだったんだ。知らなかった……」
「館で入手した書物では不十分だったものですから。この先の悪魔戦を考えると、少しでも戦力を補っておきたいと思うのは当然でしょう」
「確かに! 僕はそんなに強力な敵を前にしたら、腰が抜けちゃって何の役にも立たないだろうなあ」
「何言ってるの、ノア。君が真っ先に、先陣切って行きそうなんだけど」
「いやぁ、いつもそうなるとは限らないよ? ……多分ね」
レイセン君は魔術についての情報を得るために。
ノアにも既に賢者の石という調査対象が見つかっている。
フィリアはきっとノアに付いていくだろう。
となると、僕は──やはり心臓について、だろうか。
「……皆、それぞれ探しものが見つかると良いけど」
そうこうしている間に、魔法学校ユーサネイジアの校門に辿り着いた。
住宅街の屋根と同じ赤茶色の煉瓦でできた壁には、覆い被さるように蔦が蔓延っていた。
「着きましたわね。中はここよりも温かいと良いのですけれど……きっと誰もいませんわね」
「フィリアはこの状況をどう思うの?」
「何とも思いませんわ。だって、疑問に思ったところで、答えられる人は居ませんもの」
「…………」
フィリアは確かに、しっかりとした性格だ。だからといって、不躾な質問ばかり投げかけてはいないか、と指摘されれば否定はできない。僕の好奇心は、不規則に屈折しがちである。このことを自覚しなければならないなと、反省した。
「あら、そんな顔しないでくださいな。周りの皆が知っていて、フィリアだけが知らない……。フィリアはそんな仲間はずれが、今よりずっと嫌なだけですわ」
「でも知りたがり過ぎるのは良くないよ、フィリア。知りすぎて、頭がオーバーフロー、おまけに爆発してしまうよ?」
「まさか、そんなはずありませんわよ。……えっと、そうですよね、レイセンさん?」
「……人をからかうのも、大概にすべきです」
「は、はいぃ……気を抜くと、どうしても出ちゃうっていうか……」
「悪事身に返るといいます。いつか痛い目を見るのはあなたですよ、ノア」
「レイセンさんに言われると説得力が違うなぁ……。本当にごめんよフィリア。来世までには直すから」
「わかればよろしんですのよ。……って、来世じゃ遅いですーーー!!」
「町に、ですけどね」
同じ雪景色でも、人の拠り所があるのとないのでは安心感が違う。しかし──。
「誰も……いないね」
僕たちのように外を歩く人は誰一人として居らず。かといって、家の明かりがついているかと言えば、そうでもない。
──無人。という単語が、この場には相応しいだろう。
「気味が悪いくらい静かだね……」
「まるで、この町の人々が突然どこかへ消えてしまったみたいですわ……」
ノアもフィリアも、この無人の町には違和感を覚えるらしい。
「こんなに広い町なのに……えっと、その、なんだっけ? ユーサなんとか……」
「ああ、魔法学校ユーサネイジアのことだね」
「そうそう、それそれ」
「この道を真っ直ぐ突き進めば着くよ。驚くほどわかりやすい! どんなお馬鹿さんも迷わせないから、学校を休む言い訳が一つ減る」
「みたいだね。うーん、今まで行ったことのある町は、影が彷徨いていたから……こんなに人気がないのは初めてかも」
「影? ……まあいいや。歩きながら話そうか」
雪を踏みしめる音と感触に、心地良さを感じながら町を歩く。やはり、どの家屋も真っ暗で、生活の色はなさそうだ。
「それにしても、レイセンさん。よくこんな場所が思いつきましたね」
「資料を探すのなら、この学舎以上に相応しい場所はないかと。この世界で学校と名の付いた建物はここだけ、ですから」
「ふふ、フィリアも大きくなったら、こーんな立派な学校で勉学に励みたいものですわ!!」
「ところでノア、一つ聞きたいことがあるのですが」
「え、僕ですか? 僕に答えられればいいけど……」
どうにも、僕は付いていけそうにない内容を話している予感がした。いつもの事だからあまり気には留めていないが。
「ノアのその服装は、この学舎の制服ですよね? ここの教育理念や授業の内容はどうですか?」
ノアは小さく唸ると、諦めがついたように話し始めた。
「ええっと、ごめんなさい。覚えてなくて……。あ! 違うんです、不真面目とかそういうのじゃなくて、覚えてたはずなのに、記憶から全部すっぽりと抜けてしまったような感じで……どうしてだろう?」
「覚えていない、というのは仕方のないことです。……所詮人ですから、忘れることくらいありますよ」
記憶喪失と似たようなものだろうか。僕が心底ノアを嫌いにならないのは、記憶の欠如による親近感のせいかもしれない。するとレイセン君は僕を見て「この方は自分の名前すら忘れてるんですから」と煽ってきた。
「ねーねー、これからそこへ行ってどうするの?」
痺れを切らした僕はレイセン君とノアの間に割って入り、気がかりだった質問を投げかけた。
「……この話の流れから察……せませんね、特に貴方は」
「うん、現にわからないから、そこは否定しないよ。ちんぷんかんぷんだ」
レイセン君が深いため息を吐いた。
「私は以前より、魔術について調べておりました。スペリォールの館の図書館でも同様に」
「そうだったんだ。知らなかった……」
「館で入手した書物では不十分だったものですから。この先の悪魔戦を考えると、少しでも戦力を補っておきたいと思うのは当然でしょう」
「確かに! 僕はそんなに強力な敵を前にしたら、腰が抜けちゃって何の役にも立たないだろうなあ」
「何言ってるの、ノア。君が真っ先に、先陣切って行きそうなんだけど」
「いやぁ、いつもそうなるとは限らないよ? ……多分ね」
レイセン君は魔術についての情報を得るために。
ノアにも既に賢者の石という調査対象が見つかっている。
フィリアはきっとノアに付いていくだろう。
となると、僕は──やはり心臓について、だろうか。
「……皆、それぞれ探しものが見つかると良いけど」
そうこうしている間に、魔法学校ユーサネイジアの校門に辿り着いた。
住宅街の屋根と同じ赤茶色の煉瓦でできた壁には、覆い被さるように蔦が蔓延っていた。
「着きましたわね。中はここよりも温かいと良いのですけれど……きっと誰もいませんわね」
「フィリアはこの状況をどう思うの?」
「何とも思いませんわ。だって、疑問に思ったところで、答えられる人は居ませんもの」
「…………」
フィリアは確かに、しっかりとした性格だ。だからといって、不躾な質問ばかり投げかけてはいないか、と指摘されれば否定はできない。僕の好奇心は、不規則に屈折しがちである。このことを自覚しなければならないなと、反省した。
「あら、そんな顔しないでくださいな。周りの皆が知っていて、フィリアだけが知らない……。フィリアはそんな仲間はずれが、今よりずっと嫌なだけですわ」
「でも知りたがり過ぎるのは良くないよ、フィリア。知りすぎて、頭がオーバーフロー、おまけに爆発してしまうよ?」
「まさか、そんなはずありませんわよ。……えっと、そうですよね、レイセンさん?」
「……人をからかうのも、大概にすべきです」
「は、はいぃ……気を抜くと、どうしても出ちゃうっていうか……」
「悪事身に返るといいます。いつか痛い目を見るのはあなたですよ、ノア」
「レイセンさんに言われると説得力が違うなぁ……。本当にごめんよフィリア。来世までには直すから」
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