聖女の御旗に集え!! ~ こんな世界、俺がぶっ壊してやるよ!!

犬猫パンダマン

文字の大きさ
上 下
51 / 58

第51話 絶対、迎えに行くからな!!

しおりを挟む
 俺たちは今、マグレイアと対峙している。

 キルレイドさんのおかげで、一対一の状況が作られた。
 ところが、それを邪魔する奴らがいるんだ。

「なんで急に、ラヴェルサがこっちに寄って来てんだよ」

 双星機とマグレイアを囲むようにして迫ってくる。
 だけど、これまでのことを考えれば、狙いは双星機だろう。


 覚悟を決めるべきなんだ。


 俺は剣を背中に戻して、右手で左腕を引っ張った。

「剣星、何をしてる!」
「このまま引っこ抜く!」

 もう左腕はいらない。
 俺の意志が薄く広がっていくなら、体積を小さくするしかない。

「これで、ちょっとは反応が良くなったな」
「まったく、無茶をする」

 引き抜いた左腕を落として、マグレイアに向かって突進する。
 俺が移動することで、ラヴェルサも進路を変えている。
 マグレイアにも逃げ場はないはずだ。


「ここで決める!」
「いっけぇ! ケンセー!」


 俺のとった攻撃手段は振り下ろし。


 マグレイアは攻撃を中断して、回避の姿勢をとった。
 でも、こっちは勢いがついてる。
 止まらない。


 このままじゃ、後の先をとられてしまう。


 外れた!


 すかさず、マグレイアが切りかかってくる。
 俺の剣は、まだ地面に刺さってる。


 間に合わない!


 アルフィナを助けられず、イオリと一緒に死ぬ?


 それもアリか……。



 ふと、副長の顔が思い浮かんだ。
 なんだか、怒っているような気がする。



 ……そうだよな。



 副長が望んだ世界を否定して、俺はここにいるんだ。
 俺はまだ生きてる。



 絶対に諦めない!



 剣を柔らかくして、しならせる。
 硬くするのは、機人にあたる直前でいい。

 地面に刺さった反動を利用して、一気に加速。



 見よう見まね、爆速剣!!



 切り上げた刃は、マグレイア機のコックピットを通過して、再び姿を現した。
 それと同時に、マグレイア機から赤く光る線が輝きを失っていく。


「剣星、やっ——」
「まだだ! ここからは時間との勝負だぞ、イオリ!」

 マグレイア機に近づいて、コックピットを強引に開く。
 狙い通り、操縦桿《クオーツ》は無傷みたいだ。
 人間だけを狙うなんて、ヒデー技術を習得しちまった。

「こいつは後で使わせてもらう。姉弟そろって、悪いな。いずれ、地獄で会おうぜ」
「ならば、私も付き合ってやる。もうしばらく後で、だがな」

 イオリと二人で地獄旅か。
 それも悪くない。

 マグレイアを掴んで地面に下ろそう。

 敵とはいえ、正々堂々と戦った相手だ。
 もう放り投げたりなんかできない。

 右手でつかんだ瞬間、マグレイアの顔が僅かに動いた。
 憎悪の炎を宿した瞳は、視線だけで人を殺せそうなほどに鋭い。

 マグレイアは双星機に向かって、何かを叫んでいる。
 口を動かすたびに吐血してるのに、かまわず続けている。

 どれだけ、俺のことが憎いだろうか。
 弟を殺され、自分も同じ道を辿っている。
 マグレイアの出血はおびただしく、臓器が飛び出て、助かる見込みはない。

 俺はマグレイアを地面に下ろすと、彼女の機人を抱えて駆けだした。

「剣星、考えすぎるなよ」
「ありがとう。俺は大丈夫だ」

 ラヴェルサの群れが俺たちに迫ってきてる。
 本当にぎりぎりのタイミングだった。

「こいつらを飛び越えるぞ! アルフィナを迎えに行くんだ!」

 マグレイア機は双星機に比べれば、半分くらいの大きさしかない。
 重量はそれ以下だろう。
 パワーが落ちた双星機でも、余裕で運べる。

 俺たちはラヴェルサの群れを飛び越えた。
 前方にラヴェルサの姿は見えない。
 アルフィナの近辺には配置されていないようだ。

 走っている間に、レトレーダーで状況を確認する。

 どうやら、ウィーベルトはキルレイドさんが倒してくれたみたいだな。
 大きな反応がなくなってる。

 アスラレイドを失ったリグド・テランの機人は統率を失い、ラヴェルサに飲み込まれている。

 六人いたアスライドで残っているのは、セイレーンとドゥディクスだけ。
 いずれも俺たちと内通している。

 セイレーンたちが和平に向けて動いてくれればいいんだけど。
 マグレイアたちがここに来たことを考えれば、素直に信じていいか不安になる。
 今は考えないことにしよう。

 やるべきことが、まだ残ってる。
 でも、できることは少ない。

 俺は不本意な選択肢を選ばなければならないだろう。

 小さな建物が見えてきた。
 その前には、こちらを見てる二人の人物。
 アルフィナと、アルバだったか。

「アルフィナ様、すぐに参ります」

 アルフィナは少女に支えられている。
 体調がよくないのかもしれない。

 十数秒後、俺たちはアルフィナの目の前にやってきた。
 俺は隣にマグレイア機を下ろし、跪いて、手のひらをアルフィナに向ける。

「アルフィナ様! 双星機にお乗りください!」

 イオリの必死の叫び。
 だけど、アルフィナはイオリから目をそらしている。

 アルフィナにしてみれば、イオリを騙して、去っていった負い目があるのだろう。
 イオリは全然気にしてないだろうけど。

 でも、悠長に待ってる時間はない。
 後ろからは、ラヴェルサの群れが迫っている。
 一度は引き離したけど、このままじゃ逃げきれなくなってしまう。

 俺は双星機から飛び降りて、アルフィナに駆け寄った。

「アルフィナ。頼みたいことがあるんだ。早く乗ってくれ」
「プラントを破壊しに行くのか?」
「今の戦力では不可能だ。いったん出直す。それにはアルフィナの力が必要なんだ。一緒に来てくれ」

 地下プラントの奥からも、ラヴェルサの群れが近づいている。
 アルフィナが双星機に乗ったとしても、難しいかもしれない。
 体調不良なら猶更だ。

「ならぬ。妾がいなくなれば、ラヴェルサがさらに世界に広がっていくじゃろう。そのようなこと、童が許すはずがなかろう」

 そうだよ。
 そんなこと分かってるんだよ。
 だから、こんな選択をしなくちゃ駄目なんだ。

「そこで、私の出番ってわけよ!」
「羽虫! ……そうか、そういうことじゃったのか」

 昨晩、レトが俺に自分から言い出したことだ。
 俺が言いにくいと思ったんだろう。

 レトは聖女と同等以上の力を持っている。
 レトがこの地に残れば、今まで通りにラヴェルサを引き付けられるはずだ。

 今、必要なのは力じゃなくて、立場なんだ。
 聖女として、みんなに知られているアルフィナが必要なんだ。

「剣星、お主はそれで良いのか?」
「俺は……」
「いいから、さっさと行きなさ~い!! もう時間がな~い!!」

「相分かった。アルバや、ついてくるのじゃ」
「は~い!」

 ようやく、乗ってくれたか。
 俺もマグレイア機によじ登っていく。

「ケンセー!」
「どうした、レト?」

 レトも不安なんだろう。
 初めて見せる表情だ。

「早く迎えにきてよね。じゃないと私、寂しくて死んじゃうんだから!!」
「ああ、行くよ。絶対行く。だから、ちょっとだけ待っててくれ」
「ちょっとじゃなかったら、ここから逃げちゃうからね!」

 俺たちはレトの元を去り、駆け出した。
 マグレイア機は傷ついているから、霧の影響を受け続けたら、ラヴェルサの支配下に置かれてしまう。
 レトがいないから、今まで通りってわけにはいかないんだ。

 それにしても、レトの奴、最後の最後にとんでもないこと言いやがったな。
 レトが逃げだしたら、ラヴェルサは世界に広がっていくだろう。
 地下プラントを破壊する前に、そんなことされたら大変だ。

 まあ、その心配は必要ないだろう。

 俺が助けに行くって決めたんだからな!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...