聖女の御旗に集え!! ~ こんな世界、俺がぶっ壊してやるよ!!

犬猫パンダマン

文字の大きさ
上 下
50 / 58

第50話 どうして今なんだよ!

しおりを挟む
 マグレイアと共に来た部隊は、双星機に気づいていない。

 強襲するつもりのところに、逆に不意打ちを食らわせられれば、敵部隊は相当大きなダメージを負うことになるだろう。

「イオリ」
「分かってる。ここで奴を倒す意味は大きい」

 標的であるマグレイアを倒せば、味方の士気は間違いなく上がる。
 経験不足な彼らは、それこそ、死に物狂いで戦っているはず。
 指導してきたイオリなら、もちろん理解してることだ。

 順調に接近できたが、あとわずかの距離で、双星機は気づかれてしまった。

「流石はアスラレイドの直属部隊ってところか」

 部隊の反応が早い。
 散開して、こっちを包囲するつもりだ。
 でも、双星機の力を甘く見過ぎだ。

「右側から順番に潰していくぞ」
「了解!」

 双星機の中で、俺とイオリは頻繁に会話を交わしている。
 距離をとっていた分を取り戻そうか、ってくらいだ。

 イオリの動きについていけるといっても、考えを全て理解できるわけじゃない。
 お互いに確認することは重要だ。


 双星機を操って、敵を蹴散らしていく。


 すると、敵機は距離を取り始めた。


 こっちが近づいたら、その分、離れていく。
 速度さがあるから、追いつけるけど、かなり厄介。

 俺たちが目標を追っていると、別の機人が横から向かってくるんだ。
 回避を前提にした突撃だと分かってても、警戒を怠るわけにはいかない。

 それに複数相手の戦いとなると、思考がイオリに追いつけてない。
 双星機の動きが、わずかに鈍くなってる気がする。

 当初の勢いが落ちた双星機を見たからか、マグレイア機が接近してきた。


 周囲を見渡せば、完全に混戦になっている。

 俺たち、リグド・テラン、ラヴェルサの三つ巴。

 どうやら、ラヴェルサはリグド・テランよりも、俺たちを優先的に狙ってるようだ。

「この状況はまずいぞ、剣星」

 戦力的には俺たちが一番小さい。
 それなのに、両勢力から狙われてしまっている。
 主力である双星機は牽制するだけで、孤立させようってか。

「オマエがグルディアスを殺した奴か! 会いたかった! セイレーンの言った通りだった!」

 マグレイアが外部スピーカーで叫んでいる。
 双星機には無線がないからな。

 それにしても、セイレーンだって?
 彼女が俺たちがここにいるって話したのかよ。

「アンタは、今ここで、私が殺してやるよ!」

 マグレイア機がゆっくりと迫ってくる。
 なのに、動きが鈍いぞ。
 どうした、双星機!

「剣星、前じゃない! 後ろだ!」

 イオリの声に反応して、剣を後ろに薙ぐ。
 そこには、もう一機のアスラレイド機の姿があった。

 その機人は攻撃を回避して、距離をとった。

 最後のアスラレイド。
 名前は確か、ウィーベルトだったか。

「今はセイレーンのことは考えるな。目の前のことに集中しろ!」
「ああ、すまない」

 イオリの言う通りだ。
 今、考えるべきことじゃない。
 双星機の動きが鈍かったのは、マグレイアに集中しすぎてたせいだ。
 後ろに気づいていたイオリとは、別の動きをイメージしてしまったんだ。

 それにしても、マグレイアめ。
 威勢のいい言葉とは裏腹に、自分が囮になるなんて、やってくれる。

「行くぞ、剣星!」

 双星機はウィーベルト機を睨みつける。
 巨大な双星機は、剣も大きい。


 ウィーベルトは防御することなく、受け流しを狙ってるようだ。
 俺たちは剣の横っ面にあてて、ウィーベルト機を吹き飛ばした。


 返す刀で、迫ってきたマグレイアを迎えうつ。


 ところが、マグレイアは攻撃を中断して、離れてしまった。

 追撃を試みるも、再び逃げられる。

「これって……」
「ああ、奴らは作戦を変えたのかもしれないな」


 二機のアスラレイドは、双星機の周りを回りながら、機をうかがい始めた。
 量産型のイステル・アルファは、ほかの部隊の応援に向かったようだ。

 つまり、彼らは二機で十分だと判断したんだ。
 その判断は正しいのかもしれない。
 どうせ双星機の動きについてこれないんだから、邪魔なだけだろう。


「くっ、早い」                                            


 アスラレイドは二機とも高機動型だ。

 反応速度なんか、双星機と同等かってくらい鋭い。
 その分、限界まで装甲を削ってる感じなんだけど、一向に当たる気配がない。

 さっきは相手が攻撃してきたから、当てられたんだ。
 守勢に回られると、手が付けられない。
 二機のコンビネーションは、敵ながら惚れ惚れする。

 奴らにしてみれば、双星機を塩漬けにしておけば、全体の状況が有利になるんだ。
 無理をする必要はないのだろう。

 だからといって、強引に攻撃してなんとかなるほど、アスラレイドは甘くない。
 単純な攻撃を繰り返すラヴェルサとは、ヴァリエーションが段違い。


 迷っている間も、敵はつかず離れずで挑発を繰り返す。


 双星機は、アスラレイドたちに完全に翻弄されてしまってる。

 最強の装甲機人といっても、所詮は乗り物。
 最後は操者の腕次第ってこと。

 イオリの腕は問題ない。
 視界の端に映りこむアスラレイドに、俺の意識を持っていかれてる。

 フェイントを的確に見極めているイオリと、イメージが僅かにずれてるんだ。


 だから、双星機の挙動がおかしくなってる。


 問題は俺だ。
 もっと敵の動きに集中するんだ。


 迫りくるマグレイア機。


 でも、本命はウィーベルトのほうだろ!


 視覚外からの、ウィーベルトの攻撃がヒット。


 それは想定済み!


 カウンターが決まってウィーベルトは吹っ飛んだ。
 たぶん、自分から後ろに飛んで、直撃はできていない。

 でも、今のはいい感じだった。

「これは、どういうことだ?!」
「どうした、イオリ?」

「左腕を見ろ。先ほどの攻撃で傷ついている。最高の装甲を誇る双星機がだぞ」
「なんだって!」

 確かに、イオリの言う通り、傷がついている。
 操縦に影響はなさそうだけど、かなり深い。

「くそっ、こんな時に。双星機がおかしくなるなんて!」
「違うよ! おかしいのは双星機じゃない。ケンセーの方だよ!」

 俺がおかしい?
 レトは何を言ってるんだ?

「ケンセーの光、どんどん小さくなってる。イオリよりは大きいけど、これじゃ、双星機は……」
「マジかよ」

 レトの言わんとすることは分かる。
 理由は分からないけど、俺の意志の力が弱くなってるんだ。
 だから装甲は弱くなるし、もしかしたら双星機の挙動も、このせいだったのかもしれない。

「剣星、迷っている時間はないぞ」
「ああ、操縦は俺に任せてくれ」

 もはや、複座型の利点はない。
 息を合わせても、それに応える能力がなければ意味がないから。
 むしろ、イメージがずれるかもしれない、リスクでしかないんだ。

 だったら、俺が一人で動かしたほうがいい。

 今までだって、イオリの操縦に合わせてたわけじゃない。
 実際には反対で、意志の力が強い俺が、イオリの戦い方を先読みしてただけなんだ。

「レト!」
「うん、わかってるよ!」

 送られてくるレトレーダーの範囲が広くなる。
 いつも通りの視点で勝負したほうがいいだろう。

 俺の考えが分かってる。
 流石だよ、レト。


「来る!」


 アスラレイドの二機が、前後から挟撃してくる。
 俺は背中の盾を装備した。

 どことなく、さっきより攻撃的に感じる。

 双星機の傷を見れば、そうなるよな。
 自分たちの攻撃が通じると分かったはずだ。


 とりあえず、回避を選択。
 横に逃げて、両機を視界に捉える。

 万全ならまだしも、今の状態で二機を相手にするのは厳しいからな。


「やっぱ、かなり鈍いな」


 俺の思考が、機人全体に薄く広がっている感じだ。
 イオリが一人で聖王機に乗っていた時も、こんな感じだったんだろうか。


 バックステップを踏み、なんとか盾でガードして、攻撃を耐える。
 余裕がないのは分かってるけど、今は少しだけ慣れる時間が必要だ。

「レト。俺の状態はどうだ? まだ光は小さくなってるか?」
「ううん。もう、止まったみたい。あの二機と同じくらいだよ」

 ってことは、装甲強度は同じくらい。
 ただし、こっちは動きが鈍いってハンデ付きだ。


「って、やばい!」


 アスラレイドの機人たちが俺に迫っている。


「こいつら、さらにギアを上げやがった!」


 ダメだ。
 逃げきれない。


 先行してくるマグレイアの攻撃を盾でガード。


 直後のウィーベルトの攻撃に対応できない!


 ところが、いつまでたっても攻撃はこない。

 援護にやってきた、味方のおかげだ。


「キルレイドさん!」


 双星機はキルレイドさんによって救われた。
 キルレイドさんは、ウィーベルト機をふっとばして離れていく。

 俺たちの状況に気づいて、助けにきてくれたんだ。


「これで一対一か」
「剣星、お前ならできる。自分を信じろ!」
「おうっ、俺に任せろ!」

 惚れた女の目の前で、情けない姿を見せられるかよ。

「ケンセー、アルフィナちびすけが見つかったよ。すぐ近くまで来てたみたい。もう一人の子の反応もあるよ」
「オッケー、気合が入った」

 アルフィナが乗れば、双星機は再び力を取り戻すだろう。
 でも、流石にそれを許してくれるほど、マグレイアは甘くないよな。


 ここが一世一代の勝負所だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...