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第37話 最強の装甲機人!
しおりを挟むリグド・テランが怒るのは分かる。
グルディアスは自国の軍人だし、六人しかいない軍事国家の幹部だったんだ。
何より怒りに燃える姉のマグレイアの存在もある。
教会としても厄介だっただろう。
俺の存在によって、リグド・テランとの間に戦争が起きるかもしれなかったんだから。
だけど両勢力が裏でつながっていた?
いったいどういうことなのさ。
――――――――――――――――
「繋がっているだと。本気で言っているのか?」
イオリはまじまじとキルレイドを見つめた。
「元々リグド・テランを支配していた奴らとルーベリオ教会のトップは遠縁にあたるそうだ」
それじゃあ、今でも教会がリグド・テランを操っている?
それとも逆か?
「だとしたら、教会の目的はなんですか?」
「それは当然信仰を集めることだな」
ルーベリオ教会はラヴェルサが暴走するまでは衰退していたと聞いた。
それが初代聖女であるアレクサンドラが修道女であったことから復権していった。
だけど、それが一時的なものじゃ意味がないだろう。
狂暴化したラヴェルサは聖女を得ると沈静化する。
その時に地下プラントを破壊しては、信仰を得る術を失ってしまう。
だからこそリグド・テランを操り、ラヴェルサを守るように指示を出した?
それでルーベリオ教会は、人々から継続的に信仰を集める事に成功したのか。
「リグド・テランの狙いは何なんですか? 既に教会勢力より戦力がある。素直に従う理由はないでしょう」
「何らかのリベートがあるのだろうな。そのおかげでリグド・テランは西に領土を広げ、大きく成長した。今この時も事実を知る者たちの中では、教会から離れるべきと主張する勢力が大きくなっている。その急先鋒がグルディアスの姉であるマグレイアだ」
「教会勢力の商会を襲ったのもその影響ですか?」
「まず間違いないだろう。お前の引き渡しを密約したが、それでは生ぬるいと感じていたということだ。我々は教会と自国の敵対勢力に対しての警告であったと理解している」
そうか。だからあの時奴らは撤退したのか。
部隊も小さかったし、元々戦争するつもりもなかったんだ。
教会の出方を見定めていたのかもしれない。
「話は理解できました。でもそれは俺の問題でしょ? イオリには関係ないことだ」
キルレイドは俺を見て、心底あきれるように大きく息を吐いた。
「あのな~、お前らは男と女の関係なんだろ? 普通に考えれば無関係と思う訳ねえだろ」
なんで知ってるんだよ。
俺にプライバシーはないのか!
俺は思わず、イオリに顔を向けた。
凛々しい横顔につい見惚れてしまう。
イオリが視線をずらすと、なんだか俺も恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
それを見て、レトが口に手を当てて笑っている。
まさか、レトが情報を漏らすなんてことは……うっかり以外じゃないだろうし。
でもこれではっきりと理解できた。
副長はあの時、教会に気を付けろと忠告してくれたんだ。
直前まで殺し合いをしていた俺に対してだ。
どんな心境だったのだろうか。
今となっては知る術もない。
団長はそれを察して俺にKカスタムを斬って逃げろと言った。
俺があの戦場で死んだことにするためだ。
教会の追跡から逃れて、生き延びれる様に。
「あなたがなんで知ってるのかなんて、どうでもいい。教会に戻ってはいけない理由も理解できた」
同意を得るようにイオリに視線を送る。
「でも、まだ分からないことがある。それはキルレイドさん。あなたの目的だ。政治的に狙われている俺達を保護する理由なんてないはずだ」
俺達の存在が教会とリグド・テランにばれたら、確実に国際問題になる。
リグド・テランが攻めてくる可能性があるだろう。
教会は黙認して援軍を出さないかもしれない。
対ラヴェルサでの戦力低下を理由にできるしな。
だからこそリスクを背負っているからには、大きなリターンがきっとある。
「俺は許せないんだよ。この世界ってやつがよ。一人の女の犠牲に成り立つ世界なんて認められないんだよ」
「たったそれだけで?」
「俺はたった一人だろうが、女が苦しむのは見たくない。お前は違うのか?」
話をそのまま聞くと、正義感に燃える中年男性に思える。
だけど、ただの女好きな中年男に思えてくるのは何故だろうか。
でも不思議と筋の通った女好きだと納得してしまっている。
俺だってアルフィナが苦しむ姿を見たくない。
それなのに、一方で納得してしまってもいた。
俺がアルフィナを助けたいと思うのは、もっと個人的な理由からだ。
イオリに笑ってほしいから、アルフィナを助けたかったんだ。
「ならば、あなたはアルフィナ様を助ける気があると考えていいのか?」
それまで黙っていたイオリが、強い口調で迫った。
「その気はある。だが戦力が足りない」
俺はあの時、地下プラントに戻っていくラヴェルサの群れを見た。
奴らは自らの領域に引きこもっている。
つまり霧の影響を最大限に受けて強化されているということだ。
ロジスタルスの戦力を借りても、難しいだろう。
「やはりアルフィナ様を救えないと言うのか」
イオリも状況を冷静に見れているのだろう。
口惜しさをにじませて、拳を握っている。
気を落とすイオリに追い討ちをかけるように、キルレイドさんは畳みかけていく。
「問題は他にもある。仮に聖女様を助け出すのに成功した場合にどうなるか。助けたついでに地下プラントも破壊できたとしよう。その場合、破壊衝動を持ったラヴェルサの因子がこれまで以上にばら撒かれることになる。俺は仕方ないのないことだと思うがな」
そんなことになれば、今まで以上に広範囲でラヴェルサの機人が再起動するかもしれないし、もしかしたら別の場所で生まれてしまうかもしれない。人力モーターを使った機械にも異常が現れ、世界はさらに混乱してしまう。
「そういった意味ではルーベリオ教会は世界を救っているとも言える。奴らの出現地域を限定し、一応は対応できているわけだしな。自らの信徒を犠牲にしているという矛盾を抱えた形ではあるが」
なんとも皮肉なことだ。
ラヴェルサの脅威から救ってくれた教会は、実はラヴェルサの対応を信徒に押し付けているのだから。
「つまり現状では打つ手がないのか?」
科学が発展し、機人なしでもラヴェルサを倒せるようになれば状況は変わるだろう。だけどそれまで一体何十年必要だろうか。向こうの歴史を知る身をしては、遠い未来に思えてしまう。
だけど俺とは逆にキルレイドさんの口元は緩んだように見えた。
「策がない、というわけでもない」
「どういうことだ!」
イオリは、すかさず食いついた。
僅かに見えている希望の光だ。
逃すはずがない。
「まあ、落ち着け。ロジスタルスに機人が少ないのは知っているな?」
「もちろんだ。それはラヴェルサの侵攻が一度しかなかったからだ」
それは地中に埋まっている装甲機人の数も少ないということも意味している。
だからロジスタルスの戦力は小さいんだ。
「では次に最強の聖女とは誰だ?」
「それは初代の聖女様であるアレクサンドラ様だろう」
アレクサンドラは今ほど味方の戦力がない時代に世界を救ったという。
だが、今までの話を聞いていれば、ラヴェルサとは戦う必要がないことが分かる。
それにルーベリオ教会が、復興のために話を盛った可能性も否定できない。
「確かにアレクサンドラ様の能力は一番かもしれない。だが戦闘力で考えれば別だ。聖女様は皆、世界のために自らを捧げてラヴェルサの領域で最後まで人生を過ごされた。ただ一組の例外を除いてな」
「一組?」
「七代目は双子の聖女様だった。母親の胎内にいる頃に聖女となり、二人に別れた。二人は幼い頃からラヴェルサを倒す強い意志を持ち、厳しい訓練に耐えていたという。聖女様が代々乗られる聖王機が複座型なのは知っているな?」
俺もイオリも搭乗経験がある。
頷いて、続きを促す。
「複座型の機人は特別だ。二人の操者が同じ思考を持つことでその力を最大限発揮される。だが一般的には、聖女様は座っているだけで、戦闘はもう一人に任せきり。能力を完全に引き出せていない。だが、双子の聖女なら?」
圧倒的な性能を持つ聖王機の力を最大限に発揮できるということだ。
素人だった俺が操った時の比ではないだろう。
「最強の聖女を得た聖王機は暴れまくったのだろう。その当時、聖女様は各地でラヴェルサを相手に暴れまわり、世界が最も平和な時期だと記す書もある。力が強いと言うことは、その分ラヴェルサを引き寄せるということでもある。それなのに平和だったんだ」
話を聞いている内に、どんどん高揚してきてるのが、自分でもはっきりと分かる。
「だが、それを良く思わない者たちもいた」
「ルーベリオ教会とリグド・テランか」
「その通りだ。聖女様たちは人々を守る意志と強さを備えていた。だからこそ、聖女様は嵌められて追い詰められたことになる。そしてロジスタルスにやってきた。聖女様はラヴェルサと戦う覚悟はできていたが、人間相手にはできてなかったんだ。結局、聖女様は逃げる事しかできず、教会とラヴェルサは聖女様を追い続けた。次第に疲弊していき、遂にこの地で果てることになった」
「教会の歴史とは全く違うな。教会に後ろ暗いことがあっても、全てが嘘ではないだろう。正直私は今の状況に混乱している。正しい判断を下せそうにない」
「何か証拠になる物を見つけたんですね?」
そうでなければ、ここまで確信をもって語れないだろう。
「俺たちは数年前に二人の遺書と遺体を発見した」
「そうですか」
「それは一体の機人と共に見つかった。蒼く凛々しいその機人は多くの人々を救い、それ故に歴史から抹殺されることになった。当時の人々は双子の聖女様に敬意を表して、こう呼んでいたそうだ」
キルレイドさんの瞑っていた目が開かれる。
同時に俺の興奮は最高潮になった。
「双星機ヘレファナーレ」
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