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第35話 さらば、友よ!
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副長のカラルドさんと初めて会ったのは、いつだっただろうか。
確か聖王機で戦って、帝都に連れて来られた時だ。
それでイオリから聞き取り調査を受けた後で挨拶をしたんだ。
思えばルクレツィア傭兵団の中で初めて出会ったのも副長なんだよな。
最初の印象は無愛想なイケメンだった。
関わっていく内に誠実さを感じるようになった。
敵対している今も、その印象に変わりない。
ただ立場が違うだけだ。
不思議な事に、倒れているイオリや団長を人質に取るようなことはしない、と俺は勝手に信頼してしまっている。
副長は子供の頃に、前の聖女の決戦で悲惨さを経験したと聞いた。
それが副長の人格形成に強く影響しているはず。
だから、例え仲間であろうと容赦せずに団長を攻撃したんだ。
幼い聖女を犠牲にしてでも、平和を勝ち取ろうとしているんだ。
きっと世界にとっては、副長の言ってることの方が正しいんだろう。
一人の犠牲で世界が救われるなら、そうした方がいいよな。
アルフィナもそう思ったからこそ、自らを捧げたんだ。
理性では分かってる。
でも俺の中の何かが、どうしようもなく反発してくるんだ。
きっと俺がアルフィナを助けたら、不幸になる人が大勢出るんだろう。
たった一人も救えないようじゃ世界を救えない、なんて格好いい科白は俺には言えねえよ。それだけの力があれば、どんだけ嬉しいか。
だから、正義だなんだと主張するつもりもない。
これは俺の我儘なんだ。
でもこの我儘は……貫き通させてもらう。
――――――――――――――――――――――――
俺は今、奇妙な体験をしている。
ここにいるのは俺と、対峙している副長。
倒れているイオリと、団長に応急処置をしているフォルカだけ。
そして俺達を無視して、地下プラントへと戻っていくラヴェルサの群れ。
副長の言った通り、アルフィナを逃がさないために集結しているのだろう。
ラヴェルサが戦闘を止めたにも関わらず、人間同士が向き合っているんだ。
なんて皮肉な光景だ。
それを一度だけちらりと確認して、目の前の機人に集中する。
隙が見えずに動けない。
緊張のせいで呼吸が苦しくなってくる。
副長が突っ込んできたのは、俺が息を吐いた瞬間だった。
「ッ!」
まるで、生身で対峙しているかのような集中力と観察力。
俺は太刀筋を見極めて防御。
同時に後方に跳躍して仕切り直す。
「(ケンセー、相手は右手がないんだよ。しっかりしなさい!)」
「わかってる!」
そうだ、副長の機人は利き手である右手がない。
それにボロボロになった盾は廃棄されている。
攻撃手段が限定されているんだ。
そうでなければ、対応できなかっただろう。
「ったく、初めから分かってただろうに」
冷静になれば、見えてくることもある。
副長の機人はKカスタムと同じだ。
赤光晶の輝きを敢えて抑えている。
そうじゃなきゃ、すれ違いざまの一撃でKカスタムの装甲が破られるはずがない。
ラヴェルサの猛攻に加え、副長の一撃を受けたKカスタムはボロボロだ。
一方、副長の機人は傷一つ見えない。
上手く盾を利用して、戦っていたんだろう。
つまりは経験と実力の違いが見えてきたんだ。
って、そんな分かり切ったこと、確認するまでもねえ!
「(レト、今はレーダーはいらない。副長に集中する)」
「(おっけー)」
副長は利き手を失っている。
恐らく連続攻撃にはラグが出来るはずだ。
まずはKカスタムで軽く剣を振って、攻撃を誘う。
予想では、副長は俺の動きに合わせて攻撃してくるはず。
それを躱してカウンターを合わせれば、俺の勝ち!
ところが、副長は俺の攻撃を受け流して、そのまま距離を取った。
狙いが見透かされたのかもしれない。
「剣星、本当に強くなった」
突然の呟き。
いったい何を狙っている?
「俺はお前が怖い。お前に底知れぬものを感じている」
「はぁ?」
まさかの言葉に呆気に取られてしまう。
だからさっきは、言葉で俺を説得しようとしたのか?
「想像以上に強くなってしまった」
「……そら、どーも」
そう言いつつも、俺は副長に剣を振る。
副長は防御に徹して、攻撃を確実に跳ね返してくる。
「全ては俺自身の見る目の無さが招いた事だ」
「すいません。俺はこんな奴だったんです。自分でも知らなかったけど」
「いや、お前のことではない」
ん?
「見誤っていたのは聖女様だ。幼く病弱で戦いに耐えられぬと思っていた。だからこそ、聖王機を操ったというお前を鍛えるのに協力したのだ。だが結果はどうだ。聖女様は見事に役目を果たされた。その結果残されたのは、お前という世界の敵だ」
「今更、心理戦かよ」
こっちは世界をぶっ壊すって決めてんだ。
それなのに思わず、力が入ってしまう。
それは当然、Kカスタムの攻撃にも反映されるわけで。
振りの大きな攻撃は大きく弾かれてしまった。
「これは覚悟だ。恐怖に打ち勝ち、自らの責任を果たすための」
……やばい。
何か、雰囲気が変わった。
見た目には変化はないのに大きく見える。
異様に寒気がする。
どこから……
「下だぁ!!」
「うぉぉ!!」
副長の機人は、俺の前面装甲の視界から外れるほど、低く姿勢をとっていた。
そこからの斬り上げ攻撃。
俺は背中を反って、片手でバク転回避。
でも胴の辺りを僅かに斬られたようだ。
レトの声がなかったら、間違いなく死んでいた。
レーダー解除は正解だった。
恐らく、副長は連続攻撃は止めて、一撃必殺に切り替えたんだ。
その分、攻撃後の隙が大きかった。
でも、それだけ鋭い振りってことでもある。
問題は俺がそれに飛び込めるかだ。
「あぶねっ!」
副長は俺に考える時間を与えてくれない。
重い一撃を繰り返し、俺はなんとか躱すので精一杯。
いや、正確には躱しきれていない。
副長が剣を振るうたびに、どこかしらが削られている。
「(ケンセー、何か作戦ないの?)」
「(……ない)」
「(フカンしてんって奴は?)」
「(もうやってる)」
だからバク転なんてできたんだ。
俺自身にはそんな能力は無い。
でも、もう後ろには下がれない。
なにしろ、すぐ後ろをラヴェルサの群れが移動しているんだから。
恐らく、副長の狙い通りに誘導されたんだろう。
これ以上、刺激したら向かってくるかもしれない。
正直、いつラヴェルサが後ろから襲ってくるのか不安で仕方ない。
でも今、レトレーダーを起動したら、気が散ってやられてしまう。
……気が散る?
散るほどの集中力なんて、俺にはねーだろ。
それなのに後ろを気にしてるんだから、勝てるわけがない。
前だ。前に進むんだ。
それしかねえ。
この後を見越して、無傷で勝てる方法があるとでも思ってるのか?
後の先をとろうなんて、本当にできるとでも?
都合のいい妄想はやめるんだ。
副長の攻撃手段は分かってる。
剣先を地面に当てて、剣をしならせている。
恐らく、赤光晶で柔らかくしてるんだ。
そしてデコピンみたいにして、溜めたパワーを解放。
まさに爆速!
軌道が読まれてもお構いなしだ。
俺はKカスタムをゆっくりと前に進めた。
対応策なんてありゃしない。
完全な出たとこ勝負。
俺は追い詰められたネズミになるんだ。
副長は俺の意志を感じ取ったのか、慎重に距離を縮めてくる。
俺も剣を上に構えて、摺り足で近寄っていく。
その瞬間、風上から強風が吹いた。
大量の霧が流れ、互いの機人が見えない程に濃くなっていく。
強風のせいで、歩行の音も聞き取れない。
でも副長は必ず攻撃してくるはずだ。
ただその時を待つのみ。
……
…………
………………来る!
霧で姿は全く見えない。
それでも俺は自分の感覚を信じて、剣を振り下ろした。
直後、姿を現す剣の先。
俺はその動きを確実に捉えていた。
まるで走馬灯を見ているようにゆっくりと。
このままいけば、副長の剣がコックピットを直撃するだろう。
俺の剣は間に合わない。
このまま死んでしまうのか?
まだ何も成していないというのに。
緩やかに流れる時の中、俺は目を開いて横に向けた。
コックピット内に剣が侵入してきたんだ。
剣が俺の横腹に触れた。
だけど、それ以上に動かない。
いったい何が……
「ぐあぁぁ!!」
副長の叫びに意識が覚醒した。
急いで状況を確認する。
俺の機人には確かに剣が刺さっている。
だけど副長の機人に刺さった俺の剣は、それ以上に深かった。
「副長!」
「その力、やはり……お前は……。くそっ、俺はなんでこんな奴を。……剣星」
「はい」
「教会に気を……」
その言葉を最後に副長は動かなくなってしまった。
俺が殺したんだ。
俺の我儘で殺したんだ。
副長は何を言おうとしていたんだろう。
おかしいな。
涙があふれて止まらない。
覚悟はできてたはずなのに。
確かに副長が死んで悲しい気持ちはある。
でも涙はそのせいだけじゃない。
そうだ。
この感覚、一度だけ経験がある。
帝都で浄化を見た時だ。
俺は再び目を開いて、コックピットを見渡した。
それはレトの小さな体から発せられていた。
本人はそれに気づていないのか、あっけらかんとしている。
でもこれで、何故俺が副長に勝てたのかが分かった気がする。
傷のなかった副長の機人と違い、俺のKカスタムはボロボロだった。
ラヴェルサの攻撃を受けて傷ついていたし、副長の攻撃で何度も抉られ続けた。
そのおかげで勝てたんだ。
補給基地でもコーティングされる前にイオリに呼ばれた。
戦闘中、Kカスタムは長時間傷口からラヴェルサの因子を取り込んでいった。
それはつまるところ、小さな赤光晶だ。
いつもより赤光晶が増えた分、硬度が増して副長の攻撃を阻んだんだ。
最後の霧が勝敗を分けたのかもしれない。
本来であれば、ラヴェルサの因子を多量に取り込んだら、制御を奪われてしまう。
そのためにミュードでコーティングして、防いでいるんだから。
前におやっさんが言ってたっけ。
Kカスタムを浄化に出しても、すぐに戻ってきたって。
きっと戦闘の間ずっと、レトが知らず知らずのうちに浄化していたからなんだ。
レトにも聖女の力の欠片があるってことなんだろう。
「レト、ありがとな」
「へへっ、いいってことよ」
レトはよくわかってないだろうに相変わらずだ。
悲壮感なんて微塵もない。
それが俺を救ってくれる。
でも、これから俺はどうすればいい?
イオリは全然目覚めないし、ラヴェルサの姿は消え去ってしまった。
恐らく、地下プラントに戻ってしまったんだ。
今の戦力でアルフィナを助けるなんて夢物語だ。
あんなにデカい口を叩いたくせにな。
「け……ん……せい、ロジスタルスに行くんだ……」
「団長っ!」
団長の声が無線から聞こえてくる。
今にも消え去りそうなほど、弱々しい。
でも生きていてくれた。
それだけで嬉しい。
「要点だけ伝えるよ。あんたの機人を斬ってロジスタルスへ行くんだ。その娘も一緒にね。後はフォルカに……」
「団長!」
「大丈夫、眠っただけです」
「そうか」
「(ケンセー、どうするの?)」
「(俺は団長を信じるよ)」
ここにある機人で動くのは、俺のKカスタムとイオリのラグナリィシールド、それと、かなり傷ついてるけど団長の機人だ。操者はさらに少ない俺とフォルカだけ。
撤退したら、イオリから非難されるんじゃって不安もある。
もう口をきいてもらえないかもしれない。
けど今は団長を信じたい。
団長は俺の為に命を掛ける必要なんてなかったんだから。
団長の想いに応えたい。
アルフィナ、絶対にまた来るよ。
イオリと一緒に助けに来る。
それまで、少しの間待っててくれ。
俺はKカスタムを動かして、ラグナリィシールドの元に向かわせた。
コックピットを開けて、中に入る。
イオリに外傷は見えないけど、青黒いクマがある。
全然眠れなかったんだろう。
アルフィナが置いて行ったのも理解できる。
きっと気力だけで戦っていたんだ。
俺はコックピットに座って、イオリを抱きしめた。
少しだけ脇腹が痛い。
片手でクオーツに触れ、機人を起動させた。
静かで、それでいて力強い反応がある。
Kカスタムから剣を受け取って構えた。
団長が用意してくれた俺の為の機人。
おやっさんが丁寧に仕上げてくれた機人だ。
不格好な見た目とは裏腹な性能で、未熟な俺を助けてくれた。
レトも手を合わせてスリスリしてる。
きっとコイツなりに愛着があったんだろう。
「今まで、ありがとな。……さよなら、俺のKカスタム」
確か聖王機で戦って、帝都に連れて来られた時だ。
それでイオリから聞き取り調査を受けた後で挨拶をしたんだ。
思えばルクレツィア傭兵団の中で初めて出会ったのも副長なんだよな。
最初の印象は無愛想なイケメンだった。
関わっていく内に誠実さを感じるようになった。
敵対している今も、その印象に変わりない。
ただ立場が違うだけだ。
不思議な事に、倒れているイオリや団長を人質に取るようなことはしない、と俺は勝手に信頼してしまっている。
副長は子供の頃に、前の聖女の決戦で悲惨さを経験したと聞いた。
それが副長の人格形成に強く影響しているはず。
だから、例え仲間であろうと容赦せずに団長を攻撃したんだ。
幼い聖女を犠牲にしてでも、平和を勝ち取ろうとしているんだ。
きっと世界にとっては、副長の言ってることの方が正しいんだろう。
一人の犠牲で世界が救われるなら、そうした方がいいよな。
アルフィナもそう思ったからこそ、自らを捧げたんだ。
理性では分かってる。
でも俺の中の何かが、どうしようもなく反発してくるんだ。
きっと俺がアルフィナを助けたら、不幸になる人が大勢出るんだろう。
たった一人も救えないようじゃ世界を救えない、なんて格好いい科白は俺には言えねえよ。それだけの力があれば、どんだけ嬉しいか。
だから、正義だなんだと主張するつもりもない。
これは俺の我儘なんだ。
でもこの我儘は……貫き通させてもらう。
――――――――――――――――――――――――
俺は今、奇妙な体験をしている。
ここにいるのは俺と、対峙している副長。
倒れているイオリと、団長に応急処置をしているフォルカだけ。
そして俺達を無視して、地下プラントへと戻っていくラヴェルサの群れ。
副長の言った通り、アルフィナを逃がさないために集結しているのだろう。
ラヴェルサが戦闘を止めたにも関わらず、人間同士が向き合っているんだ。
なんて皮肉な光景だ。
それを一度だけちらりと確認して、目の前の機人に集中する。
隙が見えずに動けない。
緊張のせいで呼吸が苦しくなってくる。
副長が突っ込んできたのは、俺が息を吐いた瞬間だった。
「ッ!」
まるで、生身で対峙しているかのような集中力と観察力。
俺は太刀筋を見極めて防御。
同時に後方に跳躍して仕切り直す。
「(ケンセー、相手は右手がないんだよ。しっかりしなさい!)」
「わかってる!」
そうだ、副長の機人は利き手である右手がない。
それにボロボロになった盾は廃棄されている。
攻撃手段が限定されているんだ。
そうでなければ、対応できなかっただろう。
「ったく、初めから分かってただろうに」
冷静になれば、見えてくることもある。
副長の機人はKカスタムと同じだ。
赤光晶の輝きを敢えて抑えている。
そうじゃなきゃ、すれ違いざまの一撃でKカスタムの装甲が破られるはずがない。
ラヴェルサの猛攻に加え、副長の一撃を受けたKカスタムはボロボロだ。
一方、副長の機人は傷一つ見えない。
上手く盾を利用して、戦っていたんだろう。
つまりは経験と実力の違いが見えてきたんだ。
って、そんな分かり切ったこと、確認するまでもねえ!
「(レト、今はレーダーはいらない。副長に集中する)」
「(おっけー)」
副長は利き手を失っている。
恐らく連続攻撃にはラグが出来るはずだ。
まずはKカスタムで軽く剣を振って、攻撃を誘う。
予想では、副長は俺の動きに合わせて攻撃してくるはず。
それを躱してカウンターを合わせれば、俺の勝ち!
ところが、副長は俺の攻撃を受け流して、そのまま距離を取った。
狙いが見透かされたのかもしれない。
「剣星、本当に強くなった」
突然の呟き。
いったい何を狙っている?
「俺はお前が怖い。お前に底知れぬものを感じている」
「はぁ?」
まさかの言葉に呆気に取られてしまう。
だからさっきは、言葉で俺を説得しようとしたのか?
「想像以上に強くなってしまった」
「……そら、どーも」
そう言いつつも、俺は副長に剣を振る。
副長は防御に徹して、攻撃を確実に跳ね返してくる。
「全ては俺自身の見る目の無さが招いた事だ」
「すいません。俺はこんな奴だったんです。自分でも知らなかったけど」
「いや、お前のことではない」
ん?
「見誤っていたのは聖女様だ。幼く病弱で戦いに耐えられぬと思っていた。だからこそ、聖王機を操ったというお前を鍛えるのに協力したのだ。だが結果はどうだ。聖女様は見事に役目を果たされた。その結果残されたのは、お前という世界の敵だ」
「今更、心理戦かよ」
こっちは世界をぶっ壊すって決めてんだ。
それなのに思わず、力が入ってしまう。
それは当然、Kカスタムの攻撃にも反映されるわけで。
振りの大きな攻撃は大きく弾かれてしまった。
「これは覚悟だ。恐怖に打ち勝ち、自らの責任を果たすための」
……やばい。
何か、雰囲気が変わった。
見た目には変化はないのに大きく見える。
異様に寒気がする。
どこから……
「下だぁ!!」
「うぉぉ!!」
副長の機人は、俺の前面装甲の視界から外れるほど、低く姿勢をとっていた。
そこからの斬り上げ攻撃。
俺は背中を反って、片手でバク転回避。
でも胴の辺りを僅かに斬られたようだ。
レトの声がなかったら、間違いなく死んでいた。
レーダー解除は正解だった。
恐らく、副長は連続攻撃は止めて、一撃必殺に切り替えたんだ。
その分、攻撃後の隙が大きかった。
でも、それだけ鋭い振りってことでもある。
問題は俺がそれに飛び込めるかだ。
「あぶねっ!」
副長は俺に考える時間を与えてくれない。
重い一撃を繰り返し、俺はなんとか躱すので精一杯。
いや、正確には躱しきれていない。
副長が剣を振るうたびに、どこかしらが削られている。
「(ケンセー、何か作戦ないの?)」
「(……ない)」
「(フカンしてんって奴は?)」
「(もうやってる)」
だからバク転なんてできたんだ。
俺自身にはそんな能力は無い。
でも、もう後ろには下がれない。
なにしろ、すぐ後ろをラヴェルサの群れが移動しているんだから。
恐らく、副長の狙い通りに誘導されたんだろう。
これ以上、刺激したら向かってくるかもしれない。
正直、いつラヴェルサが後ろから襲ってくるのか不安で仕方ない。
でも今、レトレーダーを起動したら、気が散ってやられてしまう。
……気が散る?
散るほどの集中力なんて、俺にはねーだろ。
それなのに後ろを気にしてるんだから、勝てるわけがない。
前だ。前に進むんだ。
それしかねえ。
この後を見越して、無傷で勝てる方法があるとでも思ってるのか?
後の先をとろうなんて、本当にできるとでも?
都合のいい妄想はやめるんだ。
副長の攻撃手段は分かってる。
剣先を地面に当てて、剣をしならせている。
恐らく、赤光晶で柔らかくしてるんだ。
そしてデコピンみたいにして、溜めたパワーを解放。
まさに爆速!
軌道が読まれてもお構いなしだ。
俺はKカスタムをゆっくりと前に進めた。
対応策なんてありゃしない。
完全な出たとこ勝負。
俺は追い詰められたネズミになるんだ。
副長は俺の意志を感じ取ったのか、慎重に距離を縮めてくる。
俺も剣を上に構えて、摺り足で近寄っていく。
その瞬間、風上から強風が吹いた。
大量の霧が流れ、互いの機人が見えない程に濃くなっていく。
強風のせいで、歩行の音も聞き取れない。
でも副長は必ず攻撃してくるはずだ。
ただその時を待つのみ。
……
…………
………………来る!
霧で姿は全く見えない。
それでも俺は自分の感覚を信じて、剣を振り下ろした。
直後、姿を現す剣の先。
俺はその動きを確実に捉えていた。
まるで走馬灯を見ているようにゆっくりと。
このままいけば、副長の剣がコックピットを直撃するだろう。
俺の剣は間に合わない。
このまま死んでしまうのか?
まだ何も成していないというのに。
緩やかに流れる時の中、俺は目を開いて横に向けた。
コックピット内に剣が侵入してきたんだ。
剣が俺の横腹に触れた。
だけど、それ以上に動かない。
いったい何が……
「ぐあぁぁ!!」
副長の叫びに意識が覚醒した。
急いで状況を確認する。
俺の機人には確かに剣が刺さっている。
だけど副長の機人に刺さった俺の剣は、それ以上に深かった。
「副長!」
「その力、やはり……お前は……。くそっ、俺はなんでこんな奴を。……剣星」
「はい」
「教会に気を……」
その言葉を最後に副長は動かなくなってしまった。
俺が殺したんだ。
俺の我儘で殺したんだ。
副長は何を言おうとしていたんだろう。
おかしいな。
涙があふれて止まらない。
覚悟はできてたはずなのに。
確かに副長が死んで悲しい気持ちはある。
でも涙はそのせいだけじゃない。
そうだ。
この感覚、一度だけ経験がある。
帝都で浄化を見た時だ。
俺は再び目を開いて、コックピットを見渡した。
それはレトの小さな体から発せられていた。
本人はそれに気づていないのか、あっけらかんとしている。
でもこれで、何故俺が副長に勝てたのかが分かった気がする。
傷のなかった副長の機人と違い、俺のKカスタムはボロボロだった。
ラヴェルサの攻撃を受けて傷ついていたし、副長の攻撃で何度も抉られ続けた。
そのおかげで勝てたんだ。
補給基地でもコーティングされる前にイオリに呼ばれた。
戦闘中、Kカスタムは長時間傷口からラヴェルサの因子を取り込んでいった。
それはつまるところ、小さな赤光晶だ。
いつもより赤光晶が増えた分、硬度が増して副長の攻撃を阻んだんだ。
最後の霧が勝敗を分けたのかもしれない。
本来であれば、ラヴェルサの因子を多量に取り込んだら、制御を奪われてしまう。
そのためにミュードでコーティングして、防いでいるんだから。
前におやっさんが言ってたっけ。
Kカスタムを浄化に出しても、すぐに戻ってきたって。
きっと戦闘の間ずっと、レトが知らず知らずのうちに浄化していたからなんだ。
レトにも聖女の力の欠片があるってことなんだろう。
「レト、ありがとな」
「へへっ、いいってことよ」
レトはよくわかってないだろうに相変わらずだ。
悲壮感なんて微塵もない。
それが俺を救ってくれる。
でも、これから俺はどうすればいい?
イオリは全然目覚めないし、ラヴェルサの姿は消え去ってしまった。
恐らく、地下プラントに戻ってしまったんだ。
今の戦力でアルフィナを助けるなんて夢物語だ。
あんなにデカい口を叩いたくせにな。
「け……ん……せい、ロジスタルスに行くんだ……」
「団長っ!」
団長の声が無線から聞こえてくる。
今にも消え去りそうなほど、弱々しい。
でも生きていてくれた。
それだけで嬉しい。
「要点だけ伝えるよ。あんたの機人を斬ってロジスタルスへ行くんだ。その娘も一緒にね。後はフォルカに……」
「団長!」
「大丈夫、眠っただけです」
「そうか」
「(ケンセー、どうするの?)」
「(俺は団長を信じるよ)」
ここにある機人で動くのは、俺のKカスタムとイオリのラグナリィシールド、それと、かなり傷ついてるけど団長の機人だ。操者はさらに少ない俺とフォルカだけ。
撤退したら、イオリから非難されるんじゃって不安もある。
もう口をきいてもらえないかもしれない。
けど今は団長を信じたい。
団長は俺の為に命を掛ける必要なんてなかったんだから。
団長の想いに応えたい。
アルフィナ、絶対にまた来るよ。
イオリと一緒に助けに来る。
それまで、少しの間待っててくれ。
俺はKカスタムを動かして、ラグナリィシールドの元に向かわせた。
コックピットを開けて、中に入る。
イオリに外傷は見えないけど、青黒いクマがある。
全然眠れなかったんだろう。
アルフィナが置いて行ったのも理解できる。
きっと気力だけで戦っていたんだ。
俺はコックピットに座って、イオリを抱きしめた。
少しだけ脇腹が痛い。
片手でクオーツに触れ、機人を起動させた。
静かで、それでいて力強い反応がある。
Kカスタムから剣を受け取って構えた。
団長が用意してくれた俺の為の機人。
おやっさんが丁寧に仕上げてくれた機人だ。
不格好な見た目とは裏腹な性能で、未熟な俺を助けてくれた。
レトも手を合わせてスリスリしてる。
きっとコイツなりに愛着があったんだろう。
「今まで、ありがとな。……さよなら、俺のKカスタム」
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「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
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解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
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