聖女の御旗に集え!! ~ こんな世界、俺がぶっ壊してやるよ!!

犬猫パンダマン

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第25話 生まれ変わる!

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 ここは戦場で俺は傭兵だ。

 リグド・テランと戦うなら、相手を殺すかもしれないし、殺されるかもしれない。
 その覚悟はできている。
 実際に鉱山から脱走する時、アスラレイドの一人を殺して逃げてきた。

 自分が選択した事の結果に責任が伴うのは当然だ。
 それは受け止めなければならない。

 俺は自分を、そして仲間たちを守るために戦ってグルディアスを討ち取った。
 あの時の判断は、最善だったはずだ。
 俺の最善が他の誰かにとっても同じなわけじゃないことも理解してる。

 けど、その結果がこれかよ。



 ————————————————



 俺達から遅れて数分後、別の傭兵が来たことで戦場の安全は確保された。
 多くの機人がロギリア商会の捜索してる。
 周囲を警戒しなければならないし、まだ暗いので中々に大変だ。
 一人の男性の死体を発見したのは、陽が上ってからだった。
 その付近から人間だったものが次々と報告されていく。

 彼らの機人は全て破壊されており、ロギリア商会の部隊は装甲機人の操者以外も全滅が確認された。

「生存者なしか」
「まあ、それは予想できたけどな。でも、生身の人間をこんなギッタギタに殺すのかよ。リグド・テランってのは恐ろしい奴らだな」
「身代金を貰おうとか、考えないのかね?」

 後から来た傭兵団の会話が聞こえてくる。たぶん彼らが装甲機人だけじゃなく、人間を切ったり踏みつぶしたりしたのは、感情の部分が大きかったんだと思う。

 俺がやったことへの復讐なんだろう。
 マグレイアはグルディアスの姉で、恨みを晴らすように惨殺した。
 でも俺は自分がやったことを皆にも、団長にも言えなかった。

 ここまで徹底的にやる敵だ。
 もし犯人が俺だと分かれば執拗に狙ってくることは想像に難しくない。
 それは傭兵団を危険に晒すことに繋がる。

 いや、そんなんじゃない。
 ただ、俺が怖いだけなんだ。
 死ぬのが怖いんじゃない。俺のせいだと思われたくないんだ。

 いくら操者としての才能があったって、俺という人間の本質が変わるわけじゃない。全く見っともない限りだよ。
 自分の思うままに生きるとか思っても、結局、人の目が気になるなんてな。

「剣星。ちょっと剣星、聞いてるの!?」
「ん? ああ、悪い。どうした?」

 どうやら考え込んでる間に、リンダに呼ばれていたようだ。

「団長の機人は剣星が持ち帰ってよねって言ってたの。あんたが一番力持ちなんだからさ」
「ああ、わかったよ」
「ふ~ん、じゃあよろしくね」

 なんだよ、その間は。
 まあ、いいさ。
 そのまま帰るよりも今は何か作業してた方が気持ちが楽だからな。

「団長、これでよく生き残ったな」

 団長の機人はコックピットが剥き出しで、脚部がほとんど動かなくなっていた。
 他にもたくさんの傷跡がある。
 この状態でよく無事だったものだ。
 団長は今、一番体の小さなリンダの機人に同乗している。

 二つの傭兵団はロギリア商会の機人や、死体と共に帝都に向けて出発した。傭兵たちは皆それぞれ商会の荷物を分担して持ち帰っている。

 彼らの車両は破壊されていたので、持ち帰りは手に持てる分だけ。
 結果的に彼らは到着前に殺されていて、守る事が出来なかった。
 けど、依頼主に最低限の仕事は報告できるはずだ。
 俺たちは敵に襲われたことだしな。

 皆で帝都に向かって走っていると、突然リンダ機が寄ってきた。

「剣星、ちょっとコックピットを開けとくれ」

 団長の指示に従う。
 すると団長がいきなり飛び移ってきた。
 なんて無茶な。

「団長、狭いですって!」
「いいから、ちょっとだけ我慢しな」

 そういって、無線機のコードを引っこ抜いた。
 聞かれたくない話をするんだろうか。

「あんた、どうかしたのかい? 様子がおかしいってリンダが気にしてたよ?」
「いや、俺は……」

「別に話したくないんだったらそれでいい。仲間だからって全てを打ち明ける必要なんてないんだ。私だって隠し事は一つや二つじゃない」
「はい」

「でも仲間たちから離れるんじゃないよ。一緒に馬鹿やって喧嘩して、笑い合って。まっ、言いたいことはそれだけさ」
「うす。あざす」
「さて、そろそろリンダの所に戻ろうかね。ここは流石に狭すぎだ」

 それはそうだ。
 コックピットは一人分のスペースくらいしかないから余裕がない。
 複座型だったら別だろうけど。
 無線機を再び起動してリンダを呼び出そうとする。
 けど反応が全然ない。

「さてはあの小娘、無線を切ってるな! そんなに私といたくないってか。いい度胸じゃねーか。剣星、リンダ機の横に付けな!」
「了解!」

 リンダのやつ、俺のことを気遣ってくれたのかと思ったけど、コックピットが狭いのが嫌なだけなんじゃねーか。そうはさせねーぞ。

 俺はKカスタムを操って必死にリンダ機を追った。けれども団長の機人を背中に抱えてることもあって追いつく事が出来ず、結局帝都まで団長と一緒に窮屈な思いをして戻ってきた。その分予定より早く到着することになったけど。

「すいませ~ん。無線が切れてるのに気づかなかったんですぅ」

 リンダはあからさまな嘘で誤魔化していた。
 もういいよ。今はそれどころじゃないしさ。
 その後、団長と副長は報告のために商会へ。

 俺は団長の機人を格納庫まで運び込んだ。
 もう昼前だけど、今日の仕事はこれで終わり。
 当然ながら発掘屋の護衛任務は無い。
 こんな体調最悪な状態での任務なんて危険すぎるだろう。

「ルクレツィアの野郎、この傷でよく戻ってこれたな」
「ですね。もうほとんど動かなかったらしいっすよ。敵が撤退したんで助かりました」
「これじゃあ、整備にだいぶ時間がかかりそうだな」

 おやっさんはそう言って、他の機人から整備を始めた。

 何日もかかる団長の機人を優先したら、他の皆が出撃できずに稼ぎがなくなってしまうからだ。

 恐らく、これからは副長をリーダーにしてローテーションが組まれると思う。

 もしかしたら団長が他の機人を借りる可能性もあるけど、似たような機人でも微妙に癖があるから、それを嫌がるかもしれない。

「それじゃ頼んます」
「おう、任せとけ」

 格納庫を離れて飯を食いに行く。
 半日以上の活動だったのに、機人に備えていたのは食事はパンと水と塩だけ。
 疲れはあるし今すぐ眠りたいけど、流石に腹が減り過ぎてどうにもならない。

 団長たちがロギリア商会から色々分捕ってくれることを祈って、少しだけ豪勢な食事をして部屋に戻った。





「んん、あぁ。あれ? もう暗くなってる?」

 どうやら眠ってしまっていたらしい。
 半日近く機人を動かしていたからな。
 頭も体も休息が必要だったんだろう。

 それを考えると副長たち三人は連勤だったからもっと大変だったはずだ。

 整備が続いてるのか、外はまだ騒がしい。
 だけど、一人になるとつい考えてしまう。
 さっきの戦闘のことじゃない。
 これから俺がどうするかだ。
 寝ている間に頭が整理されて、なんとなく考えがまとまってきた。

 リグド・テランの連中が何故あそこにいたのか。
 そして何故ロギリア商会を壊滅させたのか、理由は分からない。
 もしかしたら本当に俺のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 あの時の敵指揮官、マグレイアって言ったっけ。

 あのアスラレイドは俺たちの援軍の接近に気づいた時、弟のグルディアスを殺された感情よりも、撤退を優先させる冷静さを見せた。そんな奴が感情だけで国境を越えてくるだろうか、疑問が残る。

 くそっ、こんな考え方はただの言い訳だ。
 俺が自分の責任じゃないと思い込みたいだけだ。
 ホントにどうしようもない奴だな、俺は。

 ああ、わかってるよ。
 どんな償いをしたって死んだ人は戻らない。
 俺にできることなんて、この先自分がどうするかを決めることぐらいだ。

 だったら、迷う必要はないはずだ。

 せめて、自分の大切な人だけでも守れるように強くなりたい。

 傭兵団の仲間と、イオリは俺より強いけど、一番はアルフィナだ。
 このままだと、彼女は今までの聖女たちと同じ道を進むことになるだろう。
 そんなことは認められない。

 これからもっと教会の演習場で積極的に指導を受けよう。
 空いた時間で自主練を増やす必要もあるだろう。

「ねえケンセー、大丈夫?」

 レトが心配そうに見つめてくる。

 こいつは出会った頃から変な絡み方してきたけど、結構空気読むんだよな。
 でも、レトには普段通りに馬鹿みたいなこと言っててほしいんだ。
 俺が暗そうにしてるのが悪いんだけどさ。

「ああ、もう平気さ。やることは決まったし」
「だったら、辛気臭い顔してないでよ。これから新しい私のお披露目なんだから!」

 ……なんでこうイラッとするんだろうか。

 本当にこれを望んでいいのか不安になってくる。

 そんな俺の感情なんか無視して、レトは今回の遠征の時に見つけてきた蝶々の入ったビンを抱きかかえてきた。

 俺が何度掴まえて来てもNG喰らったんだけど、どうやら目当ての蝶々が見つかったようだ。周囲の環境に合わせてカメレオンのように体を変色させるらしい。

「ちょ、ちょっと何じっとり見てんのよ」
「お披露目って言ったから、見て欲しいのかと」
「仕方ないわね、括目して見るがいいわ」
「やっぱ、見て欲しいんじゃねーか!」

 レトは体を小さくしてじっとしている。
 次の瞬間、レトから青白い光が放たれた。
 光の中心で何が起こっているのかなんて確認できない。
 それなのに不安を全然感じない。

 何故だか分からないけど、先程までの葛藤も消えて心が落ち着いていく気がする。

「すげぇ」

 何かとても神聖な場に居合わせているような、アルフィナが湖の水を割った時のように神秘的だ。まもなく光はレトに吸い込まれるように収まっていき、新たな姿が少しづつ見えてきた。

「じゃじゃ~ん!!」

 なんだか、すげー安っぽい効果音だな。
 さっきまでの神々しさを返せよ。

「新しい私はどう?」

 Vサインで決めポーズをしながら、レトが聞いてくる。
 どう答えるべきか。

「なんというか、依然と変わりなくて安心した気分?」
「ケンセー、あなた目は大丈夫? 病院行った方がいいわよ。それとも節穴なだけ?」
「いや、全く違いが分からないんで。レトさん、どこが変わったのか教えていただけません?」

 やや怒気を強くして迫るものの、レトのマイペースは変わらない。
 レトはため息をついて、先程まで自分だったものを蹴り飛ばした。

「見たでしょ、今の蹴りのキレを! 見た目は変わらないけど、速さ、柔軟性、かわいらしさは大幅アップよ!」
「やっぱ、外見は変わってないじゃねーか!」

 くっそ、俺は何にツッコミ入れてるんだよ。
 思わず頭を抱えてしまう。
 ツッコミすべきはそこじゃないだろ。
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