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第16話 我がランスを見よ!

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「剣星、私は今からお前を殴る」
「っす!」
「いい返事だ、いくよ!」

 そうして殴られたのが、気絶する前の出来事。
 今の俺は顔には、真新しい痣が残っている。
 別に悪い事をして怒られたとかではないし、むしろ団長による優しさだ。

 昨晩の騒動の後、任務に備えてベッドに入ったのはいいものの、遠足前の子供のように眠れなかった俺は、陽が上るよりも早く格納庫に移動して任務に備えていた。

 そこで夜遅くまで飲んでいた団長に寝不足の顔を見られて、強制的に眠らされることになったのだ。鏡を見る限り、一撃で気持ち良くしてくれたらしい。

 そして集合時間直前に水をかけられて起こされたという事ですよ。

 やっぱり団長は優しいなぁ。

「仕事の確認をするよ。今日は発掘屋のダイダラたちの護衛だ、以上!」

 短すぎるけど、話は事前に聞いてるし、リンダにとっても慣れた仕事なのでこれで問題ない。この発掘屋護衛の仕事は、連日行っているルクレツィア傭兵団の一番の収入源だ。

 発掘屋というのは、過去の戦いで動かなくなったラヴェルサの機人を回収する奴らのこと。それが地中に埋まっているので、金属探知機を使って探し出すという。場所はもちろん城壁外。そこでは突然ラヴェルサの無人機が襲い掛かってくるので、俺達傭兵の出番というわけ。

 街から離れるとラヴェルサの機人が沢山埋まっているそうだ。ところがこいつらは突然再起動することがあるらしい。それは世界を覆う霧にラヴェルサの因子が含まれているからで、それが一定量を超えると動きだすそうだ。

 元々ラヴェルサは重機等を造る巨大な生産プラントだった。それがどういう経緯か破壊衝動を植え付けられてしまい、人類に襲い掛かる兵器を生み出すようになったという。

 これつまり、機械生命体による人類への反乱という、SF映画のような展開なんだよな。エンディングってどうなったんだっけ?

 まあとにかく、突然地中から敵機が現れて襲ってくるわけだから、発掘作業に集中していたら対応できないよな。それを俺たちが守るんだ。でもこれって発掘そのものが国の仕事じゃないのかと思うんだけど、色々あるみたいだ。

 神聖レグナリア帝国は小さな国で、農業が盛んな国ではあるが戦力的には乏しく、国軍は街の防衛で手一杯。教会は一国の軍事力アップになるようなことを直接するわけにはいかないので、今の形に落ちついたらしい。これがもっと大きな国だったら、傭兵の世話になったりしないんだろうな。

 では何故そんな小国に聖女がいるかというと、アルフィナの出身地であるという理由だけだった。これはルーベリオ教会が各国の上に存在するという名目にも関係している。

 教会は巨大な組織なので、本部があれば人や物の流れが生まれ、国が豊かになる可能性がある。どこか一つの国に留まることになれば、それは優遇措置となり、各国の協力体制にひずみが生まれる。なので、本拠地は聖女の出身地と決められ、教会はそれに従って聖女の出身地に本部を移すのだ。

 まあ、オリンピックみたいなもんかな。教会がいる間は景気が良くなるけど、調子に乗って余計な箱もの造ったら大変そうだなって感じ。

 ということで、他に担い手がいないので、発掘屋の護衛は俺たち傭兵の仕事になってる。任務は外からの襲撃はもちろんのこと、監視の内側から出てくる奴がいるかもしれないので、それに対処すること。

 王都を出発して目的地に向かう。

 そうそう、俺のKカスタムのラジウスには、おやっさんによって遮光ガラスみたいのが付けられてる。

 だから外からの見た目は他の機人と同じくらいの輝きなので、俺の力がリンダにばれる心配はない。

 城壁のすぐ外側のエリアはさすがにクリアリング済み。
 まだまだのんびりした雰囲気で、発掘屋も仲間たちと談笑している。
 彼らの移動手段は大型トラックみたいなやつ。
 動力はなく、赤光晶のタイヤを人力で回している。
 鉱山を脱出する時にも見たやつ。
 なんだか随分昔のように感じるよ。

「だんちょ~、剣星の武器、アレいいんですかぁ?」

 リンダが気だるそうに無線を飛ばした。
 それにしても、わざわざ俺にも聞こえるように言いますか。
 おのれJKめ。
 俺の超カッコいい戦闘を見せつけてやる。
 いずれはな。

「まあ、初陣だからな。見逃してやるさ」

 リンダが文句を言ったのは、剣と盾を持つ二人と違い、俺が装備しているのが巨大なランスだからだ。

 実はこの任務、ラヴェルサの敵襲を受けた場合にやるべきことが、依頼者を守ることの他にもう一つある。それは敵機を分解して持ち帰ることだ。

 分解したパーツは自分たちで使えるし、他所に売ることもできる。
 ラヴェルサ産の装甲は帝国製よりも質がいいらしい。
 これすなわち発掘屋の仕事と同じこと。
 なので、胴体部分から手足の接合部を切断しやすい剣で攻撃するのが常套手段。

 なんだけど、昨日の試運転で俺がまともにできたのは走らせることくらい。

 これでは自分を守ることすらできない。
 だから、格納庫の奥で眠っていたバカでかいランスを取りだしたのさ。
 ちゃんと団長から許可はもらってる。
 切断はできないけど持って突撃するだけならできるから。
 一撃離脱が可能だ。
 仮に追われても、団長たちが敵機を後ろから攻撃してくれるって思惑もある。

 俺の長所といったら、なんといってもラジウスを焼き切るほどのエクトプラズム。  
 次に、それによって他者よりも武器や装甲を強化できることだ。
 未熟な操縦技術で細かな動きはできなくても、速さと頑丈さで勝負する。
 ちょ~っと性能便りの戦法だけど、これ意外とイケるんじゃねって思ってる。

 あと、おじさん呼びは止めさせた。
 俺ではなく団長が。

「剣星がおじさんってことは、私のことはどう呼ぶんだい?」って笑顔の団長が迫ったら一瞬だった。

「だんちょ~、なんか剣星に甘くないですか~?」
「なんだ、リンダ。まだ甘え足りなかったのかい。なら一仕事終えたら私の胸に飛び込んで来な。いくらでも甘えさせてやる」

 なんかすげーパワーで抱きしめられてるのが想像できる。
 というか、団長は俺に対して甘いのか?
 短い付き合いで、既に二回気絶させられてるよ?
 いや、俺にも問題があるのは分かってるんだけどさ。

「そういうのは副長にお願いするんで間に合ってま~す」
「そりゃ残念だ。さあ、そろそろ仕事に集中するよ。いつ出て来てもおかしくないからね」
「了解」

 目的地までもう少し。

 フォーメーションは俺とリンダが前方左右を進む。
 団長は後ろから全体を見る形で発掘屋は三角形の真ん中にいる。
 正直、三機だけじゃ護衛としては心もとない。
 まあ、予算と相談した結果なんだろう。
 ダイダラの発掘は割かし危険の少ないエリアらしいし。

 到着した平原で、作業が始まった。
 これまで何度も発掘していただけあって、この辺りは凸凹が結構ある。

「(敵なんて全然いないじゃない、早く集まってくればいいのに)」
「(平穏なのはいい事だろ?!)」

「こら、剣星。よそ見しないで、ちゃんと周囲の確認しておきな」
「(ケンセー、新人が油断しちゃ駄目よ、しっかりしなさいよね)」
「はい!」
「大事な仕事なんだから、ホントしっかりしてくださいよ」

 ちょっとレトに気を取られていたら、団長から怒声が飛んだきた。ついでにリンダからも。つか、なんでコイツは初対面の時から俺に悪態つくんだよ。

 今、俺達三人は周囲を警戒しているけど、突っ立って遠くを眺めるわけじゃない。俺の訓練のために、円を描くように発掘屋の周りをグルグル回っているんだ。

 まあ、ただの歩行訓練だけど、これが結構いい練習になる。
 円の外側を警戒しながら、足元の凹みに注意しなくちゃいけない。

 都会で人ごみを掻き分けながら歩くのは大丈夫でも、機人に乗りながらだと結構疲れる。

 リンダはぶうたれてるけど、悪いとは思ってるんだよ。
 なにせ、この任務は三機しかいないから、朝から夕方前まで休憩なんて全然ない。
 あるのはトイレ休憩くらい。

 発掘屋が昼飯食ってても、俺達が警戒を怠るわけにはいかないのに、やらなくていい歩行訓練なんてやらされるのだから、文句の一つも言いたくなるのは理解できる。

 それなのに俺はちょっとだけ楽をしている。申し訳ない。
 レトに頼んで一緒に索敵してもらってるんだ。
 ちょっとごねられたけど「俺達相棒だよな」っていったら快く引き受けてくれたよ。二人で一人前みたいな感じでちょっと情けないけど。

 ダイダラたちは今、丁度昼休憩に入ったみたいだ。

 俺達も、といきたいところだけど、機人にはサンドイッチと水が入った皮袋を持ち込んでるから、それを自由に食べる。隊長はお菓子もかなり持ち込んでるみたい。

「団長! 敵影確認しました」

 それまでのリンダの気だるそうな声は一変し、緊張感が伝わってくる。
 やっぱ、そうなりますよね~。

「よし! 剣星、信号弾撃て」

 コックピットを開いて発砲した。
 ドキドキしたし反動もあったけど、ちゃんとできたようだ。
 これは発掘屋だけでなく、周辺の街や部隊にも敵の存在が知らせる手段だ。
 ラヴェルサと遭遇した場合には必ず使用しなければならない。

 霧があるから目視できる距離は限られているとはいえ、音も響くからそれなりの範囲に知らせることができるだろう。

 他の部隊に余裕があれば援軍に来てくれることも稀にあるらしい。
 今回は望み薄だろう。
 てか、来られたら収入が減るから、団長たちは来てほしくないって感じだけどな。

「リンダ。数と型は確認できるかい?」
「ちょっと待ってください。六型が二、十一型が一、未確認が一機です」

 ラヴェルサの機人は世代ごとに特徴が異なっている。
 数字はそのための分類で、何代目の聖女の時代の機人かを表す。
 つまり六型ってのは六人目の聖女の時代に誕生したラヴェルサの機人だ。
 アルフィナは十七番目の聖女なので、目の前にいる六型は大分昔の機人になる。

「昔の機人だからって油断するんじゃないよ!」
「了解」

 圧倒的な性能の聖王機で戦った時とは違って、自分の機人での初めての戦いだ。
 油断なんてしないさ。
 それにしても昔の機人が現役なのはすげーな。

「団長、剣星に突っ込んでもらうのがいいんじゃないですか?」
「んん、そうだな。剣星! お前が先陣を切れ。敵陣に切り込むんだ」

 ハハッ、マジかよ。いきなり一番槍を任せてくれるのかよ。
 やべえ、胸が熱くなってくのが分かる。


 よっしゃ!!


「了解。いくぜ! Kカスタム、GO!!」
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