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第7話 この出会い、もしかして運命?!
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俺は今、見たことのない草原で装甲機人を走らせている。
まあ、それは異世界だから当たり前なんだけど。
ともかく、強風が吹き荒れる中、恐らくいるであろう追手から逃れるため、必死になって走ってる。
コックピットには俺が開けた大きな穴があり、そこから入ってくる風のせいで息苦しい。
しかも前面装甲がないから、送られてくる映像も半分だけ。
左側は目を見開いて確認するという面倒くささ。
正直、早く休みたい。
そんな俺と正反対に、肩に座った謎の生物は大きく口を広げて、その状況を楽しんでいた。
「お前、ちょっと静かにしてくんね?」
「お前って何よ! 私たちの仲じゃない。そんな他人行儀な呼び方しないでよ!」
おいおい、いつの間に俺たちはそんなに親密になったって言うんだよ。
「だいたい名前なんて聞いてないぞ」
「当たり前じゃない。言ってないんだから」
コイツは俺に名乗らせたあげく、自分はのことを話さなかったんだ。
「仕方ないわね。耳かっぽじって聞きなさい。私の名前はね」
「うん」
「私の、なまえは」
ん、どうしたんだ。
「そ、そう、レストライナよ!」
「なんだよ、今の間は。もしかしてレストライナさん、自分の名前忘れてました?」
「永く生きてれば、そんなこともあるわよね」
「ねえよ! 仕方ないですな。それなら忘れないように、短く、レトとお呼びしましょうか?」
「ええ、それでかまわないわ」
な、なんだと?!
コイツなら絶対否定してくると思ったのに。
「ケンセー、何を驚いているの? 私ね、心の広さには自信があるの。良い機会だから教えてあげるわ。心の広さや大きさというものはね、体積とは比例しないのよ!」
な、なんだってー?!
これは自慢か?
それとも自慢風に俺の事を乏してるのか?
ちくしょー、いいお姉さん風に言いやがって。
一瞬受け入れちまったじゃねーか。
なんだかすげー悔しいぜ。
「ところで、ケンセー。この道で合ってるの?」
「えっ、あれっ、雨で轍が消えてるやんけ」
――――――――――――――――
いったい、どこで道を間違えたんだろうか。
鉱山を出発してから、俺は轍を頼りに、順調に走っていたはずだ。
ところが、すぐにアクシデントはやってきた。
突然の嵐の襲来だ。
激しいと雨と、唸りをあげる風の音。
重い機人が煽られてしまうほど強い風。
本当なら姿勢を低くして、やり過ごしたい。
どこかに隠れて避難したい。
でもこれはチャンスでもあると思ったんだ。
激しい雨は機人の足跡を消してくれるし、この天候なら目視も難しくなるだろうって。だから我慢して前に進み続けたのさ。
でも考えれば当たり前のことだよな。
仲間が通った痕跡がなくなって、居場所が分からないのは自分も同じだって。
まあ、つまりは迷子になってしまったのよ、これが。
他の仲間は景色や輝きの強い星の位置とかから、場所が分かるかもしれないけど、俺には絶対無理。無理無理無理のカタツムリ。隣にいるのは地理を知らない妖精もどきさん。
途中からは、かなりハイになってたね。
笑いながら走ってた気がするよ。
おかげで随分距離は稼げたけど、最悪リグド・テランの奥地に進んだ可能性もあるんだよな。
それでも俺はさらに数時間、無心で走り続けたさ。
食料は既にないけど、水だけは十分にある。
コックピット内に入り込んだ水を啜って過ごしている。
早くどこかでゆっくり休みたい。
自分の体を動かさないといっても、頭の中では走るイメージを持ち続けなくちゃならないんだ。
体力の限界だよ。
久々に甘いもんが食いてえな。
それにしても、今まで何の建物も見ていない。
家の一軒くらいあったっていいじゃないか。
グルグル同じとこを回ってるだけなんじゃないか、と不安になってしまう。
これで丘を越えるのは何回目だろうか。
丘の頂上から、何かが見えたらいいな。
「何にもな~い!」
俺の眼前には、だだっ広い草原がある。
でも、こういう場所は危険だよ。
周囲に隠れる場所がないから、姿を見られたら、追跡されてしまうんだ。
「ほら、やっぱり」
前方から灰色の点が近づいてきていた。
二つの点は、左右に分かれて近づいてくる。
その機人は、スリムなリグド・テラン製とは一味違う。
まるで西洋甲冑を装着した騎士みたいにずっしりとしている。
機人は走りながら、背中の剣を手に取った。
目標は間違いなく俺だろう。
今の機人の状態じゃ、戦っても勝ち目はない。
つーか、戦闘に耐えられるわけがない。
コックピットを狙われてあっさりとジ・エンドだ。
だからといって、両手をあげて降伏するか?
どんな相手かも分からないのに?
無線機を外したのは失敗だったか。
もし追手だったら、降伏を無視して殺されるかもしれない。
やっぱこの選択肢は無しだな。
さて、どうやって逃げようか。
「ってか、速すぎだろ、こいつら!」
広いエリアを駆けているせいだろうか。
今までの機人より速く動いてる気がする。
さあ、どうする、どうする?
「ケンセー、どうするのよ?!」
「ギリギリまで引きつけて、急加速だ!」
相手が急ターンしてる隙に、できるだけ引き離すしかねえ!
「よっしゃ、作戦成功。って、まだいるのかよ!」
正面から、更に二機が突っ込んできた。
もしかしたら、他にもいるかもしれない。
けど、どっちにしろ、やることに変わりはないんだ。
こうなったら、コイツらの頭上を越えてやる。
どうやら遠距離武器はないみたいだからな。
距離さえ離せば、逃げ切れる可能性は充分にある。
速度差はわかんねぇけど、やってみる価値ありまっせ。
「思いっきし、跳躍するぞ。舌を噛むなよ」
俺は新たな二機と接触する寸前に、思いっきり踏み込んだ。
そして力強く跳ね上がる。
「いっけぇ!!」
おお? おおぉぉ!!
なんだかすげー跳んでるぞ。
地面が遥か下に見える。
つーか、跳び過ぎじゃね?
地面と離れすぎだろ!
このまま落ちたら絶対死ぬって!
しかも、なんか脚部がダランとしてるし、今のジャンプで壊れたのかよ。
頼む! あの湖まで届いてくれ!!
――――――――――――――――
……寒い。
俺はきっとまた湖に落ちたのだろう。
この世界にやってきた時と同じだ。
でも、なんだか暖かさも感じる。
周囲を確認したいけど、なんだかすごく眩しい。
ゆっくりと瞼を開いていく。
「大事ないか?」
目の前に突然現れた優しい微笑み。
思わず見とれてしまう真っ黒な髪と輝くブルーアイ。
「まだ動かぬほうが良かろう」
動かしたくても、痛くて動かない。
どうやら、俺は彼女に膝枕されているようだ。
後光が差すってのは、こんな感じなんだろう。
彼女を見てると、自然とそんな風に思ってしまう。
「……?」
正直、ここが天国だと言われても俺は納得する。
それくらい今の状況は現実離れしている。
まさに夢のようなシチュエーション。
「まるで女神?」
なんだか、微笑んだように見える。
照れているのだろうか。
アレっ? でもよく見ると。
美女というよりは、美少女の方がしっくりくるかもしれない。
当初の印象よりも、ずっと若く感じる。
「いや、よく見れば女神ってほどでも」
「なんじゃと! このうつけ者が!!」
「痛っ!」
どうやら俺は言葉の選択を間違ってしまったらしい。
短気な女神もどきがペシペシ頬を叩いてくる。
一部の特殊な層なら喜ぶだろうけど、残念ながら俺にそんな趣味はない。
勘弁して下さい。まだ意識が朦朧としてるんです。
少し離れた所には、俺が乗ってきたグルディアス機が見える。
その先には落ちたであろう湖。
そして先程、俺を追ってきた灰色の機人も。
いったい今の状況はどうなってるんだ?
それにレトの姿が見えない。
あいつは飛べるから大丈夫だろうけど、万が一の可能性もある。
早く起きないと。って、俺、パンツ一丁じゃん。
「妾はアルフィナじゃ。お主、名はなんという?」
「……俺は剣星っていいます」
アルフィナと名乗った少女は、俺の髪を優しく撫でてくる。
先程まで何度もペシペシしてきたのと同一人物とは思えない。
ひょっとして二重人格?
それにしても、何故俺はアルフィナと二人きりなんだろう。
さっきの灰色の機人がいるなら、正体不明な俺に対して、もっと警戒してもいいはずだ。
「お主は何故あの機人に乗ってきたのじゃ? リグド・テランの者ではあるまいに」
無邪気な顔して、いきなりなんてことを聞くんだよ。
でも正直に話すしかないか。
何故だか彼女の瞳は、思わず懺悔したくなるほどの破壊力だし。
それになんだか見透かされてる気になってくる。
でも、どこから話せばいいのやら、どこまで話していいのやら。
「お主、もしや別世界から来たのではあるまいな?」
思わず、心臓が跳ね上がる。
アルフィナが満足したように微笑んだのは、肯定と捉えたからだろう。
俺の迷いは、あっさりと見透かされてしまった。
いったい、この少女は何者なんだよ。
こっちの世界に来たばかりの頃は、俺自身だって相当驚いた。
今は納得っていうか、踏ん切りをつけたけど、当時はそれなりに焦ったし。
それなのに、何故彼女はいきなり別世界なんて言い出したんだろうか。
もしかして前例があったのか?
俺はこの世界に来てから、これまでのことを話し始めた。
アルフィナが興味深そうに頷いて、相槌を打ってくれるので話しやすい。
まだ十歳くらいだろうに。
しかも俺の話をそのまま信じるという。
「忠告しておくが、その話をするのは妾たちのみにしておくが良いぞ」
「たち?」
「ほれっ、そこにおる羽虫のことじゃ」
「レト! 生きてたのか」
短い付き合いだけど、なんとなく嬉しい。
しかし、なんともまあ、不機嫌な表情で。
いったい何に不満があるというのか。
「あんた、やっぱり私の事が見えてたのね。それに私のいない間にケンセーに近づいて何しようってのよ!」
「介抱しただけじゃ」
「レトこそ、今までどこにいたんだよ」
「一時的な緊急回避よ」
「俺と一緒にいるんじゃなかったのか?」
「ケンセー、いいこと教えてあげるわ。昔の偉人は言いました。それはそれ。これはこれ」
「どこの偉人だよ」
「私の母親よ!」
「確かに偉いわな。一気にローカルな偉人になったけど」
俺達がアホな会話を交わしていると、アルフィナがコホンと咳払いした。
「して、剣星。この羽虫のこと知られれば、たちまち、どこぞの見世物屋に売られるであろうな。決して姿を見せず、言葉を聞かれてはならんぞ」
「私に一生黙ってろって言うの? 鬼! 悪魔! ちびすけ!」
「何を言うか、羽虫。お主と剣星ならば心の内で話せようぞ」
アルフィナは口元を引きつりながらも、冷静に話している。
偉いぞって褒めたくなってくる。
というか、なんかレトの声が頭の中に直接聞こえてくるんだけど。
これって日本にいた時と同じ現象じゃねーか。
ちょっと違う気もするけど。
レトはそのままどの程度の距離で通じるか、テストの為に離れて行った。
時折、「(おーい、聞こえる?)」と聞いてくるので、腕を上げて返事をしてる。
「羽虫が去ったところで、剣星よ。何か聞きたいことがあるんじゃろ?」
あるよ、あるよ。沢山あるよ。
「あの灰色の機人はなんて名前なの?」
質問した途端、アルフィナはきょとんとした表情になった。
あれっ? なんも変な事言ってないよな。
アルフィナは気を取り直してって感じで、一度咳払いをする。
「あれはラグナリィシールドと呼ばれる装甲機人じゃ。妾の所属するルーベリオ教会が守護する世界を維持するための機人といったところじゃな」
「ルーベリオ教会?」
どこかで聞いた事があるような。
そうだ、確か自由都市同盟ロジスタルスの東側の国家では、そんな宗教が広まっているとかなんとか。
そうか、俺はやっぱり皆とはぐれちまったのか。
でもリグド・テランを脱出できただけでも良かったのかもな。
「ふむ、イオリが戻ってきたようじゃな。話はここまでとしよう」
アルフィナが近づいてくる人物に手を振った。
俺も痛む体を僅かに動かして視線をずらす。
艶やかな黒髪を後ろに束ねた女性が近づいてきている。
水も滴るいい女、というより、思いっきり濡れている。
ひょっとして、彼女が俺を湖から引き揚げてくれたのかもしれない。
「アルフィナ様、ただいま戻りました」
「ゆるりと乾かせと言ったであろうに」
「いえ、お側を長く離れるわけには参りませんので」
きっと、生真面目な性格なんだろう。
譲る気はなさそうだ。
アルフィナはため息をついた。
「相変わらず堅苦しい奴じゃ。剣星もそう思うじゃろ?」
おいおい、俺に振ってくれるなよ。
返答に困ってイオリに顔を向けると俺を見下ろしていた。
ぞっとするほど冷たい目つきだ。
でも、なんだろこの感覚。
俺は見下ろされてゾクゾクしてるのか?
というか、服が透けてて見えちゃいけない所が……。
「っ?!」
やばっ! 完全に視線がばれてる。
イオリの視線が頭からつま先まで、俺の全身をくまなく観察してくる。
どんどん顔が紅潮していってる。
だってしょうがないじゃない。男の子だもの。
「この変態がっ!」
「見てない! ちょっとしか見てないから!」
「貴様っ!!」
イオリが手を大きく広げた。
理由は勿論、俺の顔を掴むためだ。
「何を見たって?」
「ナニも」
アイアンクローかよ、なんて奴だ。
てか親父のより強ぇ。
まあ、それは異世界だから当たり前なんだけど。
ともかく、強風が吹き荒れる中、恐らくいるであろう追手から逃れるため、必死になって走ってる。
コックピットには俺が開けた大きな穴があり、そこから入ってくる風のせいで息苦しい。
しかも前面装甲がないから、送られてくる映像も半分だけ。
左側は目を見開いて確認するという面倒くささ。
正直、早く休みたい。
そんな俺と正反対に、肩に座った謎の生物は大きく口を広げて、その状況を楽しんでいた。
「お前、ちょっと静かにしてくんね?」
「お前って何よ! 私たちの仲じゃない。そんな他人行儀な呼び方しないでよ!」
おいおい、いつの間に俺たちはそんなに親密になったって言うんだよ。
「だいたい名前なんて聞いてないぞ」
「当たり前じゃない。言ってないんだから」
コイツは俺に名乗らせたあげく、自分はのことを話さなかったんだ。
「仕方ないわね。耳かっぽじって聞きなさい。私の名前はね」
「うん」
「私の、なまえは」
ん、どうしたんだ。
「そ、そう、レストライナよ!」
「なんだよ、今の間は。もしかしてレストライナさん、自分の名前忘れてました?」
「永く生きてれば、そんなこともあるわよね」
「ねえよ! 仕方ないですな。それなら忘れないように、短く、レトとお呼びしましょうか?」
「ええ、それでかまわないわ」
な、なんだと?!
コイツなら絶対否定してくると思ったのに。
「ケンセー、何を驚いているの? 私ね、心の広さには自信があるの。良い機会だから教えてあげるわ。心の広さや大きさというものはね、体積とは比例しないのよ!」
な、なんだってー?!
これは自慢か?
それとも自慢風に俺の事を乏してるのか?
ちくしょー、いいお姉さん風に言いやがって。
一瞬受け入れちまったじゃねーか。
なんだかすげー悔しいぜ。
「ところで、ケンセー。この道で合ってるの?」
「えっ、あれっ、雨で轍が消えてるやんけ」
――――――――――――――――
いったい、どこで道を間違えたんだろうか。
鉱山を出発してから、俺は轍を頼りに、順調に走っていたはずだ。
ところが、すぐにアクシデントはやってきた。
突然の嵐の襲来だ。
激しいと雨と、唸りをあげる風の音。
重い機人が煽られてしまうほど強い風。
本当なら姿勢を低くして、やり過ごしたい。
どこかに隠れて避難したい。
でもこれはチャンスでもあると思ったんだ。
激しい雨は機人の足跡を消してくれるし、この天候なら目視も難しくなるだろうって。だから我慢して前に進み続けたのさ。
でも考えれば当たり前のことだよな。
仲間が通った痕跡がなくなって、居場所が分からないのは自分も同じだって。
まあ、つまりは迷子になってしまったのよ、これが。
他の仲間は景色や輝きの強い星の位置とかから、場所が分かるかもしれないけど、俺には絶対無理。無理無理無理のカタツムリ。隣にいるのは地理を知らない妖精もどきさん。
途中からは、かなりハイになってたね。
笑いながら走ってた気がするよ。
おかげで随分距離は稼げたけど、最悪リグド・テランの奥地に進んだ可能性もあるんだよな。
それでも俺はさらに数時間、無心で走り続けたさ。
食料は既にないけど、水だけは十分にある。
コックピット内に入り込んだ水を啜って過ごしている。
早くどこかでゆっくり休みたい。
自分の体を動かさないといっても、頭の中では走るイメージを持ち続けなくちゃならないんだ。
体力の限界だよ。
久々に甘いもんが食いてえな。
それにしても、今まで何の建物も見ていない。
家の一軒くらいあったっていいじゃないか。
グルグル同じとこを回ってるだけなんじゃないか、と不安になってしまう。
これで丘を越えるのは何回目だろうか。
丘の頂上から、何かが見えたらいいな。
「何にもな~い!」
俺の眼前には、だだっ広い草原がある。
でも、こういう場所は危険だよ。
周囲に隠れる場所がないから、姿を見られたら、追跡されてしまうんだ。
「ほら、やっぱり」
前方から灰色の点が近づいてきていた。
二つの点は、左右に分かれて近づいてくる。
その機人は、スリムなリグド・テラン製とは一味違う。
まるで西洋甲冑を装着した騎士みたいにずっしりとしている。
機人は走りながら、背中の剣を手に取った。
目標は間違いなく俺だろう。
今の機人の状態じゃ、戦っても勝ち目はない。
つーか、戦闘に耐えられるわけがない。
コックピットを狙われてあっさりとジ・エンドだ。
だからといって、両手をあげて降伏するか?
どんな相手かも分からないのに?
無線機を外したのは失敗だったか。
もし追手だったら、降伏を無視して殺されるかもしれない。
やっぱこの選択肢は無しだな。
さて、どうやって逃げようか。
「ってか、速すぎだろ、こいつら!」
広いエリアを駆けているせいだろうか。
今までの機人より速く動いてる気がする。
さあ、どうする、どうする?
「ケンセー、どうするのよ?!」
「ギリギリまで引きつけて、急加速だ!」
相手が急ターンしてる隙に、できるだけ引き離すしかねえ!
「よっしゃ、作戦成功。って、まだいるのかよ!」
正面から、更に二機が突っ込んできた。
もしかしたら、他にもいるかもしれない。
けど、どっちにしろ、やることに変わりはないんだ。
こうなったら、コイツらの頭上を越えてやる。
どうやら遠距離武器はないみたいだからな。
距離さえ離せば、逃げ切れる可能性は充分にある。
速度差はわかんねぇけど、やってみる価値ありまっせ。
「思いっきし、跳躍するぞ。舌を噛むなよ」
俺は新たな二機と接触する寸前に、思いっきり踏み込んだ。
そして力強く跳ね上がる。
「いっけぇ!!」
おお? おおぉぉ!!
なんだかすげー跳んでるぞ。
地面が遥か下に見える。
つーか、跳び過ぎじゃね?
地面と離れすぎだろ!
このまま落ちたら絶対死ぬって!
しかも、なんか脚部がダランとしてるし、今のジャンプで壊れたのかよ。
頼む! あの湖まで届いてくれ!!
――――――――――――――――
……寒い。
俺はきっとまた湖に落ちたのだろう。
この世界にやってきた時と同じだ。
でも、なんだか暖かさも感じる。
周囲を確認したいけど、なんだかすごく眩しい。
ゆっくりと瞼を開いていく。
「大事ないか?」
目の前に突然現れた優しい微笑み。
思わず見とれてしまう真っ黒な髪と輝くブルーアイ。
「まだ動かぬほうが良かろう」
動かしたくても、痛くて動かない。
どうやら、俺は彼女に膝枕されているようだ。
後光が差すってのは、こんな感じなんだろう。
彼女を見てると、自然とそんな風に思ってしまう。
「……?」
正直、ここが天国だと言われても俺は納得する。
それくらい今の状況は現実離れしている。
まさに夢のようなシチュエーション。
「まるで女神?」
なんだか、微笑んだように見える。
照れているのだろうか。
アレっ? でもよく見ると。
美女というよりは、美少女の方がしっくりくるかもしれない。
当初の印象よりも、ずっと若く感じる。
「いや、よく見れば女神ってほどでも」
「なんじゃと! このうつけ者が!!」
「痛っ!」
どうやら俺は言葉の選択を間違ってしまったらしい。
短気な女神もどきがペシペシ頬を叩いてくる。
一部の特殊な層なら喜ぶだろうけど、残念ながら俺にそんな趣味はない。
勘弁して下さい。まだ意識が朦朧としてるんです。
少し離れた所には、俺が乗ってきたグルディアス機が見える。
その先には落ちたであろう湖。
そして先程、俺を追ってきた灰色の機人も。
いったい今の状況はどうなってるんだ?
それにレトの姿が見えない。
あいつは飛べるから大丈夫だろうけど、万が一の可能性もある。
早く起きないと。って、俺、パンツ一丁じゃん。
「妾はアルフィナじゃ。お主、名はなんという?」
「……俺は剣星っていいます」
アルフィナと名乗った少女は、俺の髪を優しく撫でてくる。
先程まで何度もペシペシしてきたのと同一人物とは思えない。
ひょっとして二重人格?
それにしても、何故俺はアルフィナと二人きりなんだろう。
さっきの灰色の機人がいるなら、正体不明な俺に対して、もっと警戒してもいいはずだ。
「お主は何故あの機人に乗ってきたのじゃ? リグド・テランの者ではあるまいに」
無邪気な顔して、いきなりなんてことを聞くんだよ。
でも正直に話すしかないか。
何故だか彼女の瞳は、思わず懺悔したくなるほどの破壊力だし。
それになんだか見透かされてる気になってくる。
でも、どこから話せばいいのやら、どこまで話していいのやら。
「お主、もしや別世界から来たのではあるまいな?」
思わず、心臓が跳ね上がる。
アルフィナが満足したように微笑んだのは、肯定と捉えたからだろう。
俺の迷いは、あっさりと見透かされてしまった。
いったい、この少女は何者なんだよ。
こっちの世界に来たばかりの頃は、俺自身だって相当驚いた。
今は納得っていうか、踏ん切りをつけたけど、当時はそれなりに焦ったし。
それなのに、何故彼女はいきなり別世界なんて言い出したんだろうか。
もしかして前例があったのか?
俺はこの世界に来てから、これまでのことを話し始めた。
アルフィナが興味深そうに頷いて、相槌を打ってくれるので話しやすい。
まだ十歳くらいだろうに。
しかも俺の話をそのまま信じるという。
「忠告しておくが、その話をするのは妾たちのみにしておくが良いぞ」
「たち?」
「ほれっ、そこにおる羽虫のことじゃ」
「レト! 生きてたのか」
短い付き合いだけど、なんとなく嬉しい。
しかし、なんともまあ、不機嫌な表情で。
いったい何に不満があるというのか。
「あんた、やっぱり私の事が見えてたのね。それに私のいない間にケンセーに近づいて何しようってのよ!」
「介抱しただけじゃ」
「レトこそ、今までどこにいたんだよ」
「一時的な緊急回避よ」
「俺と一緒にいるんじゃなかったのか?」
「ケンセー、いいこと教えてあげるわ。昔の偉人は言いました。それはそれ。これはこれ」
「どこの偉人だよ」
「私の母親よ!」
「確かに偉いわな。一気にローカルな偉人になったけど」
俺達がアホな会話を交わしていると、アルフィナがコホンと咳払いした。
「して、剣星。この羽虫のこと知られれば、たちまち、どこぞの見世物屋に売られるであろうな。決して姿を見せず、言葉を聞かれてはならんぞ」
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「何を言うか、羽虫。お主と剣星ならば心の内で話せようぞ」
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偉いぞって褒めたくなってくる。
というか、なんかレトの声が頭の中に直接聞こえてくるんだけど。
これって日本にいた時と同じ現象じゃねーか。
ちょっと違う気もするけど。
レトはそのままどの程度の距離で通じるか、テストの為に離れて行った。
時折、「(おーい、聞こえる?)」と聞いてくるので、腕を上げて返事をしてる。
「羽虫が去ったところで、剣星よ。何か聞きたいことがあるんじゃろ?」
あるよ、あるよ。沢山あるよ。
「あの灰色の機人はなんて名前なの?」
質問した途端、アルフィナはきょとんとした表情になった。
あれっ? なんも変な事言ってないよな。
アルフィナは気を取り直してって感じで、一度咳払いをする。
「あれはラグナリィシールドと呼ばれる装甲機人じゃ。妾の所属するルーベリオ教会が守護する世界を維持するための機人といったところじゃな」
「ルーベリオ教会?」
どこかで聞いた事があるような。
そうだ、確か自由都市同盟ロジスタルスの東側の国家では、そんな宗教が広まっているとかなんとか。
そうか、俺はやっぱり皆とはぐれちまったのか。
でもリグド・テランを脱出できただけでも良かったのかもな。
「ふむ、イオリが戻ってきたようじゃな。話はここまでとしよう」
アルフィナが近づいてくる人物に手を振った。
俺も痛む体を僅かに動かして視線をずらす。
艶やかな黒髪を後ろに束ねた女性が近づいてきている。
水も滴るいい女、というより、思いっきり濡れている。
ひょっとして、彼女が俺を湖から引き揚げてくれたのかもしれない。
「アルフィナ様、ただいま戻りました」
「ゆるりと乾かせと言ったであろうに」
「いえ、お側を長く離れるわけには参りませんので」
きっと、生真面目な性格なんだろう。
譲る気はなさそうだ。
アルフィナはため息をついた。
「相変わらず堅苦しい奴じゃ。剣星もそう思うじゃろ?」
おいおい、俺に振ってくれるなよ。
返答に困ってイオリに顔を向けると俺を見下ろしていた。
ぞっとするほど冷たい目つきだ。
でも、なんだろこの感覚。
俺は見下ろされてゾクゾクしてるのか?
というか、服が透けてて見えちゃいけない所が……。
「っ?!」
やばっ! 完全に視線がばれてる。
イオリの視線が頭からつま先まで、俺の全身をくまなく観察してくる。
どんどん顔が紅潮していってる。
だってしょうがないじゃない。男の子だもの。
「この変態がっ!」
「見てない! ちょっとしか見てないから!」
「貴様っ!!」
イオリが手を大きく広げた。
理由は勿論、俺の顔を掴むためだ。
「何を見たって?」
「ナニも」
アイアンクローかよ、なんて奴だ。
てか親父のより強ぇ。
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自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
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特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
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「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
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(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
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同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
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