聖女の御旗に集え!! ~ こんな世界、俺がぶっ壊してやるよ!!

犬猫パンダマン

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第4話 行くぜ、初出撃! えっ、俺の仕事は囮だけ?

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 俺がこっちの世界にやってきてから、どれだけ季節が巡ったのだろうか。
 いつもより少しだけ暖かい朝、普段より早く目覚めた。

 ヤツが予定通り待機任務中に酔ってイビキをかいてると報告が来たら作戦開始だ。
 何より大切なのが二機のイステル・アルファを強奪すること。
 例え仲間たちが倒れたとしても、後ろを振り向かずに進まなければならない。
 皆が頷きあって鼓舞しているように見える。

 本来であれば休憩中の仲間たちも、目を瞑って寝たふりをして時を待っている。
 それから数秒後、洞窟内全てのエリアが真っ暗になった。
 作戦決行の合図だ。

「おいっ、停電か? 誰か確認してこい」
「分かりました……」

 了解しつつ仲間の一人が見張りの首を絞めた。
 目を瞑っていたおかげで暗くてもなんとなく分かる。
 全て予定通りの行動だ。

「お前たちはこっちだ」
「ああ、わかってる。支援を頼んだぜ」

 皆が密かに見張りの数を減らしてる最中に、俺たちはターゲットの元に向かう。
 仲間が心配だけど、見張りの人数はそれほど多くないから大丈夫なはずだ。
 逆にいえば、それを覆すだけの力が装甲機人にはあるのかもしれない。
 だから、何としても奪取しなければならないんだ。

「やばっ、隠れるぞ」

 眩い光が俺たちの進行方向を照らし始めた。
 あれはイステル・アルファに付いてる照明だ。
 停電に不穏なものを感じて様子を見に来たのかもしれない。
 だがこれはチャンスでもある。
 奴が奥に行っている隙に他の機人を奪取するんだ。

 俺と仲間たちはイステル・アルファをやり過ごして目的地に急いだ。
 早くしないと睡眠中の操者が起きてしまうし、酔っ払いが覚醒する可能性もある。

「ロイドさん、見つけましたよ」
「うん、ここからは一気にいこう」

 二機とも格納庫で仰向けになっている。
 ちょっと姿勢が悪くて浪漫がない。
 洞窟内は立ち上がると高さがぎりぎりだから、整備の関係もあるんだろうな。
 幸いにも動きだす気配はまだない。

 コックピットは開いてるので、まずはロイドさんが器用に登り始めた。
 二機目が使えない可能性を考えれば、経験者が優先だ。
 ロイドさんが問題なく中に入ってコックピットを閉じていく。
 続けて俺が隣の機人によじ登った。

「んん? なんだ、うるせえぞ……」

 酔っぱらいの操者は寝ぼけているのか、俺に気づかず、シートに横たわって寝返りを打っている。なんともふざけた姿で、これまでの威張り散らした様子からは考えられない程穏やかな顔つきだ。こいつが起こされなかったのは、後で文句言われるのが嫌とか、そんな理由かもしれないな。

 気になるのは酒の匂いが立ち込めてきたこと。
 コックピット内は空になった酒瓶で溢れてる。
 匂いだけで酔いそうだ。
 こんなとこで飲んでんじゃねぇよ。

 よく分からん怒りを込めて、俺はぐっすり眠る相手に向かい、コーナー最上段から飛び降りるようにジャンプした。

「ぐはっ!」

 悶絶する相手を外に放り投げる。
 ついでに酒瓶も次々と投げ捨てる。
 この半年間で俺の体も随分鍛えられたもんだ。
 硬さは違うけど、自分の肉体じゃないみたいに逞しい。

「酒くせー」

 シートに座り、事前のレクチャー通りに体を固定する。
 そして両手を伸ばして輝きを放つ球体を握る。
 これらは俺たちが掘り出した赤光晶を製錬・加工した塊りだ。

 俺の意志を感じ取り、イステル・アルファはうっすら輝く赤い線を全身に伸ばしていく。同時に全身からモーターが回転するような駆動音が振動と共に伝わってくる。初めはゆっくり回転してるのに、どんどん加速していってる。

「くぅ~、かっけ~な、おい」

 装甲機人に意志を伝えると、機人の方からも俺にフィードバックがある。
 赤光晶が多く含まれている正面装甲からの映像が脳に直接送られてきてるんだ。
 さっすが、ファンタジー。

「うげ、なんか気持ち悪い……」

 っと、今はダウンしている場合じゃない。
 仲間たちが命を懸けて頑張ってるんだ。
 まずはコックピットを閉めるんだっけな。

「閉まれ、閉まれ、閉まれ…………閉まった!!」

 よし、次は立ち上がってみるぞ。
 いや、その前に無線の周波数を変えておこう。
 ロイドさんに連絡だ。

「え~、こちら剣星。ロイドさん、聞こえますか? 無事奪取に成功しました」
「うん、よくやったね。そのまま起き上がれる?」
「やってみます」

 ところが上手く動かせない。
 しびれを切らしたのか、無線が飛んできた。

「難しい?」
「動きはするんですけど、もう少し時間が必要かも」
「いや、ちょっと待って。大きな音が聞こえてくる。さっきすれ違った敵機が引き返してきたんだと思う」

 マジかよ、だったら俺も早く動かなくちゃ。

 ところがやっぱり上手くいかない。
 なんとか動かそうとするも、ひっくり返って仰向けに倒れてしまう。

「剣星くん! そのままの姿勢で一度電源を落としてくれ」
「それじゃ起動してから、しばらくは戦えなくなりますよ」
「いや、君には大事な役目があるんだ。これから僕は一対一で戦うことになる。それで僕が合図したら、もう一度起動するんだ。いいね?」
「ああ、それで敵の気を引くんすね。分かりました」

 装甲機人は起動してもいきなり全開で動かせるわけじゃない。
 きっと動力が足りずにサンドバッグになると思う。
 それでも敵の気を引くくらいはできるだろう。
 きっとその隙に敵機を倒すんだ。

 本当ならアニメのヒーローのように戦いたい。
 いきなり大活躍をしてみたいって想いもある。
 でもこれは現実で、今の俺じゃ囮になるので精いっぱいなんだ。

「もう少しだけ時間がありそうだね。ちょっとだけアドバイスするから聞いててくれ。いいかい、大事なのは想像力だけど、どういう姿勢をするかだけを考えてもだめなんだ」

 心の中で相槌を打つ。

「最終的に装甲機人がどうなるかって姿だけじゃなくて、過程もしっかりと想像するんだ。寝ている人間は急には起き上がれないだろ? 膝を折ったり、手をついて上半身を起こしたり、細かい動きがあるはずだ。それら全てを想像しなくちゃいけない」

 つまり漫画みたいに場面を飛ばしちゃ駄目ってことだな。
 アニメみたいに連続した動きじゃないとってことか。

「どうやら敵さんのお出ましだ。死んだふり作戦開始だよ」

 それから十数秒後、敵機が戻ってきた。

「やってくれたな。だが、ここで俺が勝てばいいことさ」

 敵は無線の通じないのを確認したのか、外部マイクで伝えてくる。
 俺たちの目的はここからの脱出だけど、こいつを逃がせば応援を呼ばれてしまう。
 逃がすわけにはいかない。

「同じ装甲機人なら負ける気がしないよ」
「ほざけっ!」

 ロイドさんは何やら自信たっぷりだ。
 弱々しかった昨日とはまるで違う。
 ひょっとして、操縦するときは性格が変わるのかもしれない。

 両機は坑道の中を器用に動き回っている。
 その姿は人間同士の戦いと変わらない。
 けれども大きさが段違いだから、その分衝撃が凄い。

 互いに背中に剣を装着してるけど、使わずに格闘戦を行っているのは、狭い場所では使いどころが難しいのだろう。引っかかったら大きな隙になるし。あるいは坑道を傷つけて崩れてくるのを防ぐためかもしれない。

 ロイドさんは敵機を外に出さないように牽制しながら、少しづつポジションを変えていってるように思える。相手は勝気な性格かもしれないけど、不利を悟れば逃げる可能性もある。

 万が一を考えてもそれを許すわけにはいかない。それに入口に近づけば、必然的に俺とロイドさんで敵機を挟み撃ちできる形になるんだ。

「にしても、想像よりも遥かに動きがはえーな」

 装甲機人に蹴られた岩の破片が飛び散って内部に音が響かせる。
 それを確認しようとも肉眼で見えるのは、コックピット内の景色だけ。
 更に脳内には正面装甲からの鮮明な映像がくるのでややこしい。
 なので、操縦中は目を瞑るということになる。

 なんだか、VRみたいに感じるけど、360度の視野があるわけじゃないので、何が起こってるのか把握が難しい。

「今だ! 剣星くん!」

 外部マイクでの突然の合図。

「おっしゃあっ!!」

 反応が少し遅れたけど、その分派手に登場してやる!

 ひざを折り曲げ、腕を立てて上半身を起こす。
 赤い光が辺りを照らすと、敵機を睨みつけた。

「なんだと! もう一機も盗まれていたのか!」
「そのと~りっ!」
「だがその動きの鈍さ、素人だな」

 くっそ、やっぱ分かるのかよぉ。
 敵機は俺を放って、視線を離した。
 だけど、その一瞬が命取りだ。

「よそ見はいけないよ!」

 ロイドさんの機人は一足飛びで敵機の眼前に近づいていた。
 まるで居合抜きのように剣を振るう。
 防御は間に合わない。
 剣はそのまま胴に刺さり、機人は光を失っていく。
 勝負は一瞬で決着を迎える事になった。

「うっわ、あれ絶対操者の身体に刺さってるよ」

 やべぇ、想像したら吐きたくなってきた。
 口元に手を当ててなんとか堪える。

「剣星くん、僕はこのまま皆を助けにいく。君はここで機人に慣れながら、誰も外に出さないように頑張ってくれ」
「はい、了解です」

 ロイドさんの優しさが身に染みる。
 けど、その分悔しさもある。
 俺にやれることなんてほとんどないんだって。

 まあ今のままじゃ、逃亡すらできないからな。
 なんとか歩くだけでもマスターしねーと。

 ロイドさんの機人は剣を引き抜き、一度だけ振るって赤い液体を払い落とすと、奥に戻っていった。

「おえぇぇ。あれってやっぱ敵さんの血液だよなぁ、おえぇぇ」

 食べた物を戻してしまう。
 なんとかコックピットが開くまで我慢できて良かった。
 さすがにこれ以上臭い匂いと一緒なのは御免だからな。

 しっかし、これが俺の初陣か……
 分かってたとはいえ、なんにもできなかったなぁ。
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