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第23話 『渡り人』の与えた影響

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 アスターシアは、食材を手早く取り出し、食事支度を始める。


 彼女が自分で管理してたバッグだし、どこに何を入れてあるのか覚えてるみたいだな。


 キャンプ用品の携帯コンロっぽいものを取り出して、台座に紫の色の石をはめ込んだようだが。


 まさか、火が着くのか?


 作業を進めるアスターシアを見守っていると、紫の石が淡く光り、携帯コンロっぽいものに火が着いた。


「そんなに簡単に火が起こせるのか?」


「ええ、魔導具ですし。魔石があればすぐに火が起こせますよ。便利ですが、庶民には買えない高級品です」


「へぇ、金があればそういった便利な魔導具を買えるってことか」


「そうですね。探索者は危険ですが、稼げる仕事ですし」


 アスターシアは、携帯コンロに鍋を載せると水袋から水を注ぎ、干し肉や乾燥野菜をナイフで刻むと煮込み始めた。


「ガチャ様はこっちですね。どうぞ、お召し上がりください。アオイ様はもう少しお待ちくださいね」


 ガチャはアスターシアの近くで大人しく座り、細かく切った干し肉を水で柔らかくしたものを食べている。


「ああ、分かった。あったかい飯が食えそうで助かる。でも、その前に光が外に漏れないようにしとかないとな」


 俺はテント用の布を洞の入口の上部から吊り下げ、光が漏れないようにした。


 密閉まではしてないし、洞の上部にはいくつか穴が開いているから空気は循環するよな。


 よし、これで漏れる光は減ったし、デキムスたちにも見つかりにくくなるはずだ。


 それにしても、嗅いだ覚えのあるいい匂いがしてくるな。腹がなるぜ。


「アオイ様、食事ができましたよ」


「ああ、こっちも終った」


 アスターシアの差し出した椀とスプーンを受け取ると、匂いを嗅ぐ。


 ん? この匂い……味噌か? まさか、異世界に味噌汁があるなんてことはないよな。


 椀の中の液体を口に含んだ。


 味噌汁!? これ、味噌汁だ!? しかも、うめぇ!


「アスターシア、これ味噌汁だろ?」


「え? ええ、たぶんそのような名称になるかと。かなり昔に作物を作り出す力を授けられた『渡り人』の方がいろいろと作り出されまして。その作物から作られた発酵調味料が、『ミソ』だとか聞いたことがあります」


「普通に、この世界に味噌があるのか?」


「ええ、『渡り人』の方が作られた作物が、この世界の作物を駆逐して、定着してしまいしましたので、『ミソ』とか『ショウユ』といった『渡り人』由来の食べ物はかなりありますよ。従来からあった作物で作っていた食事はほとんどできなくなりましたし、好みの前に食べざる得ない状況になってしまったそうです」


 昔の『渡り人』が作った作物が、この世界の作物を駆逐したってのがやべえな……。


 世界を越えた褒賞ギフトが、相当強力なものだって話だし。


 デキムスたちがキレ散らかして、殺そうとしてくるのも分かる気がする。


 俺のもらった『ガチャ』も、この世界から見ると相当強力なものなんだろうな。


「なんか、すまんな。『渡り人』が嫌われる理由が少し分かる気がした」


「いえ、わたしが生まれた時は、これが当たり前の食事なので気にしてませんよ」


 先に食事を済ませ満足したガチャは、ちゃっかりと餌をくれたアスターシアの膝の上で丸まって寝息を立てている。


 くっ! ガチャは餌で釣られてしまうチョロインなのか……。いや、そんなわけない。


 俺とガチャはズッ友で最高の相棒のはずだ。


「それよりも、お口に合いますでしょうか?」


 ガチャの様子を見ていた俺に、アスターシアが味を聞いてきた。


「え、ああ! 問題ない。うまいよ」


 アスターシアの顔がパッと明るくなる。


 褒められたのが嬉しいのかな……。


 でも、うまいものはうまいわけだし。


「そうですか! ありがとうございます! もっと、つぎましょうか?」


「大丈夫だ。自分でやれる。俺だけ食うのも気が引けるから、アスターシアも食ってくれ」


 食うように言っただけなのに、そんなびっくりした顔されるのはなんでだ?


 変なこと言ったか? 俺?


「食べてもよろしいのですか?」


「当たり前だろ。そのために作ったわけだし、冷める前に食べた方がいいぞ」


 俺は置いてあった椀に味噌汁を注ぐと、スプーンと一緒にアスターシアに差し出した。


「わたしが一緒に食べて……本当によろしいのですか?」


「ああ、作ったんだし食べる権利はるぞ」


 押し抱くように受け取ったアスターシアが、ゆっくりと椀に口を付け、中身を飲む。


 その後は、スプーンで黙々と具材を口に運んだ。


「ふぅ、おいしいですね。2日ぶりのまともな食事です……」


 相当、腹が減ってたらしいな。


 注いでやった味噌汁が、もう空になってる。


「あいつら、まともに食事も与えてくれなかったのか?」


「はい、使い捨ての探索奴隷ですし……。水と食べ残しくらいでした」


「そうか……。でも、これからは一緒に同じ物食うぞ。食い物に差をつけて病気とかになられてもこまるし、俺らは生き延びないといけないからな。遠慮はなしだ」


「ご配慮ありがとうございます。食べた分はしっかりと働かせてもらいます!」


 アスターシアは俺の椀をとると、鍋の味噌汁をもう一杯渡してくれた。


「働くにも飯をしっかり食わないとな。アスターシアも食え」


 俺は逆に空になったアスターシアの椀に、鍋に残った最後の味噌汁を注ぐ。


「ありがとうございます……。遠慮なく頂きますね」


 椀を持って微笑んだアスターシアの笑顔はとても魅力的に思えた。


 あ、やっべ。カワイイかもとか思っちまったぜ。


 これから、この世界をサバイバルしていくんだから、色恋とかにうつつを抜かしてる暇はねえよな。


 俺は彼女から目を逸らすと、味噌汁を飲むのに集中することにした。
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