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最終章 そして、伝説へ

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「クソどもが……とっととこのダンジョンの住民になれ」

 ダンジョン主が吐き捨てるようにそう言うと、呼び出された魔物たちが一斉に奇声をあげていた。

 どうやら支援の魔法が魔物たちに入ったらしい。

「グレイズさん、魔物たちの目の色が赤く変わりました。なんか、やべー感じっす」

 自身の剣を抜いて、ゴブリンウォーリアーを倒したジェネシスが切羽詰まった声で呼びかけてきていた。

「分かった。援護する。デカいのぶっ放すからな」

「うへぇ、みんな! 伏せろ! グレイズさんの本気が出るぞっ!!」

 ジェネシスの警告を聞いた冒険者たちから次々に悲鳴のような声が上がる。

「ひぇ! グレイズさんの本気ってマジでやべーやつだろ! 伏せろ! 伏せろ! 立ってたら命がいくつあっても足りねえぞ」

「すぐに伏せる! おい、そこのおまえ! ぼぅっと突っ立ってるんじゃねぇ!」

「すまん、すぐに伏せる!」

 冒険者たちが警告を聞くと、戦っていた魔物を蹴飛ばし一斉に地面に伏せた。

 俺はすぐに魔法を発動させる。

千本雷矢サウザンドライトニングボルト!」

 手のひらから発生した光球から幾千もの雷を帯びた矢が打ち出されていく。

 放たれた雷の矢は魔物たちに突き刺さると、光を発して痺れさせていた。

「みんな、グレイズさんが痺れさせた魔物を優先して退治していくわよ」

 伏せていたメリーがそう指示を出すと、すぐに冒険者たちも立ち上がって、痺れて動けない魔物たちを攻撃し始めていた。

「ナイスゥ! さすがっすね。オレも討伐数稼がせてもらいます。王様に戻るまでにSランク到達したいんで」

「油断するな。ダンジョン主が目の前にいるんだぞっ!」

「へーい、気を付けます!」

 ジェネシスもふたたび剣を抜くと、こんどはナイトリザードマンに向かって戦いを挑んでいた。

「雑魚どもがいきがりおって」

 召喚した魔物たちが次々に討たれのを見たダンジョン主が苛立ちをあらわにする。

 俺はその隙を逃さずに、戦斧を構えて飛びかかった。

「悪いがこれ以上、好きにはさせない」

 戦斧が青年姿のダンジョン主の首を狙う軌道を描く。

 だが、刃先は首を捉えることはなかった。

「魔法が効かないと見て、物理攻撃か。それも甘い。神器の能力は高そうだが、使ってるやつがクソみたいなおっさんで助かった。これで三つ目の神器も楽に手に入る」

 ダンジョン主の青年はニヤリと笑うと、その瞬間に俺の視界から姿を消した。

 次の瞬間、こめかみに鋭い痛みが走った。

「見えてねぇだろ? おっさん」

 ダンジョン主の青年の足がこめかみにヒットしていた。

「おらよっ! 人間やめれば物理もいけるんだぜ」

 ダンジョン主の青年が、俺のこめかみに当たっていた足を振り抜く。

 二度目の衝撃が俺を襲い、わけが分からないまま吹き飛ばされ地面を転がっていた。

「グレイズさん! ファーマ、許さないだからぁ! ハクちゃん行くよ!」

「はい、ファーマちゃんの援護はあたしに任せて!」

 俺が地面を転がっていく間、ファーマとハクがダンジョン主の青年に対し攻撃を仕掛けていた。

 獣人化したハクとファーマは今まで以上に一体化した攻撃を繰り出し、俺へ追撃をしようとしていたダンジョン主を牽制してくれていた。

「ちょこまかとうっとしい女たちだ」

 青年の手が光った。

「ファーマちゃん、危ないっ!!」

 青年の手が光ったのを見たハクが、攻撃しようとしていたファーマを押し倒す。

 直後、光はとてつもない衝撃波を発生させた。

「くぅうううっ!! この魔術の威力はきついですぅう!!」

 ファーマを押し倒したハクが、障壁を張って魔術を防いでいた。

「ハクちゃん、もういいから。ファーマは大丈夫だよ」

 俺は痛む身体に力を入れ直すと、ハクの前に入り別の障壁を張った。

「ハク、ファーマを連れて下がれ。あいつは俺がやる。早く、行け」

「グレイズさん、ファーマはまだ全然戦えるから!」

 魔力の許容量が低い獣人であるファーマはすでに魔素酔い寸前の様子を見せていた。

 これ以上、ダンジョン主の近くで戦闘を続ければ最悪気絶するだろう。

「さがってくれ! 頼む」

 ハクに視線で合図すると、俺はダンジョン主に再び挑みかかった。

「おっさん、女の前でかっこつけてもどうせオレに倒されて、あの女たちもダンジョンの住人入りだぜ」

 ニヤついた顔をしたダンジョン主の青年は、俺の攻撃を避けると、また姿を消した。

 俺は神経を極限にまで研ぎ澄まし、ダンジョン主の動きを探った。

 微かに空気が乱れる音がした。

「そこだっ!!」

 俺の右ひざを狙って蹴りを繰り出そうとしたダンジョン主の顔に掌底を食らわせる。

「ほぐぅううっ! おっさん、見えるのかよっ!?」

「見えないな。だが、聞こえた。ただ、それだけだ」

 鼻から蒼い血を流したダンジョン主が、腹を抱えて笑い出す。

「ハハハッ!!! おっさん、おもしれえよ。あのスカした神器の所有者より全然強そうだ」

 そう言うと、再び姿を消したダンジョン主が俺の目の前に現れ、無数の拳打を放ってきた。

「オラオラオラァっ! おっさん、もっとオレを楽しませろよっ!」

「悪いが俺は戦闘するのが嫌いなんでな。それにお前を楽しませる趣味も持ち合わせてない」

 拳打は早いものの、急所へのダメージを避けられないほどでない。

 冷静に拳の軌道を読みさえすれば、見えない拳ではないのだ。

 雑な攻撃を見つけると、ダンジョン主の拳を弾いて、カウンターで拳を叩き込んで鼻っ柱を叩き折った。

「ふがっ!! て、てめえ!!」

「悪いがうちの嫁たちが、俺が死ぬと悲しむんでな。絶対に生きて帰らないといけない身なんだよ」

 背後で魔物たちと戦う仲間たちが、俺に冷静さと無事に生きて帰る意思を授けてくれていた。

「ふざけんなよっ! お前もオレと同類の癖に人間ぶるなっ!! この化け物がぁ!!」

 ダンジョン主は怒りの表情を見せると、背中の六枚羽根を光らせていた。

 そして、広場全体に光が溢れていく。

 また、さっきの光かっ!!

 俺の視界は光に覆われていった。
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