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最終章 そして、伝説へ

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「足元に罠三つ、奥から毒矢がくるってやつねー。全部撃ち切らせる?」

 監獄棟に入ってすぐに先行するファーマが罠の仕掛けられた場所を地図を覚えていたようで、罠を無効化するか尋ねてきた。

 他の冒険者たちもここを通過してでしか絶望都市には入れないから全部撃ち尽くさせて解除した方がいいな。

「ああ、撃ち切らせよう。メリー、すまないが盾を貸してくれるか?」

「グレイズさんだから毒矢には当たらないと思うけど、カーラの矢避けの魔法はちゃんとかけてね」

「グレイズ、すぐに矢避けの魔法をかける。しばらく、待て」

 隣にいたメリーの大盾を借り受けると、カーラが矢避けの魔法をかけてくれていた。

 淡い燐光が俺の身体を包み込み、飛んでくる矢を逸らしてくれるようになった。

「ありがとな。みんなはちょっと離れた場所で待機しててくれ」

 みんなを通路の陰に退避させると、メリーの大盾を持って、毒矢の罠がある床を思いっきり踏み鳴らした。

 通路の奥の壁が開くと、数十発の毒矢が一斉に撃ち出された。

 独房に仕掛けられてる罠にしては殺傷力高すぎる気がするんだが……。

 普通に生活してる時に踏んだら、死体がいっぱい転がることになってたと思うぞ。

 飛んでくる毒矢の数に収監されていた者たちへの待遇の一端が見て取れた。

「探索先も地獄、監獄も地獄ってことか……。一度入れば、二度と入りたくない監獄だと思うだろうな」

 飛んできた矢を大盾と素手で打ち払いながら、ここで生活していた者たちの様子を想像していた。

 その後、何度か床のスイッチを踏んでみたが、仕込まれていた毒矢は装填されていた弾数を撃ち尽くしたようで動かなくなった。

 監獄がダンジョン化しているため、自動で給弾されるかと思ったが、機械式の罠はやはり自動では給弾されないらしい。

「ふぅ、メリーありがとな。毒だらけになったが返しておくぞ」

「結構な数の毒矢が飛んできてたけど……ここの監獄は収監者を殺す気満々なようだったのね」

「作ったのはあのクレストン家だしな。更生させるための施設というよりも探索を拒否しないように恐怖を与えていたのかもしれん」

「グレイズさん、次の罠があるからねー。って思ったけど、ゾンビの気配するー」

「わふう(こっちに気付いたのか階下から上がってくるみたいです)」

 俺が毒矢を撃ち尽くさせると同時にファーマとハクは更にフロアの探索を進めており、次の罠と階下の敵が上がってきてると報告していた。

 罠にゾンビにって駐留兵士居室棟に比べると忙しいな。

 なるべく体力も魔力も温存して進みたいところだが……。

 俺が少し思案顔をしていると、カーラが袖を引いてきた。

「グレイズ、確かこのフロアには落とし穴の罠があったはず、ゾンビをそっちに誘導して落とした方が効率的」

「その提案に乗った。ファーマ、発見したのは落とし穴だったよな?」

「うん、落とし穴ー」

「じゃあ、ハクと一緒にゾンビをその罠に誘導してくれ。罠に落ちたゾンビを俺たちが処理する」

「わふうう(了解ー! ファーマちゃん、いくよ)」

「ああ、待ってーハクちゃん」

 罠の位置を覚えているファーマと敵の匂いを感知できるハクのコンビが階下から上がってくるゾンビたちを誘導するため、独房フロアの奥へ消えていった。

 しばらくすると、再び戻ってきたファーマとハクの背後には二〇体近いゾンビを引き連れていた。

「大量ですね……。落とし穴に落ちた後、私が火球を放り込んだ方がいいかも」

 意外にも多かったゾンビの量を見たアウリースが落とし穴に落ちた後の処理の提案をしてくれた。

 そっちの方が効率的かもしれないな。

 再生成されるとはいえ火葬してやった方が収監者や駐留兵士だった者も多少は浮かばれるだろうし。

「そうだな。落とし穴に落ちた後のゾンビはアウリースに任せるとしようか」

 そう言ってる間にもファーマとハクが大量のゾンビを引き連れて戻ってきている。

 ゾンビはまだ亡くなって日が浅いため、身動きは軽やかで生前の能力を失ってはいなそうであった。

「グレイズさん、連れてきたよー。今から落とし穴の上を通るけど、準備いい?」

「おぅ、大丈夫だ。任せておけっ!」

「わふう(では、行きますっ!)」

 ファーマとハクが落とし穴の起動スイッチのある場所をジャンプして飛び越えると、背後からついてきていたゾンビの先頭がそのままスイッチを踏んで進んできた。

 ゴゴゴという爆音とともにゾンビたちの足元の床が消失していく。

「かかったぞっ! アウリース」

「承知しました。行きますっ! 火球ファイヤーボール!」

 ボトボトと落とし穴の下に落ちたゾンビは底に張り巡らされた鉄杭によって体がズタズタにされていたが、アウリースの放った火球によって全てのゾンビが綺麗に焼かれて消え去っていった。

「ゾンビどもが丸焼けになっていくのは壮観なのじゃ。メラニア、妾は仕事がないからここでおやつ食べながら観戦するのじゃ」

「クィーンちゃん、勝手におやつタイムにしてちゃダメですよ」

「ええ!? お腹空いたのじゃー。おやつ、おやつがないと妾は死んでしまうのじゃ」

 最近、魔力や生命力を吸うよりもお菓子や食事をねだることが多くなったクィーンであるが、あれはもうノーライフキングではない別の生物に変化しているのかもしれなかった。

 半分生身だしな……食べた分成長してるみたいだし。

 主にお腹周りの方だが……。

「クィーン、探索はまだ続くからおやつはまだ早いぞ。暇そうにしてるなら、俺と一緒に罠の探索を手伝ってくれ」

「ええ!? 妾も仕事するのか? めんどくさいのじゃ」

「最近、メラニアがクィーンが食べ過ぎで太ってきたから運動させて欲しいって言われてるんだ。悪いが手伝ってくれよ」

「ですわね。わたくしも甘やかし過ぎたと反省しております。クィーンちゃん、ダイエットしましょう」

「嫌じゃー。働きたくないのじゃー。メラニア、後生なのじゃ、おやつ、おやつを一口だけー」

「次のフロアが終わったらおやつにするから、我慢するんだ。さぁ行くぞ」

 探索を嫌がるクィーンを掴まえると、俺はファーマとハクとともに床が抜け落ちたフロアを飛び越え、奥のフロアの探索を始めることにした。
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