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日常編 王都への旅

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「はーい、みんなちゅーもーく!」

 冒険者ギルドから自宅に帰ると先に夕食をたかりに来ていたジェネシスによって、俺が明日から王都に向かうことがメンバーたちに知らされていた。

 そのため、俺は自宅に帰ったら即座にメリーによって集められたメンバーの前にお呼び出しされていたのだ。

「明日からみんなでグレイズさんの護衛として王都に出張しまーす。今回のグレイズさん護衛依頼はメラニアから直接『追放者アウトキャスト』に指名が来てますので、明日遅れないようにね。あと、セーラも仕入れの勉強を兼ねて一緒に付いて来てね。ダンジョン販売店の方は冒険者ギルドに荷物の移送依頼を頼んであるし、『おっさんず』たちも約一名除いて了承してくれてるから大丈夫よ」

「え、えーっと。話が見えないんだが……。一体何がどうなってこうなっている?」

「ジェネシス君もグレイズさんに付いて一旦王都に顔を出すそうなので、その護衛も兼ねてジェネシス君からも護衛依頼料を貰ってますので安心してね」

「メリーさん、提示された護衛依頼料高いっすよー。サイアスに請求書送ったらまた血圧が上がる金額っすよ。マジで」

「最高級護衛者付きの王都帰還の旅路ですもの。あの金額でもかなりお安いと思うわよ」

 情報源となったジェネシス自身も俺の王都行きに同行する気満々のようで、メリーに対して直接護衛依頼を出していたらしい。

 メリーの方もジェネシスの情報で、俺がしばらくブラックミルズを空けると察知し、すぐに護衛依頼という形で同行する名目を作ったようだ。

「メ、メリーさん! ファーマ、まだ一回も王都に行ったことないよ。怖くない?」

「ファーマ、私も付いて行く。安心するが良い。王都のことは色々と書物で調べてある」

「私も成人してからずっと冒険者してますし王都には行ったことなくて……。随分と人が多いとか聞いてますけど」

「わ、私も今までブラックミルズから出たことないんで……でも、王都の売れ筋とか知りたいですよね。王家御用達の店に直接納入とかすごくお店の箔付けになりそうですし」

「王都ではわたくしが皆様に色々と見どころをご案内しますわ。一応、ずっと王都で育ちましたので」

「はーい、はいはい。そんなみんなにも安心してもらえるように私が色々と注意点を書き留めた『旅のしおり』を作ってありますから各自一枚ずつ取ってね」

 メリーが何かしらを書き連ねた紙をテーブルの上に置くと、参加者が一人一枚ずつ手に取っていく。

 こういう仕切りをやらせたらメリーの右に出る者はいないと思えるほど用意周到であった。

 メリーの仕切りに感心しつつ、出されていたお茶を飲みながら手に取った紙に目を通していく。

「わふうぅ(ふむ、これはどう見ても婚前旅行計画書ですね。グレイズさん、ちょうど良かったじゃないですか)」

「ぶっほっ!!」

「きゃあっ! グレイズさん、どうしたの?」

 俺はハクからのツッコミで飲んでたお茶を噴き出していた。

 婚前旅行ってそれは違うぞ。

 うん、違うんだ。お仕事なんだ、お仕事。

「す、すまない。ちょっと気管に入ったみたいだ。俺のことは気にしないでいいから続けてくれ」

「そう? じゃあ、続けるわね。えーっと、『天啓子』の子には聞こえたと思うけど、セーラとジェネシス君にもちゃんと説明しとくわね。ハクちゃんからのツッコミがあったけど、今回は『婚前旅行兼王都護衛出張』になってるからよろしく」

「ぶっほっ!! げふ、げふっ!」

「グレイズさん、大丈夫ですか? また気管ですか?」

 アウリースがハンカチで俺の口元を拭いてくれていた。

「こんぜんりょこうってなあにー?」

 ファーマ、それはまだ知らなくていいぞ。うん、知らなくていい。

「ファーマ、これは大事な旅行になる。そういうこと」

 カ、カーラ違うんだ。そういうことじゃないんだ。事実誤認も甚だしい。

「わ、私も婚前旅行に同行させてもらえるんですか……。ああ、これは父には言えないことですね。父には出張だって言い張っておきます」

 セ、セーラ、君も勘違いしているぞ。正解はお仕事の方だからな。

「こ、婚前旅行……。わたくしもグレイズ様を連れて育ての両親へ直接報告しないと」

 メラニア、そういうのはまだ早いと思うんだ。俺もまだ心の準備がぁー。

「メラニア―、王都に美味しい物あるー?」

 クイーン、そうだ。その反応が俺の待ち望んでいるものだ。

「はいはーい。みんなざわざわしない。『旅のしおり』の方を説明していくわよ。旅程は王都滞在期間も含めて大体一ヵ月半ほどを予定してるわ。その間の宿泊料と食事代金とかはメラニアとジェネシス君の護衛依頼料から出るから安心して。あと、おやつは各自で用意。一日三〇〇ウェルまでね。病気怪我はカーラもいるし、グレイズさんもいるから大丈夫として、馬車での移動だから乗り物酔いしそうなら教えておいて」

「馬車だと大体二週間で王都に到着っすね。お尻痛くなるんで、クッションはいいの持っていった方がいいっすよ」

「今回は冒険者ギルドの本部への輸送荷馬車護衛も依頼として受けてるのも忘れずにね。馬車は二台体制で一台はレアドロップ品荷物満載で街道を行くんで盗賊には注意しておくこと。まぁ、冒険者ギルドの荷馬車を襲うような馬鹿な人はほとんどいないと思うけど油断は大敵ね」

 アルマからも依頼が出てるのか……。

 俺が帰ってくるまでの間に何が起こったんだと思うくらい話ができ上っている気がするんだが。

 もしかして、事前にメリーとの間に話し合いがもたれたのかと思えるくらい話ができ上っていた。

 冒険者ギルドの荷馬車護衛、メラニアの護衛、ジェネシスの護衛という三つの依頼を受けて、王都への往復の宿泊食事代とその間のメンバーたちの報酬を確保してくれている。

 ここまで周到に準備されていたら、俺一人で行くとは言い出せない雰囲気であった。

「あ、あのな……今回は――」

「メリー、メリー! バナナはおやつに入るのかー。一日三〇〇ウェル以内なら途中の街とかで買い食いしてもいいのー?」

 食い意地の張ったクイーンがおやつの範囲をメリーに尋ねていた。

「バナナかー。ご飯って言いたいところだけどクイーンならおやつにしてもいいわよ。買い食いもしていいけど、基本はみんなと一緒に行動してね」

「はーい! ファーマ、ハク、妾と途中の街でご当地グルメの買い食いツアーするのじゃ」

「買い食い……はぁ、美味しい物いっぱいあるかなー」

「わふうぅ(ご当地グルメ……じゅるり)」

 完全に三人は食欲に支配されている気がするが、みんな行く気は満々のようであるのは見て取れた。

 これで俺とアルマだけで行くと言ったら、残念がると思われるので、一点だけ訂正させてもらうことにした。

「と、とりあえず。『婚前旅行』ではないからな。みんな、護衛依頼を受けて王都へ仕事しに行くということだ。俺ももちろんギルドマスターとしての筋を通しに行く。けして、『婚前旅行』ではないからよろしく頼むぞ」

「はいはーい。グレイズさんはこう言ってるので、今回は『護衛依頼兼王都食い倒れツアー』っという名目にしておきます。『婚前旅行』の時はグレイズさんがもっと派手に旅行させてくれるみたいだから期待して待ちましょう。ね、グレイズさん」

 メリーが言質を取ったとばかりにニコリと笑ってこちらにウインクをしていた。

 あ、はい。俺の腹が決まったら贅沢仕様の婚前旅行は計画させてもらいます。

「グレイズさんも大変っすねー」

 その様子を見ていたジェネシスが俺を見て笑っているのが見えた。
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