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日常編 探索時の俺の仕事

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 ダンジョン第一五階層。

 とりたてて変わりのない自然洞窟型の階層。

 ただ、ところどころに落とし穴のダンジョントラップが仕掛けられており、それが他の階層に比べて数が非常に多いのが特徴だ。

 けれどうちには本職よりもそういったトラップを見つけるのが上手い二人が斥候役を担っているため、今のところ引っ掛かって強制的に第一六階層に落とされずにすんでいる。

「罠があるよ。カーラさん、頼んでいい?」

 ファーマが落とし穴の罠を見つけたようで、カーラに解除を頼んでいた。

 ちらりとカーラが俺の顔を見たので、頷いて了承したことを告げる。

 深層階からの脱出後は、罠解除もカーラに任せることを解禁した。

 手先の器用さ、知識収集欲、記憶力の良さ、ダンジョントラップ解除を有利にするスキルこそないが、ステータスの能力で成功率は高いと見て、宝箱以外のトラップは解除を任せている。

 中層階で出てくるダンジョントラップは即死系のトラップはなく、ダメージや状態異常を誘発する物が多数を占めているため、万が一罠が発動しても持ち込んでいるポーション等で回復はできる状態を確保はしてある。

 本来、回復役であるカーラがダンジョントラップとはいえ、罠を解除するのは定石から外れたことだが、本人の熱意と万が一、俺が動けない状況になった場合の交代要員として彼女に経験を積んでもらうことにしていた。

「お待たせ。グレイズの許可出た。私が解除する。ファーマとハクは下がる」

「はーい。カーラさん、気を付けてね」

「一応、俺もいるから大丈夫だ。ファーマとハクは周囲の警戒を頼む」

 ダンジョントラップの解除中に魔物に襲われたらそれこそパニックになりかねないので、ファーマとハクには少し下がったところで周囲の警戒をしてもらうことにしていた。

 そして、カーラが落とし穴のダンジョントラップを発動させる踏み石を見つけ、その前に座り込みトラップの解除を始めるための観察をしていた。

「からくり式か? 魔法式か? どっちだと思う?」

 ダンジョントラップも二種類あり、歯車やばねといった物が使われ仕掛けられたからくり式は、固定位置に設置されて、何度も同じ場所に再設置される仕掛けになっている物だ。

 一方、魔法式は設置位置が毎回変わり、解除または発動すると別の場所に再設置されるタイプのダンジョントラップとなっている。

「今調べている。ちょっと待つがいい」

 トラップ発動のきっかけとなる敷石の隙間を細長い棒状のもので突きながらカーラは丹念にトラップの種類を確認していた。

「歯車やばねも見える、けど、これは偽装。更に奥から魔法の光が漏れてるのが、微かに見える」

 敷石の隙間を覗き込んでいるカーラから内部の状況の報告が俺に伝えられる。

 すこしだけ意地悪な質問をしてみた。

「魔法の光の方が偽装かもしれんぞ」

「うっ……。その発想なかった。もう一度調べる」

 多分、カーラの言った通り、このトラップはからくり式に見せた魔法式の落とし穴トラップだと思われる。

 中層階で裏の裏をかくトラップはほとんどでない。

 そういった意地悪なダンジョントラップは深層階によく設置されるのだ。

「再確認した。歯車もばねも動き連動してない。よって、これは魔法式落とし穴トラップだと断定する。だから、発動させ地面が修復されるのを待った方が安全になる。これが私の答え」

 カーラがトラップ内容を精査し、罠の処理をどうするのがいいかを決めていた。

「了解した。では、解除を頼む」

 カーラの出した答えに、俺は口を出さす処理を行わせる。

 判断をした者に対し、後からぐちゃぐちゃ言う必要はない。

 結果を見ればいいだけの話である。

 カーラが罠の範囲を詳しく調べ、大体の発動範囲を見切ると、安全とみた方向から敷石を踏んで罠を発動させた。

 とりあえず、俺はいつでもカーラを助けられる位置に陣取って成り行きを見ていた。

 発動したダンジョントラップは妖しい光を放ち、カーラが予想した範囲内を魔法陣が包みこみ地面が消え失せたかと思うと下の階層が見えていた。

「トラップ処理完了」

「罠の種類、範囲、処理も完璧だったな。よくやったぞ、カーラ」

「当然、私は追放者アウトキャストの一員だから」

「これでまた俺の仕事が減ったなぁ……。まぁ、それだけみんなが成長していることだと思うか……」

「グレイズはパーティーの司令塔という大事な仕事がある。私たちはグレイズの判断が必要なことがまだまだ多い」

「そう言ってもらえるとありがたいな。さて、魔法効果が切れるまで一旦小休止するか」

 俺とカーラは発動させたダンジョントラップの効果が切れるまで、みんなのところに戻り小休止をすることにした。


「おかえり、トラップは解除した?」

 トラップ解除待ちをしていたメリーが戻ってきた俺たちに声を掛けてきた。

 安全確保のため発動処理していたので、ここで一旦休憩に入るつもりである。

「発動処理したから、しばらく休憩にするよ。装備の確認とポーションの補充、水分補給と軽食も腹に詰めておくことにしよう」

「おっけ、じゃあ荷物を整理しましょう。ファーマ、ハク。貴方たちもこっちに来て休憩しましょう」

「はーい。ハクちゃん、休憩だってー。そうだ、ちょっと汚れてるから顔を拭いてあげるね」

「わふうう(ファーマちゃん、ありがとう。頼みます)」

 メリーが周囲の警戒に当たっていた二人にも声かけ、俺たちは小休止に入ることにした。

 小休止に入ってすぐにファーマとジェネシスは武器に付いた魔物の血を手入れ用の油を差し、布で拭き取っていく。

 鈍器以外で近接攻撃を行う二人には休憩に入る前に必ず行わせている作業である。

 魔物溜まりでの連戦が続き、多くの魔物を武器で倒したため、血脂が付き切れ味が鈍るのを防ぐためだ。

 そのほかのメンバーは、携帯食を食べながら、ポーションを補充したり、魔物を倒して手に入れたドロップ品を背中の背嚢バッグから取り出して並べていた。

 その後も連戦が続いていたため、ドロップ品の収集はみなで手分けして行っていたのだ。

 メンバーの背嚢バッグからドロップ品やドロップ装備品が次々に出てくる。

 すでに魔物溜まりを三つほど壊滅させていたので、戦利品の数は結構な量にのぼっている。

 俺が手助けすることはなかったが、敵の数が多く、鑑定している暇がなかったので、この際に鑑定を済ませて帰りに販売店に置いていくものと持ち帰る物に分け、俺の背負子にしまっていくことにした。

「防具や装身具も幾つかドロップしたみたい。私、鑑定の指輪をセーラに貸してるから鑑定できないし、グレイズさんよろしくね」

「おう、分かってる。ドロップ品からやっていくわ」

 以前、メリーの店でアルバイトしていたように俺が鑑定して、メリーがそれを仕分けて、背負子の背嚢バッグに入れてくれるようだ。

 並べられた未鑑定のドロップ品たちを一つ一つ手に取り『鑑定』を発動させていく。

 呪われているものは『解呪』スキルが必要だが、そのスキルが使える『回復術士』の上位職『神官』がいない。

 唯一の可能性はメリーの『神殿騎士』が成長して覚えることだが、かなりの修練をおさめた『神殿騎士』が『解呪』スキルを覚えるらしいが、今のところまだ覚えてはいないらしい。

 そうなると、『解呪』費用が嵩むため利幅的には一番儲からないものになる。

 なので、現状は呪われているものはダンジョンに放置して吸収させることにしていた。

 ポーションの補充を終えたアウリースから手渡される品を黙々と鑑定し、鑑定書を付けてメリーに渡して行く。

 やはり、メラニアの加入の影響でドロップ率の変化があったようで、レアとノーマルドロップの比率が更に進み9:1にまで進んでいた。

「ノーマルドロップを集める方が困難になりつつありますね……。これほどまでレアドロップだらけとは……」

 ドロップ品を渡し鑑定の行方を見ていたアウリースから驚きの声が漏れていた。

「そうだな。レアドロップ品捜索専門で依頼を受けるべきかと悩むところだな」

「アルマが聞いたら、よだれを垂らして喜ぶ話ね。もちろん、私もだけど」

 冒険者ギルドを仕切ることになったアルマであるが、ブラックミルズから二度の事件で上級冒険者がかなり減って、レアなドロップ品収集の依頼を受けるパーティーが減り始めていることを憂慮していた。

 売り上げ的には消費量の多い低位素材を商店街がかなり買い集めるようになったので、落ち込んでいないが高い利益を得られるレアドロップ品の減少は利益が圧縮されることが予想されていたのだ。

「色々とお金もかかるしな……。……主に食費だが……」

「メラニア―。もう一枚クッキー頂戴ー!」

 鑑定をしていた俺の隣では、食べカスを口に付けたクイーンがメラニアにまた携帯食料であるクッキーをねだっていた。

 すでに結構な量のクッキーを食っていたように思えるが、クイーンには物足りないらしい。

「クイーンちゃん、食べ過ぎですよ。グレイズ様もダンジョン内では計画的に食事をするようにと申されてましたでしょ」

「あー、おなかすいた。おなかがすいたのじゃー。このままでは妾は餓死してしまうのじゃー」

「もう、食いしん坊ですね。あと、一枚だけですよ」

「メラニア―大好きー」

 戦力としては頼もしい召喚獣となったクイーンであるが、燃費が非常によろしくない。

 最低でも三人分の食料は消費するので、稼げるならもっと稼いでおきたいところではあった。

「アルマとレアドロップ品に関しての依頼料の相談をするとしようか……。少しばかり色を付けてもらえば」

「そうね。そうなれば冒険者ギルドも収益を改善できるし、うちも儲かるしね。両者得してウハウハね」

 メリーさんや目がお金マークになっておられますぞ。

 稼ぐことは悪いことじゃないんだが、その姿は天国の親父さんが見たら泣いてしまうぞ。

 俺はお金に囲まれている妄想に耽っているメリーを呼び戻すため軽く肩を叩いた。

「メリー、帰ってこい」

「はっ! ちょっとお金がたんまりあり過ぎて嬉しすぎる妄想に耽ってたわ」

「とりあえず、帰ってから考えることにしよう。まだ鑑定も残ってるしな」

 その後、鑑定を終えると手早く腹ごしらえを済ませ、ダンジョントラップによって消えていた床が復活したのを確認すると、探索の再開をすることにした。


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次回更新日は3月25日(月)となっております。
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